2023-10-07 07:11

#001 虹を送る人

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

【小島ちひり】
劇作家・脚本家。朝ドラと猫をこよなく愛する。
https://twitter.com/child_skylark

#はじめまして #ラジオドラマ #虹 #子育て #保育園
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/647871ce590eb774d1da4879

サマリー

小島ちひり脚本によるラジオドラマ「虹を送る人」では、光をテーマにした物語が展開されています。

保育園の朝の出来事
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
こんにちは、松江です。
保育園の玄関で声をかけ、少し濡れてしまった上着をハンカチで払った。
若い先生がやってきて、雨、大丈夫でしたか?と心配そうに声をかけてきた。
一応、傘はありましたので、と言って、ハンカチをしまった。
しばらくすると、ゆうすけが奥から走ってきて、私に体当たりするように抱きついてきた。
ちょっと、ちょっと!
私はしゃがんでゆうすけを抱き止めようとしたが、よろけてしまった。
ゆうすけは、ママ、ちょっと濡れてる?と聞いてきた。
ちょっとだけね、大丈夫!と言って、頭をなでた。
奥から年配の先生がゆうすけのリュックを持ちながらやってきて、
ゆうちゃん、リュック持たないと帰れないでしょ?と言いながら、ゆうすけにリュックを渡した。
ゆうすけは、ごめんなさーい!と、もじもじしながらリュックを背負い、自分の下駄箱に向かった。
ついこの間まで、靴なんて自力で履けなかったのに、子供の成長というのはあっという間だ。
そんなことをぼんやり考えていると、年配の先生から、どうですか?新しい生活はなれましたか?と話しかけられた。
私は一瞬ハッとしながら、ええ、まあ、と愛想笑いをした。
先生は、困ったことがあったら何でも言ってくださいね、とにこやかに言った。
保育園を出ると、さっきまでの雨が嘘のように上がっていた。
ゆうすけが運動靴で水たまりに入ろうとしたので、ダメダメ、長靴の時だけね、と言って、慌てて止めた。
ゆうすけは不満そうに口を尖らせながら、なぜか両足ジャンプで前に進んで行く。
商店街に向かって歩いて行くと、同じマンションの神田さんとすれ違った。
あらゆうちゃん、こんにちは、と神田さんに声をかけられると、ゆうすけは大げさにお尻を突き出すような姿勢をとり、大きな声で、こんにちは、と言った。
神田さんはコロコロと笑いながら、きょうも元気ね、と言った。
それから、ご主人はもう向こうに着いたの、と聞いてきた。
私はあいそ笑いで、ええ、無事に、と答えた。
神田さんはゆうすけを気にかけながら抑えた声で、
ちゃんとこまめに連絡取り合うのよ、絶対に油断しちゃダメ、と言った。
油断?と私が不思議そうに聞き返すと、
子供の成長と人間関係
もうお人よしなんだから、浮気よ、う、わ、き、とちょっとうれしそうに言った。
浮気?うちの夫がですか?と言うと、
男なんてみんな一緒なんだから、ひとりになったら自由だと勘違いしてしちゃうもんなのよ、と神田さんはまるでこの世の真理であるかのように言った。
私はむっとして、夫はそんな人じゃありません、と言ってゆうすけの手を引いて歩き出した。
神田さんは、せっかく忠告してあげたのに、と私たちの背中に向かって行ってきた。
私は目が熱くなっていることに気づいていた。
その時、配達用のリュックを背負った自転車のお兄さんと目があった。
お兄さんは不思議そうな顔をして通り過ぎていった。
その途端、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
あんな他人の上言など軽く流してしまえばいいのに、
無気になって言い返してしまったことが、相手の土俵にまんまと立たされてしまったことのような気がして気持ちが沈んできた。
ゆうすけは私の手をぎゅっと握り、「ママ?」と言った。
私は慌てて笑顔をつくり、「今日のお夕飯、何しようね?」と言った。
ゆうすけはそれでも心配そうな顔をしたので、私はゆうすけを抱き上げた。
正直、うっとなるくらい腰に衝撃が来た。
いつの間にか大きくなった。生まれた時はあんなに小さかったのに。
その時、ゆうすけが、「あ!」と言って指をさした。
私は不思議に思いながらゆうすけの指の先を見ると、大きな虹がかかっていた。
わあ、きれい。
私がそう言うと、ゆうすけも嬉しそうに笑って、「パパも見てるかな?」と言った。
パパは見てないよ。遠くにいるんだもの。
と言うと、ゆうすけは、「じゃあママ、パシャして、パパに送って。」と言った。
私はゆうすけを下ろし、スマホで虹の写真を撮った。
ゆうすけに見せて、「これでいい?」と尋ねたら、「僕も撮って。」と言った。
せっかくだからと思い、ゆうすけと一緒に自撮りをした。
化粧はドロドロでひどい有様だったが、ゆうすけと顔を寄せ合い、目尻にシワができるほど笑っていた。
私は先ほどの虹の写真と一緒に夫へ送った。
いかがでしたでしょうか?
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。
07:11

コメント

スクロール