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寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。
作品は全て青空文庫から選んでおります。
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さて、今日は芥川龍之介の「羅生門」を読もうと思います。
あまりに有名なので、説明不要ですよね。下人のやつね。
でもちゃんと読んだことないですね。
見るとちょっとメタっぽい感じの文章になっているところがどころどころあるんだな。
これ中学生でしたっけ?
ねえ、とんと忘れてますけども。
全文さらうんでしたっけ?中学校の国語で。
いやー、覚えてないな。
記憶に定着してないという点で、読んでないに等しいという感じでしょうね。
去年はずっと有名な作家さんでも全然そんなテキストあったんだみたいなのを読んでいきましたが、
今年は有名なのもちょこちょこ読んでいこうと思っています。
お付き合いいただければと思います。
それでは参ります。
羅正門。ある日の夕暮れのことである。
一人の下人が羅正門の下で雨編みを待っていた。
広い門の下にはこの男のほかに誰もいない。
ただ所々にぬりの剥げた大きな丸柱にキリギリスが一匹止まっている。
羅正門が須作王子にある以上は、この男のほかにも雨編みをする一目傘やもみえぼしがもう二、三人はありそうなものである。
それがこの男のほかには誰もいない。
なぜかというと、この二、三年、京都には地震とか辻風とか火事とか、基金とかいう災いが続いて起こった。
そこで落柱のさびれ方は一通りではない。
旧木によると仏像や仏具を打ち砕いて、その荷がついたり金銀の箔がついたりした木を路端に積み重ねて焚木の城に売っていたということである。
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落柱がその始末であるから、羅正門の修理などはもとより誰も捨てて帰り見るものがなかった。
するとその荒れ果てたのを良いことにして懲りが済む。
盗人が済む。
とうとう始末には引き取り手のない死人をこの門へ持ってきて捨てていくという習慣さえできた。
そこで日の目が見えなくなると誰でも君を悪がって、この門の近所へは足踏みをしないことになってしまったのである。
その代わり、またカラスがどこからかたくさん集まってきた。
昼間見るとそのカラスが何話となく輪を描いて、高いしびのまわりを泣きながら飛び回っている。
ことに門の上の空が夕焼けで赤くなるときには、それがゴマをまえたようにはっきり見えた。
カラスはもちろん門の上にある死人の肉をついばみに来るのである。
もっともきょうは黒幻が遅いせいか一話も見えない。
ただところどころ崩れかかった。
そしてその崩れ目に長い草の生えた石段の上にカラスの糞がてんてんと白くこびりついているのが見える。
下人は七段ある石段の一番上の段に洗えざらした紺の青の尻を据えて右の方にできた大きなにきびを気にしながらぼんやり雨の降るのをながめていた。
作者はさっき下人が雨止みを待っていたと書いた。
しかし下人は雨が止んでもかけべつどうしようというあてはない。
ふだんならもちろん主人の家へ帰るべきはずである。
ところがその主人からは四五日前に糸間を出された。
前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。
今この下人が長年使われていた主人から糸間を出されたのも、実はこの衰微の小さな四五日にほかならない。
だから下人が雨止みを待っていたというよりも、雨にふりこめられた下人が行きどころがなくて途方に暮れていたという方が適当である。
その上、今日の空模様も少なからず、この平安町の下人のセンチメンタリズムに影響した。
猿のコクサガリから降り出した雨は、いまだに上がる景色がない。
そこで下人は何をおいてもさしあたり、あすの暮らしをどうにかしようとして、
いわばどうにもならないことをどうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきからスザク王子に降る雨の音を聞くともなく聞いていたのである。
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雨は羅生門を包んで、遠くからザーッという音を集めてくる。
夕闇は次第に空を低くして、見上げると門の屋根が斜めに突き出したイラカの先に、重たく薄暗い雲をささえている。
どうにもならないことをどうにかするためには、手段を選んでいる意図もはない。
選んでいれば、杖地の下か道端の土の上で植え地乳をするばかりである。
そして、この門の上へ持ってきて、犬のように捨てられてしまうばかりである。
選ばないとすれば。
下人の考えは何度も同じ道をていかいしたげくに、やっとこの局所へ放着した。
しかし、このすればはいつまでたっても結局すればであった。
下人は手段を選ばないということを肯定しながらも、このすればの型をつけるために、
当然その後に来るべき盗人になるより他に仕方がないということを積極的に肯定するだけの勇気が出ずにいたのである。
下人は大きなくさめをして、それからたえぎ草に立ちあがった。
湯びえのする京都はもう日よけがほしいほどの寒さである。
風は門の柱と柱とのあいだを、夕闇とともに遠慮なく吹き抜ける。
二乗りの柱にとまっていた霧霧子ももうどこかへ行ってしまった。
下人は首を縮めながら山吹きの風見にかさねた紺の青の型を高くして門のまわりを見まわした。
雨風の憂えのない人目にかかる恐れのない一晩楽に寝られそうなところがあれば、そこでともかくも夜を明かそうと思ったからである。
すると幸い門の上の廊へのぼる幅のひろいこれも二のぬったはしごが目についた。
上なら人がいたにしてもどうせ死人ばかりである。
下人はそこで腰に下げた霧霧子の太刀がさやば知らないように気をつけながら、わらぞおりをはいた足をそのはしごの一番下の段へ踏みかけた。
それから何分からのちである。
羅生門の廊の上へ出る幅のひろいはしごの中段に一人の男が猫のように身を縮めて息を殺しながら上の様子をうかがっていた。
廊の上から射す火の光がかすかにその男の右の頬をぬらしている。
短いひげの中に赤く海をもったにきびのある頬である。
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下人ははじめからこの上にいるものは死人ばかりだと鷹をくくっていた。
それがはしごを二三段上ってみると上では誰か火をとぼしてしかもその火をそこそこと動かしているらしい。
これはその濁った黄色い光が隅々に雲の巣をかけた天井裏に揺れながら映ったのですぐにそれと知れたのである。
この雨のようにこの羅生門の上で火をともしているからはどうせただのものではない。
下人はやもりのように足もとをぬすんでやっと急なはしごを一番上の段まで這うようにしてのぼりつめた。
そうして体をできるだけ平らにしながら首をできるだけ前へ出して恐る恐る廊の内をのぞいてみた。
見ると廊の内には噂に聞いた通りいくつかの死骸が無造作に捨ててあるが、
火の光の及ぶ範囲が思ったより狭いので数はいくつともわからない。
ただおぼろげながら知れるのはその中に裸の死体と着物を着た死骸とがあるということである。
もちろん中には女も男も混じっているらしい。
そうしてその死骸はみなそれがかつて生きていた人間だという事実さえ疑われるほど土をこねて作った人形のように口をあいたり手を伸ばしたりしてごろごろ床の上に転がっていた。
しかも肩とか胸とかの高くなっている部分にぼんやりした火の光を受けて低くなっている部分の影を一層暗くしながら永久に推しのごとく黙っていた。
下人はそれらの死骸の腐乱した臭気に思わず鼻を覆った。
しかしその手は次の瞬間にはもう鼻を覆うことを忘れていた。
ある強い感情が。
ほとんどことごとくこの男の臭気を奪ってしまったからだ。
下人の目はその時初めて死骸の中にうずくまっている人間を見た。
ひわだ色の着物を着た背の低い痩せた白髪頭の猿のような老婆である。
その老婆は右の手に火を灯した松の木切れを持って、その死骸の一つの顔を覗き込むように眺めていた。
髪の毛の長いところを見るとたぶん女の死骸であろう。
下人は六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、残時は息をするのさえ忘れていた。
窮気の汽車の豪を借りれば頭身の毛も太るように感じたのである。
すると老婆は松の木切れを床板の間に刺して、それから今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、
ちょうど猿の親が猿の子の白身を取るようにその長い髪の毛を一本ずつ抜き始めた。
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髪は手に従って抜けるらしい。
その髪の毛が一本ずつ抜けるのに従って下人の心からは恐怖が少しずつ消えていった。
そしてそれと同時にこの老婆に対する激しい憎悪が少しずつ動いてきた。
いや、この老婆に対するといっては語弊があるかもしれない。
むしろあらゆる悪に対する反感が一部ごとに強さを増してきたのである。
この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた植え死にをするか盗人になるかという問題を改めて持ち出したら、
おそらく下人は何の未練もなく植え死にを選んだことであろう。
それほどこの男の悪を憎む心は老婆の床に刺した松の木切れのように勢いよく燃え上がり出していたのである。
下人にはもちろんなぜ老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。
したがって合理的にはそれを善悪のいずれに片付けてよいか知らなかった。
しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で死人の髪の毛を抜くということが、それだけですでに許すべからざる悪であった。
もちろん下人は、さっきまで自分がぬすっとになる気でいたことなどはとうに忘れていたのである。
そこで下人は両足に力を入れていきなり梯子から上へ飛び上がった。
そしてひじりずかの太刀に手をかけながら、大またに老婆の前へ歩み寄った。
老婆が驚いたのは言うまでもない。
老婆は一目下人を見ると、まるで石弓にでもはじかれたように飛び上がった。
「おのれ、どこへ行く?」
下人は老婆が死骸につまずきながら、あわてふためいて逃げようとする行く手をふさいでこう罵った。
老婆はそれでも下人を突きのけて行こうとする。
下人はまたそれを生かす前として押し戻す。
二人は死骸の中でしばらく無言のままつかみ合った。
しかし勝敗ははじめからわかっている。
下人はとうとう老婆の腕をつかんで無理にそこへねじ倒した。
ちょうど鶏の足のような骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた?」
「いえ、言わんとこれだぞよ。」
下人は老婆を突き放すと、いきなり太刀の鞘を払って、白い鋼の色をその目の前へ突きつけた。
けれども老婆は黙っている。
両手をわなわな震わせて、肩で息を切りながら、目を、目玉がまぶたの外へ出そうになるほど見ひらいて、
押しのようにしゅうねく黙っている。
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これを見ると、下人ははじめて明白に、この老婆の生死が全然自分の意思に支配されているということを意識した。
そうしてこの意識は、今まで険しく燃えていた憎悪の心をいつの間にかさましてしまった。
あとに残ったのは、ただある仕事をして、それが円満に成就したときの安らかな得意と満足とがあるばかりである。
そこで下人は、老婆を見下ろしながら少し声を和らげてこう言った。
俺はけびいしの長の役人などではない。
今しがたこの門の下を通りかかった旅のものだ。
だからお前に縄をかけてどうしようというようなことはない。
ただ今この時分、この門の上で何をしていたのだか、それを俺に話さえすればいいのだ。
すると老婆は見開いていた目を一層大きくしてじっとその下人の顔を見守った。
まぶたの赤くなった肉食鳥のような鋭い目で見たのである。
それからシワでほとんど鼻と一つになった唇を何かものでも噛んでいるように動かした。
細い喉で尖った喉ぼとけで動いているのが見える。
その時その喉からカラスの鳴くような声があえぎあえぎ下人の耳へ伝わってきた。
この髪を抜いてな。この髪を抜いてな。
かずらにしようと思ったのじゃ。
下人は老婆の答えが存外平凡なのに失望した。
そして失望すると同時にまた前の象王が冷ややかな無別と一緒に心の中へ入ってきた。
するとその景色が先方へも通じたのであろう。
老婆は片手にまだ死骸の頭から奪った長いぬけ毛を持ったなり、
悲喜のつぶやくような声で口ごもりながらこんなことを言った。
なるほどな。死人の髪の毛を抜くということはなんぼ悪いことかもしれん。
じゃがここにいる死人どもはみんなそのくらいなことをされてもいい人間ばかりだぞよ。
現在わしが今髪を抜いた女などはな、
蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを干し魚だと言うて縦脇の陣へ売りにいんだわ。
えやみにかかって死ならんだら今でも売りにいんだことであろう。
それもよ、この女の売る干し魚は味がよいと言うて縦脇どもがかかさず裁量に買っていたそうだ。
わしはこの女のしたことが悪いとは思うていぬ。
せねば飢え死人をするのじゃて仕方がなくしたことであろう。
されば今またわしのしていたことも悪いこととは思わんぞよ。
これとてもやりはせねば飢え死人をするじゃて仕方がなくすることじゃないの。
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じゃてその仕方がないことをよく知っていたこの女は大方わしのすることも多めに見てくれるであろう。
老婆はだいたいこんな意味のことを言った。
下人は太刀を鞘に納めてその太刀の束を左の手で押さえながら冷静としてこの話を聞いていた。
もちろん右の手では赤く頬に海をもった大きなニキビを気にしながら聞いていたのである。
しかしこれを聞いているながに下人の心にはある勇気が生まれてきた。
それはさっき門の下でこの男には欠けていた勇気である。
そしてまたさっきこの門の上へあがってこの老婆を捕まえたときの勇気とは全然反対な方向に動こうとする勇気である。
下人は飢え死人をするかぬずっとになるかに迷わなかったばかりではない。
そのときのこの男の心持ちから言えば飢え死になるということはほとんど考えることさえできないほど意識のほかに追い出されていた。
きっとそうか。
老婆の話が終わると下人はあざけるような声で念をした。
そして一歩前へ出ると不意に右の手をニキビから離して老婆の襟紙をつかみながら噛みつくようにこう言った。
では俺がひはぎをしようと恨うまいな。
俺もそうしなければ飢え死人をするからだなのだ。
下人は素早く老婆の着物をはぎ取った。
それから足にしがみつこうとする老婆を手柔らく死骸の上へ蹴倒した。
はしごの口まではわずかに五歩を数えるばかりである。
下人ははぎ取ったひわだ色の着物を脇に抱えて瞬く間に急なはしごを夜の底へ駆け下りた。
しばらく死んだように倒れていた老婆が死骸の中からその裸の体を起こしたのはそれから間もなくのことである。
老婆はつぶやくようなうめくような声を立てながらまだ燃えている火の光を頼りにはしごの口まで這っていった。
そしてそこから短い白髪を逆さまにして門の下をのぞき込んだ。
外にはただ黒くとうとうたる夜があるばかりである。
下人の行方は誰も知らない。
大正四年九月
1986年発行 竹間書房 竹間文庫 芥川龍之介全集①より独了読み終わりです。
はい、あらすじは知ってたね。
暗いよね。
だって雨降ってるし、夜だし、死骸があるし。
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たぶん臭いんだろうし、髪の毛むしってるし、ギリギリすいたし。
ギリギリすという名のカマドーマが僕の目に映ってましたけどね。
これからも少しずつ有名なのを読んでいきたいと思います。
といったところで今日のところはこのへんで、また次回お会いしましょう。
おやすみなさい。