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  2. S2E6 子供を持つと老化するのか
2024-06-27 19:54

S2E6 子供を持つと老化するのか

出産・子育てにより老化するのかを、エピジェネティクスエージングという手法により検証した研究とその問題点について話します。


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論文:

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2317290121

https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(23)00093-1

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/acel.14170

参考:

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2405089121

https://www.pnas.org/post/journal-club/epigenetic-age-can-fluctuate-five-years-single-day

https://www.science.org/content/article/pregnancy-may-increase-biological-age-2-years-though-some-people-end-younger


サマリー

今回のエピソードでは、子供を持つことが老化にどのような影響を与えるのかについて話します。過去の研究や最近のDNA解析による研究結果をもとに、子供を持つことが生物学的な老化を進める可能性があることが示されます。出産の影響を検証していた論文が出産直後には老化が進むが、3ヶ月後に多くの母親で元に戻っているという結果を示しています。一方、1日の間でもエピジェネティクエイジングによる生物学的年齢が変動することを示す論文もあり、まだ出産による老化については結論が出ていないとされています。

子供を持つことと老化の仮説
今日は、子供を持つと老けるのか、というテーマで話していきます。
老化に関する仮説というのがあって、子を残すことと体を維持することというのは引き換えになっていて、
子供を産むことでその個体の老化が進むという考えがあります。 もっとシンプルに、
出産・子育てというのは大きな負担で、回復できないほどのダメージがあって、言ってみれば寿命を縮めるというのも想像ができるところです。
実際にそれを支持する歴史上の記録を調べた研究というのもあって、
8世紀から19世紀のイギリス貴族の女性では、子供を多く産んだ女性の方が早死にだったということです。
他に割と最近でも、子供の数と特定の病気になりやすいかを調べた研究がいくつかあって、
子供を産むことと癌とか心疾患、そしてそれらによる死亡率とに関係があることが示されています。
その反面、子供がいない女性といる女性では、いる女性の方が寿命が長いっていう研究もあって、
まだいろいろはっきりとはしていません。
子供を産むことで老化が進んだのかっていうことを明らかにするのには時間がかかるんです。
特定の人がどれだけ老化しているかをその時に見て判断するっていうことは難しくて、
その後いつ亡くなったのかとか、どれだけ病気になりやすかったかを見て、早く亡くなっているのであれば老化が進んでいた、みたいに判断するわけです。
でも若くして亡くなる人、あるいは若くして大きな病気になる人は少ないので、
子供を産んでから何十年も後になってやっと出産の老化に対する影響がわかるっていうことになります。
だからさっき話した研究はすべてずっと前に生まれた人の話であって、
経済が発展してライフスタイルや生殖医療が急速に変わっていく中の今の出産、今の子育ての影響っていうのは、
これから5、60年後にならないとわからないっていうことになります。
エピジェネティクスエイジングと生物学的年齢
でも、最近DNAを調べることで、細胞レベルでの老化、生物学的老化を調べるっていう手法が生まれて、老化研究に使われるようになってきています。
今日はこの手法で子供を産むと老化するのかっていう問いに挑んだ研究と、その問題点について話していきます。
ポッドサイエンティストへようこそ、サトシです。
今日紹介するのはコロンビア大学のカレン・ライアンらによる研究で、
2024年4月にアメリカ科学アカデミー企業PNASに掲載されたものです。
その老化が進むかという話ですが、それはつまり、生まれてから何年経ったっていう時間の経過の年齢とは別に、
生物としての老化の度合いの年齢、生物学的年齢があるっていう考えなわけです。
だから、同じ年なんだけどあの人の方が老けているって言ったりするのは、その人の生物学的年齢が進んでいるっていう考えなわけですよね。
この生物学的年齢を求める標準的な方法っていうのはないんですが、最近使われるようになったものとして、エピジェネティクスエイジングっていうのがあります。
エイジングっていうのは老化っていう意味なんですが、エイジっていうのが年齢なので年齢を定めるっていう意味でもあります。
エピジェネティクスとは何かというところですが、ジェネティクスっていうのは遺伝のことで、遺伝を上から制御するっていう意味なんです。
生き物の遺伝子、DNAは体のすべての細胞にあるわけですが、親から受け継いだものと変わらないもののコピーを増やしているんです。
細胞の中ではDNAの配列、DNAの持っている情報自体はほとんど変化しないんです。
そのDNAから必要な部分だけ読み出して細胞は使っているわけなんです。
DNAの配列自体はあまり変化しないんですが、メチル化といって小さな構造がDNAにくっつくことがあります。
くっつくのがメチル基と呼ばれるものなんですけど、これがくっつくとDNAのどの場所が読まれるかっていうのが変化したりします。
だからメチル化によってDNAの配列は変えずに細胞の働きが変わることがあるわけです。
で、こういうふうにDNAを少し変えることをエピジェネティクスと呼んで、細胞の性質が変わるのに重要な役割を担っているんです。
そういうことが起きるっていうのが結構前からわかっていたんですけれども、DNAっていうのは非常に長くて、メチル化される場所も非常にたくさんあって解析が難しかったんです。
でも近年ではDNA上の場所をたくさんまとめて解析できるようになっています。
このおかげで細胞ごとにメチル化がどう違うとか、人ごとにどう違うかとか、そういった解析が行われるようになりました。
その中には老化とメチル化の関係を調べた研究っていうのもあったんです。
そういった研究ではいろいろな年齢の人のメチル化を調べていったんですね。
その結果、年齢が上がるにつれてメチル化のパターンが変化していくっていうことがわかりました。
このデータを使うと今度は逆に、このメチル化のパターンを持っている人はこれくらい老化しているっていうふうに、
DNAのメチル化の情報から生物学的な年齢を求めるっていうことができると考えたわけなんです。
子供を持つことと生物学的年齢の関係
この手法をエピジェネティクスエイジングと呼んでいます。
今回紹介する論文では、このエピジェネティクスエイジングの方法で生物学的年齢を求めて出産との関係を調べていきます。
この研究で調べているのがフィリピンで行われている大規模な調査に参加していた人たちです。
2005年の段階で20歳から22歳だった女性に子供が何人いるかを含めてアンケートをして、さらに血液サンプルを提供してもらいました。
これが1700人です。
次に血液からDNAを抽出してメチル化を解析するわけですが、そのメチル化のパターンから個人個人について生物学的年齢がわかるわけです。
その年齢を出産経験がある人とない人で比較することで、老化に対する出産の影響を調べることができるというわけです。
その結果ですが、メチル化から導き出される生物学的年齢が出産の経験のない女性よりもある女性の方が進んでいて、細かい解析法の違いによってばらつきはあるんですが、
出産した女性の方が4ヶ月から1年、生物学的な年齢が進んでいるっていうことでした。
だから出産によって老化が進んでいるのかもしれないっていうことです。
さらに子供が1人増えるごとにどう変わるかも調べていて、子供1人につき最大5ヶ月年齢が進んでいたということでした。
これらの解析では、出産経験がある人とない人みたいにグループにまとめて別の人で比較をしているわけですね。
だから出産経験がある人とない人の間では、他にも異なる要素がある可能性もあります。
例えば収入などの環境の影響ですね。だから収入が多い人の方が子供が多いとか少ないとかそういうことがあり得るわけで、それが老化に影響を与えている可能性もあるわけです。
一応その点の検証になることもしていて、男性でも同じように生物学的年齢を計測していて、
男性の間で収入等の違いはあっても、男性では子供の有無で生物学的年齢が変わらなかったということでした。
そうなんです。男性では子供でエピジェネティクスで調べた範囲では老化はしないということで、これも注目すべき点ですね。
でもまあ男性では変わっていないっていうことは、子供以外の要素があったとしてもその影響は少なくて、女性でもそういったものは影響を与えていないだろうっていう、そういう理屈だったわけです。
というわけで、この論文の結論は、女性は子供を持つと老化するというものでした。
しかしこの論文の筆者がインタビューで答えていた結論は印象に残るくらい控えめなもので、
今回調べたフィリピンの若い女性では妊娠で生物学的年齢の変わる何かが起きているようだ、というようなものでした。
きっとこれを聞いた記者は物足りなかったと思うんですけど、こういう控えめさは科学者として正しい態度だと思うので、僕はこういう言い方に好感を持ちます。
でも、似たようなことを検証した論文が少し前に発表されていたんですね。
出産による老化の検証
これはハーバード大学のグループのセルメタボリズムに掲載された論文ですけど、ここではアメリカの女性について同じようなエピジェネティクスエイジングで出産の影響を検証していて、
この論文では、出産直後には1、2年分老化が進んでいるんですけど、出産3ヶ月後には多くの母親で元に戻っていて、一部の人についてはむしろ若返っていたという結果でした。
というわけで、出産は何らかの影響がありそうではあるんだけど、出産で老化するかについては2つの研究は違った結果を示していて、まだ結論を出すのは早いという段階です。
で、この2つの研究にはいくつも条件の違いがあったので、結果の違いはそういったものによるっていう可能性があります。
例えばフィリピンとアメリカの違いかもしれないし、出産からどれくらいしてDNAを採取したかっていうタイミングの違いかもしれません。
あるいは、そもそもどちらの研究も老化を測定できていないっていう可能性すらあります。
つまりエピジェネティクスエイジング自体に問題があるのかもしれないということです。最近こんなタイトルの論文が発表されました。
エピジェネティクス年齢は1日のうちに変動する。これは2024年4月にカロリス・コンツェビチュースラによってエイジングセルに発表されたものです。
この論文ではエピジェネティクエイジングによって算出された生物学的年齢が1日の間でもかなり変動するっていうことを示していて、
夜遅くが一番若くて、日中はそれよりも5.5歳分老化しているっていうことでした。
で、こういうふうに夜は年齢が低く、昼は高いっていうのを繰り返しているっていうことです。
先ほどの研究では、出産によって1年とかそれくらい変化しているっていう話だったんですね。
でも、こんな1日の間にその5倍以上変動しているような指標でうまく測れているのかっていう疑問が生じます。
最低限血液を採取する時の時間をすべての人について同じにする必要があります。
でも、それ以前に老化の指標として扱おうとしているものが1日の間でこんなに変わっていいのか、
そもそもこれは老化を表しているのかっていうこと自体に疑問を持たざるを得なくなります。
エピジェネティクスで見ているのは、例えばストレスのレベルか何かで老化ではないっていう主張もあるんです。
というわけで、このエピジェネティクスエイジングはこの5年ほどで急に使われるようになったものなんですが、
まだどこまで使えるかわからないっていう段階のようで、出産、子育てによってふけるのかっていう問いもまだ結論が出ていないままということのようです。
ちょっとお知らせがあります。
なあちゃんとライブ配信をしようかっていうような話をしているんですけれども、まだ詳細は決まってないんで追って連絡という形になります。
でもこのポッドキャストっていうのがリアルタイムで情報を伝えるのにあんまり適してないんですね。
それで前にも話したんですけど、旧TwitterXをやっていて、そこで情報を発信してますのでそれをフォローしていただけると嬉しく思います。
そのリンクというのをこのエピソードのショーノートに載せておきます。
なんですけれども、SNS全般あるいは特にXに登録したくないっていう人もいると思うんですね。
その気持ちもよくわかるんです。
どうしようかなと思ってたんですけれども、当番組のホームページを復活させました。
だいぶ前に一遍作ったんですけど、予想通り全然更新しなくなってひっそりと消してたんですね。
でもちょっと作り変えて、こういう連絡をするためだけのものにして新たに公開しました。
そのリンクというのも今回のエピソードのショーノートに載せておきます。
何か連絡があればそこに載せるようにしようと思います。
ただあんまりですね、更新もされないようなホームページに何か新しいことないかなって覗きに行くっていうのも面倒だと思うんですよね。
なのでそのホームページではメールマガジンっていうのも準備しておきました。
わかるんです。いっぱいメールが来るとね、鬱陶しいんですよね。
だから本当にそれなりの用事があるときしかそういったメールは送らないようにしますので、そういった情報を受け取りたい方は登録をしておいていただけると嬉しいです。
というわけで、そういったライブ配信とか急な番組に関する情報があるときにはX、もしくはそのホームページの方で連絡をするという形にしていきたいと思います。
ちょっと今風邪をひいてて、この最後の部分声がガラガラで聞き苦しかったと思うんですけれども、これで終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
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