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戦後史開封 漫画3
アトム アトム大使 鉄人アトム
昭和25年の秋、公文社の月刊誌少年の編集長だったカナイは、スタッフと歌詞本屋を回っていた。
月刊誌少年に新風を吹き込むため、新たな漫画家を求めていたのだ。
目に留まったのが手塚治虫の新宝島だった。 映画のカメラワークを模した視点や大胆な小回りで、その後の漫画に大きな影響を与える革命的作品に、カナイはその才能を感じざるを得なかった。
モダンな画風にスピーディな展開、物語性があり、スリルとサスペンスにあふれている。
余談だが、編集者から転身して手塚のアシスタントを20年近く務めた福本和義は、手塚の天才ぶりをこう説明する。
絵を描く一方で電話し、その一方でテレビを見たり、話をしたりするんですよ。 アメリカに出張した時には電話で、小回りから着色まで指定してきた。
アシスタントにできる部分を描かせておき、帰国後に仕上げをするためだ。
1ページを4段に割って、1段目は左から何センチに線を描いて、という風に指示してくる。
背景などで説明が微妙な時は、〇〇という作品の何巻何ページ何コマ目のような雰囲気で、とそこまで全てが頭に入っている。
手塚に惚れ込んだカナイはすぐに連絡を取った。
科学冒険漫画をと熱弁するカナイの言葉を頷きながら聞いていた。
その日のうちに、翌26年4月号からの連載が決まった。
手塚はそれより少し前の25年、大きく飛躍するきっかけをつかんだ。
東京都文京区弓町、現本郷1丁目の2階建て民家を利用した学童舎を訪ねたことからだ。
学童舎創設者の加藤は手塚企業を求める読者の登床を受け、手塚と連絡を取っていた。
この日、手塚が持参していた下書原稿を読んだ加藤はすぐに、漫画少年への連載を持ちかけた。
白いライオンレオを主人公にしたこの作品こそ、ジャングル大帝だった。
以来、漫画少年が手塚のホームグラウンドとなる。
著書、僕は漫画家2は、状況の度に学童舎が寝蔵のようになってしまった。
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東京駅からまず直行するのはここで、加藤氏の姿がそこに見えないと心が休まらなかったとある。
各社の依頼が増えて忙しくなった時も、学童舎の仕事は優先してくれましたと元編集長は振り返る。
昭和50年、加藤の葬儀に出席した手塚は号泣したという。手塚が医学博士でもあったことはよく知られている。
その頃は大阪大学附属医学専門部の医学生だった。
26年1月末、締め切りに遅れた原稿を取りに宝塚の手塚宅にわざわざ訪れた編集長宮前は、大阪大附属病院にいると聞かされた。
急いで行くと博位のポケットに聴診器を突っ込んだ手塚が何やら顔をしかめながら廊下へ出てきたところと出くわした。
後で手塚は、僕の博位姿を見た編集者は宮さんだけだよと言っていたという。
ひょんなことからスタートしたジャングル大帝と違い、月刊誌少年は難航した。
当初手塚が送ってきたアトム大陸は登場人物が多くて的が絞れず読みにくかったという。
差し替えて26年4月号から連載されたアトム大使も人気はさほど上がらなかった。
家内は手塚と相談し、途中から登場するアトムというナノロボットを主人公にすることにした。
デザインは誰が真似しても間違いなくアトムに見えることを大前提に、目の大きさや髪型、鼻などを少しずつ違ったものを約50通り描き、
学校帰りの子供たちに聞いた意見をもとに、さらに手直しする形で作っていった。
だが、期待に反して読者アンケートの結果は小説やユーモア漫画より下だった。
このままでは新しい漫画の創造という夢がダメになる。
家内は数日間思い悩んだが、ある朝歯を磨いていてふと気がついた。
今のアトムは強いだけ、ロボットであることに囚われすぎていた。
少年たちと喜びや悲しみ、怒りを分かち合える人間としてのアトムが必要なんだ。
自分の考えを告げると手塚は一言、「わかりました。」と頷いたという。
アトムを主人公に、新たな連載は27年4月号から始めることになったが、タイトルは、手塚さんのアンデは鉄人アトムだった。
事実、3月号の新連載予告では、鉄人アトムとされている。
鉄人では冷たい感じがするんですよ、と叶い。
そこで再び、学校帰りの小学生を相手にマーケットリサーチするなどして、やっと鉄腕アトムに決まった。
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人気アンケートの順位は徐々に上がり、
月刊誌少年が休刊する43年3月号まで、16年間も続く大傑作となった。
没となった鉄人という言葉は、後に横山みずてるの鉄人28号で使われることになる。
平成元年2月9日に英明した手塚は、
生前、まだまだ40年くらいはバーゲンセールできるほどネタがある、と話していたという。
膨大な業績はまだほんの一部でしかなかった。
書きたいネタはいっぱいあっても、肉体的、精神的に限界はある。
もう少し早くマネージャーを置いて交通整理をしておられればよかったのに、家内は残念そうに言う。
産経新聞社がお届けする戦後紙開封。
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