なんと最高値で8兆円を突破、あのサンリオの約4倍にまで跳ね上がったこともある、中国初のポップマートと、その大人気キャラクター、ラブブです。
通常、全12種類のうち11種類はノーマルで、1種類だけがシークレットに設定されています。
このシークレットの出現率は、
こんにちは、株式会社KAZAORIの矢沢矢乃です。推し活未来研究所へようこそ。
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そして時には私自身の経験も交えながら、楽しくそして深く紐解いていきます。
私は普段、推し活をテーマにしたビジネスを提供すると同時に、ベーシストとしてアーティストさんのバックを務めることもあるので、
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さて今日のテーマは、今世界中のZ世代の若者を熱狂させているアートトイ、中国初のポップマートと、その大人気キャラクターラブブです。
私先日出張で香港に行ってたんですが、空港やショッピングモールにポップマートが入っていて、
どこもすごい人気だったんです。
みんなお目当てはラブブだったみたいなんですが、どこも見本は店頭に置いてあるんですが、売り切れなんですよね。
私ももしやったら買おうかなと思ってたんですけど、残念でした。
ラブブ以外にもいろんなキャラクターのフィギュアが置いてあって、日本とはちょっと違う雰囲気があって、すごい可愛いんですよ。
お土産に買おうかなと思えるくらいの価格帯のものもたくさんありました。
このポップマート、実は設立からわずか十数年で企業の価値を示す時価総額は、なんと最高値で8兆円を突破。
あの産量の約4倍にまで跳ね上がったこともある、とてつもない巨大企業なんです。
その大躍進の主役が、今日深く掘り下げていくラブブ。
ウサギのような長い耳と、ちょっと不気味で特徴的なギザギザの歯を持つ、この一見愛くるしくも奇妙なモンスターのキャラクターが、今世界中で大ブームを巻き起こしているんです。
ブラックピンクのリサさんやリアーナさんといった世界的セレブも夢中になり、まさに推し活が生み出した新たな世界的ムーブメントと言えるでしょう。
なぜこの小さな人形がこれほどまでに人々を夢中にさせるのか、そしてポップマートはどのようにして推し活の熱狂を巨大なビジネスに変えているのか。
今日はこのポップマートの成功の秘密について、驚異的な数字データから、キャラクターの魅力、ファンを虜にする巧妙な仕組み、SNSを巻き込んだ戦略、そしてその裏にある課題まで徹底的に深掘りしていきたいと思います。
まずは、このラブブブームを仕掛けたポップマートという会社が、いかにとてつもない存在か、その成り立ちと数字から見ていきましょう。
この会社の始まりは、実は非常に地味でした。
2010年、創業者のワン・ニンさんが、中国北京の大学街にある小さなオシャレな雑貨のセレクトショップとしてスタートしたのが原点です。
当初は経営的にも厳しく、創業者自身ももうダメかもしれないと思った時期があったそうです。
しかし、大きな転機が訪れます。
ある時、日本のソニーエンジェルというフィギュアを、中身がわからないブラインドボックス形式で販売したところ、これが爆発的にヒットしたんです。
この、何が出るかなというワクワク感がお客様の心を掴んだことに、創業者のワンさんは気づいたんですね。
ソニーエンジェルって皆さん知ってますか?
ちょっと見た目はキューピーちゃんみたいな感じなんですが、頭にいろいろな被り物をしているのが特徴です。
そこからポップマートは、自分たちでオリジナルのキャラクター、つまりIPを育てて、ブラインドボックスで販売するビジネスへと舵を切ります。
IPというのはインテレクチュアルプロパティーの略で、日本語では知的財産と言います。
キャラクターや物語など、形のない財産のことですね。
ポップマートは、このIPこそがビジネスの心臓部だと考えたんです。
そして、ポップマートが革新的だったのは、これを子供向けのおもちゃではなく、大人が楽しむアートトイとして位置づけたことでした。
価格は1個あたり約1000円から1300円。
大学生や若手社会人が衝動買いできる絶妙な価格設定で、開けるまで中身の見えないワクワク感とコレクションしたくなる気持ちを巧みに刺激したのです。
その戦略が大当たりします。
2024年の年間売上は130.4億円。
日本円で約2800億円と前年比2倍以上に跳ね上がり、営業利益も186%増という高収益を実現。
特に海外での売上が急激に伸びていて、今や30カ国以上の国と地域で500店舗以上の直営店と2300台以上の自動販売機を展開するグローバル企業へと成長しました。
このように、ポップマートは単なるおもちゃ屋さんではありません。
才能あるアーティストを発掘し、彼らが作ったキャラクターを育て、ブラインドボックスという中毒性の高い売り方で世界中に熱狂的なファンコミュニティを作り出すプラットフォーム企業なんです。
では、そのポップマートを代表するメガヒットキャラクター、ラグブの魅力は一体どこにあるのでしょうか。
ラグブの生みの親は、香港出身でオランダ在住のアーティスト、カシン・ロンさんです。
彼はもともと自動書の作家として活動しており、ヨーロッパの絵本や妖精伝書、北欧神話に深く影響を受けて育ちました。
ラグブも、もともとはカシンさんが2015年に発表した、ザ・モンスターズという絵本シリーズに登場するキャラクターの一人でした。
ウサギのような長い耳、ギザギザの歯、そして時にはちょっと悪そうな表情を見せる、可愛いのにちょっと怖い、不思議と目が離せないキャラクターです。
この絶妙なバランスがラグブ最大の魅力なんです。
英語ではこういう魅力をアグリキュートと言います。日本語だとブサカワやキモカワイイですかね。
完璧に整った可愛さではなく、少し癖があって欠点もある。でも、だからこそ目が離せなくなる。
この少しエッジの効いた見た目が、他とは違う個性を推したいというZ世代の観戦に刺さったのでしょう。
さらにラグブには物語性も備わっています。
絵本の中では、善意で頑張るけどいつもドタバタを引き起こしてしまう、でも憎めない小さなモンスターというストーリー設定があるんです。
いつもニコニコしてトラブルを起こすんですけど、心は優しい、そんなギャップのある性格設定がファンの共感を呼んでいるんですね。
こうした細かなバックストーリーがあることで、ファンは単なる見た目の好み以上にラグブというキャラクターを物語ごと推すことができるんです。
ラグブのデザインが世界中で愛されている理由の一つに、見る人によっていろんな風に解釈できるという柔らかさがあります。
はっきりとした物語やキャラ設定が前に出過ぎていないからこそ、この子癒し系の相棒かもと思う人もいれば、ちょっと危険な感じがかっこいいと感じる人もいる。
まるで空っぽの器のように、見る人の気持ちや価値観をそのまま映し出してくれる。
そんな自由さがラブファンの世界をより多彩で奥深いものにしているんですね。
この手に入りにくさが希少性という価値を生み出し、自分だけがこのレアなものを持っているという優越感や満足感が非常に強い魅力になります。
実際、ある限定カラーのラブブは、コレクター間のオークションで、なんと108万人民元、日本円にして約2200万円もの高値が付いたこともあるんです。
そして、人間の持つ収集欲も巧みに刺激されます。
シリーズが12種類あると聞くと、全部揃えたい、コンプリートしたいという気持ちが湧いてきませんか?
これは、最軽肉効果と呼ばれる心理効果とも関係していて、人間は完成していないものを気持ち悪く感じ、完成したいと強く思う傾向があるんですよね。
我らの社交心、収集欲、希少性への欲求という3つの心理的トリガーが、ブラインドボックスという仕組みには完璧に組み込まれています。
これはまさに、私たちが推し勝つで感じる感情とそっくりですよね。
ポップマートは、この推し勝つの心理を誰もが手軽に体験できるエンターテイメントに昇華させたのです。
ブラインドボックスという強力な仕組み、しかしポップマートの本当の凄さは、それをSNSと結びつけて、ファンがファンを呼ぶ巨大なムーブメントを作り出した点にあります。
その中心にあるのが、開封動画です。
箱を開ける瞬間のドキドキ感、中から出てきたキャラクターに対するリアクション、この一連の体験は非常にSNS映えします。
TikTokやInstagramでハッシュタグラブグと検索してみてください。
世界中のファンが投稿した膨大な数の開封動画が見つかるはずです。
誰かが楽しそうに箱を開けて、シークレットを引き当てて絶叫したりしているのを見ると、自分もそのドキドキ感を味わいたくなりますよね。
つまりファンが投稿するUGC、ユーザー生成コンテンツが何より強力な広告になっているんです。
そしてこのブームに決定的な火をつけたのが、世界的スーパースターたちの影響です。
きっかけはブラックピンクのリサさんでした。
彼女がラブブのチャームをエルメスなどの高級バッグにつけてSNSに投稿したことから、世界中のファンがこのキャラクターに注目し始めたのです。
この現象が重要なのは、単なる商品紹介ではなく、ライフスタイルの提案として受け取られたことです。
この高級品とポップカルチャーの融合という新しいトレンダは、瞬く間に他のセレブにも広がりました。
リアーナさん、ジャスティンビーバーの妻ヘイリービーバーさん、キムカーダシアンさん、そしてデビットベッカムさんまで、彼らがSNSでラブブを紹介することでまさに雪だるま式に人気が拡大し、
ラブブは単なるコレクション問いの枠を超え、みんなが欲しがるファッションポップカルチャーの象徴にまで登り詰めたのです。
ポップマートはこの流れを巧みに活用しました。
セレブが投稿するたびに公式アカウントがリポストして感謝のメッセージを発信。
この流れは現代のマーケティングにおける理想的なバイラル戦略と言えるでしょう。
さらにファン同士の交換文化も非常に活発です。
欲しいキャラクターが出なかったとき、ファン同士でSNSや公式が開催する交換イベントを通じてトレードする。
この過程で新しいコミュニティが形成され、ラブブを通じて世界中の人々につながっていく。
ポップマートはこの共有される不確実性を中心とした新しいコミュニティ文化を見事に作り上げたのです。
ポップマートの戦略で特に注目すべきはIPに対するアプローチです。
従来の多くのおもちゃメーカーが既存のキャラクターのライセンスに依存していたのに対し、ポップマートは独自のIP開発に注力しました。
現在同社の売上の9割以上がラブブのような自社化開発IPや専属契約アーティストのキャラクターによるものです。
これによりライセンス量に依存しない高い利益率を確保しています。
実際、2024年度の売上総利益は67%で、これはエルメスの72.3%やルイビトンの67%とほぼ同等という驚異的な数字なんです。
ポップマートは世界中の有望なデザイナーやアーティストと提携し、彼らの作品をアートトイとして商品化するアーティストインキュベーターのような役割を果たしています。
ラブブ以外にも、モリー、スカルパンダなど数多くの人気キャラクターがいて、一つのキャラクターのブームが過ぎても次のスターが控えているという強固なIPポートフォリオを構築しているのです。
この戦略の面白いところは、キャラクターではなく体験を売っているということです。
ブラインドボックスを開ける瞬間のワクワク感、コレクションを完成させる達成感、レアアイテムを手に入れる優越感、これらの感情体験こそがポップマートの真の商品なのです。
CEOのワン・ニン氏は、ポップマートのキャラをディズニーやサンリオのようにメディアミックスで長く愛されるIPに育てたいと語っており、今後はアニメーション制作や映画化、さらにはテーマパークといったエンタメ分野への進出も検討しているそうです。