1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #007 花束を持ってバスに乗る人
2023-12-30 08:04

#007 花束を持ってバスに乗る人

定年退職を迎えた保育園の教頭の話。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

【小島ちひり】
劇作家・脚本家。朝ドラと猫をこよなく愛する。
https://twitter.com/child_skylark

#ラジオドラマ #スタエフ朗読 #定年退職 #変化
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サマリー

小島ちひりのプリズム劇場は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。このドラマは、プリズムを通して様々な人がいることをテーマにしています。主人公の教頭先生は定年退職し、保育園を去ることになりますが、彼はこれからの未来と変化を迎えることに対して不安やワクワク感を感じながらも、新たな一歩を踏み出そうとしています。

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小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。 プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
教頭先生の感謝と退職
今までお世話になりました。 そう言って頭を下げると、職員たちが一斉に拍手をした。
平野先生は、鼻をすすりながら私に大きな花束を渡し、 教頭先生、今までお疲れ様でした。
と言った。 あなたは特に手のかかる新人だったわ、と冗談ぽく言うと、
私だって頑張ってたんですよ、と涙を拭いながら平野先生は言った。 武井先生は、
平野先生も教頭のおかげで立派な保育士になりましたね、 と言うので、
現場の皆さんのおかげです。 これからも子どもたちのために頑張ってくださいね、
と返した。 保育園の近くのバス停の待合の椅子に、いつも通り座った。
膝の上には大きな花束。 この光景を見るのも今日が最後なのかと思うけど、いまいち実感が湧かない。
短大を出てから40年、 他人の子どもの世話をして生きてきた。
自分自身は家と保育園の往復で、特に趣味もなく、目の前の仕事と週末にやってくる山積みの家事をこなしていたら、いつのまにか定年を迎えた。
仕事は好きだった。 子どもたちは一日一日ごとに成長し、変化していく。
生きる力を感じた。
それと同時に、一緒に働いている人たちも変わっていった。
結婚したり、出産したり、実家に帰ったり、夫の仕事に就いていったり、転職したり、誰の人生にも変化があった。
ただ、私を覗いては、ぼんやりそんなことを考えていたら、スーツを着た若い男の子が私の隣の椅子に座った。
その後、私は、私の隣の椅子に座った。
私は、私の隣の椅子に座った。
私は、私の隣の椅子に座った。
私は、私の隣の椅子に座った。
私は別に、共闘になんかなりたくなかった。
しかし、働く人がどんどん入れ替わる中、独身で大きな事情も持たず、働き続けられる私以外になれる人がいなかった。
だから回ってきた。
それだけのことだった。
男の子の独り言は続く。
御社で働いていて、例えばどんなところに働きがいを感じますか?
働きがい。
そんなものあっただろうか。
特に共闘になってからは、ただただ毎日の業務をこなすことで精一杯だった。
産休を取ったまま、復職しなかった人も多かった。
新しい人を雇っては、仕事のやり方を教えなくちゃいけないし、書類は山ほど送られてくるし、市長や政府はコロコロ言うこと変わるし、ルールが毎年変わるから、それに合わせて業務や施設を変えなくちゃいけないし、
私だけ。
私だけが変わらなかった。
40年間。
大きな変化をしないまま、保育園を立ち去ることになった。
こんな大きな花束をもらって、私は一体どこへ向かうのだろう。
バスがやってきた。
私が立ち上がると、男の子も立ち上がった。
バスに乗り、後ろの席に座る。
バスには先ほどの男の子と赤ちゃんを抱えた女性、年老いた夫婦、制服を着た小学生、様々な人が乗っている。
みんな変化しながら生きている。
私以外は、ふと気がついた。
私がこのバスに乗るのはこれが最後だ。
ということは、ついに私も変化を迎えるということだ。
このバスに乗らないと、私は変化を迎える。
このバスに乗らないと、私は変化を迎える。
このバスに乗らないと、私は変化を迎える。
このバスに乗らない生活、保育園に通わない人生、就職してから40年、初めてのことだ。
全く実感が湧かないが、私は明日の朝、起きてもやることがない。
行く場所もない。
どこで何をするのか、自分で決めなくちゃいけない。
子供と接することもない。
手のかかる部下の面倒を見ることもない。
そんな生活、私に耐えられるのだろう。
変化をしていく人たちのことを、ずっと羨ましく思っていた。
変わっていく人たちのために、自分の変化をないがしろにしているような気がすることもあった。
しかし、今初めて自分の変化を迎えようとして、
ああ、変化とはこんなに恐怖を感じることだったのか、と思い知った。
しかし、その一方で、
私は明日、とりあえず寝坊して、
寝坊してやろうと、ちょっとワクワクもしていた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
08:04

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