00:00
おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
林文子作 魚の序文
最終回 僕は無意味な壁ばかりを見て歩いたことをひどく後悔した
人の住まっていない無数の壁を敬語するために 彼女と離れて別れてまで暮らす心はない
ではどうして食っていくのだ 浮世には思い出もあらず
また母標の裏の言葉が胸をついて出た 我々置き去りにされたインテリは一体どうすればいいのだ
人生はまるで今日見たあの壁の中みたいじゃないか あっちを向いてもこっちを向いても
壁 壁
壁だ 壁なのだ
一体どうしろというのだ もしもし終点でございますよ
目だけが空洞のようにぼんやり見開いている僕の肩を叩いて 車掌が気味悪そうに言った
今までに青年らしい楽しみも希望もずいぶん考えてきたが 僕の青春にはただ
浮世には思い出もあらずという言葉だけが残っただけだ 彼女は明かりもつけずに庭にいた
ミミズを掘っているの 手には空き缶を下げて黒い土をほじくっていた
ミミズは100文目掘ればいくらになるとか またどこかで聞いてきたのだろう
僕は部屋へ入って電気をつけた 机の上には何かまた彼女の落書きが書いてある
1 魚の序文
2 魚は食べたし
金はなし 3
魚は愛するものにあらず 食するものなり
03:04
4 めじまぐろ
鯖 カレイ
石餅 古代
彼女は猫のように魚の好きな女であった どんな小骨の多い魚でも身のあるところを決して逃さなかった
僕は地引きを金に変えた奴の残りを田元の底に探ってみた まだ50銭も残っていた
この金をどうして楽しませてやったらいいだろう おいミミズは採れたかい
まだまだ 今朝からなんだけどたった4匹よ
めめず屋のおじさんの話ではねここは昔沼だったんだからたくさんめめずがいるって 言うんだけど
なかなかいないわ
いくらになるんだい 18銭よ
おい10日で18銭じゃないのかい 着物縫うよりこの方がよっぽどいいわ
土の匂いってちょっといいわよ 待ってらっしゃい今手を洗っていくから
彼女が手を洗ってくると僕は茶舞台の上に 50銭玉一つと5000玉一つを並べた
まあ お腹すいてんだからあんまり脅かさないでよ
それでも嬉しそうであった 彼女は急にせわしそうに台所に立っていくと
バケツを下げて井戸端へ水を汲みに出た 茶舞台に置かれた空き缶の中には4匹のミミズが青く伸びたり
赤く縮まったりしている 夜
雨が降り出したのか窓の外の霧の葉がざわざわ鳴っている 彼女は机にもたれて何か書いている
そいでねその二宮って言えばまるで壁ばっかりなんだよ 君だったらなんというかなぁ
庭ときたら手入れは行き届いているがまるで廃園さ 君だったら
大根植えるといいと言い出すかもしれないねー だがあんな壁ばっかりじゃやりきれないよ
空ひとつ満足に見えないんだからねぇ 暗くって
06:04
空の見える気持ちがそんな人たち誰かに覗かれるようで怖いんでしょうねぇ でもなかなか堂々たる屋敷だよ
大きい木に囲まれていて ピアノの音がしていて
ちっともうらやましかないわ うん
ともうらやましかないさ 彼女は
もう平然と僕のへこう日を占めている 初めの頃のおどおどした気持ちも抜けて
もうこの頃ではまるで十四五の娘のようにほがらかであった だけど
俺たちは物恋のようにお椀を一生持って暮らさなきゃならない理由ってないよ そりゃあそうよ
だけどねー 捨て石になれる悟りでも開かんことには
やっぱり一生お椀の口かもしれないもの 雨が時々生地に潮のように渋いてくる
僕は墓場の言葉を思い出していた 彼女は子供のように
川のほとりで歌うような気持ちだという あの寂しげな声で
1 魚の序文
2 魚は食べたし
金はなし
3 魚は愛するものにあらず
食するものなり と
音読するのであった 聞きたいラジオ番組何にもないそんな時間は
ポッドキャストで過ごしませんか rkb では毎週40本以上のポッドキャスト番組を配信しています
あなたのお気に入りの声にきっと出会えるはず ラジコポティファイアップルポッドキャスト
amazon ミュージック youtube ミュージックで rkb と検索してフォローしてくださいrkb オンラインのポッドキャストまとめサイトもチェック