あと、それと番組フォローもどうぞよろしくお願いします。
さて、今日はですね、
坂口安吾さんの「桜の森の満開の下」という小説を読もうと思います。
坂口安吾さん、日本の小説家・評論家・随筆家。
戦後発表の「堕落論・白痴・裏が評価され、
太宰治と並んで無礼派と呼ばれる。」ということです。
坂口安吾さんね、よく読んでるんですけど、
最近は、西日本新聞での連載の
「明日は天気になれ。」という連載の中から
一節一節つまんで抱き合わせにして読み上げてるんですが、
今回は小説になりますね。
今日収録時点でまだギリギリ2月ですが、
公開される3月頃にはそろそろ
桜の開花とかも話が出てんじゃないかなと見込んで
花だとか桜だとかいうのをちょっとね
関連しそうなものを読んでるんですけど、
うちのベランダの…ベランダじゃないよ。
ベランダ際に置いてあるタニック植物
っていうんですかね、もうなんか花芽を少し伸ばしつつあるんでね、
春の訪れを必死と感じてますが、
それもあってちょっと春っぽいのをね、
読もうかと思いますが、
本日読み上げます桜の森の満開の下は
ちょっと怖い話かもしれませんね。
概要です。
あらすじです。グーグルユーザーによるあらすじ。
坂口の代表作の一つで傑作と称されることの多い作品である。
ある峠の山賊と怪しく美しい残酷な女との幻想的な怪奇物語。
桜の森の満開の下は恐ろしいと物語られる
節話形式の文体で花びらとなってかき消えた女と
冷たい虚空が張り詰めているばかりの花吹雪の中の
男の孤独が描かれていると。
正直何言ってるかわかりませんね。
怪しい女と男の孤独?
とりあえず最後までじゃないや、
目落ちまでお付き合いください。
それでは参ります。
桜の森の満開の下
桜の花が咲くと人々は酒をぶら下げたり団子を食べて花の下を歩いて
絶景だの春乱丸だのと浮かれて陽気になりますがこれは嘘です。
なぜ嘘かと申しますと桜の花の下へ人が寄り集まって
酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩してこれは江戸時代からの話で
大昔は桜の花の下は恐ろしいと思っても絶景だなとは誰も思いませんでした。
近頃は桜の花の下といえば人間が寄り集まって酒を飲んで喧嘩していますから
陽気で賑やかだと思い込んでいますが桜の花の下から人間を取り去ると恐ろしい景色になりますので
脳にも去る母親が愛人を一皿にさらわれて子供を探して発狂して
桜の花の満開の林の下へ聞かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を抱いて狂い死にして花びらに埋まってしまう。
このところ小生の多足という話もあり桜の林の花の下に人の姿がなければ恐ろしいばかりです。
昔鈴鹿峠にも旅人が桜の森の花の下を通らなければならないような道になっていました。
花の咲かない頃はよろしいのですが花の季節になると旅人はみんな森の花の下で気が変になりました。
できるだけ早く花の下から逃げようと思って青い木や枯れ木のある方へ一目散に走り出したものです。
一人だとまだ良いのでなぜかというと花の下を一目散に逃げて当たり前の木の下へ来るとほっとしてやれやれと思って済むからですが
二人連れは都合が悪い。なぜなら人間の足の速さは確信かくようで一人が遅れますからおい待ってくれ後から必死に叫んでもみんなきちがいで友達を捨てて走ります。
それで鈴鹿峠の桜の森の花の下を通過した途端に今まで仲の良かった旅人が仲が悪くなり相手の友情を信用しなくなります。
そんなことから旅人も自然に桜の森の下を通らないでわざわざ遠回りの別の山道を歩くようになりやがて桜の森は街道を外れて人の声一人通らない山の静寂へ取り残されてしまいました。
そうなって何年か後にこの山に一人の山賊が住み始めましたがこの山賊はずいぶん無言らしい男で街道へ出て情け容赦なく着物をはぎ人の命も経ちましたがこんな男でも桜の森の花の下へ来るとやっぱり恐ろしくなって気が変になりました。
そこで山賊はそれ以来花が嫌いで花というものは恐ろしいものだななんだか嫌なものだそういうふうに腹の中では呟いていました。
花の下では風がないのにゴーゴー風が鳴っているような気がしました。
そのくせ風がちっともなく一つも物音がありません。
自分の姿と足音ばかりでそれがひっそり冷たいそして動かない風の中に包まれていました。
花びらがポソポソ散るように魂が散って命がだんだん衰えていくように思われます。
それで目をつぶって何か叫んで逃げたくなりますが目をつぶると桜の木にぶつかるので目をつぶるわけにもいきませんから一層きちがいになるのでした。
けれども山賊は落ち着いた男で後悔というところを知らない男ですからこれはおかしいと考えたのです。
一つ来年考えてやろうそう思いました。
今年は考える気がしなかったのです。
そして来年花が咲いたらその時じっくり考えようと思いました。
毎年そう考えてもう十何年も経ち今年もまた来年になったら考えてやろうと思ってまた年が暮れてしまいました。
そう考えているうちに初めは一人だった女房がもう七人にもなり八人目の女房をまた街道から女の邸主の着物と一緒にさらってきました。
女の邸主は殺してきました。
山賊は女の邸主を殺す時からどうも変だと思っていました。
いつもと勝手が違うのです。
どこということはわからぬけれども変抵抗でけれども彼の心は物にこだわることになれませんのでその時も格別深く心に留めませんでした。
山賊は初めは男を殺す気はなかったので身ぐるみ脱がせていつもするようにとっととうせろと蹴飛ばしてやるつもりでしたが女が美しすぎたのでふと男を切り捨てていました。
彼自身に思いがけない出来事であったばかりでなく女にとっても思いがけない出来事だった印に山賊が振り向くと女は腰を抜かして彼の顔をぼんやり見つめました。
今日からお前は俺の女房だというと女はうなずきました。
手を取って女を引き起こすと女は歩けないからおぶっておくれと言います。
山賊は承知承知と女を軽々と背負って歩きましたが険しい上り坂へ来てここは危ないから降りて歩いてもらおうと言っても女はしがみついていやいやいやよと言っておりません。
お前のような山男が苦しがるほどの坂道をどうして私が歩けるものか考えてごらんよ。
そうかどうかよしよしと男は疲れて苦しくても好機嫌でした。
でも一度だけ降りておくれ私は強いのだから苦しくて一休みしたいというわけじゃないぜ。
目の玉が頭の後ろ側にあるというわけのものじゃないからさっきからお前さんをおぶっていてもなんとなくもどかしくて仕方がないのだよ。
一度だけ下へ降りて可愛い顔を拝ましてもらいたいもんだ。
いやよいやよとまた女はやけにくびったまにしがみつきました。
私はこんな寂しいところに一時もじっとしていられないよ。
お前の家のあるところまで一時も休まず急いでおくれさもないと私はお前の女房になってやらないよ。
私にこんな寂しい思いをさせるなら私は舌を噛んで死んでしまうから。
よしよしわかったお前の頼みは何でも聞いてやろう。
山賊はこの美しい女房を相手に未来の楽しみを考えて溶けるような幸福を感じました。
彼は尾張り返って肩を張って前の山後ろの山右の山左の山くるりと一回転して女に見せて
これだけの山という山がみんな俺のものなんだぜと言いましたが女はそんなことには天で取り合えません。
彼は意外にまた残念で
いいかいお前の目に見える山という山木という木谷という谷その谷から湧く雲までみんな俺のものなんだぜ。
早く歩いておくれ私はこんな横ぶだらけの崖の下にいたくないんだから。
よしよし今に家に着くととびきりのご馳走をこしらえてやるよ。
お前はもっと急げないのかい走っておくれ。
なかなかこの坂道は俺が一人でも相場かけられない難所だよ。
お前も見かけに言わないくじなしだね私としたことがとんだ解消なしの女房になってしまった。
ああこれから何を頼りに暮らしたらいいんだろう。
何を馬鹿なこれぐらいの坂道が。
ああもどかしいねお前はもう疲れたのかい。
馬鹿なことこの坂道を突き抜けるとしかもかなわぬように走ってみせるから。
でもお前の息は苦しそうだよ顔色が青いじゃないか。
何でも物事の始めのうちはそういうもんさ。
今に勢いの弾みがつけばお前が背中で目を回すぐらい早く走るよ。
けれども山賊は体がふしぶしからばらばらに分かれてしまったように疲れていました。
そして我が家の前へたどり着いたときには目もくらみ耳も鳴りしわがれ声の一切れを振り絞る力もありません。
家の中から七人の女房が迎えに出てきましたが山賊は石のようにこわばった体をほぐして背中の女を下ろすだけで精一杯でした。
七人の女房は今までに見かけたことものない女の美しさに打たれましたが、
女は七人の女房の汚さに驚きました。
七人の女房の中には昔はかなり綺麗な女もいたのですが今は見る影もありません。
女は薄気味悪がって男のせいへ退いて
この山女は何なのよ。これは俺の昔の女房なんだよ。
と男は困って昔のという文句を考えついて加えたのはとっその返事にしてはよくできていましたが女は容赦がありません。
まあこれがお前の女房かい。
それはお前、俺はお前のような可愛い女がいいよとは知らなかったんだからね。
あの女を斬り殺しておくれ。
女は一番顔形の整った一人を刺して叫びました。
だってお前殺さなくても女中だと思えばいいじゃないか。
お前は私の弟子を殺したくせに自分の女房が殺せないのかい。
お前はそれでも私を女房にするつもりなのかい。
男の結ばれた口からうめきが漏れました。
男は飛び上がるように人を取りして刺された女を斬り倒していました。
しかし息つく暇もありません。
この女よ今度は。それこの女よ。
男はためらいましたがすぐずかずか歩いていって女の首へザクリとダンビーラを切り込みました。
首がまだコロコロと止まらぬうちに女のふっくら艶のある透き通る声は次の女を刺して美しく響いていました。
この女よ今度は。
刺された女は両手に顔を隠してキャーという叫び声を張り上げました。
その叫びにふりかぶってダンビーラは宙をひらめいて走りました。
残る女たちはにわかに一時に立ち上がって四方に散りました。
一人でも逃したら承知しないよ。
やぶの影にも一人いるよ。
あ、神手一人逃げて行くよ。
男は血刀を振り上げて山の林を駆けぐるいました。
たった一人逃げ遅れて腰を抜かした女がいました。
それは一番醜くてびっこの女でしたが。
男が逃げた女を一人余さず切り捨てて戻ってきて無造作にダンビーラを振り上げますと。
いいのよこの女だけは。
これは私が女中に使うから。
ついでどころ寄ってしまおうよ。
馬鹿だね私が殺さないでおくれと言うんだよ。
ああそうか本当だ。
男は血刀を投げ捨てて尻餅をつきました。
疲れがどっとこみ上げて目がくらみ土から生えた尻のように重みがわかってきました。
ふと静寂に気がつきました。
飛び立つような恐ろしさがこみ上げ
ひょっとして振り向くと女はそこにいくらかやるせない風情で佇んでいます。
男は悪夢から覚めたような気がしました。
そして目も魂も自然に女の美しさに吸い寄せられて動かなくなってしまいました。
けれども男は不安でした。
どういう不安だか、なぜ不安だか、何が不安だか彼にはわからんのです。
女が美しすぎて彼の魂がそれに吸い寄せられていたので
胸の不安の涙血をさして気にせずにいられただけです。
なんだか似ているようだなと彼は思いました。
似たことがいつかあった。
それは。
と彼は考えました。
ああそうだあれだ。
気がつくと彼はびっくりしました。
桜の森の満開の下です。
あの下を通るときに似ていました。
どこが何がどんな風に似ているのだかわかりません。
けれども何か似ていることは確かでした。
彼にはいつもそれぐらいのことしかわからず、
それから先はわからなくても気にならぬたちの男でした。
山の長い冬が終わり、山のてっぺんの方や谷のくぼみに、
木の陰に雪はポツポツ残っていましたが、
やがて花の季節が訪れようとして春のきざしが空一面に輝いていました。
今年桜の花が咲いたらと彼は考えました。
花の下に差し掛かるときはまだそれほどではありません。
それで思い切って花の下へ歩き込みます。
だんだん歩くうちに気が変になり、
前も後ろも右も左もどっちを見ても上にかぶさる花ばかり。
森の真ん中に近づくと恐ろしさにもう寝っぽをたまらなくなるのでした。
今年は一つあの花盛りの林の真ん中でじっと動かずに、
いや思い切って地べたに座ってやろうと彼は考えました。
そのときこの女も連れて行こうか。
彼はふと考えて女の顔をちらと見ると胸騒ぎがしてあわてて目をそらしました。
自分の腹が女に知れては大変だという気持ちがなぜだか胸にやけ残りました。
女は大変なわがまま者でした。
どんなに心を込めた御馳走をおこしらえてやっても必ず不服を言いました。
彼は小鳥や鹿をとりに山を走りました。
イノシシもクマもとりました。
びっこの女は木の芽や草の根をさがしてヒネモス林間をさまよいました。
しかし女は満足を示したことはありません。
毎日こんなものをあたしに食えというのかい?
だってとびきりの御馳走なんだぜ。
お前がここへ来るまでは十日に一度ぐらいしかこれだけのものは食わなかったもんだ。
お前は山男だからそれでいいのだろうさ。
私ののどはとらないよ。
こんなさびしい山奥で夜の夜中に聞くものといえばフクロウの声ばかり。
せめて食べるものでも都には劣らぬおいしいものが食べられないもんかね。
都の風がどんなもんか。
その都の風をせきとめられた私の思いのせつなさがどんなもんか。
お前には察することもできないのだね。
お前は私から都の風をもぎとってそのかわりにお前のくれたものといえばカラスやフクロウの鳴く声ばかり。
お前はそれを恥ずかしいともむごたらしいとも思わないんだよ。
女のなじる言葉の通りが男にはのみ込めなかったのです。
なぜなら男は都の風がどんなもんだか知りません。
見当もつかないのです。
この生活、この幸福に足りないものがあるという事実について思い当たるものがない。
彼はただ、女のなじる風情のせつなさに問惑し、
それをどのように処置してよいか、
目当について何の事実も知らないので、もどかしさに苦しみました。
今までには都からの旅人を何人殺したか知れません。
都からの旅人は金持ちで、
所持品も豪華ですから、
都は彼の良いかもで、
せっかく所持品を奪ってみても中身がつまらなかったりすると、
「チェッ、この田舎者め!」とか、
「土百姓め!」とか罵ったもので、
つまり彼は都についてはそれだけが知識の全部で、
豪華な所持品を持つ人たちのいるところであり、
彼はそれを巻き上げるという考え以外に余念はありませんでした。
都の空がどっちの方角だということすらも考えてみる必要がなかったのです。
女は串など郊外など、かんざしなど紅などを大事にしました。
彼が泥の手や山の獣の血に濡れた手で、
かすかに着物に触れただけでも女は彼を叱りました。
まるで着物が女の命であるように、
そしてそれを守ることが自分の務めであるように。
身の回りを清潔にさせ、家の手入れを命じます。
その着物は一枚の小袖と細紐だけでは事足りず、
何枚かの着物といくつかもの紐と、
そしてその紐は妙な形に結ばれ、不必要に垂れ流されて、
いろいろの飾り物を付け足すことによって一つの姿が完成されてゆくのでした。
男は眼を見張りました。
そして歓声を漏らしました。
彼は納得させられたのです。
かくして一つの美が成り立ち、その美に彼が満たされている。
それは疑る余地がない、子としては意味を持たない、
不完全かつ不可解な断片が集まることによって一つのものを完成する。
そのものを分解すれば無意味になる断片に帰する。
それを彼は彼らしく一つの妙なる魔術として納得させられたのでした。
男は山の木を切り出して女の命じるものを作ります。
何者が、そして何用に作られるのか、
彼自身それを作りつつあるうちは知ることができないのでした。
それは腰掌と肘掛けでした。
腰掌はつまり椅子です。
お天気の日、女はこれを外へ出させて、
日向にまた木陰に腰掛けて目をつぶります。
部屋の中では肘掛けにもたれて物思いにふけるような、
そしてそれはそれを見る男の目には全てが異様な生めかしく悩ましい姿にほかならんのでした。
魔術は現実に行われており、
彼自らがその魔術の助手でありながら、
その行われる魔術の結果に常に思かり、そして嘆笑するのでした。
腰掛けの女は朝ごとに女の長い黒髪を櫛削ります。
そのために用いる水を男は谷川の特に遠い清水から汲み取り、
そして特別そのように注意を払う自分のロークを懐かしみました。
自分自身が魔術の一つの力になりたいということが男の願いになっていました。
そして彼自身、櫛削られる黒髪に我が手を加えてみたいものだと思います。
いやよそんな手は、と女は男を払い抜けて叱ります。
男は子供のように手を引っ込めて照れながら、
黒髪に艶がたち、結ばれ、そして顔が現れ、
一つの美が描かれ、生まれてくることを見果てぬ夢に思うのでした。
こんなものがなあ。
彼は模様のある櫛や飾りのある鉱害をいじり回しました。
それは彼が今までは意味も値打ちも認めることのできなかったものでしたが、
今もなお、物と物との調和や関係、
飾りという意味の批判はありません。
けれども魔力がわかります。
魔力は物の命でした。
物の中にも命があります。
お前がいじってはいけないよ。
なぜ毎日決まったように手を出すのだろうね。
不思議なものだなあ。
何が不思議なのさ。
何がってこともないけどさ。
と男は照れました。
彼には驚きがありましたが、その対象はわからんのです。
そして男に都を恐れる心が生まれていました。
それの恐れは恐怖ではなく、知らないということに対する周知と不安で、
物知りが未知の事柄に抱く不安と周知に似ていました。
女が都というたびに彼の心は怯えおののきました。
けれども彼は目に見える何者も恐れたことがなかったので、
恐れの心に馴染みがなく恥じる心にもなれていません。
そして彼は都に対して敵意だけを持ちました。
何百何千の都からの旅人を襲ったが、
手に立つものがなかったのだからと彼は満足して考えました。
どんな過去を思い出しても裏切られ、傷つけられる不安がありません。
それに気づくと彼は常に愉快でまた誇りやかでした。
彼は女の美に対して自分の強さを対比しました。
そして強さの自覚の上で多少の苦手とみられるものはイノシシだけでした。
そのイノシシも実際はさして恐るべき敵でもないので彼はゆとりがありました。
都には牙のある人間がいるかい?
指を持った侍がいるよ。
弓なら俺は谷の向こうのスズメの子でも落とすんだからな。
都には刀が折れてしまうような皮の硬い人間はいないだろう?
鎧を着た侍がいるよ。
鎧は刀が折れるのか?
折れるよ。
俺はクモもイノシシも組み伏せてしまうんだからな。
お前が本当に強い男なら私を都へ連れて行っておくれ。
お前の力で私の欲しいもの都の錐を私の身の回りに飾っておくれ。
そして私に真から楽しい思いを授けてくれることができるならお前は本当に強い男なのさ。
わけのないことだ。
男は都へ行くことを心に決めました。
彼は都にありとあらゆる串や鋼鎧やかんざしや着物や鏡や紅を
三日三晩と経たないうちに女の周りへ積み上げてみせるつもりでした。
なじめない気持ちばかりが残りました。
彼も都では人並みに水管を着てもすねを出して歩いていました。
白昼は刀を刺すこともできません。
市へ買い物に行かなければなりませんし、
白首のいる居酒屋で酒を飲んでも金を払わねばなりません。
市の亜勤土は彼をなぶりました。
野菜を摘んで売りに来る田舎女も子供までなぶりました。
白首も彼を笑いました。
都では貴族は義者で道の真ん中を通ります。
水管を着た裸足の家来は大概振舞先に顔を赤くして
いばり散らして歩いていきました。
彼はまぬけだの、ばかだの、のろまだのと
市でも路上でもお寺の庭でも怒鳴られていました。
それでもうそれぐらいのことには腹が立たなくなっていました。
男は何よりも退屈に苦しみました。
人間どもというものは退屈なものだと彼はつくづく思いました。
彼はつまり人間がうるさいのでした。
大きな犬が歩いていると小さな犬が吠えます。
男は吠えられる犬のようなものでした。
彼は悲願だりねたんだりすねたり考えたりすることが嫌いでした。
山の獣や木や川や鳥はうるさくはなかったがなと彼は思いました。
都は退屈なところだなと彼はびっこの女に言いました。
お前は山へ帰りたいと思わないか。
私は都は退屈ではないからねとびっこの女は答えました。
びっこの女は一日中料理をこしらえ、洗濯し、近所の人たちとおしゃべりしていました。
都ではおしゃべりができるから退屈しないよ。私は山は退屈で嫌いさ。
お前はおしゃべりが退屈ではないのか。
当たり前さ。誰だってしゃべっていれば退屈しないもんだよ。
俺はしゃべればしゃべるほど退屈するのになぁ。
お前はしゃべらないから退屈なのさ。
そんなことがあるもんか。しゃべると退屈するからしゃべらないんだ。
でもしゃべってごらんよ。きっと退屈を忘れるから。
何を。
何でもしゃべりたいことをさ。
しゃべりたいことなんかあるもんか。
男はいまいましがってあくびをしました。
都にも山がありました。
しかし山の上には寺があったり、いおりがあったり、そしてそこにはかえって多くの人の往来がありました。
山から都が一目に見えます。
なんというたくさんの家だろう。そしてなんという汚い眺めだろうと思いました。
彼は毎晩人を殺していることを昼はほとんど忘れていました。
なぜなら彼は人を殺すことにも退屈しているからでした。
何も興味はありません。
刀でたたくと首がポロリと落ちているだけでした。
首は柔らかいものでした。
骨の手応えはまったく感じることがないもので、大根を切るのと同じようなものでした。
その首の重さのほうが彼にはよほど意外でした。
彼には女の気持がわかるような気がしました。
金つき堂では一人の坊主がやけになって金をついています。
なんという馬鹿げたことをやるのだろうと彼は思いました。
何をやりだすかわかりません。
こういう奴らと顔を見合って暮らすとしたら、
俺でも奴らを首にして一緒に暮らすことを選ぶだろうさと思うのでした。
けれども彼は女の欲望に霧がないのでそのことにも退屈していたのでした。
女の欲望はいわば常に霧もなく空を直線に飛び続けている鳥のようなものでした。
休む暇なく常に直線に飛び続けているのです。
その鳥は疲れません。
常に爽快に風を切り、すいすいと小気味よく無限に飛び続けているのでした。
けれども彼はただの鳥でした。
枝から枝を飛び回り、たまに谷を渡るぐらいがせいぜいで、
枝に止まってうたた寝しているフクロウにも似ていました。
彼は便称でした。
全身がよく動き、よく歩き、動作は生き生きしていました。
彼の心はしかし尻の重たい鳥なのでした。
彼は無限に直線に飛ぶことなどは思いもよらないのです。
男は山の上から都の空を眺めています。
その鳥を一羽の鳥が直線に飛んでいきます。
空は昼から夜になり、夜から昼になり、無限の明暗が繰り返し続きます。
その果てに何もなく、いつまでたってもただ無限の明暗があるだけ。
男は無限を事実において納得することができません。
その先の日、その先の日、そのまた先の日。
明暗の無限の繰り返しを考えます。
彼の頭は割れそうになりました。
それは考えの疲れてなしに考えの苦しさのためでした。
家へ帰ると女はいつものように首遊びにふけていました。
彼の姿を見ると女は待ち構えていたのでした。
今夜は白拍子の首を持ってきておくれ。
とびきり美しい白拍子の首だよ。
舞を舞わせるのだから。私が今夜を歌って聞かせてあげるよ。
男はさっき山の上から見つめていた無限の明暗を思い出そうとしました。
この部屋があのいつまでも果てのない無限の明暗の繰り返しの空のはずですが、
それはもう思い出すことができません。
そして女はとりでなしにやっぱり美しいいつもの女でありました。
けれども彼は答えました。
俺は嫌だよ。
女はびっくりしました。その挙句に笑い出しました。
おやおや、お前も臆病風邪に吹かれたの?
お前はただの弱虫ね。
そんな弱虫じゃないんだ。
じゃあ何さ。
霧がないから嫌になったのさ。
あらおかしいね。何でも霧がないものよ。
毎日毎日ご飯を食べて霧がないじゃないか。
毎日毎日眠って霧がないじゃないか。
それと違うのだ。
どんな風に違うのよ。
男は返事に詰まりました。けれども違うと思いました。
それで言いくるめられる苦しさを逃れて外へ出ました。
白拍子の首を持っておいで。
女の声が後ろから呼びかけましたが彼は答えませんでした。
彼はなぜ、どんな風に違うのだろうと考えましたがわかりません。
だんだん夜になりました。
彼はまた山の上へ登りました。
もう空も見えなくなっていました。
彼は気がつくと空が落ちてくることを考えていました。
空が落ちてきます。
彼は首を締め付けられるように苦しんでいました。
それは女を殺すことでした。
男は初めて女を得た日のことを思い出しました。
その日も彼は女を背負って峠のあちら側の山道を登ったのでした。
その日も幸せでいっぱいでしたが、きょうの幸せはさらに豊かなものでした。
初めてお前に会った日もおんぶしてもらったわね。
と女も思い出して言いました。
俺もそれを思い出していたんだぜ。
男はうれしそうに笑いました。
ほら見えるだろう。あれがみんな俺の山だ。
谷も木も鳥も雲まで俺の山さ。
山はいいなあ。走ってみたくなるじゃないか。
都ではそんなことはなかったからなあ。
初めての日はおんぶしてお前を走らせたもんだったわね。
ほんとだ。ずいぶん疲れて目がまわったおんさ。
男は桜の森の花盛りを忘れてはいませんでした。
しかしこの幸福な日にあの森の花盛りの下が何ほどのものでしょうか。
彼は恐れていませんでした。
そして桜の森が彼の眼前に現れてきました。
まさしく一面の満開でした。
風に吹かれた花びらがパラパラと落ちています。
土肌の上は一面に花びらが敷かれていました。
この花びらはどこから落ちてきたのだろう。
なぜなら花びらのひとひらが落ちたとも思われぬ満開の花の下が
見はるかす頭上に広がっているからでした。
男は満開の花の下へ歩き込みました。
辺りはひっそりとだんだん冷たくなるようでした。
彼はふと女の手が冷たくなっていることに気がつきました。
にわかに不安になりました。
とっさに彼はわかりました。
女が鬼であることを。
突然どっという冷たい風が花の下の四方の果てから吹き寄せていました。
男の背中にしがみついているのは全身が紫色の顔の大きな老婆でした。
その口は耳まで裂け、ちじくれた髪の毛は緑でした。
男は走りました。振り落そうとしました。
鬼の手に力がこもり彼の喉に食い込みました。
彼の目は見えなくなろうとしました。
彼は夢中でした。全身の力を込めて鬼の手を緩めました。
その手の隙間から首を抜くと、背中を滑ってどさりと鬼は落ちました。
今度は彼が鬼に組みつく番でした。
鬼の首を締めました。
そして彼がふと気づいたとき、
彼は全身の力を込めて女の首を締め付け、そして女はすでに生き絶えていました。
彼の目はかすんでいました。
彼はより大きく目を見開くことを試みましたが、
それによって視覚が戻ってきたように感じることができませんでした。
なぜなら、彼の締め殺したのは、さっきと変わらずやはり女で、
同じ女の死体がそこにあるばかりだからでありました。
彼の呼吸は止まりました。
彼の力も、彼の思念も、すべてが同時に止まりました。
女の死体の上には、すでにいくつかの桜の花びらが落ちてきました。
彼は女を揺さぶりました。
呼びました。抱きました。
虎王でした。
彼はわっと泣き伏しました。
たぶん彼がこの山に住みついてからこの日まで泣いたことはなかったでしょう。
そして彼が自然に我に帰ったとき、
彼の背には白い花びらが積もっていました。
そこは桜の森のちょうど真ん中のあたりでした。
四方の果ては、花に隠れて奥が見えませんでした。
日頃のような恐れや不安は消えていました。
花の果てから吹き寄せる冷たい風もありません。
ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散り続けているばかりでした。
彼は初めて桜の森の満開の下に座っていました。
いつまでもそこに座っていることができます。
彼はもう帰るところがないのですから。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今もわかりません。
あるいは孤独というものであったのかもしれません。
なぜなら男はもはや孤独を恐れる必要がなかったのです。
彼自らが孤独自体でありました。
彼は初めて四方を見まわしました。
頭上に花がありました。
その下にひっそりと無限の虚空が満ちていました。
ひそひそと花があふります。
それだけのことです。
他には何の秘密もないのでした。
ほどへて彼はただ一つの生温かな何ものかを感じました。
そしてそれが彼自身の胸の悲しみであることに気がつきました。
花と虚空の冴えた冷たさに包まれて、
ほの暖かい膨らみが少しずつわかりかけてくるのでした。
彼は女の顔の上の花びらを取ってやろうとしました。
彼の手が女の顔に届こうとしたときに、
何か変わったことが起こったように思われました。
すると彼の手の下には降り積もった花びらばかりで、
女の姿はかき消えてただいくつかの花びらになっていました。
そしてその花びらをかき分けようとした彼の手も
彼の体も伸ばしたときにはもはや消えていました。
あとに花びらと冷たい虚空が張り詰めているばかりでした。
1990年発行。
ちくま書房。
ちくま文庫。
坂口安吾全集5。
より独了を読み終わりです。
うーん、何ですかこれは。
何を言いたいんですか。
うーん、花びらだったのね。
鬼だと思ったら女で、女だと思ったら花びらだったのね。
で桜の下が怖いのね。
で、何のメタファーかってことですよ。
わかりませんね。
これどうやって解釈するんだろうか。
うーん、みなさんはどう感じたでしょうか。
あの本、何だっけ、首遊び。
あんなにだらだらなかなか書く必要あったかね。細かく。
腐った肉はどうとかさ。
目玉がどうとかさ。
はー。
怖い、怖くはないけど。
怖くはないけど、何ていうか不気味というか不思議というか。
ね。
いかがでしたでしょうか。
はい、桜と入ってたので読みましたが、そんなに明るい話でもないですね。
んふふふふ。ね。
そういえば好きなラジオ番組に東京ポッド許可局というのがあるんですが、
もともとポッドキャストやってたのがTBSラジオに昇格してやってる番組なんですけど、
おじさんたち3人が、ああでもね、こうでもないってグダグダやってる感じなんですけど、
なんかダラッと聞いててすごく良くて。
でそのイベントが2月にやって、
あ、ちょっと現地にはいけないので配信チケットで見たんですけど、すごく面白くてね。
まあこのポッドキャストが上がる頃にはもう配信の視聴期間、期限が来ちゃってると思いますけど、
その勢いでグッズTシャツを買ってしまいました。
日本口笛おじさんTシャツっていう、
街中で時々ご機嫌に口笛吹いてるおじさんいるでしょ。
それの目撃報告をするっていうコーナーから生まれたTシャツなんですけど、
Lが全部売り切れてたんで、
XLオーバーサイズを買ってみましたが、
今年の夏はそれを着て生活しようかなと思っています。
といったところで、
無事に値落ちできた方も、最後までお付き合いいただいた方も大変お疲れ様でございました。
といったところで、今日のところはこの辺で、また次回お会いしましょう。
おやすみなさい。