ポッドキャストの紹介
寝落ちの本ポッドキャスト
こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想・ご依頼は、公式エックスまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。
また、最近別途投稿フォームもご用意しました。
あわせてご利用ください。
それから最後に、番組フォローもどうぞよろしくお願いします。
主人公の心情
さて、今日は、
太宰治さんの駆け込み訴えというテキストを読もうかと思います。
小説なんでしょうか。
何かね、
ちょっと誰のYouTubeか忘れたんですけど、
全然文学作品と関係ないところで、
駆け込み訴えの話が出てきたり、
あとは、
それもまたYouTubeかな。
とにかく複数の人がこの駆け込み訴えの話をね、
あ、クイズノックの伊沢さんかな。
何かうんちくを披露するときに言ってたのかも。
とりあえず何か複数回タイトルが上がる作品だなということで、
今回はこれを読もうかと思います。
全然内容知りませんか、僕は。
40分ぐらいになるかなと思いますけど。
ひとまず読み進めてみましょうか。
はい。
どうか値落ちまでお付き合いいただければ幸いです。
それでは参ります。
駆け込み訴え。
申し上げます。申し上げます。
あの人はひどい。ひどい。
はい。嫌なやつです。悪い人です。
ああ、我慢ならない。生かしておけねえ。
ああ、はい。はい。
落ち着いて申し上げます。
あの人は生かしておいてはなりません。
世の中の敵です。
はい。何もかもすっかり全部申し上げます。
私はあの人の居所を知っています。
すぐにご案内申し上げます。
ズタズタに霧災難で殺してください。
あの人は私の死です。
主です。けれども私と同じ歳です。
34であります。
私はあの人よりたった2月遅く生まれただけなのです。
大した違いがないはずだ。
人と人との間にそんなにひどい差別はないはずだ。
それなのに私は今日まであの人にどれほど意地悪くこき使われてきたことか、
どんなに長老されてきたことか、
ああ、もう嫌だ。耐えられるところまでは耐えてきたんだ。
怒る時に怒らなければ人間の甲斐がありません。
私は今まであの人をどんなにこっそりかばってあげたか、
誰もご存じないのです。
あの人ご自身だってそれに気がついていないんだ。
いや、あの人は知ってるんだ。
ちゃんと知っています。
知っているからこそなおさらあの人は私を意地悪く軽蔑するんだ。
あの人は傲慢だ。
私から大きに世話を受けているので、それがご自身悔しいのだ。
あの人はアホーなくらいにうぬぼれ屋だ。
私などから世話を受けているということを、
何かご自身のひどいひけめででもあるかのように思い込んでいなさるんです。
あの人は何でもご自身でできるかのように、
人から見られたくてたまらないんだ。
馬鹿な話だ。
世の中はそんなもんじゃないんだ。
このように暮らしていくふからには、
どうしても誰かにぺこぺこ頭を下げなければいけないんだし、
そうして第一歩を苦労して人を抑えていくより他にしようがないんだ。
あの人に一体何ができましょう。
何にもできやしないんです。
私から見れば青二歳だ。
私がもしいられなかったら、あの人はもうとうの昔、
あの無能でトンマの弟子たちとどこかの野原でのたれ死にしていたに違いない。
狐には穴あり、鳥には寝蔵。
されども人の子には枕するところなし。
それそれそれだ。
ちゃんと白状していやがるんだ。
ペテロに何ができますか。
ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、コケノツドリ、
ぞろぞろあの人について歩いて、
背筋が寒くなるような甘ったるいお世辞を申し、
天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、
その天国が近づいたなら、
あいつらみんな右大臣左大臣にでもなるつもりなのか。
馬鹿な奴らだ。
その日のパンにも困っていて、
私がやりくりしてあげないことには、
みんな飢え死にしてしまうだけじゃないのか。
私はあの人に説教させて、
群衆からこっそり再戦を巻き上げ、
また村の物持ちから穀物を取り立て、
宿舎の世話から日常衣食の高級まで、
飯を厭わずしてあげていたのに、
あの人はもとより弟子の馬鹿どもまで、
私に一言のお礼も言わない。
お礼を言わぬどころかあの人は、
私のこんな隠れた日々の苦労も知らぬふりして、
いつでも大変な贅沢を言い、
五つのパンと魚が二つある霧の時でさえ、
目前の大群衆皆に食物を与えよう、
などと無理難題を言いつけなさって、
私はかげで実に苦しいやりくりをして、
どうやらその命じられた食い物を、
まあ買い整えることができるんです。
いわば私はあの人の奇跡の手伝いを、
危ない手品の助手を、
これまで幾度となく勤めてきたのだ。
私はこう見えても決して隣職の男じゃない。
それどころか私はよっぽろ高い趣味家なのです。
私はあの人美しい人だと思っている。
私から見れば子供のように欲がなく。
私が日々のパンを得るために、
お金をせっせと貯めたっても、
すぐにそれを一理に残さず、
無駄なことに使わせてしまって。
けれども私はそれを恨みに思いません。
あの人は美しい人なのだ。
私はもともと貧しい商人ではありますが、
それでも精神化というものを理解していると思っています。
他者との関係
だからあの人が私の深居して貯めたよういった流々の小金を、
どんなに馬鹿らしく無駄遣いしても、
私は何とも思いません。
思いませんけれども、
それならばたまには私にも、
いい言葉の一つくらいはかけてくれても良さそうなのに、
あの人はいつでも私に意地悪く仕向けるのです。
一度あの人が春の海辺をブラブラ歩きながら、
ふと私の名を呼び、
お前にもお世話になるね。
お前の寂しさは分かっている。
けれども、そんなにいつも不機嫌な顔をしていてはいけない。
寂しい時に寂しそうな面持ちをするのは、
それは偽善者のすることなんだ。
寂しさを人に分かってもらおうとして、
ことさらに顔色を変えてみせているだけなのだ。
誠に神を信じているならば、
お前は寂しい時でも、
そしらぬふりをして顔をきれいに洗い、
頭に油を塗り、
微笑んでいなさるが良い。
分からないかね。
寂しさを人に分かってもらわなくても、
どこか目に見えないところにいる、
お前の誠の父だけが、
分かっていて下さったなら、
それで良いではないか。
そうではないかね。
寂しさは誰にだってあるのだよ。
そうおっしゃってくれて、
私はそれを聞いて、
なぜだか声を出して泣きたくなり、
いいえ、私は天の父に分かっていただかなくても、
また世間の者に知られなくても、
ただ、あなたを一人さえお分かりになっていて下さったら、
それでもう良いのです。
私はあなたを愛しています。
他の弟子たちが、
貪念に深くあなたを愛していたって、
それとは比べ物にならないほどに愛しています。
誰よりも愛しています。
ペテロやヤコブたちは、
ただあなたについて歩いて、
何か良いこともあるかと、
そればかりを考えているのです。
けれども私だけは知っています。
あなたについて歩いたって、
何の得するところもないということを知っています。
それでいながら、
私はあなたから離れることができません。
どうしたのでしょう。
あなたがこの世にいなくなったら、
私もすぐに知ります。
生きていることができません。
私には、いつでも一人でこっそり考えていることがあるんです。
それは、あなたがくだらない弟子たちから全部離れて、
また天の父の教えとやらを説かれることもおよしになり、
つつましい民の一人として、
お母のマリア様と私と、
それだけ静かな一生を長く暮らしていくことであります。
私の村には、まだ私の小さい家が残ってあります。
年老いた父も母もおります。
ずいぶん広い桃畑もあります。
春、今頃は桃の花が咲いて見事であります。
一生安楽にお暮らしできます。
私がいつでもお側についてご報告を申し上げたく思います。
良い奥様をおもらいなさいまし。
私がそう言ったら、あの人は薄くお笑いになり、
ベテロやシモンはつなどりだ。
美しい桃の畑もない。
ヤコブもヨハネも積品のつなどりだ。
あんな人たちには、そんな一生安楽に暮らせるような土地がどこにもないのだ。
と、低く、ひとりごとのようにつぶやいて、
また海辺を静かに歩き続けたのでしたが、
後にも先にも、あの人としんみりお話できたのは、その時一度だけで、
あとは決して私に打ち解けてくださったことがなかった。
私はあの人を愛している。
あの人が死ねば、私も一緒に死ぬのだ。
あの人は誰のものでもない。
私のものだ。
あの人を他人に手渡すくらいなら、手渡す前に私はあの人を殺してあげる。
父を捨て、母を捨て、生まれた土地を捨てて、私は今日まであの人について歩いてきたのだ。
私は天国を信じない。神も信じない。
あの人の復活も信じない。
なんであの人がイスラエルの王なものか。
我がな弟子どもは、あの人を神の巫女だと信じていて、
そして神の国の福音とかいうものをあの人から伝え聞いては浅ましくも近畿弱役している。
今にがっかりするのが私にはわかっています。
己を多幸する者は悲哭せられ、己を悲哭する者は多幸せられるとあの人は約束なさったが、
世の中そんなに甘く言ってたまるものか。
あの人は嘘つきだ。
言うこと言うこと一から十までデタラメだ。
私は天で信じていない。
けれども私はあの人の美しさだけは信じている。
あんな美しい人はこの世にない。
私はあの人の美しさを純粋に愛している。
それだけだ。
私は何の報酬も考えていない。
あの人について歩いて、やがて天国が近づき、
その時こそはあっぱれ右大臣、左大臣になってやろうなどとそんなさもしい根性は持っていない。
私はただあの人から離れたくないのだ。
ただあの人のそばにいて、あの人の声を聞き、
あの人の姿を眺めていればそれでよいのだ。
そしてできればあの人に説教などをよしてもらい、
私とたった二人きりで一生長く生きてもらいたいものだ。
ああ、そうなったら私はどんなに幸せだろう。
私は今のこの現世の喜びだけを信じる。
次の世の審判など私は少しも恐れていない。
あの人は私のこの無報酬の純粋な愛情をどうして受け取ってくださらんのか。
ああ、あの人を殺してください旦那様。
私はあの人の居所を知っております。
ご案内申し上げます。
あの人は私を癒しめ憎悪をしております。
私は嫌われております。
私はあの人や弟子たちのパンのお世話を申し、
日々の気活から救ってあげているのに、どうして私をあんなに意地悪く軽蔑するのでしょう。
お聞きください。
6日前のことでした。
あの人はベタニアのシモンの家で食事をなさっていたとき、
あの村の丸田芽の妹のマリアが、
などの行為をいっぱい乱してある石膏の壺を抱えて、
教園の部屋にこっそり入ってきて、
嫉妬の感情
出し抜けにその油をあの人の頭にざぶと注いで、
お足まで濡らしてしまって、
それでもその失礼を詫びるどころか、落ち着いてしゃがみ、
マリア自身の髪の毛で、
あの人の濡れた両足を丁寧に拭ってあげて、
行為の匂いが部屋に立ちこもり、
誠に異様な風景でありましたので、
私はなんだか無性に腹が立ってきて、
失礼なことをするなと、
その妹娘に怒鳴ってやりました。
これ、このように置物が濡れてしまったではないか。
それにこんな高価な油をぶちまけてしまって、
もったいないと思わないか。
なんというお前はバカな奴だ。
これだけの油だったら、
300デナリもするではないか。
この油を売って300デナリ儲けて、
その金をば貧乏人に施してやったら、
どんなに貧乏人が喜ぶか知れない。
無駄なことをしては困るね。
と、私は散々叱ってやりました。
すると、あの人は私の方をきっと見て、
この女を叱ってはいけない。
この女の人は大変いいことをしてくれたのだ。
貧しい人にお金を施すのは、
お前たちにはこれから後々、
いくらでもできることではないか。
私にはもう施しができなくなっているのだ。
その訳は言うまい。
この女の人だけは知っている。
この女が私の体にこういうお注いだのは、
私の弔いの備えをしてくれたのだ。
お前たちも覚えておくがよい。
全世界どこの土地でも、
私の短い一生を言い伝えられるところには、
必ずこの女の今日の仕草も、
記念として語り伝えられるであろう。
そう言い結んだ時に、
あの人の青白い頬は幾分、
長期して赤くなっていました。
私はあの人の言葉を信じません。
例によって大げさなお芝居であると思い、
平気で聞き流すことができましたが、
それよりもその時、
あの人の声にまた、
あの人の瞳の色に、
今までかつてなかったほどの異様なものが感じられ、
私は瞬時戸惑いして、
さらにあの人のかすかに赤らんだ頬と、
薄く涙に潤んでいる瞳とをつくづく見直し、
はっと思い当たることがありました。
ああ今押し、
口に出すさえ無念至極のことであります。
あの人はこんな貧しい百姓女に恋、
ではないがまさかそんなことは絶対にないのですが、
でも危ない、
それに似た怪しい感情を抱いたのではないか。
あの人ともあろうものが、
あんな無知な百姓女風情に、
それをとでも特殊な愛を感じたとでもあれば、
それは何という失態、
取り返しのできぬ大修文。
私は人の恥辱となるような感情をかぎ分けるのが、
生まれつき巧みな男であります。
自分でもそれを下品な嗅覚だと思い、
嫌でありますが、
ちらと一目見ただけで、
人の弱点を誤らず見届けてしまう、
鋭敏の才能を持っております。
あの人がたとえ微弱にでも、
あの無額の百姓女に、
特別な感情を動かしたということは、
やっぱり間違いありません。
私の目には狂いはないはずだ。
確かにそうだ。
ああ我慢ならない。
勘にならない。
私はあの人も、
こんな手たらくではもはやだめだと思いました。
醜態の極みだと思いました。
あの人はこれまでどんなに女につかれても、
いつでも美しく、水のように静かであった。
いささかも取り乱すことがなかったのだ。
や気が回った。だらしがねえ。
あの人だってまだ若いのだし、
それは無理もないと言えるかもしれぬけれど、
そんなら私だって同じ歳だ。
しかも、あの人より二月遅く生まれているのだ。
若さに変わりはないはずだ。
それでも私は耐えている。
あの人一人に心を捧げ、
これまでどんな女にも心を動かしたことはないのだ。
マルタの妹のマリアは、
姉のマルタが骨組がんじょうで、
牛のように大きく、気性も荒く、
どたばた立ちばたらくのだけが取り柄で、
何の見どころもない百姓女でありますが、
あれは違って骨も細く、
皮膚は透き通るほどの青白さで、
手足もふっくらして小さく、
湖水のように深く澄んだ大きい眼が、
いつも夢見るようにうっとり遠くを眺めていて、
あの村ではみんな不思議がっているほどの、
気高い娘でありました。
私だって思っていたのだ。
町へ出たとき、
何か白絹でもこっそり買ってきてやろうと思っていたのだ。
ああ、もうわからなくなりました。
私は何を言っているのだ。
そうだ、私は悔しいのです。
何のわけだかわからない。
じだんだ踏むほど無念なのです。
あの人が若いなら私だって若い。
私は才能ある家も畑もある立派な青年です。
それでも私はあの人のために、
私の特権全部を捨ててきたのです。
騙された。
あの人は嘘つきだ。
旦那様、あの人は私の女を取ったのだ。
いや、違った。
あの女が私からあの人を奪ったのだ。
ああ、それも違う。
私の言うことはみんなデタラメだ。
一言も信じないでください。
わからなくなりました。
ごめんくださいまし。
ついつい根も葉もないことを申しました。
エルサレムへの旅
そんな浅はかな事実など、
みじんもないのです。
醜いことを口走りました。
だけれども私は悔しいのです。
胸をかきむしりたいほど悔しかったのです。
何のわけだかわかりません。
ああ、ジェラシーというのは、
なんてやりきれない悪徳だ。
私がこんなに命を捨てるほどの思いで、
あの人をしたい。
今日まで突きしたがってきたのに、
私には一つの優しい言葉も下さらず、
かえってあんな癒やしい百姓女の身の上を、
頬を染めてまでかばっておやりなさった。
ああ、やっぱりあの人はだらしない。
やきが回った。
もうあの人には見込みがない。
ボンプだ。
ただの人だ。
死んだって惜しくはない。
そう思ったら私は、
ふいと恐ろしいことを考えるようになりました。
悪魔に見込まれたのかもしれません。
その時以来、
あの人をいっそ私の手で殺してあげようと思いました。
いずれは殺されるお方に違いない。
またあの人だって、
無理に自分を殺させるように
しむけているみたいな様子がちらちら見える。
私の手で殺してあげる。
他人の手で殺させたくはない。
あの人を殺して私も死ぬ。
旦那様、
泣いたりしてお恥ずかしい思います。
はい、もう泣きません。
はい、はい。
落ち着いて申し上げます。
そのあくる日、
私たちはいよいよ憧れのエルサレムに向かい出発いたしました。
大群衆。
老いも若きもあの人の後につきしたがい、
やがてエルサレムの宮が間近になった頃、
あの人は一匹の老いぼれたロバを道端で見つけて
微笑してそれに打ちのり。
これこそは、
シオンの娘よ、恐るな。
見よ。
汝の王はロバの子に乗りて来たり給おう。
と予言されてある通りの形なのだと
弟子たちに腫れがましい顔をして教えましたが、
私一人は何だか浮かぬ気持ちでありました。
何という哀れな姿であったでしょう。
待ちに待った杉越の祭り。
エルサレム宮に乗り込むこれがあのダビデの巫女の姿であったのか。
あの人の一生の念願とした晴れの姿は
この老いぼれたロバにまたがり
とぼとぼ進む哀れな景観であったのか。
私にはもはや憐憫以外のものは感じられなくなりました。
実に悲惨な愚かしい茶番狂言を見ているような気がして、
ああもうこの人も落ち目だ。
一日生き延びれば生き延びただけ
浅はかな醜態を晒すだけだ。
花はしぼまぬうちこそ花である。
美しい間に切らなければならぬ。
あの人を一番愛しているのは私だ。
どのように人から憎まれてもいい。
一日も早くあの人を殺してあげなければならぬと
私はいよいよこのつらい決心を固めるだけでありました。
群衆は刻一刻とその数を増し
あの人の通る道々に赤、青、黄
色とりどりの彼らの着物を放り投げ
あるいは白の枝を切ってその行く道に敷き詰めてあげて
観光に土曜めき迎えるのでした。
かつ前に行き後に従い
右から左からまつわりつくようにして
果ては大波のごとく。
ロバとあの人を揺さぶり揺さぶり
ダビネの子に穂さな
穂むべきかな
主の皆によりて来たるもの
糸高きところにて穂さな
と熱狂して口々に唄うのでした。
ペテロやヨハネやバルトロマイ
そのほか全部の弟子どもは馬鹿なやつ
すでに天国を目の前に見たかのように
まるで凱旋の将軍に突きしたがっているかのように
右頂点の歓喜で互いに抱き合い
涙に濡れた切粉をかわし
一徹者のペテロなど
ヨハネを抱きかかえたまま
わあわあ大声でうれし泣きに泣き崩れていました。
その有様を見ているうちに
さすがに私もこの弟子たちと一緒に
患難を犯して不況に歩いてきた
その妊婦困窮の日々を思い出し
深くにも目頭が熱くなってきました。
隠してあの人は宮に入り
呂場から降りて何を思ったか
縄を拾いこれを振り回し
宮の境内の両替する者の台やら
鳩売る者の腰掛けやらを打ち倒し
また売り物に出している牛、羊をも
その縄の鞭で持って全部宮から追い出して
境内にいる大勢の商人たちに向かい
お前たちみんな出てうるせえろ
私の父の家を飽きないの家にしてはならん
と感高い声で怒鳴るのでした。
あのお優しいお方が
こんな酔っ払いのようなつまらぬ乱暴を働くとは
どうしても少し気が触れているとしか
私には思われませんでした。
そばの人もみんな驚いて
これはどうしたことですかとあの人に尋ねると
あの人の息切って答えるには
お前たちこの宮を壊してしまえ
私は三日の間にまた建て直してあげるから
ということだったので
さすが愚直の弟子たちも
あまりに無鉄砲なその言葉には信じかねて
ポカンとしてしまいました。
けれども私は知っていました
所詮はあの人の幼い強がりに違いない
あの人の信仰とやらでもって
万事ならざるはなしという気概のほどを
人々に見せたかったのに違いないのです。
それにしても縄の鞭を振り上げて
無力な商人を追い回したりなんかして
なんてまあケチな強がりなんでしょう
あなたにできる精一杯の反抗は
たったそれだけなのですか
旗織りの腰掛けをケチらすだけのことなのですか
と私は微笑して
お尋ねしてみたいとさえ思いました
もはやこの人はダメなのです
やぶれかぶれなのです
自長自愛を忘れてしまった
自分の力ではこの上もう何もできぬということを
この頃そろそろ知り始めた様子ゆえ
あまりボロの出ぬうちに
わざと司祭長にとらえられ
この世からおさらばしたくなってきたのでありましょう
宮での出来事
私はそれを思ったとき
はっきりあの人をあきらめることができました
そしてあんな気取り屋のぼっちゃんを
これまで一途に愛してきた私自身の愚かさをも
容易に笑うことができました
やがてあの人は
宮に集まる大群の民を前にして
これまで述べた言葉のうちで一番ひどい
無礼傲慢の暴言を
めちゃくちゃにわめき散らしてしまったのです
さよう確かにやけくそです
私はその姿を薄汚くさえ思いました
殺されたがってうずうずしていやがる
わざわいなるかな
利善なる学者パリサイ人よ
なんじらは酒好きと酒との外を潔くす
されどもうちは貪欲と法従とにて満つるなり
わざわいなるかな
利善なる学者パリサイ人よ
なんじらは白く塗りたる墓に似たり
外は美しく見うれども
うちは死人の骨とさまざまなけがれとに満つ
かくのごとくなんじらも外は正しく見うれども
うちは利善と不法とにて満つるなり
蛇よ魔虫の末よ
なんじらいかでゲヘナの刑罰を叫んや
ああエルサレムエルサレム
預言者たちを殺し
使わされたる人々を石にて打つものよ
面取りのその雛を翼の下に集めるごとく
われなんじの子らを集めんとせしことを
行くどぞや
されどもなんじらは好まずありき
馬鹿なものです
ふんぱものだ
口真似するのさ今をし
大変なことを言うやつだ
あの人は狂ったのです
まだそのほかに機禁があるの地震が起こるの
星は空より落ち月は光を放たず
地に待つ人の死骸のまわりに
それをついばむ鷲が集るの
人はそのとき嘆き
はがみすることがあろうだの
実にとんでもない暴言を口から電話かせに言い放ったのです
なんという資料のないことを言うのでしょう
思い上がりもはなはなしい
馬鹿だ
身の程知らぬ
意気なものだ
もはやあの人の罪は免れぬ
必ず十字架
それに決まった
祭司長や民の長老たちが
大祭司かやぱの中庭にこっそり集まって
あの人を殺すことを決議したとか
私はそれをきのう町の物売りから聞きました
もし群衆の目前であの人を捕らえたならば
あるいは群衆が暴動を起こすかもしれないから
あの人と弟子たちとだけいるところを見つけて
役所に知らせてくれた者には
金三十を与えるということをも耳にしました
もはや猶予の時ではない
あの人はどうせ死ぬのだ
他の人の手で下役たちに引き渡すよりは
私がそれをなそう
今日まで私の
あの人に捧げた一筋なる愛情の
これが最後の挨拶だ
私の義務です
私があの人を討ってやる
運命の決断
つらい立場だ
誰がこの私のひたむきの愛の行為を
正当に理解してくれることか
いや誰に理解されなくてもいいのだ
私の愛は純粋の愛だ
人に理解してもらうための愛ではない
そんな寂しい愛ではないのだ
私は永遠に人の憎しみを買うだろう
けれどもこの純粋の愛の貪欲の前には
どんな刑罰も
どんな地獄の豪華も問題でない
私は私の生き方を生き抜く
身ぶるいするほどに固く決意しました
私は密かに良き寄りを
伺っていたのであります
いよいよお祭りの当日になりました
私たち指定13人は
丘の上の古い料理屋の
薄暗い2階座敷を借りて
お祭りの宴会を開くことにいたしました
みんな食卓について
いざお祭りの遊芸を始めようとしたとき
あの人はつと立ち上がり
黙って上衣を脱いだので
私たちは一体何をお始めなさるだろうと
不審に思って見ているうちに
あの人は卓上の水がめを手に取り
その水がめの水を
部屋の隅にあった小さいたらいに注ぎ入れ
それから純白の手巾を
ご自身の腰にまとい
たらいの水で弟子たちの足を
じゅんじゅんに洗ってくださったのであります
弟子たちにはその理由がわからず
どう失ってうろうろするばかりでありましたけれど
私には何やら
あの人の秘めた思いが
わかるような気持ちでありました
あの人は寂しいのだ
極度に気が弱って
今は無知な顔面の弟子たちにさえ
すがりつきたい気持ちになっているのに
ちがいない
かわいそうに
あの人は自分の逃れがたい運命を知っているのだ
そのありさまを見ているうちに
私は突然
強力なおえつが
のどにつきあげてくるのを覚えた
谷庭にあの人を抱きしめ
共に泣きたく思いました
おお かわいそうに
あなたを罪してなるものか
あなたはいつでも優しかった
あなたはいつでも正しかった
あなたはいつでも貧しい者の味方だった
そしてあなたはいつでも光るばかりに美しかった
あなたはまさしく神の御子だ
私はそれを知っています
お許しください
私はあなたを売ろうとして
この二三日期間をねらっていたのです
もう今はいやだ
あなたを売るなんて
なんという私の無法なことを考えていたのでしょう
ご安心なさいまし
もう今からは五百の役人
千の兵隊が来たとても
あなたの体に指一本触れさせることはない
あなたは今つけねらわれているのです
危ない
今すぐここから逃げましょう
ペテロンも来い
ヤカブも来い
ヨハネも来い
みんな来い
我らの優しい主を守り
一生長く暮らしていこうと
心の底から愛の言葉が
口に出しては言えなかったけれど
胸に湧き返っておりました
今日まで感じたことのなかった
一種崇高な霊感に打たれ
熱いお詫びの涙が
気持ちよく頬を伝って流れて
やがてあの人は私の足音をも静かに
丁寧に洗ってくだされ
星にまとってあった
手巾で柔らかく拭いて
ああその時の感触は
そうだ私はあの時天国を見たのかもしれない
私の次にはピリポの足を
その次にはアンデレの足を
そして次にペテロンの足を洗ってくださる
順番になったのですが
ペテロンはあのように愚かな正直者でありますから
不審の気持ちを隠しておくことができず
主よあなたはどうして私の足など
お笑いになるのですと
多少不満げに口を尖らして尋ねました
あの人は
ああ私のすることはお前には分かれまい
後で思い与えることもあるだろう
と穏やかに言い悟し
ペテロンの足元にしゃがんだのだが
ペテロンはなおも頑強にそれを拒んで
いいえいけません
永遠に私の足など
お笑いになってはなりません
もったいない
とその足を引っ込めて言い張りました
するとあの人は少し声を張り上げて
私がもしお前の足を洗わないなら
お前と私とはもう何の関係もないことになるのだ
とずいぶん思い切った強いことを言いましたので
ペテロンは大慌てに慌て
ああごめんなさい
それならば私の足だけでなく
手も頭も思う存分洗ってくださいと
平心抵抗して頼み入りましたので
私は思わず吹き出してしまい
他の弟子たちもそっと微笑み
なんだか部屋が明るくなったようでした
あの人も少し笑いながら
ペテロンよ
足だけ洗えばもうそれでお前の全身は清いのだ
ああお前だけでなく
ヤコブもヨハネも
みんな汚れのない清い体になったのだ
けれども
と言いかけてすっと腰を伸ばし
瞬時苦痛に耐えかねるような
とても悲しい目つきをなされ
すぐにその目をぎゅっと固くつぶり
つぶったままで言いました
みんなが清ければいいのだが
はっと思った
やられた
私のことを言っているのだ
私があの人を売ろうと企んでいた
深黒
以前までの暗い気持ちを見抜いていたのだ
けれどもその時は違っていたのだ
断然私は違っていたのだ
私は清くなっていたのだ
私の心は変わっていたのだ
あああの人はそれを知らない
それを知らない
違う違います
と
喉まで出かかった絶叫を
私の弱い卑屈な心が
唾を飲み込むように飲み下してしまった
言えない
何も言えない
あの人からそう言われてみれば
私はやはり清くなっていたのかもしれないと
気弱く肯定する悲願な気持ちが頭を持たげ
と
みるみるその卑屈な反省が
醜く黒く膨れ上がり
私の五臓六腑をかけめぐって
逆にむらむら憤怒の念が炎をあげて噴出したのだ
ええ
駄目だ
私は駄目だ
あの人に心の底から嫌われている
売ろう
売ろう
あの人を殺そう
そして私も共に死ぬのだ
と前からの決意に再び目覚め
私は今完全に復讐の鬼になりました
あの人は私の内心の再び見たび
どんでん返して変化した大動乱には
お気づきなさることのなかった様子で
やがて上衣をまとい
服装を正し
ゆったりと席に座り実に青ざめた顔をして
私がお前たちの足を洗ってやったわけを知っているか
お前たちは私を
主と称えまた主と称えているようだが
それは間違いないことだ
私はお前たちの主または主なのに
それでもなおお前たちの足を洗ってやったのだから
お前たちもこれからは互いに仲良く
足を洗いあってやるように心がけなければなるまい
私はお前たちといつまでも一緒にいることができないかもしれないから
今この機会にお前たちに模範を示してやったのだ
私のやった通りに
お前たちも行うように心がけなければならぬ
主は必ず弟子より優れたものなのだから
よく私の言うことを聞いて忘れぬようにいなさい
ひどく物嘘をなくちょうで言って
おとなしく食事を始めふっと
お前たちのうちの一人が私を売る
と顔を伏せうめくような
虚偽なさるような苦しげな声で言い出したので
弟子たち全てのけぞらんばかりに驚き
一斉に席を蹴って立ち
その人の周りに集っておのおの
主よ私のことですか
主よそれは私のことですか
と罵り騒ぎ
あの人は死ぬる人のようにかすかに首を振り
私が今その人に一つまみのパンを与えます
その人はずいぶん不幸せな男なのです
本当に
その人は生まれてこなかったほうがよかった
と意外にはっきりした語調で言って
一つまみのパンを取り腕を伸ばし
私の口にしたと押し当てました
私ももうすでに度胸がついていたのだ
恥じるよりは憎んだ
あの人の今さらながらの意地悪さを憎んだ
このように弟子たち皆の前で
好然と私を恥ずかしめるのが
あの人のこれまでのしきりなのだ
火と水と
永遠に溶けあうことのない宿命が
私とあいつとの間にあるのだ
犬か猫に与えるように
一つまみのパンくずを私の口に押し入れて
あいつのせめて物を払い捨てだったのか
あはん馬鹿な奴だ
旦那様
あいつは私に
お前のなすことを速やかになせと言いました
私はすぐに寮邸から走り出て
夕闇の道をひた走りに走り
終わりの時刻
ただいまここに参りました
そうして急ぎ
この通り訴え申し上げました
さああの人を罰してください
どうとも勝手に罰してください
捕まえて棒で殴って
すっぱだかにして殺すがよい
もうもう私は我慢ならない
あれは嫌な奴です
ひどい人だ
私は今まであんなにいじめた
はっはっは
しきしょうめ
あの人は今ケデロンの小川の彼方
ゲッセマネの園にいます
もうはやあの二階座敷の遊園も済み
弟子たちと共にゲッセマネの園に行き
今頃はきっと天へお祈りを捧げている時刻です
駆け込み訴えの冒頭
弟子たちのほかには誰もおりません
今なら難なくあの人を捕まえることができます
ああ小鳥が鳴いてうるさい
今夜はどうしてこんなに野鳥の声が耳につくのでしょう
私がここへ駆け込む途中の森でも
小鳥がピーチく鳴いておりました
夜に冴えずる小鳥は珍しい
私は子供のような好奇心でもって
その小鳥の正体を一目見たいと思いました
立ち止まって首をかしげ
木々の小杖をすかしてみました
ああ私はつまらないことを言っています
ごめんください
旦那様お支度はできましたか
ああ楽しいいい気持ち
今夜は私にとっても最後の夜だ
旦那様旦那様
今夜これから私とあの人と
立派に肩を接して立ち並ぶ光景をよく見ておいてくださいまし
私は今夜あの人とちゃんと肩を並べて立ってみせます
あの人を恐れることはないんだ
卑下することはないんだ
私はあの人と同じ年だ
同じ優れた若い者だ
ああ小鳥の声がうるさい
耳についてうるさい
どうしてこんなに小鳥が騒ぎ回っているのだろう
ピーチクピーチク何を騒いでいるのでしょう
おやそのお金は
私にくださるのですか
あの私に
30銀
なるほど
いやお断り申しましょう
殴られぬうちにその金引っ込めたらいいでしょう
金が欲しくて訴え出たのではないんだ
引っ込めろ
ああいいえごめんなさい
いただきましょう
そうだ私は商人だったのだ
金銭ゆえに私は優美なあの人からいつも軽蔑されてきたのだっけ
いただきましょう
私は所詮商人だ
癒しめられている金銭であの人に見事復讐してやるのだ
これが私に一番相応しい復讐の手段だ
ざまあみろ
銀30であいつは売られる
私はちっとも泣いてやしない
私はあの人を愛していない
ユダの葛藤とテーマ
はい旦那様私は嘘ばかり申し上げました
私は金が欲しさにあの人について歩いていたのです
おおそれに違いない
あの人がちっとも私に儲けさせてくれないと今夜見極めがついたから
そこは商人素早く寝返りを打ったのだ
金
世の中は金だけだ
銀30なんと素晴らしい
いただきましょう
私はケチな商人です
欲しくてならぬ
はいありがとうございます
はいはい申し遅れました
私の名前は商人のユダ
ヘヘヘ
イスカリオテのユダ
1967年発行
新調写
新調文庫
走れメロス
より読了
読み終わりです
うーん
ユダ目線ね
銀30でキリストを売ったとされるユダ目線ね
心の振り子が凄かったですね
愛してる
いや愛してない
いや愛してるから殺すんだ
いやーそんなことない大好きだった
つき従っていく
いやそんなことないやっぱり殺す
ヘヘヘ
情緒の振り子が凄かったですね
はい
裏切ったとされる人からの目線っていうね
ことでした
そういえば最近あの
パソコンでモンハンワイルズやってるんですけど
みんなプレステ5とかでやってるのかな
うん
で
ボスモンスター側を操りたいなと最近ちょっと思いますね
ハンターを相手にしたい
モンスターサイドのプレイができたら楽しいのに
ちょっと思うんですよね
あの昔勇者のくせに生意気だっていう
こうタワーディフェンス型の
ゲームがあったんですけど
攻め込んでくる勇者たちに
魔王様がダンジョンを作って待ち構えるっていう
ゲームがあったんですけど
それに近いっていうか
それよりもっとアクションっぽくなるんでしょうけど
モンハンのモンスターを操るとなると
ちょっと格ゲーっぽい感じになるのかな
要はハンターを翻弄する攻撃を繰り出すってことなんで
なんかねちょっと楽しそうだなと思うんですけどね
モンスター側にはハンターと戦う動機がないから
ヤンモークでひっそりハンターを避けながら暮らして
ひたすら自分の食べたいものだけ食べて
大きな個体になったところで
しゃばり出ていくっていうか
暴れるぞって感じが楽しそうかなって思うんだけど
なんか主人公とかヒーローとかよりは
ヒール側をちょっと味方したくなる感じが
昔からありますね
終わりにしましょうか
無事に寝落ちできた方も
最後までお付き合いいただいた方も
大変にお疲れ様でございました
といったところで
今日のところはこの辺で
また次回お会いしましょう
おやすみなさい