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2024-02-08 17:21

e57 新しい抗生物質(は儲からない)

ほとんどの抗生物質(抗菌薬)が効かない多薬剤耐性菌が問題になっています。新しいタイプの薬の開発と、抗生物質開発の構造的な問題について話します。


https://www.nature.com/articles/d41586-023-04086-z

https://www.nature.com/articles/d41586-023-03988-2

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06799-7

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06873-0

サマリー

最近の感染症による問題や多剤耐性菌の重篤な影響、そして新しい抗生物質の開発について話されています。新しい抗生物質の開発は重要な課題であり、政府の支援や国際社会の対応が求められています。しかし、製薬会社は儲からないという理由で開発や市場投入が難しい状況です。新しい抗生物質は最後の手段として利用されることがあり、その役割は重要でありながら、その開発や利用には経済的な困難が伴っています。

感染症と抗生物質
最近、感染による病気がいろいろあって、サルモネラ菌による胃腸炎とか血核なんかがそうなんですね。
そういった病気っていうのは、抗生物質を使って治療をするわけなんです。
でも、しばらく抗生物質を使っていると、その抗生物質に対して抵抗性を持った耐性菌というのが生まれてくるんです。
抗生物質というのは、いろんな種類があるんですけど、多くの抗生物質が効かない多剤耐性菌というのがいるんです。
でも、多くの場合、そんなに強い病原性は持っていなくて、健康な人だと大丈夫なんですね。
でも、日和み感染って言って、体が弱っている人とか免疫力が低下する病気の人に感染して病気を起こすことがあるんです。
だから、病院の中での感染で問題になるんですね。
そういう免疫力の弱い人に感染すると、抗生物質は効かないし、患者の免疫力で菌を排除するっていうこともできないので、症状が重篤になって死に至ることもあるんです。
世界では年間100万人以上が多剤耐性菌によって亡くなっているんですね。
しかも、病院というのは病気の治療をするためにやってくる場所なのに、逆にそこで病気をもらっているっていうことなので、多剤耐性菌は医療上の大きな問題なんです。
そんな耐性菌の一つで、アシネトバクタバウマニ、短くしてAバウマニというのがあるんです。
この菌はグラム陰性菌と呼ばれるタイプの菌なんですね。
細菌には細胞膜の外に細胞壁っていう細胞を守る壁があるんですけど、グラム陰性菌はここに外膜という膜があって、そもそも抗生物質が入っていきにくいんです。
さらにこの菌の場合は外からDNAを取り込むっていうことができて、入ってくる抗生物質に対して抵抗性をもたらす遺伝子を獲得して、耐性を持つように変化する能力が高いんです。
それでほとんどどの抗生物質も効かないようなやつがいるんです。
しかも乾燥に強くて空調の配管なんかに長く存在していたりするようなこともできるので、院内感染のリスクの高い菌なんです。
WHOも重要な病原体リストっていうのに入れていて、脅威だと認識しているんですね。
でも新しい抗生物質の開発って難しくて、エイバウマニに効果のあるものっていうのは、この50年間に新しいものは一つも開発されていないんです。
新しい抗生物質の開発
でも最近エイバウマニに対する新しいタイプの薬を開発したっていう明るいニュースがあったんです。
今日はそれを紹介するとともに、抗生物質の開発を困難にしている構造的な問題について話していきます。
ポッドサイエンティストへようこそ、こなやです。
今日紹介する研究は、2024年1月にNatureに掲載された2つの論文で、
ロシュのクラウディア・ザンパローニらによるものと、ハーバード大学のカランビール・パヒルらによるものです。
抗生物質っていうのは細菌やカビが産生する他の細菌の育成を阻害する物質を薬として使っているものなんですね。
大体は分子量600以下の小さな分子なんです。
これは小さい分子であれば、細菌の細胞壁を通り抜けやすいからなんです。
すでにある抗生物質の分子を少し改変して、新しい抗生物質が開発されることはたまにあるんですが、
作用メカニズムの全く違う新しいタイプの薬が開発されることはほとんどないんです。
それから微生物由来ではなくて、完全に人間が合成で作ったものを抗菌薬って言うんですけど、抗菌薬の開発は非常に稀なんです。
今回の論文で、ザンパローニラはいろいろな構造の分子45,000種類のコレクションから探すということを行いました。
ロシュっていうのは製薬会社なんですけれども、製薬会社ってこういういろんな化学物質をたくさん作って持っているんですね。
今回使ったコレクションは、通常の抗生物質よりも少し大きい分子、分子量800ぐらいのものを集めたものだったんです。
それらを片っ端からテストしていって、Aバウマニの殺菌作用があるものを見つけました。
そしてその構造を元にさらに最適化して、ゾスラバルピンという薬物を開発したんです。
この論文ではさらに、なんでこの薬物がAバウマニを殺菌できるのかっていうところまで調べていったんですね。
そうしたら、これまで知られている抗生物質とは全く違う方法で殺菌しているっていうことがわかったんです。
そのAバウマニを含むグラムインセイキンというのは、LPS、リポポリサッカロイドというものを細胞壁の外側の膜、外膜に持っているんです。
この分子っていうのは細菌を外界から守る役割を持っているんです。
この分子は細菌の細胞の中で作られるわけなんですけど、どうやって細胞膜からさらにその外の膜まで出てくるのかというと、
LPS輸送タンパク質というものがその移動を行っているんですね。
今回のこの新しい薬、ゾスラバルピンはこの過程を阻害するんです。
そうすると細胞の中にLPSが溜まっていって、溜まりすぎるとどうも毒性があるみたいで細胞が死ぬということなんです。
このゾスラバルピンは分子量の大きめの分子なんですね。
だから細胞の中までは入っていきにくいわけなんです。
でもこのゾスラバルピンの標的であるLPS輸送タンパク質は細胞膜と外膜の間にあるんですね。
だからそこまでは到達することができて作用することができるというわけなんです。
これまで抗菌薬を探すときには小さな分子を探していたわけなんです。
でももうすでに探し尽くされているようなところがあって、でも今回は少し大きめの分子を探したのでうまくいったということみたいです。
新しい抗菌薬の開発はとても難しいんですね。
特に細胞を保護する作用の強いグラム隕石菌に対してはなかなか新しい薬が開発されないでいたんです。
でも今回その候補になる薬が見つかったということなんです。
もう一つの論文、パヒル・ラニオル論文ではLPS輸送タンパク質とゾスラバルピンの立体構造を解析して、分子レベルでどういうふうに作用しているのかを明らかにしています。
いろいろ調べてわかったことは、LPS輸送タンパク質の構造が菌ごとに違うというのがあって、ゾスラバルピンはAバウマニという特定の菌には効くんだけど他の菌にはあまり効かなそうだということなんです。
ということは利点もあるんですね。
別の菌がゾスラバルピンに抵抗するための遺伝子を持っているとか作り出すっていうことが起きなそうで、その結果Aバウマニにそういう遺伝子が移動して、Aバウマニがこの菌に対して抵抗性を持つということは起きなそうだということなんです。
それから腸内細菌が健康に重要ということが言われているわけなんですね。
通常の抗生物質っていうのは腸内細菌に影響を与えることがあるんです。
でもこの新しい薬がAバウマニだけに効くということであれば、腸内細菌には影響がないというメリットもあるわけなんです。
このゾスラバルピンなんですけれども、Aバウマニを殺す作用は十分に強くて、病気の人から見つかったAバウマニ100種類以上に効果があったそうなんです。
抗生物質の開発と市場投入の課題
さらにAバウマニに感染させたマウスに投与すれば菌が十分に減って治療効果もあったということなんです。
さらにマウスに対して安全性も高かったということみたいです。
なので人で使う薬としても有望層で、今人での臨床試験も行われている最中ということです。
というわけで今回のこのゾスラバルピンは期待ができるものなわけなんです。
でも臨床試験の結果、たとえこの薬物が非常に有効で、しかも安く生産できるものであっても、現在の社会の仕組みでは全く共有されないままになる可能性もあるんです。
薬の開発ってどんな薬であってもすごくお金がかかるんですね。
厚生物質だと1個に1000億円以上かかると言われています。
そうであっても儲かるのであれば製薬会社は開発するわけなんですね。
ずっと飲み続けないといけない薬、慢性疾患の薬だと開発にかかった投資を回収しやすいわけなんです。
でも新しい厚生物質に関しては、せっかく開発してもあまり使われないという問題があるんです。
そもそも感染症の薬だから厚生物質を使って菌がいなくなればもう使わなくなるわけです。
さらに使えば使うほど耐性菌が出現するリスクが増えるわけです。
だからなるべく使わないようにしたいっていうのがあるんです。
特に今回のゾスラバルピンみたいな新しく開発したもので他の厚生物質が効かない菌にも効果があるものっていうのは最後の手段として取っておきたいんですね。
なので結果としてあんまり使われないということになるんです。
でも他の薬では救えない人を救うっていう最後の手段っていう非常に重要な役割を持つわけなんですね。
でも儲からない薬っていうことになるんです。
当然製薬会社っていうのは企業なわけで儲からないものを開発したり生産して在庫を抱えるっていうことはしないわけで、
この構造のせいで厚生物質はなかなか開発されないし市場に出にくいんです。
政府支援と国際社会の対応
そういう場合には政府がお金を出さないといけないわけで、大学だったり企業に開発費を出して支援するっていうことをしているわけです。
でもこういう押す方の支援だけではなくて、製品を引っ張り上げる方、つまり使われても使われなくても約束をして毎年これだけ政府が買うっていうことをする必要があると指摘されています。
でもどの国も年々医療費が高騰してて、それが財政を圧迫しているわけで難しい問題であるわけなんです。
それでも薬剤体制金は非常に重要な課題で、
今年2024年の国連総会ではこの問題についての会議も行われることになっていて、国際社会としての対応が議論されることになります。
先日番組のこの最後の部分で、もしよければ知り合いに番組を紹介してほしいみたいなことを言ったんですね。
そしたらその後に番組のフォロワー数がいつもよりも増えてたんですよ。
だから実際に紹介をしてくれた人がいるみたいで、本当にどうもありがとうございました。
別にリスナーを増やしてお金を儲けようとかは全然考えてないんですね。
だからスポンサーのCMを入れたりとかサブスクリプションにするなんていうことはないんですよ。
でもやっぱり力を入れて作ってるんで、なるべく多くの人に聞いてもらいたいっていうのはあるんです。
でもあんまり紹介する知り合いがいないっていう人もいると思うんですよね。
僕がそうなんです。
そういった場合には例えばSNSとかでお勧めしていただけると嬉しく思います。
たまにあるんですね。
全然知らなかった人がSNS上でこの番組をお勧めしてて、それを僕が発見するっていうのが。
これってなんかすごい嬉しいんですよ。
なのでもし気が向いたらぜひお願いいたします。
今日はこれで終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
17:21

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