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2022-03-14 04:40

#29【青空文庫】青葉の下

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小川未明「青葉の下」

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Ogawa Mimei title:under the leaves

00:01
青葉の下、小川御名、峠の上に大きな桜の木がありました。
春になると花が咲いて、遠くから見ると霞のかかったようです。
その下に小さなかけじゃ屋があって、人のいいおばあさんが一人店先に座って、わらじやお菓子やみかんなどを売っていました。
荷を負って峠を越す村人は、よくここの腰掛けに休んで、お茶を飲んだり、煙草を吸ったりしていました。
ケンキチとトシコとショージは息をせいて、学校から帰りに坂を登ってくると、
「おばあさん、水を一杯おくれ。」
と言って飛び込むのでした。
「おお、熱かったろう。さあ、今汲んできたばかりだから、たんと飲むがいい。」
とおばあさんはコップを出してくれました。
おばあさんは峠の下から二つの桶に清水を汲んで天秤棒で担いであげたところでした。
ところが、自動車が今度はあちらの村まで通ることになって、道が広がるのでありました。
それで桜の木を切ろうという話が起こったのです。
それに反対したのは元よりおばあさんでした。
次にはこの茶屋に休んで花を眺めたり、すずんだりした村の人たちです。
それからケンキチやトシコやショウジなどの子どもたちでした。
「あの桜の木を切ってはかわいそうだ。春になっても花が見られないし、夏になっても蝉がとれないものな。」
と互いに話し合いました。
子どもたちの不平が耳に入ると、親たちもいつか切ることに反対しました。
それで村の人々が桜の木を道のそばへ移すことになったのです。
大勢の力ですると、どんなことでもされるものです。
大きな桜の木は邪魔にならぬところへ移されて、
おばあさんの茶店はやはりその木の下に建てられました。
「おばあさん、今年は花が咲かないの。」
03:05
「そうとも。人間でいえば大病人だぞ。枯れなければいいが。」
とおばあさんは心配しました。
天気が続くと、おばあさんは下から水を汲み上げて、根元へかけてやりました。
「おばあさん、ぼくが汲んできてやるから。」
ある日、学校の帰りに元吉は、すぐ裸足になってバケツを下げて峠を駆け下りました。
それから戸子子も生二も、村の子供たちは学校の帰りに水を汲んで、桜の木の根にかけてやるのを日課としたのです。
どうでしょう、木は再び昔の元気を取り戻しました。
今、大きな枝には青葉がふさふさとして、銀色に輝いています。
みんなのおかげでな、この木も助かったぞ。
とおばあさんは、腰かけている村の子供たちの顔を眺めて、さもうれしそうでありました。
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