だからあの人が私の深居して貯めたよういった流々の小金を、
どんなに馬鹿らしく無駄遣いしても、
私は何とも思いません。
思いませんけれども、
それならばたまには私にも、
いい言葉の一つくらいはかけてくれても良さそうなのに、
あの人はいつでも私に意地悪く仕向けるのです。
一度あの人が春の海辺をブラブラ歩きながら、
ふと私の名を呼び、
お前にもお世話になるね。
お前の寂しさは分かっている。
けれども、そんなにいつも不機嫌な顔をしていてはいけない。
寂しい時に寂しそうな面持ちをするのは、
それは偽善者のすることなんだ。
寂しさを人に分かってもらおうとして、
ことさらに顔色を変えてみせているだけなのだ。
誠に神を信じているならば、
お前は寂しい時でも、
そしらぬふりをして顔をきれいに洗い、
頭に油を塗り、
微笑んでいなさるが良い。
分からないかね。
寂しさを人に分かってもらわなくても、
どこか目に見えないところにいる、
お前の誠の父だけが、
分かっていて下さったなら、
それで良いではないか。
そうではないかね。
寂しさは誰にだってあるのだよ。
そうおっしゃってくれて、
私はそれを聞いて、
なぜだか声を出して泣きたくなり、
いいえ、私は天の父に分かっていただかなくても、
また世間の者に知られなくても、
ただ、あなたを一人さえお分かりになっていて下さったら、
それでもう良いのです。
私はあなたを愛しています。
他の弟子たちが、
貪念に深くあなたを愛していたって、
それとは比べ物にならないほどに愛しています。
誰よりも愛しています。
ペテロやヤコブたちは、
ただあなたについて歩いて、
何か良いこともあるかと、
そればかりを考えているのです。
けれども私だけは知っています。
あなたについて歩いたって、
何の得するところもないということを知っています。
それでいながら、
私はあなたから離れることができません。
どうしたのでしょう。
あなたがこの世にいなくなったら、
私もすぐに知ります。
生きていることができません。
私には、いつでも一人でこっそり考えていることがあるんです。
それは、あなたがくだらない弟子たちから全部離れて、
また天の父の教えとやらを説かれることもおよしになり、
つつましい民の一人として、
お母のマリア様と私と、
それだけ静かな一生を長く暮らしていくことであります。
私の村には、まだ私の小さい家が残ってあります。
年老いた父も母もおります。
ずいぶん広い桃畑もあります。
春、今頃は桃の花が咲いて見事であります。
一生安楽にお暮らしできます。
私がいつでもお側についてご報告を申し上げたく思います。
良い奥様をおもらいなさいまし。
私がそう言ったら、あの人は薄くお笑いになり、
ベテロやシモンはつなどりだ。
美しい桃の畑もない。
ヤコブもヨハネも積品のつなどりだ。
あんな人たちには、そんな一生安楽に暮らせるような土地がどこにもないのだ。
と、低く、ひとりごとのようにつぶやいて、
また海辺を静かに歩き続けたのでしたが、
後にも先にも、あの人としんみりお話できたのは、その時一度だけで、
あとは決して私に打ち解けてくださったことがなかった。
私はあの人を愛している。
あの人が死ねば、私も一緒に死ぬのだ。
あの人は誰のものでもない。
私のものだ。
あの人を他人に手渡すくらいなら、手渡す前に私はあの人を殺してあげる。
父を捨て、母を捨て、生まれた土地を捨てて、私は今日まであの人について歩いてきたのだ。
私は天国を信じない。神も信じない。
あの人の復活も信じない。
なんであの人がイスラエルの王なものか。
我がな弟子どもは、あの人を神の巫女だと信じていて、
そして神の国の福音とかいうものをあの人から伝え聞いては浅ましくも近畿弱役している。
今にがっかりするのが私にはわかっています。
己を多幸する者は悲哭せられ、己を悲哭する者は多幸せられるとあの人は約束なさったが、
世の中そんなに甘く言ってたまるものか。
あの人は嘘つきだ。
言うこと言うこと一から十までデタラメだ。
私は天で信じていない。
けれども私はあの人の美しさだけは信じている。
あんな美しい人はこの世にない。
私はあの人の美しさを純粋に愛している。
それだけだ。
私は何の報酬も考えていない。
あの人について歩いて、やがて天国が近づき、
その時こそはあっぱれ右大臣、左大臣になってやろうなどとそんなさもしい根性は持っていない。
私はただあの人から離れたくないのだ。
ただあの人のそばにいて、あの人の声を聞き、
あの人の姿を眺めていればそれでよいのだ。
そしてできればあの人に説教などをよしてもらい、
私とたった二人きりで一生長く生きてもらいたいものだ。
ああ、そうなったら私はどんなに幸せだろう。
私は今のこの現世の喜びだけを信じる。
次の世の審判など私は少しも恐れていない。
あの人は私のこの無報酬の純粋な愛情をどうして受け取ってくださらんのか。
ああ、あの人を殺してください旦那様。
私はあの人の居所を知っております。
ご案内申し上げます。
あの人は私を癒しめ憎悪をしております。
私は嫌われております。
私はあの人や弟子たちのパンのお世話を申し、
日々の気活から救ってあげているのに、どうして私をあんなに意地悪く軽蔑するのでしょう。
お聞きください。
6日前のことでした。
あの人はベタニアのシモンの家で食事をなさっていたとき、
あの村の丸田芽の妹のマリアが、
などの行為をいっぱい乱してある石膏の壺を抱えて、
教園の部屋にこっそり入ってきて、