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今日は最初に、お知らせがあります。
昨年の12月に公開収録を行って、長寿の秘訣や寿命の限界についての研究の話をしました。
2週間前のお便り会でも話をしたのですが、この音声については、本編のポッドキャストとは別の形で公開をしています。
アクセスの方法は、当番組のホームページに記載がしてあって、特に登録なしに聞くことができます。
もし興味がある人は、リンクがショーノートにあるのでチェックしてみてください。
さて、今日の本編ですが、久しぶりの葵さんによる研究紹介です。
ここでは、血核に対する免疫反応に関して意外な発見をした研究について話をしています。
ぜひお聞きください。
血核という病気がありますよね。
この病気を引き起こす血核菌は、空気感染で人から人へ移動することができ、肺を中心に様々な臓器に症状を引き起こします。
血核菌が見つかったのは、もう100年以上前ですが、今でも多くの死をもたらす病気です。
日本でも毎年1万人以上が感染し、1000人以上が亡くなっています。
発展途上国では、被害はずっと大きく、世界では年間100万人以上の命がこの病気によって失われています。
ただし、血核菌に感染すると全ての人が血核を発症するというわけではありません。
世界の人口の約25%が血核菌に感染していて、そのうちの5から10%のみが実際に血核を発症するとも言われています。
つまり、発症しやすさに個人差があるわけです。
実際に血核にかかると、複数の抗生物質が長期にわたって投与されます。
血核菌はなかなか除去されないので、数ヶ月から1年以上という長い期間が必要になるのですが、
治療が終わり、回復すれば通常は免疫を獲得して、その後は血核にかかることはそれほど多くないとされています。
それから血核を予防する方法としてBCGワクチンがあります。
BCGは、人の血核菌とよく似た牛型血核菌の毒性を弱くしたもので、
これを摂取することで子どもでは血核の重症化や感染を予防することができます。
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血核の発症のしやすさに個人差があるわけですが、特に血核にかかりやすくなる病気があります。
体の中でインターフェロンγという物質が作られるのですが、
この物質は病原菌に対する免疫反応を引き起こす作用があって血核菌にも応答します。
インターフェロンγがうまく働かなくなるような遺伝的な異常があると血核を発症しやすくなります。
人の血核に対して弱くなりますし、
毒性の弱いはずのBCGを摂取しただけでも病気になってしまいます。
インターフェロンγの他に血核菌への応答に重要な役割を果たすと考えられているのがTNFです。
Tumor Necrosis Factor、TNFは日本語だと腫瘍SC因子と呼ばれます。
腫瘍、つまり癌細胞などを殺す作用がある分子というわけなのですが、免疫作用を強くする働きもあります。
病原菌の感染を感知すると、白血球の一種のマクロファージという細胞からTNFが分泌されて、
これが体の中で炎症を起こせと指示を出す役割を果たすわけです。
そしてこの働きが病原体に対する免疫反応に重要であると考えられています。
他にも関節リウマチのような自己免疫疾患は、免疫の働きが強くなりすぎて起きる病気なのですが、
ここでTNFが働いて、この働きを遮断する薬を使用するとリウマチの症状が改善します。
実際に人では、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療にTNFの働きをブロックする薬が使われるのですが、
このような治療をしていると血核に感染しやすくなることがわかっています。
ここからTNFは通常、血核の感染を抑えていることがわかります。
さらに、TNFの機能に異常のあるマウスでは、血核菌に限らず、多くの病原菌に対して感染しやすくなっていることが明らかになっています。
また、TNFは、炎症反応を強くしたり、細胞子を制御したり、血核特有のニクゲシュという病原菌を取り囲む構造を作るのに働くことが示されています。
このことから、TNFは感染防御に不可欠な重要な因子であることは明らかで、
人を含めてTNFを持たない動物が自然界で生きていくことはできないだろうと考えられていました。
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しかし、最近、TNFの機能を全く持たない人がいて、血核に感染しやすいことを除いてはおおむね健康であるということが報告されました。
今日は、この人たちの細胞を詳しく調べた研究について話していきます。
Bot Scientistへようこそ。葵です。
今日紹介するのは、コロンビア・アンティオキア大学のアンドレス・アリアス・ラによる研究で、2024年8月のNatureに発表されたものです。
この論文で報告されているのが、コロンビアに住むいとこ同士の2人の患者です。
どちらの患者もBCGワクチンを接種していたのですが、20歳手前で血核を発症します。
半年以上の薬物治療で症状が完全に治ったのですが、その1年程度後に再び血核と診断されるという経験があり、現在28歳と36歳で今も存命です。
血核以外には特に大きな感染症はないということです。
この研究ではまず、この2人とその両親、そしてTNFの働きが正常な兄弟の遺伝子解析を行いました。
その結果、この2人ではTNF遺伝子に短いDNA配列が挿入されていることを発見しました。
DNAからタンパク質が作られるときは、長いDNAの情報の一部が順に読み取られて、DNAがコードするアミノ酸が順につなげられてタンパク質ができていくのですが、
DNAの配列の中にタンパク質合成を終わりにするという情報をコードしている場所があって、そこに来ると合成が止まって、タンパク質ごとに特定の大きさのものができます。
この2人の患者のTNF遺伝子で挿入されていた短いDNA配列には、この合成を止める情報が含まれていたので、TNFの生成が中途半端なところで終わってしまっているようなんです。
それを確かめるため、研究チームは、TNF遺伝子を人の培養細胞に導入して、TNFが作られるかを見てみました。
その結果、正常な遺伝子を導入した細胞では正常なTNFが作られたのに対し、この変異の入った遺伝子を導入した細胞では、TNFよりも短いタンパク質しか作られなかったのです。
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なので、この変異した遺伝子を持っている2人の患者では、TNFが正常に作られないと考えられます。
他にも、この患者から作った培養細胞や、患者から取ってきた白血球についても調べていて、2人の患者の細胞では、TNFが作られていないことを確認しています。
これらのデータから、2人の患者の変異により、TNFの酸性も分泌も正常に行われなくなることを明らかにし、この2人ではTNFの働きが完全に失われていることが確認されました。
自己免疫疾患などの治療で、TNFの働きを阻害する薬剤を使っている人は、血核を含む重篤な感染症のリスクが高まることが知られています。
ですから、この2人の患者は、TNF遺伝子に異常があって、TNFが欠損しているために血核を発症した、というのは辻褄があります。
さらに、この研究では、TNFが欠けていると、免疫の重要な防御反応である呼吸バーストがうまく働かなくなり、その結果、血核に対する抵抗力が低下することもわかりました。
まず、呼吸バーストについて説明しますね。
免疫細胞の一種であるマクロファージには、胚内に侵入した病原菌を取り込み、分解する機能があります。
これは、私たちの体を守る大事な仕組みの一つです。
でも、血核菌は少し特殊で、マクロファージの中で増殖することができるんです。
そこで活躍するのが、呼吸バーストというメカニズムです。
これは、マクロファージが病原菌を倒すために、有害な活性酸素を生成し、感染した細胞を攻撃する仕組みのことです。
この活性酸素が、血核菌が増殖するのを抑えてくれるんですね。
そして、TNFがこの呼吸バーストに重要であるということが報告されていて、
TNFがないと、マクロファージは十分な活性酸素を作ることができないんです。
その結果、血核菌に対する防御が弱まり、感染が進行しやすくなってしまうんです。
つまり、TNFの欠乏は、血核菌が体内で増殖する原因になり得るということなんです。
血核菌が体内に入って、最初に感染する細胞の一つとされているのが、肺胞のマクロファージです。
TNFがこの細胞に影響があるのかを調べるために、人の肺から採取されたマクロファージを用いた実験を行っています。
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この細胞にTNFを阻害する薬を加えると、TNFによるシグナルがないことで、肺胞マクロファージの活性酸素の酸性量が著しく減少することが示されています。
この結果から、TNFの働きがなくなると、血核菌を倒せなくなると考えられます。
そして、それが2人の患者が血核に感染した理由ではないかということなんです。
ただ、この2人は血核以外の感染症にはほぼかからずに約30年間生活してきました。
どうして他の感染症を引き起こす病原体に対しては、TNFがなくても対処できたのでしょうか。
それは、この2人の体が変わりの仕組みを持っている可能性があるからだそうなんです。
私たちの血液の中には、様々なタイプの免疫細胞が存在していて、病原体からの防御を行っています。
この研究では、免疫細胞を網羅的に調べているのですが、
TNFがなくても、2人の体内では様々な免疫細胞が正常に作られていること、
そして、遺伝子発現で見た範囲では免疫反応が正常に機能しているだろうということも明らかにしました。
例えば、この2人の体内では、他の免疫タンパク質であるインターフェロンγを正常に産生していて、
このタンパク質による免疫反応も変異のない人たちと同様に起きていました。
つまり、TNFが欠除しても、インターフェロンγは防御薬として正常に働いていて、
多くの病原体に対しては、特に問題がないという可能性があります。
そして、先ほどご紹介した呼吸バーストの異常も、全てのマクロファージで見られるわけではなく、
配放のマクロファージのみに限定されています。
で、結核菌はここから侵入するから、結核についてのみ異常が見られるという考えです。
TNF欠損のある2人が、結核以外の感染症を引き起こす病原菌に対しては、
ほぼ通常通りに免疫が機能しているのは、他の免疫経路が保管的に働いているからかもしれない、
とこの論文では結論付けられていました。
さらに興味深い点があって、この2人が子供の頃、結核を予防するBCGワクチンを受けても副作用が出なかったそうなんです。
ハンコ注射で有名なBCGワクチンは、牛の結核菌の毒性を弱めて作った生ワクチンなので、
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免疫系に問題があるんだったら、BCGワクチンの接種によって重い反応が起きそうなので、少し意外な事実なんですよね。
また、TNFのないマクロファージでは、結核菌によって引き起こされる炎症反応が増加しているという結果も示しているので、
TNFがないことを補う変化が起きている可能性もあります。
結核は歴史上、最も多くの人の命を奪った病気の一つです。
そのため、人類の遺伝子に非常に強い進化的な洗濯圧をかけてきました。
通常、病気に対して有利な遺伝子形質は、世代を超えて残りやすく、速やかに定着します。
ですから、結核の感染規模の大きさや長期間にわたる流行の影響で、TNFのような重要な遺伝子の変異は非常に珍しいものとして淘汰されてきたと考えられます。
今回の研究では、TNFの機能形質変異が初めて確認されました。
そのような変異を持った人がいるということが驚きですし、結核以外には特別大きな感染をしないで生活してきたということが全く意外で、
TNFの働きを再考することを含め、感染症全般の研究においても重要な意味を持つ発見でした。
いかがでしたでしょうか。免疫の仕組みの複雑さが改めてよくわかる研究だったのではないかと思います。
免疫は病原体から私たちの体を守ってもくれますが、時には自己免疫疾患やアレルギーなどで自分を攻撃してしまうこともあるので、
そういった患者さんにより良いお薬を作るのに役立ちそうな研究でもあったかと思います。
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今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。