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「流転の桜」 原作 あじしゆうじろ
脚色 みちのみちる
10年 空っぽになりたくてもなれない混乱から10年が経った
面影のなくなった街は姿を変えていくけれど 元通りにはなれない
僕の記憶は毎年毎年アップデートされていき そして震災から10年が経った
思い出さえも脚色されていく
幼稚園生だった僕は今年 高校生となった
桜楽しみだね えっ
同じクラスの佐藤穂波だよ シュウ君だよね
穂波ちゃん? うん、あの日以来だね
なんか穂波ちゃんさ、めっちゃ髪伸びてない? ああ、幼稚園の頃はショートだったもんね
今はね、腰折りも長いんだよ でも着れなくてさ
あ、ヨレ、ほら戻ろう 男まさりだった穂波ちゃん
髪のせいで雰囲気が随分変わっていた 穂波ちゃんといえば
今もやたらとリアルに残っている記憶がある 僕たちはあの日
幼稚園の屋上に取り残されてしまった 冷たい体を寄せ合う満天の星空の下で穂波ちゃんは言った
みんな お星様になっちゃったの?
と ねえ、その髪マジでウザいんだけど
いつになったら切ってくれるわけ? 枝毛すごいし、塩焼けしてるし、マジヤバいって毛先
ああ、私切ってあげるよ ハサミあるんだよね
えーっと、どこだっけ? あったあった、ほらあった
やめろよ 何よいきなり
やりすぎだろ はあ?
冗談だよ冗談、何も気になってんの? 冗談だとしてもハサミ持ち出すかよ普通
ハサミ えっ
ハサミ貸して 穂波ちゃんは
ハサミを奪って教室から出て行った 僕は慌てて追いかけた
一体何をする気だろう 切れないと言っていた髪の毛とハサミ
理由がある 絶対に理由があるはずだ
僕がこの学校に入ったように 追いついたのは再会した場所
桜の木の前
桜、挽回だね 髪切っちゃうの?
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そのつもり さっきはありがとね
でもね 理由
理由があるんだろ でも
大切にしてきた理由 大切なんだろ
シュウ君 あのね
あの日 パパに会えなかった
写真とかも全部流されちゃってね パパさ
いつも私の頭撫でるんだ それで?
そう パパを感じられるのはもうこの髪の毛だけなんだよ
あの日 僕は兄さんに会えなかった
大好きな兄さん いつも追いかけてばかりいた兄さんの背中は永遠に届かない
兄さんはこの学校に入りたくて必死に勉強していた 入試の前の日
あの地震と津波が来た 兄さんは可能性すらつかめなかった
だから僕はこの学校に入学した いつか兄さんと肩を並べたくて
今のところ 追いついたのは年だけだけど
結局 僕らの時計は止まったまんま
東日本大震災から10年経った 今も
ねえほなみちゃん この桜さ
あの年も咲いてたんだよね え?
がれきの中でさ 満開に咲いてたのを覚えてるんだ
まるで奇跡の桜 あの時のせいでさ
悲しいイメージだったけど毎年咲くんだよ すごいよね
しゅうくんは乗り越えたんだね 違う
ただ兄さんの分まで 強く生きようとは決めた
そっか それからほなみちゃんは
パサリと長い髪の毛にハサミを入れた 満開の桜の周りに風に乗ってサラサラと舞った
花びらと相まって綺麗で あまりにも綺麗で
僕たちの時間が突然動き出した そんな気がした
ハサミの音は欠別の音 舞う髪の毛と花びらは
どこかで僕らを見守る大切な人の優しい面影
強くなるよ私も 周役横田ひろひさ
ほなみ役ヨッシー 藤野役やいねー