南野と太田の関係
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
飲み屋を出ると、南野は血どり足になっていた。
大丈夫?帰れる?
太田が南野の肩を支えながら、心配そうに言っている。
仕事の時もそうだが、太田は本当に面倒見がいい。
俺はもう南野のことなんてどうでもよくなっている。
大丈夫!大丈夫です!
南野はそう言いながら、改札へ消えていった。
大丈夫ですかね?
ま、大丈夫だろう。
じゃあ私はあっちなんで、今日はここで。お疲れ様でした。
太田はそう言って歩き出そうとしたから、とっさにその手首を掴んだ。
帰るの?
太田は驚いた顔をしたが、少し間を置いた後、首を横に振った。
逃がすわけないじゃないか。
おはようございます。
次の日、南野が米紙を揉みながら出勤してきた。
なんだ、二日酔いか?
昨日の記憶が途中からありません。
若いっていいな、元気で。
えぇ、吉田さん、バカにしてます?
してない、してない。
おはようございます。
いつもは早めに出勤する太田が、珍しくギリギリだった。
あれ?今日遅いんですね。太田さんも二日酔いですか?
え?あぁ、そう、そうなの。私もちょっと飲みすぎちゃって。
一応薬飲んで頑張りましょう。
太田は俺と目が合うと、顔をすっとそらした。
そんなわかりやすい反応されちゃ困るんだが、そういうところも可愛い。
パパー。
家でソファーに座りながらビールを飲んでいると、正人が近づいてきた。
どうした?
ちゃんとアスレチック連れてってよ。
え?俺はいいよ。ママと行ってきな。
いいじゃん。行こうよ。
パパはいいってば。
あっ。
家庭内の対立
その時、つけていたテレビではサッカー選手がゴールを決めていた。
よーしよしよし。
パパーってば。
マサトうるさい。今いいところなんだよ。アスレチックなんて俺がいなくても同じだろ。
ママー。パパアスレチック行かないって。
そう。残念だったね。
その時、選手が放ったシュートはキーパーに止められた。
くっそバカ野郎。なんで入れられねえんだ。下手くそが。
俺が画面に熱中していると、テレビが突然消えた。
びっくりした。なんだよ。
マサトが怖がってる。
見ると、マサトはユーナに抱きついて後ろに隠れている。
マサトどうした。男がそんなんじゃカッコ悪いだろ。
やめてよ。そういうこと言うの。
なんで。強くならなきゃやってけないだろ。
マサト。もう寝な。
マサトはうなずくと、静かにリビングを出ていった。
ねえパパさ、休みの日くらいもうちょっとマサトと一緒にいてあげてよ。
いや俺だってさ、いてあげたい気持ちはあるけど、疲れてるんだからしょうがないじゃないか。
私だって働いててさ、疲れてるんだよ。
お前は時短の事務なんだからそんなに疲れないだろ。
俺は毎日利用者の介護で肉体労働してるんだぜ。俺のほうが疲れてるよ。
そういうことじゃなくてさ。
それに、お前はカジもマサトの世話も好きじゃないか。
やらなきゃいけないからやってるの。パパやってくれないし。
なんで俺のせいになるんだよ。
パパは私のこともマサトのことも好きじゃないからやらないの?
そんなことないよ。大事に思ってるよ。ただ疲れてるだけ。
私の疲れは?お前がなんで疲れるの?
ユーナはため息をつき、首を横に振るとリビングを出て行った。
よくわからないことを言っていたが、まあそのうち忘れるだろう。
嫁はさ、カジも育児も大好きでいい女だよ。
俺がそう言うと、俺の腕に頭を置いた太田はポカンという顔をした。
太田のほうから聞いてきたのにどうしたのだろう。
息子は運動神経がいいらしくてさ、来年3年生になるからサッカークラブに入れようと思っているんだ。
結構お金かかるかもしれないけど息子のためだし奮発してやろうと思って。
俺っていい父親だろう?
俺がそう言うと太田の表情が変わった。
太田?
吉田さんって家族思いなんですね。
そうだよ。
気づいた?
太田はそう言うとベッドから起き上がり、服を着始めた。
じゃあもう家に帰らなきゃ。
大丈夫だよ。今日はエリア長と飲みに行くから遅くなるって言ってある。
でも私も帰らないと。
そっか。じゃあ次はいつにする?また木曜でいい?
太田は少し気づいた。
じゃあ次はいつにする?また木曜でいい?
太田は少し考えた後、小さく、「はい。」と答えた。
吉田施設長、お時間よろしいでしょうか。
何の前触れもなく、本部の人事部長がやってきた。
本部の人間が事前連絡なしに来たのは初めてだった。
はあ、わかりました。
俺は狭い待合室に人事部長を通した。
今日はどういうご用件で?
これです。人事部長のカバンから写真が複数枚出てきた。
そこには、俺と太田が手を繋いでホテルから出てくるところや、キスをしている姿が映っていた。
明日からお二人は出勤停止です。処罰が下るまでご自宅でお待ちください。
俺と太田はその後退勤することになり、家に帰った。
リビングのソファーに座ってぼーっとしていると、17時過ぎに夕菜と正人が帰ってきた。
びっくりした。どうしたのこんな時間に。
明日から仕事行かないことになった。
はあ?
俺は夕菜はきっと許してくれると、なんとなく思っていた。
いかがでしたでしょうか。
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。