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2025-09-04 27:19

161芥川龍之介「藪の中」(朗読)

161芥川龍之介「藪の中」(朗読)

真相は不明。

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サマリー

芥川龍之介の短編小説「藪の中」では、侍の死体の発見とその背後にある真相が描かれています。物語はさまざまな証言を通じて、真実が曖昧に浮かび上がり、人間の欲望や罪について考えさせられる内容です。「藪の中」は、愛と裏切り、道徳的選択をテーマとしており、登場人物たちの複雑な心情が表現されています。命が賭けられる状況における人間の本性が明らかになります。また、事件の真相を巡る異なる証言を通じて、人間の心理や真実の複雑さが描かれています。

00:04
寝落ちの本ポッドキャスト。こんばんは、Naotaroです。 このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、 それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
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さて、今日は芥川龍之介さんの「藪の中」です。
真相は藪の中へ、みたいな表現をする時の語源になった作品だそうですよ。すごいですね。
死体発見の経緯
藪の中で侍の死体が発見され、蛇医師、役人ですね。 蛇医師が関係者への事情聴取を行うという題材です。
藪の中ね。 奥田民夫のイージュライダーでも出てきますね。歌でね。
現実の明日は、藪の中へ。
僕らは自由を。
なるほど。 文字数は9300文字なので、30分はかからないぐらいでしょうかね。
どうか、寝落ちまでお付き合いください。 それでは参ります。
藪の中 蛇医師に問われたれる木こりの物語
作用でございます。 あの死骸を見つけたのは私に違いございません。
私は今朝いつもの通り浦山の杉を切りに参りました。 すると山陰の藪の中にあの死骸があったのでございます。
あったところでございますか。 ああ、それは山品の駅路からは4、5丁ほど隔たっておりましょう。
竹の中に痩せた杉の混じった人気のないところでございます。 死骸は花座の水管に宮古風の錆絵帽子をかぶったまま、仰向けに倒れておりました。
何しろ人刀とは思うものの、胸元の突き傷でございますから、死骸の周りの竹の落ち葉は須保に染みたようでございます。
いえ、血はもう流れてはおりません。傷口も乾いておったようでございます。 おまけにそこにはウマバエが一匹、
私の足音も聞こえないようにべったり食いついておりましたっけ。 たしか何か見えなかったか。
ああ、いえ、何もございません。 ただその側の杉の根型に縄が一筋落ちておりました。
それから、ああ、そうそう、縄の他にも櫛が一つございました。 死骸の周りにあったものはこの二つぎりでございます。
が、草や竹の落ち葉は一面に踏み荒らされておりましたから、 きっとあの男は殺される前によほど手痛い働きでも致したのに違いございません。
何、ウマはいなかったか。 ああ、あそこは一体ウマ謎には入れないところでございます。
何しろ、ウマの通う道とはやぶ一つ隔たっておりますから。 ケビー氏に問われたる旅宝紙の物語。
あの死骸の男には確かに機能あっております。 機能の、さあ、昼頃でございましょう。
場所は関山から山品へ参ろうという途中でございます。 あの男はウマに乗った女と一緒に関山の方へ歩いて参りました。
女は無視を垂れておりましたから、顔は私にはわかりません。 見えたのはただ、萩重ねらしい絹の色ばかりでございます。
ウマは月毛の、うーん、確か帽子紙のウマのようでございました。 竹でございますか。竹は容器もございましたが。
何しろ社紋のことでございますから、その辺ははっきり存じません。 男は、ああ、いえ、太刀も帯びておれば弓矢も携えておりました。
ことに黒いぬりえびらへ旗余りそやを刺したのは、ただいまでもはっきり覚えております。 あの男が火曜になろうとは夢にも思わずにおりましたが、
まことに人間の命なぞは、にょろやくにょでんに違いございません。 やれやれ、何とも申し訳のない気の毒なことをいたしました。
げび石に問われたる方面の物語。 私が絡めとった男でございますか。
ああ、これは確かに多条丸という名高い盗人でございます。 もっとも、私が絡めとった時には、ウマから落ちたんでございましょう。
淡田口の石橋の上に、うーん唸っておりました。 時刻でございますか。
時刻は昨夜の初行頃でございます。 いずれ私が捕え損じた時にも、やはりこの金の水管に打ち出しの太刀をはいておりました。
ただいまはその他にも、ご覧の通り弓矢の類さえ携えております。 さようでございますか。あの死骸の男が持っていたのも。
では、人殺しを働いたのはこの多条丸に違いございません。 皮を巻いた弓、黒ぬりのえびら、
鷹の葉のソヤが17本。 これは皆あの男が持っていたものでございましょう。
はい。 ウマもおっしゃる通り法師神の月毛でございます。
その畜生に落とされるとは。何かの因縁に違いございません。 それは石橋の少し先に長いハズナを引いたまま、
ロバ太の青すすきを喰っておりました。 この多条丸という奴は、楽中に徘徊する盗人の中でも女好きな奴でございます。
昨年の秋、鳥部寺の瓶鶴の後ろの山に、モノモーデンに来たらしい女房が一人。 目のわらわと一緒に殺されていたのは、こいつの仕業だとか申しておりました。
その月毛に乗っていた目も、こいつがあの男を殺したとなれば、どこへ通したかわかりません。 差し出かもしれませんが、それもご遷疑くださいまし。
けび石に問われたる大名の物語。 はい、あの死骸は手前の娘が片付いた男でございます。
が、都の者ではございません。若さの国父の侍でございます。 名は金沢の竹博。歳は26歳でございました。
証言の交錯
ああいえ、優しい気立てでございますから、威光などを受けるはずはございません。 娘でございますか。娘の名は正子。歳は19歳でございます。
これは男にも劣らぬくらい家畜の女でございますが、まだ一度も竹博の他には男を持ったことはございません。
顔は色の浅黒い、左の目尻にほくろのある、小さい売り種顔でございます。 竹博は昨日娘と一緒に和歌祭へ立ったのでございますが、こんなことになりますとは、何という言いがでございましょう。
しかし娘はどうなりましたやら、無婚のことを諦めましてもこれだけは心配でなりません。 どうかこのウーバーが一生のお願いでございますから、
たとえ草木を開けましても娘の行方をお尋ねくださいまし、何に致せにくいのはその多錠丸とか何とか申す盗人のやつでございます。
向こうばかりか、娘までも。 あとは泣き入れて言葉なし。
多錠丸の白状 あの男を殺したのは私です。
しかし女は殺しません。 ではどこへ行ったのか、それは私にもわからないのです。
まあお持ちなさい。いくら拷問にかけられても知らないことは申されますまい。 その上私もこうなれば卑怯の隠し立てはしないつもりです。
私は昨日の昼少し過ぎ、あの夫婦に出会いました。 その時風の吹いた表紙に虫の種ぎぬが上がったものですから、しらりと女の顔が見えたのです。
しらりと。見えたと思う瞬間にはもう見えなくなったんですが、一つにはそのためもあったんでしょう。
私はあの女の顔が女菩薩のように見えたんです。 私はその咄嗟の間に、たとえ男は殺しても女は奪おうと決心しました。
何、男を殺す謎はあなた方の思っているように大したことではありません。 どうせ女を奪うとなれば必ず男は殺されるんです。
ただ私は殺すときに腰の太刀を使うのですが、あなた方は太刀は使わない。 ただ権力で殺す。金で殺す。どうかするとおためこかしの言葉だけでも殺すでしょう。
なるほど血は流れない。男は立派に生きている。 しかしそれでも殺したのです。罪の深さを考えてみれば、あなた方が悪いか私が悪いか、どちらが悪いかわかりません。
しかし男を殺さずとも女を奪うことができれば別に不足はないわけです。 いや、そのときの心持ちでは、できるだけ男を殺さずに女を奪おうと決心したんです。
が、あの山品の駅地ではとてもそんなことはできません。 そこで私は山の中へあの夫婦を連れ込む工夫をしました。
これも造作はありません。私はあの夫婦と道連れになると、向こうの山には古塚がある。 この古塚を暴いてみたら鏡や太刀がたくさん出た。
私は誰も知らないうちに山の陰の矢部の中へそういうものを埋めてやる。 もし望み手があるならばどれでも安い値に売り渡したいという話をしたんです。
男はいつか私の話にだんだん心を動かし始めました。 それからどうです?欲というものは恐ろしいではありませんか。
それから半時も経たないうちにあの夫婦は私と一緒に山の道へ馬を向けていたのです。 私は矢部の門へ来ると、宝はこの中に埋めてある。見に来てくれと言いました。
男は欲に渇いていますから依存のあるはずはありません。 が、女は馬もおりずに待っているというのです。
またあの矢部の茂っているのを見てはそういうのも無理はありますまい。 私はこれも実を言えば思う壺にはまったのですから、女一人を残したまま男と矢部の中へ入りました。
矢部はしばらくの間は竹ばかりですが半丁ほど行ったところにやや開いた杉村がある。 私の仕事を仕遂げるにはこれほど都合のいい場所はありません。
私は矢部を押し分けながら、宝は杉の下に埋めてあると最も漏らしい嘘をつきました。 男は私にそう言われるともう痩せ杉がすいて見える方へ一生懸命に進んでいきます。
そのうちに竹がまばらになると何本も杉が並んでいる。 私はそこへ来るが早いか。いきなり相手を組み伏せたまま。
男も多丁を履いているだけに力は相当あったようですが、不意を打たれてはたまりません。 たちまち一本の杉の根形へくぐりつけられてしまいました。
縄ですか? 縄は盗人のありがたさにいつ兵を超えられるかわかりませんからちゃんと腰につけていたんです。
もちろん声を出させないためにも竹の落ち葉をほぼらせれば他に面倒はありません。 私は男を片付けてしまうと今度はまた女のところへ。
男が急病を起こしたらしいから見に来てくれと言いに来ました。 これも図星に当たったのは申し上げるまでもありますまい。
女は一目傘を脱いだまま私に手を取られながら矢部の奥へ入ってきました。 ところがそこへ来てみると男は杉の根に縛られている。
女はそれを一目見るなり、いつの間に懐から出していたかきらりと小刀、さすがを引き抜きました。
私はまだ今までにあのくらいの気象の激しい女は一人も見たことがありません。 もしその時でも油断していたらば一月に火腹をつかれたでしょう。
命の選択と愛
いやそれは身をかわしたところが、もにむざんに切り立てられるうちにはどんな怪我もしかねなかったんです。 私も他情までですから。どうにかこうにか立ちも抜かずにとうとうさすがを撃ち落としました。
いくら気のかった女でも獲物がなければ仕方がありません。 私はとうとう思い通り男の命は取らずとも女を手に入れることができたのです。
男の命は取らずとも、そうです。私はその上にも男を殺すつもりはなかったんです。
ところが泣き伏した女は後に矢部の外へ逃げようとすると、女は突然私の腕へキチガイのようにすがりつきました。
しかもキレキレに叫ぶのを聞けば、あなたが死ぬか夫が死ぬかどちらか一人死んでくれ、二人の男に恥を見せるのは死ぬより辛いというんです。
いやそのうちどちらにしろ生き残った男に連れ添いたい。そうもあえげあげ言うんです。 私はその時呆然と男を殺したい気になりました。
こんなことを申し上げるときっと私はあなた方より残酷な人間に見えるでしょう。
しかしそれはあなた方があの女の顔を見ないからです。 私は女と目を合わせた時、たとえ雷に打ち殺されてもこの女を妻にしたいと思いました。
妻にしたい。私の念頭にあったのはただこういう一時だけです。 これはあなた方の思うように癒やしい色欲ではありません。
もしその時色欲の他に何も望みがなかったとすれば、私は女を蹴倒してもきっと逃げてしまったでしょう。
男もそうすれば私の太刀に血を塗ることにはならなかったのです。 が薄暗い矢部の中にじっと女の顔を見た刹那。
私は男を殺さない限りここは猿舞いと覚悟しました。 しかし男を殺すにしても卑怯な殺し方はしたくありません。
私は男の縄を解いた上太刀打ちをしろと言いました。 杉の寝方に落ちていたのはその時捨て忘れた縄なのです。
男は決想を変えたまま太い太刀を引き抜きました。 と思うと口も聞かずにふんぜんと私へ飛びかかりました。
その太刀打ちがどうなったかは申し上げるまでもありますまい。 私の太刀は23号目に相手の胸を突きました。
23号目に。どうかそれを忘れずにください。 私は今でもこのことだけは関心だと思っているのです。
私と二十五を切り結んだ者は天下にあの男一人だけですから。 私は男が倒れると同時に血に染まった刀を
下げたなり女の方を振り返りました。 それとどうです。
裏切りと葛藤
あの女はどこにもいないではありませんか。 私は女がどちらへ逃げたか杉村の間を探してみました。
が竹の落ち葉の上にはそれらしい跡も残っていません。 また耳を澄ませてみても聞こえるのはただ男の喉に断末魔の音がするだけです。
ことによるとあの女は私が太刀打ちを始めるが早いか 人を助けても呼ぶために矢部をくぐって逃げたのかもしれない。
私はそう考えると今度は私の命ですから。 太刀や弓矢を奪ったなりすぐにまた元の山道へ出ました。
そこにはまだ女の馬が静かに草を食っています。 その後のことは申し上げるだけ無用の口数に過ぎますまい。
ただ都へ入る前に太刀だけはもう手放していました。 私の白状はこれだけです。
どうせ一度はお家の小杖に掛ける首と思っていますからどうかご敬意に合わせてください。
清水寺に来たれる女の懺悔 その紺の水管を着た男は私を手込めにしてしまうと縛られた夫を眺めながら預けるように笑いました。
夫はどんなに無念だったでしょう。 がいくら身も体を押しても体中にかかった縄目は一層ヒシヒシと食い入るだけです。
私は思わず夫のそばへ転ぶように走り寄りました。 いえ、走り寄ろうとしたんです。しかし男はとっその間に私をそこへ蹴倒しました。
ちょうどその途端です。私は夫の目の中になんとも異様のない輝きが宿っているのを悟りました。
なんとも異様のない。私はあの目を思い出すと今でも身震いが出ずにはいられません。 口さえ一言も聞けない夫はその刹那の目の中に一切の心を伝えたのです。
しかしそこに閃いていたのは怒りでもなければ悲しみでもない、 ただ私を遮すんだ冷たい光だったではありませんか。
私は男に蹴られたよりもその目の色に撃たれたように、われ知らず何か叫んだぎり、とうとう気を失ってしまいました。
そのうちにやっと気がついてみると、あの金の水管の男はもうどこかへ行っていました。
あとにはただ杉の根形に夫が縛られているだけです。 私は竹の落ち葉の上にやっと体を起こしたなり、
夫の顔を見守りました。 が夫の目の色は少しもさっきと変わりません。
やはり冷たい下げ隅の底に憎しみの色を見せているのです。 恥ずかしさ、悲しさ、腹立たしさ、
その時の私の心の内は何と言えばよいかわかりません。 私はよろよろ立ち上がりながら夫のそばへ近寄りました。
あなた、もうこうなった上はあなたとご一緒にはいられません。 私は一思い死ぬ覚悟です。
しかし、しかしあなたもお知りなすってください。 あなたは私の恥をご覧になりました。
私はこのままあなた一人を残し申すわけには回りません。 私は一生懸命にこれだけのことを言いました。
それでも夫は忌まわしそうに私を見つめているばかりなんです。 私は裂けそうな胸を抑えながら夫の太刀を探しました。
があの盗人に奪われたんでしょう。 太刀はもちろん弓矢さえも矢部の中には見当たりません。
しかし幸い、刺刀だけは私の足元に落ちているのです。 私はその刺刀を振り上げると、もう一度夫にこう言いました。
では、お命をいただかせてください。私もすぐに夫申します。 夫はこの言葉を聞いたとき、やっと唇を動かしました。
もちろん口には笹の落ち葉がいっぱいに詰まっていますから、声は少しも聞こえません。 私はそれを見ると、たちましその言葉を悟りました。
夫は私を詐欺すんだまま殺せと一言言ったのです。 私はほとんど夢うつつのうちに、夫の花駄の水管の胸へずぶりと刺刀を差し通しました。
私はまたこのときも気を失ってしまったのでしょう。 やっと辺りを見回したときには、夫はもう縛られたまま、とうに息が絶えていました。
運命の最後
その青ざめた顔の上には、竹に混じった杉村の空から日々が一筋落ちているのです。
私は泣き声を呑みながら、死骸の縄を解き捨てました。 そして、そして私がどうなったか。
それだけはもう私には申し上げる力もありません。 とにかく私はどうしても死にきる力がなかったのです。
笹川を喉に突き立てたり、山の裾の池へ身を投げたり、いろいろなことをしてみましたが、死にきれずにこうしている限り、これも自慢にはなりますまい。
私のように不甲斐ないものは、大事大秘の完全御菩薩もお見放しなすったものかもしれません。 しかし、夫を殺した私は、
ぬすっとの手込みにあった私は、一体どうすればいいのでしょう。 一体私は、
私は、 突然、激しきすすり泣き。
巫女の口を借りたる死霊の物語。 ぬすびたは妻を手込みにすると、そこへ腰を下ろしたまま、いろいろ妻を慰め出した。
俺はもちろん口は聞けない。体も杉の根に縛られている。 が、俺はその間に何度も妻へめくばせをした。
この男の言うことを間に受けるな。何を言っても嘘と思え。 俺はそんな意味を伝えたいと思った。
しかし妻は生前と笹の落ち葉に座ったなり、 じっと膝へめをやっている。
それがどうもぬすっとの言葉に聞き入っているように見えるではないか。 俺は寝たましさに身悶えした。
が、ぬすっとはそれからそれへと巧妙に話を進めている。 一度でも花びんをよこしたとなれば、夫との仲盛りはうまい。
そんな夫につるそっているより自分の妻になる気はないか。 自分は愛しいと思えばこそ、大それたまでも働いたのだ。
ぬすっとはとうとう大胆にもそういう話さえ持ち出した。
ぬすっとにこう言われると妻はうっとりと顔を持たげた。 俺はまだあの時ほど美しい妻を見たことがない。
しかしその美しい妻は現在縛られた俺を前に、なんとぬすっとに返事をしたか。 俺は宙に迷ってても妻の返事を思い出すごとに真意に燃えなかった試しはない。
妻は確かにこう言った。 ではどこへでも連れて行ってください。
妻の罪はそれだけではない。それだけならばこの闇の中に今ほど俺も苦しみはしまい。
しかし妻は夢のようにぬすっとに手を取られながら野暮の外へ行こうとすると、たちまち眼色を失ったなり、杉の根の俺を指さした。
あの人を殺してください。私はあの人が生きていてはあなたと一緒にはいられません。 妻は気が狂ったように何度もこう叫び立てた。
あの人を殺してください。 この言葉は嵐のように今でも遠い闇の底へ真っ逆さまに俺を吹き落とそうとする。
一度でもこのくらい呪わしい言葉が人間の耳に触れたことがあろうか。 一度でもこのくらい。
その言葉を聞いたときはぬすっとさえ色を失ってしまった。 あの人を殺してください。
妻はそう叫びながらぬすっとの腕にすがっている。 ぬすっとはじっと妻を見てもまま殺すとも殺さんとも返事をしない。
と思うか思わないうちに妻は竹の落ち葉の上ただ一蹴りに蹴倒された。 ぬすっとは静かに両腕を組むと俺の姿へ目をやった。
あの女はどうするつもりだ?殺すか?それとも助けてやるか? 返事はただうなずけばいい。殺すか?
俺はこの言葉だけでもぬすっとの罪は許してやりたい。 妻は俺がためらううちに何か一声叫びが早いかたちまち矢部の奥へ走り出した。
ぬすっともとっさに飛びかかったがこれは袖さえ取られなかったらしい。 俺はただ幻のようにそういう景色を眺めていた。
ぬすっとは妻が逃げ去った後立ち合い弓矢を取り上げると一箇所だけ俺の縄を切った。 今度は俺の身の上だ。
俺はぬすっとが矢部の外で姿を隠してしまうときにこう呟いたのを覚えている。 その後はどこも静かだった。いやまだ誰かの泣く声がする。
俺は縄を解きながらじっと耳をすませてみた。 がその声も気がついてみれば
俺自身の泣いている声だったではないか。 俺はやっと杉の根から疲れ果てた体を起こした。
俺の前には妻が落としたサスガが一つ光っている。 俺はそれを手に取ると一月に俺の胸へ刺した。
何か生臭い塊が俺の口へ込み上げてくれ。 が苦しみは少しもない。
ただ胸が冷たくなると一層あたりが浸透してしまった。 ああなんという静かさだろう。
この山陰の矢部の空には小鳥市は冴えずりに来ない。 ただ杉や竹の裏に寂しい日陰が漂っている。
物語の核心に迫る
日陰が。 それも次第に薄れてくれ。
もう杉や竹も見えない。 俺はそこに倒れたまま深い静かさに包まれている。
その時誰か忍び足に俺の側へ来た者がある。 俺はそちらを見ようとした。
が俺の周りにはいつか薄闇が立ち込めている。 誰か。
その誰かは見えない手にそっと胸のサスガを抜いた。 同時に俺の口にはもう一度血潮が溢れてくる。
俺はそれぎり永久に宙の闇へ沈んでしまった。 大正十年十二月
1987年発行 筑間書房 筑間文庫 芥川龍之介全集4より独了読み終わりです。
はい。 なるほどね。
全員言ってることが違うわけね。 したがって真相は
矢部の中という言葉が生まれたわけですね。 なるほど。
時代が進みましてスマホやらドライブレコーダーやらが 映像や音声としてバッチリ証拠が取れるような時代になったので
言った言ってないのも水かけ論争みたいなことにも終止符が打てるような時代になった わけですが
あの僕はあれどうかと思うんですよね。
公共の場所で電車でもバスでも道端でもいいですけど 大きなトラブル
ちょっと軽い 生産の事故だと辛いから軽い事故にしておきましょうか。
なんかちょっとぶつかっちゃったみたいなことがあった時に
大丈夫ですかって駆け寄るより前にカメラ向けてる連中でしょ。 あれ人間としてちょっとどうかと思うんですよね。
どう思いますかね。
まず 手を差し伸べなさいよと僕は思うんですけど
他方あの動画の映像が残っていることが 証拠にもなり得るから価値がゼロとは言わないけど
初めの動作として まずスマホを立ち上げてカメラを向ける動画撮影を始めるっていう精神性
あるかなーって思うんですけどね 僕は駆け寄って声かけることはするかもしれないけど動画で撮って納めておいてやろう
っていう精神性にはならないので なんかちょっと理解に苦しむなぁという感じがするんですけど
どうですか
難しいけどね 一丁一単なんですかね。なんかもう他の人が助けに行ってるから大丈夫を見越して動画撮影
記録係に徹しているのか そんなこともそんなこともなくまず撮り始めてる人もいるじゃん
なんかねー ずぶといというかなんというか
なんか 見上げた所差ではねえなというのは思いますよね
逆にすぐカメラを回す側の人のご意見も聞いてみたいですけどね
記録ばかりなのかなぁやっぱり でも手を差し伸べたらいいのにね
うん 戦場カメラマンとかも言ったらそういうことだよね
目の前の人に手を差し伸べないで撮ってるわけだもんね 伝えることの方が重要だみたいなことなんですか
本当に? 僕が被害者なら手を差し伸べてくれる人の方が嬉しいけどなぁ
なんかちょっとふとそんなことを 思ってしまいましたねはい
それでは早々終わりにしましょうか 無事に寝落ちできた方も最後までお付き合いいただいた方も大変にお疲れ様でした
といったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう おやすみなさい
27:19

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