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寝落ちの本ポッドキャスト
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見ご感想は、公式Xマでどうぞ。
さて今日はですね、
佐藤垢石さんの
イルカとフグ
という
テキストを読んでいこうと思います。
釣りジャーナリストだそうで、
えー
そう、海のブタと書いてイルカ
川のブタと書いてフグ
なんですよね。
で、
イルカとクジラの違いって
わかりますか?
なんと
サイズだけらしいんですよ。大きければクジラって呼ぶかみたいな。
鷹とかワシとかもそうらしいですけど。
そして何よりびっくりしたのがですね、神奈川県の三浦半島の先の方では未だにイルカを食べることがあるらしいという
衝撃の文化が日本に残っているそうです。
1970年より前に生まれたお兄さんお姉さん方からは昔
クジラベーコンを食べた話とかをちょこちょこ聞かせてもらいますが
僕たち世代、まあ僕たちって言っても
現状の30代40代、もっと若い人たちはそんなに馴染みないと思うんですけどね。
とりあえず聞いてみましょう。イルカとフグ。
クジラと名のつくものなら大抵は食べたことがある。
大井川のクジラは不審にしてその味を知るなり、ということからそれは別として
ヤマクジラ、ナメクジラ、イルカに至るまでその章を下の端に乗せてみた。
ところでヤマクジラのすき焼き、ナメクジラの照り焼きなどは大層美味しいけれど、
イルカの肉はどうも完璧しかねる。
サラシクジラの酢味噌にしたところが、肉そのものには何の味もなく。
ただその歯切れの良さを尊ぶだけで酢味噌の出来がうまくなかったら、食べられるものではない。
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缶詰に至っては沙汰の限りだ。 天で空中へ入るものではないのである。
君はクジラ捕りの元締めだから、何とかクジラを美味しく食わせる方法を講じられないものか、と
友人のとある捕鯨会社の幹部に問うてみた。 そこでその友人が言うに、それは君の認識不足だ。
クジラの上肉は到底ヤマクジラやナメクジラの日じゃない。 サラシクジラや缶詰を食っただけで
クジラの味を論ずるとは戦場至極。 近く機会を求めてクジラ肉がどんなに美味しいものか君に食わせてみせる。
食ってみてから議論を聞こう、という機縁である。 サラシクジラは
クジラの皮膚から脂肪を絞ったカスだ。 缶詰にするのは肥料にしても惜しくないような肉だから、君が称賛しないのも無理はないが、
一体関東人はクジラ肉の本性を知らない。 馬肉の方を上等なりとしている人さえある。
ところが大阪人はクジラの肉をよく知っている。 キシューやトソの国などクジラの産地が近いからクジラの生肉が容易く手に入ったためであろう。
しかし大阪の商人はひどいことをやった。 生肉の美味しいところは大阪で上手に料理させ、
手前たちの口に入れてしまって、 捨ててもいい下等の肉、
つまり動物園でも運び込もうか、という代物を缶詰にこしらえて全国へ売り出したから、
クジラは誠に美味しくないということになってしまった。 クジラ肉をまずいものにしたのは大阪商人の罪だ。
それはとにかくとして、僕の会社のキャッチャーボートが四五層、 今小賀半島の綾川湖を根拠地としていて、
毎日金火山沖で盛んに捕鯨をやっている。 僕は近いうちにそれを視察に行くことになっているから、君も一緒に行ってみないか。
そこで新鮮なクジラの肉の素晴らしいのをご馳走しようじゃないか、 というようなわけになった。
よし、番書を繰り合わす。
さて、このほどいよいよ金火山沖へ漕ぎ出すことになった。 仙台から小賀半島のどったんまで25、6里。
その間の山坂ばかりの長い道中を、スプリングの弾力がしなびてしまったバスに揺られて、 ようやく綾川の町へ着いてみると、ばかに臭い。
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町へ入る少し手前の切り通しの坂まで来ると、自動車の窓から吹き入る風が、 呼吸が詰まるように臭いのだ。
生まれて初めて花が経験する匂いだ。 町へ入ると、家、道、庭木、草、川、人間、犬、電信柱、
何でもかんでも臭い。 この匂いは何だと問うと、これはクジラの匂いだと友人は答える。
これはひどい。 素晴らしい新鮮なクジラの肉は、こんな窒息的な匂いを出すものか。
こんなわけなら、はるばるこんなところまで来るんじゃなかったというと、 友人は、いやこれは腐ったクジラ肉の匂いだ。
あゆ川の町の人はどの家でも、煮革や肥料を取るためにクジラの肉を細かく刻んで、 庭や道路に乾かしておくが、それが腐ってこんな匂いを発す。
それがために、あの匂いものなら、何にでも集まってくるハエでさえ、 あまりにその匂いの強烈なのに驚いて、このあゆ川の町からことごとく逃げ出してしまった。
けれど、息のいいクジラ肉は、こんなに臭いものではない。 それで安心した。
その夜半12時。 わららは第二競馬るというキャッチャーボートに乗って、あゆ川湖から金火山を切り出た。
320トン。 軽快な船である。
目が覚めると朝7時。 船は金火山から125マイルの太平洋を走っている。
洋上一面の農務で。 3、4丁先も見えないくらいだ。
展望がきかないから、クジラはおろか、カモメさえ見えないのだ。 霧の流れる船橋に集まって、船長からクジラの話を聞く。
クジラには、マッコウクジラ、ツチクジラ、 ツバナクジラ、シロクジラ、ゴンドウクジラ、
シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、 ザトウクジラ、セミクジラ、
ホッキョククジラ、 コガタイワシクジラなどだいぶ変わった種類があり、
スナメリ、イルカ、サカマタなどがその親戚になっている。 このうちシロナガスクジラとナガスクジラ、
マッコウクジラが上等で、中でもシロナガスクジラが一番金目になる。 一体、クジラの体重は長さ1尺1トンという計算だが、
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大きくなるほど割合が増していく。 100尺もあるシロナガスになると、重さが120トンもあろう。
自分たちが1日に1貫目ずつクジラを食うにしたところが、 一生かかっても100尺のクジラは食い切れるものではない。
大きなシロナガスクジラ1頭で、まず値打ちが25,000円から30,000円というところだろう。
マッコウクジラは長さは5、60尺で、クジラとしては中型だが、
この頭だけでも自分たちの住んでいる家くらいはある。 その頭の中に、1頭で石油感250パイの油が入っている。
1頭のマッコウクジラの値打ちが1万円前後というところだろう。 第二胸丸は昨年の秋から南極へクジラ取りに行って、この4月に帰国したのだが、
南極では150頭の大クジラを取ってきた。 だがこの金火山沖では南極のようなわけにはいかない。
それでもここは日本近海第一の捕鯨場だ。 日本の近海には北は千島、北海道、それから金火山沖、
傍州と下ってきて、貴州、土佐。 南は小笠原島から台湾。
西は九州五島沖、玄海奈田。 北は朝鮮近海までずいぶん数多い領土があるが、それで一カ年に取れるクジラはわずかに2000頭前後である。
その中の3分の1の700魚頭がこの金火山沖で取れるのだから、 まず日本一の漁場は金火山沖ということになる。
この漁場にはマッコウクジラとイワシクジラが一番多い。 イワシクジラは50尺程度のもので、
一頭3、4千円の値打ちで大したものではないが、こいつの肉は素敵においしい。 自分たちはその肉を毎日食っている。
昼食の用意ができました。と、旧人が知らせてきた。 食堂へ行ってみると、これは驚いた。
荒くれ男が乗っている捕鯨船には大した御馳走あるまいと考えていたのだが、 この卓上には
マダイの塩焼き、タイの牛尾、 野菜サラダに春菊のごま和え、それにクジラ肉の刺身である。
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もう一つ卓上を飾ったものは冷たいビールの泡だ。 クジラの刺身を食うのは初めてである。
まずこれを箸へつけて口へ持っていった。 肉の艶は赤ボタン色で牛肉の霜降りのように脂肪の層が薄く出ている。
それを噛むと牛肉のような硬さがない。 そしてマグロのトロのように甲虫に絡まる脂肪のアクドさがない。
あっさりと舌の端で溶けてしまう。 おいしい。
牛肉とマグロの味の中間にあるものだ。 かつて食べたカンゼメにもサラシクジラにもこんな上品な味覚がなかったが、
一体クジラはどこの肉でもこんな上品なものですか? と問うと、
船長は、 いやどこの肉でもというわけにはいかない。
この刺身にしたのはコシ肉と言って、 クジラの尻尾から少し上の方にある肉で、クジラ1頭のうちのほんのちょっぴりしかない。
市場に出してもなかなか高価なものであるというのである。 ところで今度はカツレツが運ばれた。
ゲイカツである。 自節柄のトンカツやトンテキを上あごと下あごに挟んで米噛みを痛くするのとはわけが違う。
おかげさまでビールが素敵にうまい。 その時突然船橋で、
見えた見えたというスイフラの激しい犬声が聞こえる。 船長はやおら立った。
私らもカツを噛み噛み、惜しい羊足を放り出して立った。 前方15、6丁の沖の波の上に、
この丁というのは町と書いておよそ100メートルだそうなので、
150、60メートル先の話という話をしてますね。 続けます。
前方15、6丁の沖の波の上に、3、4頭のクジラがシュッシュと潮を前の方へ吹いている。
絵にあるように頭から背中から丸出しにして、 公園の噴水のごとくに美しく四方に水が散っているのではない。
シュッシュと斜めに短く、 自動車のお尻から出る煙のように吹いているのだ。
船は全速力で追跡を始めた。 次第にクジラに迫っていく。
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海中へ沈んでは潜り、潜っては背中を出すクジラだ。 ついに船から4、50軒のところまで追い詰めた時、
1頭のクジラがむっちりとした大きなお尻を波前へ出した。 だがその時、クジラは自分が船に追いかけているのを悟ったらしい。
全速力。 クジラは1時間15マイル走る力がある。
それで走ったから全速力13マイルのキャッチャーボートでは追いつかれない。
とうとうクジラの群れをまだ晴れきれない霧の中へ見逃してしまった。
おいしいところはあのむっちりとしたコシの肉なんですか? と船長に問うと、
そうです。あれは例のイワシクジラで。 コシ肉がすばらしくおいしいのだが。
あんな少女のように丸々としたコシを持っていながら、なかなか白状者だ。 シーを連れ添って泳いでいるクジラを、まずオスの方から先に撃つと、
メスはオスの苦しむのを見捨てて、まっしぐらに逃げてしまう。 それまではずいぶんちょうちょうなんなんとやっていたのであろうが、
見に危険が迫ると恋人も何もない。 まあ、モダンがあるといったところでしょうかな。
ところがオスクジラは情愛が深い。 メスクジラが森を撃たれると決してそばを離れないのである。
心痛、悲哀の情を真っ黒い背中にあらわして、 メスの傷口から流れ出た鮮血で真っ赤になった会場をオロオロと徘徊する。
そこで打ち手は忍状を出してはいけない。 続いてズドンとオスに一発食わせる。
まずメスを打ち取っておけば、一度に二頭を取るのは常識となっている。 クジラの鼻の舌の幅を測ったことはないが、人間の男と大差はないらしい。
また、はなはだ物の哀れをとどめるのは、 はなれ真っ黒というやつである。
真っ黒クジラというのは、一頭のオスを二、三十頭のメスが取り巻いて大群を成して洋上を泳いでいる。
ところで一つの大群と一つの大群が遭遇したら、大変なことになる。 双方の群れの中から大きなオスが踊り出して死闘を始める。
結局一方が負けると、それについてきた二、三十頭のメスはことごとく勝った方の真っ黒クジラの群れに投じてしまう。
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負けたオスクジラは一人ぼっちになってしまうのだ。 なんと情けないメスどもでしょう。
これをはなれ真っ黒というのだが、一人ぼっちになったオスクジラは他にもメスから嫌われたオスがあると見えて、大きなオスばかりが七八頭群れを成し、メスを交えず仲良く泳いでいることがある。
夕飯の時が来た。 はなはな物付けの話なが、早く夕飯の時が来ればいいと待っていたのである。
またも宅上は山海の珍味だ。 捕鯨船というのは恐ろしく御馳走を食わせるところだ。
カツオのたたき、あいなめの煮物。 船で作った絹ごしの冷ややっこ、大根の風呂吹き。
これだけあれば食い切れないのだけれど、次に出たクジラ肉の水炊きが我全食欲を扇動する。
焼く身にネギ、春菊、豆腐の入った鍋の中をさいの目状に刻んだクジラが泳いでいる。
くったくった。額からも胸からも汗が滝のように流れ出した。
翌日は早朝からノームがカラリと消え去った。 全乗組員が一斉に緊張する。
金火山とサメの港をつないだ船の130マイル置きでとうとう1頭のイワシクジラを仕留めた。
長さ52尺、重さは60トンもあろうというメスだ。 このお祝いを食堂で始めた。
まず出たのがひき肉でこしらえたクジラのメンチボール。 酢味噌に醤油漬けの焼き物。
これでもか、これでもかという甘いである。 だが私はなかなかへこたれない。
さらしクジラの酢味噌と異なって、生クジラには 肉そのものに精快な趣がある。
メンチボール。これは温かい上に柔らかで、なんと結構な料理だろう。 このイワシクジラ1頭で、
乗組員一同の1ヶ月分の給料とまかない日はもうけた。
今回の寮はこれでやめることにしようということになって、 あゆ川を出て4日目の夕、沖から気候の都に着いた。
最後の夕飯であるから、別れのクジラを食おう。 というわけで食堂に集まったのが船長をはじめ一等運転手、
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機関長、水付長、無伝義士に私らである。 給仕が第一に運んできたのがクジラの味噌漬けの焼いたのにクジラ敵である。
これは本の前菜に属するらしい。 本物はクジラのすき焼きだ。
狭い食堂が鍋の下の火で熱い。 いずれも肌脱ぎで鍋とくびっ引きを始めた。
よく食えるものである。 牛のヒレ肉よりもっと柔らかい。
そして薄い脂肪がほんのりと唾液を誘う。 肉片の適当に分解したところを捉えた包丁のうまみは、
昔の料理書にある、熟して噛んせず、火にして喉ならず、 といった頃合いでないかと思う。
ひどくクジラばかり食ったものだ。 これで堪能した。
誠にクジラ肉に対する認識を改めたわけである。 東京へ帰ってから1週間ばかり経つと、
あの味を思い出して唾液が舌に絡むので何とも答えられない。 そこで築地の菓子へ行って探してみると、まさにクジラの腰肉というのがあった。
値段を聞いてみて驚いた。 100問4円50銭だと吹っかけて、
ちょっと手が出ますまい?と言ったような顔をする。 これでは東京にクジラ肉が普及しないわけだ。
欲張りを迎えりみず、阿佑川港の生クジラ解体作業場へ手紙を出した。 ありがたいことに腰肉を大樽に一樽送ってくれた。
これを友達数人と道玄坂の猿活邦店へ下げ込んだが、 ここでは残念なことに船で食べたような調理のうまみを出してくれなかったのである。
最近大阪へ旅行したから有名な新町のクジラ料理屋へ行って食べてみたが、 ここの水炊きと醤油漬けはさすがにうまかった。
ガスビル裏のクジラ料理は完璧しない。 キャッチャーボートはこの月末に南極の海へ母船とともに巨大なクジラを狙って出発するという。
その船長連が2、3日前東京駅で会食したとき、 来年の4月日本へ帰ってくるときは、
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南氷上のオスクジラの甲岩と甲状腺、 メスクジラの腰肉を塩漬けにして持ってくると約束してくれた。
それを食べたら来年の夏はずいぶん元気が出ることだろう。 1993年発行、釣人ノベルズ、釣人社、
かんぽん、たぬき汁、より一部独領読み終わりです。 長いので前後半に分けることにしました。
イルカというかクジラの話でしたね。
だいぶなんかこうドキュメントの様相があって、割と
読みごたえがありましたがいかがでしたでしょうか。 クジラ肉。
あまりご縁がありませんが、寝落ちしてくれたら本日も幸いです。
それでは今日はこの辺で、また次回お会いしましょう。おやすみなさい。