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2024-05-16 18:03

029佐藤垢石「海豚と河豚」(後)

029佐藤垢石「海豚と河豚」(後)

イルカとフグ。後半はフグの話です。味覚が乏しくてフグの良さはまだわかりません。ようやくヒレ酒の良さがわかってきました。今回も寝落ちしてくれたら幸いです。


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寝落ちの本ポッドキャスト。
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには、面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて、青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想は、公式Xまでどうぞ。
さて、今日は前回の続きです。
佐藤垢石さんの、イルカとフグの後編ということですね。
前回はイルカというか、クジラの話が続いていましたので、今回はフグのお話です。
フグはお好きですか?
僕は最初に食べたのは20代。
終盤頃に会社の偉いさんに連れられて、
フグ刺し食べてみなよと食べさせてもらって、
ポン酢の味しかしないなと思ったのが最初の感想ですけど、
唐揚げもあんまり味しないなみたいなね。
30代も過ぎて、お酒を覚えてくるようになってくると、
ヒレを使ったヒレ酒とか、おいしいなと思うようになりましたけど、
さらに歳を重ねたら、身もおいしく感じられるようになるのかもしれませんが、いかがでしょうか。
それでは参りましょう。イルカとフグ後編です。
フグの魔法の味に糖水する季節が来た。
だがフグの毒にあたって焦点してしまってはやりきれないのだけれど、
そう滅多に中毒するものではないから安心だ。
日本の近海には30数種類のフグがいるそうである。
そのうち名古屋フグ、小彩フグ、目赤、
虎フグ、黄金フグ、銀フグ、かごめフグなどが普通知られている。
私らが料理屋で食うのは虎フグ、名古屋フグ、
世間では金フグと言っている黄金フグであるが、
目赤と北枕、かごめは猛毒の持ち主で、
食えば大概極楽域である。
名古屋フグの名の言われは身の終わり。
だから名古屋とこじつけたのであろうという人もいるが、
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それはあてにならない。
名古屋フグに中毒した人は昔から稀であるからだ。
北枕は名の示す通り、一度食ったならば北枕に寝かされるのを
覚悟しなければならないという危ない代物だ。
一番人に歓迎されているのが虎フグで、量もたくさんある。
味も上等で、文字ではこれをモンフグと呼び、
皮膚にザラザラのトゲがあって2貫目以上に育つ。
味の点では黄金フグが圧倒的だ。
しかし魚体は小さく100モンくらいより大きくならないのと、
とれる時期がはなはだ短いので惜しまれている。
虎フグのように皮膚にトゲはなく、
肌に黄金色のツヤが出ているのである。
銀フグ、これもなかなかにおいしい。
黄金フグと同じに皮膚にトゲがない。
名古屋フグは関東では主に正菜フグと呼んでいるが、
フグ料理に理解を持たなかった江戸時代から、
東京では伐生の縄の蓮でもこの正菜フグを売っていた。
それほど正菜フグの味は普及している。
だが味は結構でない。
フグのうちで一番風味に乏しいと言ってよかろう。
やはり皮膚にトゲがなく、大きい色になると2貫目以上に育つ。
市中の小料理屋で鉄砲鍋とか小材鍋とか言って売っているのがそれで、
毒が少ないから、これならば命に別情はない。
昔江戸っ子がフグはうまくねえとけなしてきたのは、
安全なものとしてこの味の劣る正菜を選んできたためだと思う。
フグは海鶏の下等として釣人から仇のように憎まれている。
そのはずであろう。
上あごと下あごに生えている一枚刃は、
やっとこのように力強くカミソリのように鋭え、
この刃に噛まれたらどんな太い手ぐすでも一噛みでポキンだ。
タイ釣り漁師は丹精して繋いだ100ヒロものホンテグスの釣り糸を時々フグにやられるので、
フグにかかっちゃ泣いても泣ききれないとこぼす。
だから釣人はフグが釣れると憎しみのあまり、
骨も砕けよと渾身の力で船べりか岩角へ叩きつけるのだが、
フグは腹を膨らますだけでケロリとしている。
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皮膚が硬いからか強く叩きつけられても何の怪我もない。
目をパチパチさせて人を眺めている。
魚のうちで瞬きするのはフグにどんこ、ハゼぐらいのものだろう。
近年、東京市中にだいぶフグ料理屋が増えた。
そのうち一流のフグ料理屋というのは一両年前まで、
手前どもでは本場の下関から材料を取り寄せています。
と、ほらを吹いたものだが。
今日ではそんな言葉にだまされる人はあるまい。
瀬戸内海では下関方面で広島、九州の中津沖、徳山湾で取れたもの。
広島近くでは宮島、枝島、
大阪近くでは阪州の鹿島群島、長倉掛島、
太島、宇和島、鹿島など、
また淡路島のふくらから揺らにかけての新井瀬戸、
北海峡などのものが本格ものとされているけど、
東京近くにも立派なフグが取れる海がいくらでもあるのだ。
東京湾内の三浦半島の野島と、
防掃半島の岸原津と、
第二海峡をつなぐ線の上に、
一ノ瀬、二ノ瀬、三ノ瀬という釣り場がある。
これらを総称して中ノ瀬と呼ぶが、
ここには素敵にフグがたくさんいて種類も多く味もいい。
それから三浦半島の鴨行き、
三崎の湾口、
防掃半島では大抜き、
港、竹丘、金谷、勝山、立山などで取れるフグは、
どこへ出しても関西ものに勝るとも劣っていない。
また相模奈田へ出れば、
あじろうきから伊東方面、
下田から伊豆半島の南端、長津路の丑ヶ瀬、
梶本島の周りへ行けば、
澄んだ海の中層に三、四日ずつ、
つながり合って泳いでいるのを見るが、
残念ながら外海のフグは波が荒いので、
肉の組織が荒く、味が落ちる。
東京湾内のものに比べて推奨できないのである。
こんなわけで、いわゆる食通と言われる連中が、
下関のフグなりと信じ切って舌舐めずりしているフグは、
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たいてい東京湾内から集まってきたものを食っているのだが、
この頃ではかえって東京から関西へ、
荷が回っているくらいだから妙なものであると言えよ。
まずフグ通になろうと思えば、
横浜の法来町のフグ屋へ行って、
そこの料理場を見せてもらってから食ってみるがいい。
ここのなら本当に確かだ。
フグの毒をテトロドトキシンというのは誰でも知っているが、
この毒は呼吸中枢を麻痺させるから、
人間が死んでしまっても2,30分間は心臓が動いている。
そして目もパチパチしている。
フグが岸角でたたきつけられたときと同じの風災であるそうだ。
この猛毒が一番に多量に入っているのは、
フグの胸びれの下の皮膚についている寄生虫である。
これを蝶々と言っている。
フグの皮膚と同じ灰色であって、
大きさは犬のダニぐらいである。
一匹の蝶々を鳥に与えると、
その場で死んでしまうくらい猛毒の持ち主だ。
だからフグ料理のうち、皮はよほど注意しないと間違いが起こりやすい。
次にメセフグの卵巣もいけない。
卵巣を普通マコと言っている。
薄墨色で肝臓と間違いやすく。
もしこれを食えば即死だ。
けれどこれは婦人病には特効があるというので、
日陰干しにして売っているところがあるが、
味はカラスミに似てそれ以上であるというから、
酒の魚には絶好の品であろうけれど、恐ろしい恐ろしい。
よく干したものを削って耳かきに一杯飲むと、
体自ら熱温を生じ、
生気更新して菌質相和するところの既悪であるという。
ダキギモも恐ろしいものの一つだ。
ダキギモはフグの肺であって、
肩甲骨の下側についている。
これは必ず捨てねばならないのである。
それから青い色の丹納、赤黒い色の胃袋も軽快ものだ。
血液は毒の源泉だから、
これが一滴ついていても洗い落とす必要がある。
フグの肉肥。
五臓のうち最もおいしいのが肝臓だろう。
甘み、方仙とは誠にこのことである。
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食っているうちに五体の骨が緩むかに覚え、
神気当然としてくる。
茶色をしていて柔らかい。
それからオスフグの口眼が素敵に珍味だ。
白子といってチリ鍋に良く、味噌汁に良い。
フグ嫌いの尾崎幸吉が、
この先、別腹でこの白子を豆腐であると言って食わされ、
その珍味に感嘆して、次の旅行先下関で、
あの丸い輪切りの豆腐を出せと言って請求したところ、
それはフグの口眼であろうという説明を聞き、
肝を冷やしたことがある。
くちばしの肉をうぐいすという。
これは場所柄だけに肉の量は少ないが、
はなはな美味しい。
腹壁の肉をとうとう身というが、
これは身皮の隣という洒落らしい。
エラもうまい。
白く半透明で、精快な感じを持つ。
腸は茶色で、親指大の太さがあり、
ネギの株を詰めて輪切りにして食うとすこぶるオツだ。
皮は青灰色で、
腹部の方が黒いのである。
骨つきは中落ちにたくさん肉をつけたのを言うのであるが、
ずいぶん体が温まる。
ささみは刺身にして食う。
だが本当にフグを好む人から言うと、
答えのいずれのところよりも味は劣ると思う。
ヒレはヒレ酒をつくる。
昔からフグのヒレを焼いて酒の中に問ずれば、
悪酒変じて良酒になると言われているくらいであるから、
よほど魔力を持っているに違いない。
ヒレ酒の一杯は人間の血管、
完熟して陽気を発し、
全身を乳頭の内につけたように運気が湧いて、
我が肉皮がゆるむと称されているほどだ。
兵庫県の加古郡高佐五町の漁師は、
なかなかフグ料理が上手だという話だが、
三浦半島の鴨居でも、
暴走半島の竹丘でも、
タイゾリに行って針にフグがかかると、
漁師はすぐ料理して食わせる。
まず頭を向こうに向けて、
腹を上にし右手に握り、
クソ落ちから包丁を入れて、
下唇にかけてさばき開き、
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エラ、内臓を取り出しておいて皮を引き、
肉を落とすという順序になる。
そして柳葉でトゲをおそぎ落として、
エラは出歯で血を抜き取る。
腸は抜いて血を去り、
裏返してまた血を取る。
背骨の中の血は針金を通して掃除をし、
肝臓は薄皮を剥ぎ、
さいの目にするのだが、
血管の血を去るには、
塩を厚くまぶすのである。
塩は血を吸い取る性質を持っている。
そして洗ってさらに幾度か晒すのだ。
トウトウミは一種のゼラチン分だから、
剥ぎ取って塩で血を抜き、
シラコ、つまり黄岩とササミとは毒が少ないから、
水洗いしたばかりでそのまま食える。
フグの肉は蒲鉾に入れると素晴らしくおいしくなる。
イヨの蒲鉾にはこの肉がだいぶ入っていて、
人から陳徴され、
これもフグ嫌いの犬飼い牧童が、
それとは知らず、
いつもイヨから蒲鉾を取り寄せて食っていたところ、
その蒲鉾のおいしい理由を解いて聞かされ、
急に蒲鉾が嫌いになったという話がある。
姫ゆずの汁でチリを食うとおいしい。
刺身の醤油にもこれを入れれば一層甲斐味を増す。
おみじおろし、さらしネギ、わけぎの薬味、
それからかやくとして豆腐、茄子、春菊など、
もう冷凍の秋が来た。
チリ鍋、すき焼き鍋、雑炊鍋、
思い出しただけで下の端にまみ迫り来たるを覚える。
今日、カズサの国、竹岡の漁師から、
太ったフグが釣れ始まったという知らせがあった。
1993年発行、釣人ノベルズ、釣人社、
かんぽん、たぬき汁、より読み終わりです。
いやー、フグは詳細に捌き方とかも教えてくれましたけど、
クジラほどのドラマ性がなかったですね。
確かに釣人はフグ嫌いですよね。
迷惑だって言ってるのを聞いたことがあります。
後半は少し短くなってしまいましたが、
それでも寝落ちはできたでしょうか。
それでは今日はこのへんで、また次回お会いしましょう。
おやすみなさい。
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