ノト丸
さて早速ですが、この物語の世界にちょっと足を踏み入れてみましょうか。物語の舞台はですね、ある大きな災害に見舞われた後の世界なんですね。
そこでは既存のインフラがガタッと崩壊してしまった後で、住民たちが自分たちの手で独自のコミュニティ、ビルダーと呼ばれる人たちが築いた生活圏が生まれていた、そういう状況です。
そこへある日、旧世界の秩序を代表するような人たち、つまり政府の役人とか復興計画を携えた専門家たちがやってくる。そこから話が始まるんですね。
彼らの目的、これははっきりしています。秩序の回復。もっと具体的に言うと、災害でバラバラになった中央集権型の情報ネットワーク、これを修復して以前のような管理された状態に戻したいと。
その計画の中心にいるのが、アガツマ教授という人物。彼はですね、過去の膨大なデータとか、確立された工学理論に基づいて、最も正しい復旧計画というものを提示するわけです。
最も正しい?
そうなんです。それは、いわば完璧に設計された機械をですね、寸分違わず元通りに修理するための、唯一無二の正解だと。そういうわけですね。
うーん。
彼の態度は非常に論理的で、もう自信に満ち溢れている。壊れる前の状態こそが理想なんだと。それを再現することに一点の曇りもないぞっていう、そんな感じですね。
ブク美
ええ、まあそこなんですよ。そのアガツマ教授たちが提示するその完璧な計画、これがビルダーたちには全く響かない。
ああ、響かない。
ええ、ここが最初の非常に興味深いポイントかなと。専門家から見れば、非の打ち所がないはずの計画が、なぜか受け入れられない。
ノト丸
なぜでしょうね。
ブク美
資料を読むとですね、ビルダーたちは災害前のその完璧な機械って呼ぼれていたシステムが、実はいかに脆さとかが、
そしてその効率とか管理を優先するあまりに、どこかこう人間的なあたかみとか、あるいはちょっとした遊びのようなもの、そういうのを置き去りにしていたんじゃないかと、それをもう身にもって体験しちゃってるんですね。
ノト丸
なるほど、実感として。
ブク美
そうなんです。だから、ただ元通りに修復しますよと言われても、そこに強い違和感を覚えちゃうわけです。
ノト丸
頭で理解するその正しさと、身体で感じる実感、その間にズレがあるわけですね。
まさしく。
そのギャップが具体的な言葉として現れてくるのが次の場面ですね。
ブク美
そうなんです。ビルダーのコミュニティにいるソラという若い女性がいまして、彼女が専門家たちが議論している、まさにその最中に本当に素朴な疑問をポンと口にするんです。
はい。
そもそもなんでそんなに急いで元に戻したいんですかって。前のシステムって今回みたいに一瞬で全部ダメになるくらい脆さだし、正直あんまり面白くなかったですよねと。
ノト丸
うわー、これは専門家たちにとっては、まさに青天の霹靂というか、議論の土台そのものをひっくり返すような言葉ですよね。
ブク美
まさにそうなんです。彼らにとってみれば、システムの復旧っていうのはもう自明の理、疑う余地のない絶対的な善意であり、目的そのものだった。
ノト丸
当然のことだったと。
ブク美
その目的自体になぜって問われるなんてことはもう全く想定していなかった。ここで両者の間に横たわっている深い溝というか対立の確信が見えてくるんですね。
ノト丸
専門家たちは必死にどうすれば中央集権ネットワークを効率よく修復できるか、つまりHowですよね。方法とか解決策、これを議論している。
それに対してソラをはじめとするビルダーたちは、なぜそもそも中央集権的なシステムが必要なんですか?それは本当に私たちが望むものなんですか?と、Why?ですね。
ブク美
目的や意義。
ノト丸
その目的や意義を問うている。この問いを発しているレイヤーというか次元が全く違うんですよ。
ブク美
"どうすれば"と"なぜ"。この違いは大きいですね。なんか話を聞いているとこの状況ってすごく身につまされる気がしてきます。ひょっとしたらリスナーのあなた自身の日常とかお仕事の場面でも似たような経験ってありませんか?
ノト丸
あるかもしれませんね。例えば会社でずっと続いてきたこのやり方、会議の進め方、資料の作り方とか、これが決まりだからとか、こうするのが一番効率的だからっていう確立された手順。
いわば正しいとされるHowがありますよね。
ブク美
ありますね。
ノト丸
でも心のどこかで、いや本当にこれでいいんだっけ?とか、そもそもなんでこの作業必要なんだっけ?っていうその根本的なWhy?の問いが浮かんできても、なんかそれを口に出すのはちょっとためらわれたり。
あるいは日々の忙しさの中で考えること自体をやめてしまったりとか。
ブク美
うーん、わかります。
ノト丸
私たちって時に決められた手順をいかにうまく効率的にこなすか、つまりどうすればうまくいくかっていう思考に集中するあまり、本当にこれでいいのか?とか、もっと違うあり方はないのか?って深く立ち止まって考えることを無意識のうちになんか避けてしまっているのかもしれない。
確かに。
この物語はあなた自身は本当に考えているか。そんなちょっとドキッとするような、でもすごく重要な問いを私たち一人一人にも投げかけている、そんな気がしますね。
この考えているかっていう感覚、リスナーのあなたはどう感じますか?
ブク美
ええ、そのHowとWhyの断絶ですよね。
これをつなぐ役割を果たしたのが物語のもう一人の主要人物、ケンジです。
ノト丸
ケンジ。
ブク美
ええ、資料では彼のことを翻訳者であり、触媒であるとそう表現していますね。
彼は専門家たちの論理的でデータに基づいた思考、資料の言葉を借りると左側の世界の言語と、ビルダーたちのもっと直感的で思考錯誤の中から知恵を生み出していくような右側の世界、その両方を理解してつなぐことができる、まあ稀な存在だったと。
ノト丸
なるほど。翻訳者であり触媒、両者の間に立ってこう化学反応を促すような、そういう役割ですね。
ブク美
ええ、まさに。で、会議はもう完全に紛糾しちゃって。
アガツマ教授は計画の正当性を繰り返すばかりだし、ビルダーたちは不信感をもたらせてもう席を立ちかけたりとか。
ノト丸
ああ、もう決裂寸前みたいな。
ブク美
そうですそうです。まさに議論が行き詰まったその瞬間だったんです。
ケンジがすっと立ち上がってホワイトボードに向かう。
ほう。
彼は専門家たちが描いたあの緻密で完璧な中央集権ネットワークの復旧計画図、あれを消さずにそのまま残した上で、それをこう大きな円で囲んで、そしてそのすぐ横にたった一つのしかし決定的な問いを書き記したんです。
一つの問い。
ええ。それが、「もし繋がるために中心は必要ないとしたら?」というこの言葉でした。
もし繋がるために中心は必要ないとしたら。わあ、これはすごい問いですね。シンプルだけど根底を揺さぶるような。
そうなんです。この問いのその真の力っていうのは、単に中央集権ネットワークの修復に賛成か反対かっていう、そういう二元論的な対立構造、それ自体をもう無効化してしまった点にあると思うんですね。
はいはい。
専門家たちにしてみれば、もう自分たちの存在意義とか寄って立つ基盤そのものを疑うような問いですよ。だからこそそれは誰も問えなかった問いだった。