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天知る地知るサクラシル 原案 篠木みお 脚色 ファンシーコー
これがあの一本桜か。
よし、準備OK。
おい。
誰もいないな。
おい。
父さん、母さん、さきらつふこ。
おい。
うるさいな、誰だよ。あれ?誰もいない。おかしいな。
では、気を取り直して、桜よし、ロープよし、衣装よし。
では、お父さん、お母さん。
おい、聞こえてるんだろ。
げんちょう?
俺だよ。
誰だよ。
桜だよ。
そこで何をしてる。
何をと言われましてもね。
いいから言ってみろ。
ロープをですね、この立派なお枝様に引っ掛けまして、首をですね、この輪っかになってるところに入れて、ぶら下がってみようかなと。
かまわぬ。
そりゃ嫌ですよね、すみません。
かまわぬ。
いいんですか。では、お言葉に甘えて。
待て待て待て。お前がどうしようと勝手だ。問題はその手にしている衣装だ。
これですか?
読め。
え?
いいから読め。
え?
読めって。
前略。父さん、母さん、先立つ不幸を。
そこじゃない。
死ぬほど頑張って勉強した受験に失敗して。
そこじゃない。
死ぬほど大好きだったあの子に死んだつもりで勇気を出して告白したけれど、断られて死ぬほど恥ずかしいので、僕は、僕は。
そこじゃない。
ここですか。ここから僕の17年間を振り返るんですけど。
ちょっと興味はあるが、そこじゃない。最後の方だ。
最後、最後、最後。これですか。最後に僕を見つけてくれた方へ、死体はどうかこの桜の根元に埋めてください。
そこ。
誰?
ただここで首を吊るだけかと大人しくしてましたが、埋めるとなると話は違います。
あなたは誰に断ってこんな勝手なことを?
またお前か。
え?誰?
あなた。順番ってことをご存知?
この桜様の下に埋まりたいなら、ちゃんと列に並びなさい。
桜様、今日こそ首を縦に振っていただきますからね。
誰?誰?あんた誰?
しつこい。帰れ。
帰りません。
だから誰?
こいつは俺の下に埋まりたいんだと?
はい。もうかれこれ3年はここに通っています。
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あなたはスコープは?
スコープも用意せずにこの桜様の下に埋まろうだなんて思っていたの?
素人ね。
素人って、あなたはプロですか?
ああ、プロかプロでないかと言ったらプロっぽい女よ。悪い?
少なくともあんたのような初心者じゃないわ。
私は3年前からほぼ毎日通って桜様に頼んでいるんだから。
どうかお願いします。私の死体をここに埋めるのをお許しくださいって。
だからダメだって。
どうしてダメなんですか?
そういえばちゃんと聞いたことなかったわ。
ダメの一点張りで。
死体を埋めてはいけない理由、それは。
それは?
もうお腹いっぱいなんだよ。
ええ?
ああ、もうどいつもこいつも桜の下には死体が埋まっているとどこかの作家が書いていない。
来るわけだよ。死体を担いだ人間が一切なしだ。
嘘だと思うのならちょっと掘ってみろよ。
人の骨でザクザクだ。
勘弁してくれ。もううんざりなんだ。
わかんないな。桜にとっては養分みたいなもんでしょう。
まずいんだよ。
ええ?
本人を前にして言うのもなんだけどな。
お前らめっちゃまずいねん。
埋まる方はいいよ。埋められる方の気持ちも考えてみろよ。
ええ?
あなた植物のくせに好き嫌いしてんじゃないわよ。
あなた子供の頃恐らなかった?好き嫌いしちゃいけませんって。
いいよ桜ですから。
何をまずいって。そんなの理由にならないわ。
もっと正当な理由かと思ってた。何かの呪いが発動するとか。
魔王が復活するとか。
ああもういいわ。いいところにロープがあるわね。
私ここで首吊るからあなた埋めなさい。あなたと違って謝礼も用意してるから。
あ、領収書はいらないわ。受け取れないもの?いくわよ。せーの。
待て待て待て。
あなたはどうしてこんなことするんですか?
綺麗だからよ。ロマンチックだし。あなたは?
僕は。
受験に失敗して女に振られたからでしょ。
なんで知ってるんですか?
さっき大声で叫んでたろ。
あ、そうか。
でもなんで桜の下に埋まりたいの?
なんかかっこいいから。
しょうがない。
ねえ桜さん。あなたお腹いっぱいでまずいから嫌なだけよね。
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ああそうだ。
じゃあこの枝ちょうだい。私が折ったやつ。
え?
この枝、どこかいいところに植えて立派な桜に育てるわ。
あなたみたいなわがまま言わない素直な桜に。
なるほど。
いいアイディアでしょ。
だからあなた、育てるの手伝ってね。
え?
