具体的な場面を想定してみましょう。
朝の忙しい時間、すでに3回。
今日履く靴片方はどこに行ったの?見つけなきゃ学校に遅れるよ。
と言いました。
しかしお子さんは聞いていない。
4回目を言おうとした瞬間、何かがプツンと切れるような感覚。
そして気がついたら、大きな声で怒鳴っていた。
こうした場面に聞く覚えはないでしょうか。
このプツンと切れる瞬間、私たちの脳と神経系では一体何が起きているのでしょうか。
その科学的なメタニズムを詳しく解説していきます。
改めて強調しておきたいと思います。
怒鳴ってしまうのは、あなたの忍耐力が足りないからでも、お子さんへの愛情が欠けているからでもありません。
もっと我慢しなきゃと自分を責めたり、精神力で解決しようとしたりする必要はないんです。
実はこれ、あなた自身の脳の仕組みが引き起こしている現象です。
具体的に頭の中で何が起きているのか一緒に見てみましょう。
人間の脳の奥深くには、アーモンドくらいの大きさの扁桃体という部分があります。
扁桃っていうのは日本語でアーモンドのことですね。
喉にある扁桃もアーモンドみたいな大きさで形なので扁桃と呼ばれます。
そしてこの脳の中にある扁桃体、これは非常に原始的で古い部分なんです。
扁桃体の役割はただ一つ、危険を察知して、瞬時に体を守ることです。
原始時代、人間が猛獣に襲われていた頃、この扁桃体が素早く反応することで私たちの先祖は生き延びてきました。
考える前に戦うか、逃げるか、それを可能にするためのとても優秀な警報システムなんです。
問題は、現代になって今でもこの古いシステムが私たちの脳に残っているということです。
もちろん、危険を察知することは今でも現代でも大切なのですが、
実際には命には関わらないようなことでも危険と察知して、扁桃体が活動してしまうことが問題になることがあるというわけです。
お子さんが言うことを聞かない、時間がない、余裕がない、そういう状況が重なったとき、扁桃体はそれを危険だと判断します。
私たちの命を脅かす原子時代の脅威と、現代の育児ストレス、扁桃体にはその区別がつきません。
扁桃体が危険と判断した瞬間に、頭の中で何かが起こります。
扁桃体が危険だと判断した瞬間、脳の前頭全野がフリーズします。
前頭全野とは、今は怒鳴るべきではない、深呼吸をしよう、といった冷静な判断を担う、いわば理性の脳です。
扁桃体が作動すると、この理性の脳がオフラインになってしまいます。
分かっているのにできないと感じるのは、この状態を指します。
意思の力でどうにかできるその段階を超えて、脳がサバイバルモードに切り替わっているのです。
扁桃体が脳全体を乗っ取ってしまう感じになるこの現象を、脳神経科学では扁桃体ハイジャックと呼びます。
この時、理性の脳は機能しません。
例えるなら、骨折した足で、なぜ走れないんだ、と自分を責めているようなものです。
脳神経学的に不可能な状態で、ご自分を追い詰める必要はありません。
ですから、なぜあんなに怒鳴ってしまったんだろう、とご自分を責めなくてもいいのです。
ただ、いつもこうやって怒りをコントロールできず、怒鳴ることを繰り返していたら、どうにかして変えたい。
そう思いますよね。
怒るのって、自分でもすごく苦しい。
そう感じている人もいると思います。
それに、あなたが怒ることで、お子さんや周りの人にネガティブな影響を与えていることに、あなたはすでに気がついているかもしれない。
そんなあなたのパターンを変えるのに役立つのが、内的家族システム、Internal FamilySystem、略してIFSという心理療法の視点です。
ここからは、私がトレーニングを受けて、日常使っているIFS、内的家族システムという心理学的アプローチの視点を話します。
IFSでは、人間の心を一つの塊としてではなく、たくさんの部分、たくさんのパーツが集まった家族のようなシステムと捉えます。
私たちの中には、がんばり屋のパーツ、神経症のパーツ、そして今日お話している怒りのパーツなど、多様なパーツが存在していると考えます。
例えば、こうやってYouTubeのために録画をしている私の中には、ちょっと不安でドキドキしているパーツや、新しいプロジェクトにワクワクしているパーツ、
世の中のためになりたいと使命感に燃えているパーツがいます。
それは、私の全部ではなく部分、つまりパーツであるわけです。
同じようにあなたが怒鳴ってしまったとき、それはあなた自身のすべてが怒りに染まったわけではありません。
あなたの中にいる怒りのパーツが全面に飛び出しているという状態です。
怒ったときに、私はダメな親だと自分全体を否定するのも、自己批判するあなたのパーツです。
これが起こっては、自分を責めるというパターンなのです。
怒るパーツが出てくると、その後には自己批判のパーツがまた出てくる、そういうパターンですね。
このパターンを繰り返す代わりに、腹が立ったときに、
ああ、今私の中に怒りパーツが出ているなぁと、少しだけ離れて観察してみます。
自分とパーツとの間に、わずかな隙間を作るようなイメージですね。
もしも最初は怒りを感じたときに、それができなくても大丈夫です。
怒ってしまった後に、ああ、あの時私の怒りのパーツが出たなぁ、
そして今は自己批判のパーツが私を責めていると、振り返ってみてください。
IFSの重要な考え方は、どんなパーツもあなたを傷つけるためには存在していないということ。
すべてのパーツはあなたを守ろうとする肯定的な意図があるんです。
怒りのパーツでさえ決して悪者ではありません。
怒りなんてネガティブな感情じゃないか。他の人も傷つける。
どうしてこれに肯定的な意図があるんだ。これは悪者だろうと思うかもしれません。
多くの他のカウンセリングの方法では、こういうネガティブな感情を悪者扱いしてきました。
できるだけ怒りが出てこないようにハンガーマネジメントが必要だとか。
でもここでは一旦、今まで私たちが教えられてきたそういう考え方やり方をちょっと脇に置いて、
IFSの視点で見てみることはできないでしょうか。
この怒りのパーツがあなたが深く傷つかないように先回りをして、
怒りというエネルギーで武装し、必死にあなたを守ろうとしていた。
そういう考え方です。では怒りのパーツは何からあなたを守っているのでしょう。
お子さんが言うことを聞かないとき、その心の奥底には、
自分はちゃんとした親ではない。何をやっても無意味だという非常に強い痛みのある無力感や
みずめさが生まれています。
怒りのパーツはあなたがその耐えがたい感覚に飲み込まれないように、
盾となって守っているのです。
そう考えるとこの厄介だと思っていた怒りのパーツに対しても少し見え方が変わりませんか。
これから試してみれることがあるとしたら、それは怒ってはいけないと蓋をするのではなく、
これは私のパーツが私を守ろうとしてくれているんだな、と捉え直してみること。
このパーツがどんなことを心配して出てくるかは、この先少しずつご自分が、
ご自分の内面とつながりを深め理解していくプロセスでわかってきます。