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2021-03-03 33:49

本当の声を聞かせて

https://smart-c.jp/c?i=2dMTu61BRSwE01ylS&guid=ON 看護師の茉莉は、同棲する湊人との将来の事を考えていた。
だが、結婚や子育ての話題をすると気まずそうな顔をする湊人だった。
ある日、夕飯の買い物に出かけた茉莉は、不思議な雰囲気の高校生に出会う。

●脚本: ゆきえ/●演出:内田岳志
●出演:茉莉: 古川詩織/湊人: 石崎弘樹/少年: 椿 祐里佳/テレビの声: 杉山さくら/店主: 宅間 脩起
●編集・効果:昆 優太/●スタジオ協力:専門学校東京アナウンス学院
●プロデューサー:富山真明/●制作:株式会社PitPa
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00:01
本当に可愛いワンちゃんでしたね。私のうちのラブリーも、最近生まれたばっかりで、とっても可愛いんですよ。
それでは、続いて十二星座占いです。
今日も適当な朝食になっちゃったな。
トーストにカップスープ、目玉焼きとソーセージ。
夜勤明けの朝は、食べるよりも眠りたい。
溜まっている家事を片付けたい。
だからどうしても、手を抜く場所が食事になってしまう。
残念、十二位は乙女座のあなた。
今日は大切な人とすれ違ってしまうかもしれません。
大丈夫、乙女座のあなたの今日のラッキーアイテムは卵焼きです。
目玉焼き所、ダメなの?
私はマリ、32歳。看護師として働いている。
今日は夜勤明けの水曜日。
二十代の頃は、夜勤明けにスキー場に直行なんてこともできたけれど、
この頃はすっかり補身に入ったのか、楽しみよりも疲れを癒したいという気分。
ごちそうさま。
彼だって寝癖で跳ねた髪に白髪が一本混じっている。
結婚もしてもいないのに、お互いに随分と初対峙みている。
二つ年上のミナトは営業職として日々ストレスを貯めているせいだというけれど、
この頃は性感な男らしさというよりも、疲れて哀愁を漂わせたおじさん感が否めない。
お腹が出ていないだけマシだけど。
今日は遅いの?
いや、今日は営業会議の後、得意先回りして直帰していいって言われてるから、そんなに遅くならない。
ブルーのネクタイを締める彼はなかなか様になっている。
ネクタイを締めて、時計を腕にはめる。
この一連の動作が彼には内緒だが、私のお気に入り。
夕飯には帰るから。
何がいい?
何でもいい。
何でもいいが一番困るんだって。
そう思った時に、昨日職場で聞いたワイダンを思い出した。
旦那さんにうなぎを出すと、必ず私は妊娠すると言っていた同僚。
三人目を妊娠中の彼女に、同僚たちは、
だったら旦那さん、結婚してから三回しかうなぎ食べさせてもらってないのね、なんて笑っていた。
たまにはうなぎなんてどう?性がつくんだって。
旦那さんとの間に三人目の子供を絶賛妊娠中の同僚が言ってた。
昨日のお話を面白おかしく聞かせようとしただけ。
でも、瞬間、彼の動きが不自然に止まり、表情が消えた。
私、何かおかしなこと言った?
じゃあ、行ってくるから。
03:00
行ってらっしゃい。
彼はそのまま目も合わせずに、部屋を出て行ってしまった。
一体何が不満だって言うの?
私がミナトにうなぎを食べさせて、妊娠を獲得するとでも?
というか、男だったら冗談でも、そんなの食べたら襲っちゃうぞとか言ってみせなさいよ。
私は心の中で愚痴を吐きながら、足音荒く買い物への道を歩いて行った。
そして、不意に自分の言った愚痴の中の言葉に、はっとして足を止めた。
まさかミナトは、妊娠を理由に結婚することになるのが怖いの?
結婚なんて考えられないの?
もしかして、私のことはもう、女として見られないの?
自分で自分に放った疑問は、思いがけず深く心に突き刺さった。
私の脳裏に、昨日のうなぎの話をしていた、同僚の姿が浮かんだ。
ふざけた調子で話していたけれど、ふと手を置いてお腹を見る横顔は美しくて、輝きに満ちていた。
愛されていて、そして彼女自身も、ご主人とお腹の子供を自分の体で包み込んで、抱きしめるように愛している。
羨ましく思わないと言ったら嘘になる。
私には、その喜びを感じるチャンスはないのかな?
望むことで、もしかしてミナトすらも失うかもしれないのかな?
あ、あの、大丈夫ですか?
え?あ、雨?
すっかり自分の世界に入り、考え込んでいたようだった。
雨に濡れていることにも気づかずに、道に立ち尽くしていた私を、一人の少年が心配そうに寄り添ってくれていた。
よく見ると、少年は自分が濡れるのに傘を私の上に差し出してくれている。
あ、ごめんね、君が濡れちゃう。
いえ、僕は大丈夫です。でも、お姉さんずぶ濡れだから。
ありがとうね。あのバス停まで傘に入れてもらえれば大丈夫だから。
私は3メートル先にあるバス停の待合所を指差して走り出した。
ありがとう。
私は少年に頭を下げた。
少年の方は透明なビニール傘を振って水滴を払うと、丁寧にたたんでベルトを締めている。
06:07
男の子だけど気長面なんだ。
そういえば、皆とも変なところが気長面で、私の合理的と思うやり方を黙って直していたりすることを私は知っている。
僕も雨が止むまで雨宿でします。
少年はそう言うと、やけに離れた椅子に座って雨を眺めていた。
高校生?
はい。
知らない女性に傘を差し出してくれる優しい子だけれども、そこまで社交的ではないみたい。
少年はぼーっと雨の降る様子を眺めていた。
でも不意に、はっとした様子で背筋を伸ばす。
と、慌てた様子でカバンからノートを取り出した。
そして膝の上に乗せ、前のめりになって何かを書き始めた。
随分と使い込まれて熱くなったノート。
どこか張り詰めた空気すら漂わせて書き綴る彼のシャープペンの立てる音が、雨の音だけの世界にもう一つの旋律を加えて淀みなく流れていく。
一体何を書いているのかな?
私はそっと少年の後ろに移動するとノートを覗き込んだ。
そこにはびっしりと文字が書き込まれていたが、一見して何かの物語であることがわかる。
この雨が君の悲しみを洗い流し、西のような幸せを運んでくれたらいいのに。
素敵な言葉に思わず声に出した瞬間、少年は飛び上がるようにしてノートを閉じ、恨めしげに振り返った。
読まないでください!
だってすごく素敵な言葉だったんだもの。
言霊にしてあげたくて。
言霊?
言葉は人が声にして放ってあげてこそ、命をもって人に影響するものでしょう。
少年は一瞬、びっくりしたように目を丸くした。
そして今度はこちらがびっくりしたことに、不意に俯いたかと思うと、背中を震わせて泣き始めた。
え?ごめんなさい。
少年は首を横に振ると人見知りそうなのに、一生懸命に彼の今の状況を話し始めた。
彼は高校で演劇部に所属していて、今は背景などの小道具を作る美術担当をしているのだという。
それはそれで楽しいけど、本当にやってみたいのは脚本なのだと。
彼の中にはどうしても表現したいものがあるらしい。
09:04
でも、一生懸命に書き上げた文章は誰にも評価されず、逆に自分に酔っている文章だと酷評されてしまったそうだ。
それ以来、誰にも見せることなく書き続けて、鞄の底で眠り続けてきた彼の言葉の世界。
それが私の声によって初めて言霊を得て世に放たれたのだと感じたと彼は話した。
「ありがとうございました。」
「ううん。きっとこれが始まりだよ。君の言葉が命をもって人のもとに届く合図だよ。自信持って。」
「はい。」
少年ははにかんでうなずいた。
かわいいな。
そう思いながら、その顔にどこかで会ったことがあるような騎士感を覚えた。
でも、記憶のどこにその顔があるのかわからずじまい。
「傘と、そして素敵なお話を読ませてくれてありがとう。」
「いいえ、お姉さんも濡れて風邪ひかないようにしてください。」
少年は何度も頭を下げて去っていった。
「うう、寒い。確かに体が冷えたみたい。温かい飲み物でも飲んでいこうかな。」
私はまだ空の買い物バッグを見なかったことにして、行きつけの喫茶店に向かった。
だいたい、夜勤明けで疲れてるのに、ミナとの夕飯のためにけなげに買い物までしようとしてるのよ。
そんな彼女に冷たくない?
少年との出会いでいい気分になっていたものの、また朝の一見を思い出して、気分が重たくなってしまう。
人ってつくづく、一人では生きられない生き物なのね。
だって、ほんの数秒前には平和な気分でいられたのに、もしかして自分は愛されていないのだろうかと疑った瞬間、
心臓をぎゅっと掴まれたような苦しさを感じてしまうのだから、依存する女にはなりたくないな。
いらっしゃいませ。
こんにちは。
お店の中はカウンター席とテーブル席が3択あるだけの小じんまりしたもので、ちょっと昭和な香りのするレトロなインテリアのお店。
こちらにどうぞ。
カウンター席の一つを示され、私はうなずいてその席に向かった。
一つ席を開けたところに、50代後半ぐらいの男性が座り、コーヒーを飲んでいる。
失礼します。
12:03
どうぞ。
笑顔が素敵なランディーなおじさま。
お子様な私はカフェオレを頼んで、温かな湯気をあげるカップを両手に持って、ほっと息をつく。
体の中に染みわたる温かさとミルクのほんのりとした甘さに思わずため息が出てしまう。
そんな私に隣のおじさまがくすっと笑う。
失礼。コーヒー一杯に本当に幸せそうな顔をするなと思って。
おいしいって感じられるのって幸せですから。
男性は感心したようにうなずくと、おいしそうにコーヒーを飲む。
私はどうも自分の気持ちを素直に表現することが苦手で、
心の中の感情を覆い隠してしまう。
気持ちすら人に見せない究極のケチなのかもしれない。
面白い表現ですね。
それを言うなら極度の恥ずかしがり屋とも言えますよね。
優しく言い直していただいてありがとう。
そういえば、私の昔の彼女もあなたのように自分の気持ちに素直な人でした。
偶然にも今日、再会しましてね。
元彼女の方ですか?それって気まずくないですか?
いや、遠くで見かけただけです。
同僚と大きな口を開けて楽しそうに笑う姿を見て、すぐに彼女だと気づきました。
すごくほっとしたというか、別れを選んでよかったのだと思いました。
今も彼女のことを大切に思っていらっしゃるのですか?
ええ。別れを決めた時も自分の人生を振り返ってみても、彼女は最愛の人です。
なら、なぜ別れたのですか?
それは私に勇気も自信もなかったから、ということでしょうか。
私には、私の思い描く理想の未来像があって、彼女には私とは全く違う未来像があった。
結婚というのは、二人の他人が同じ未来を共に歩んで、同じ世界を築いていこうという約束です。
私には、自分の世界に彼女を引きずり込むだけの自信もなかった。
歩み寄れなかったのか?と思っていますね。
私もずっと考えていました。
でも、いずれその歩み寄ったという気持ちゆえに、相手をなじる自分や、笑顔を失っていく彼女を想像するだけで恐ろしくて仕方がなかった。
15:11
まあ、逃げ出してしまったんです。
でも、今日彼女と再会して、改めて自分の不器用さに嘆き、もっと早く素直に思いを伝えていればと後悔しました。
それを彼女さんに伝えてみては?
いや、今の私にその資格はありません。
おじさまの寂しげな笑顔に、私は何も言えなかった。
初めてお会いした人にこんなことまでお話してしまって。
でも、あなたと話せてよかった。
では。
あの。
ガクンと体が揺れるような気がして、私ははっと目を開けた。
そこはいつもの喫茶店ではなく、自分の家。
あれ、おじさまは?
え、夢?
私は、ダイニングテーブルにつっぷすようにして眠っていたのだ。
テーブルの上には買い物カゴ。
あんなにリアルだったのに、すべては夢だったということ?
あの少年も、おじさまも、私は混乱して頭を抱えながら、ひどく寂しい気持ちになった。
夢だったと片付けられない、強い思いが、あの二人との出会いの中で生まれていた。
なんでなんだろう。
少年の気真面目な、時にはにかんだ表情。
おじさまの優しい微笑みと、感情を心の中にしまっている複雑な表情。
二人を思い浮かべた瞬間、私は気づいた。
ミナトだ。
二人はミナトに似ている。
私は勢いで立ち上がり、ミナトの部屋に向かう。
黙って開けるのは悪い気もしたけれど、引き出しを開ける。
貴重面にしまわれた引き出しの奥に、見覚えのある古ぼけたノート。
あの少年のノート。
脚本を書きたいと言って悩みを抱えていた少年。
私はノートを手に取り、ページをめくっていった。
18:00
見覚えのある一文を見つけて息を飲む。
この雨が君の悲しみを洗い流し、虹のような幸せを運んでくれたらいいのに。
確かに自分が恋に出して読んだ一文。
その後のページにもたくさんのお話が綴られていた。
でも白いページが何ページも続いて、その先にはお話ではない、
いくつかの計画書のようなものが並び始める。
彼女の誕生日のプレゼント計画。
手作りプラネタリウム。
ビール付き。
自分で言うのもなんだが、手作りにしてはかなりクオリティが高い。
そういえば、そんなこともあったな。
失敗した。喜んでもらえなかった。
結構よくできてると思うんだが、やはりマリにはサプライズ感も必要なんだな。
反省。
まさか、あれが手作りだったとは知らずに、
私は確かそのプラネタリウムをしょぼいと言った記憶がある。
天井を見るために寝そべって、ビールもぬるいと文句を言っていた記憶が。
プロポーズまでの道。①
家族はたくさんがいいよね。
僕は最低3人は子供が欲しい。
いきなり子供は何人欲しいと聞くのは、マリにプレッシャーを与えるから、
マリが大好きな動物のぬいぐるみをプレゼントして、
動物は一度に何匹も埋めるからいいよねと切り出してから、
僕たちは何人欲しいのかと聞いてみよう。
周りくどいかな。
プロポーズ?赤ちゃん?
今朝の会話とは真逆の計画に、私は頭が真っ白になった。
ミナトは結婚も赤ちゃんも望んでるの?
でも、動物のぬいぐるみって私もらった覚えがない。
そう思った時に、ふとミナトと交わした会話を思い出した。
動物の赤ちゃんって可愛いよな。
ね。
でも、それに比べて人間の赤ちゃんは大変よ。
地球を大地生むのが大変。
毎日思うもの、私には無理だって。
何時間も鎮痛で苦しんで、最後は花からスイカの大絶叫よ。
私はただ、自分の毎日の仕事の光景を話しただけのつもりだった。
でも、あの時のミナトの顔は、
私が子供を持つことを望んでいないと感じ、
21:03
自分を隠していたのかもしれない。
おじさまが、笑顔で気持ちを追い隠していたように。
プロポーズまでの道、丸一。
初心に帰ろう。
マリは子供を産むのを今は想像できないみたいだ。
そうだよね。
仕事柄、出産が大変なのはマリが一番わかってるんだから。
僕が先走りすぎた。
反省。
その前に、僕との結婚を考えてくれてるのかな。
思い切って聞いてみるか。
聞かれてない。
プロポーズまでの道、丸一。
マリをもっと知りたい。
今日、マリが帰ってきて、新婚の同僚さんの話をした。
結婚というのは、
二人の他人が同じ未来を築いていこうという約束なんだから、
趣味趣向が合わない者同士で結婚したら、
愚痴しか言わない。
そんな結婚したくない。
僕たちはどうだろう。
もっとマリのことを知らないと。
違う。
あれは同僚のクミ子の愚痴ばかり聞かされるから、
私たちはそんなことないよねって意味で言ったの。
プロポーズまでの道、丸一。
週末、お互い休みを取ってスキーに行かないと誘ってみたが、
ダメだった。
マリは休みの日は休みたいらしい。
作戦変更。
映画も好きなマリのためにプロジェクターを買ってみるか。
プロジェクター?
マリが友達と温泉に行った。
楽しそうでよかった。
ここから先には計画は書かれておらず、
日々の感情が日記のように綴られていた。
新しい仕事を任された。
念願の企画開発部。
マリも驚くだろうな。
しっかり勉強しよう。
もちろん、引き継ぎもしっかり。
やはり、一から何かを作るのは楽しい。
明日のプレゼン、頑張るぞ。
大事な取引先で、発注ミス。
きちんと引き継いだのに。
全て僕の責任なのか。
周りはとりあえず被っとけと言うが、
そういう問題じゃない。
え?そんなことが?
24:01
マリは今日も夜勤だ。
そろそろ会って話したい。
企画開発部を外された。
悔しい。
誰も僕の話を聞いてくれない。
長崎への移動を脱進された。
マリと話したい。
そろそろ決めないと。
辞表を出した。
事務的に終わった。
何それ。
ノートはそこで終わっていた。
私は、心をえぐられるような後悔を感じた。
ごめんなさい。
自分が望むことばっかりで、
ミナトのことを何も聞いてあげられなかった。
ちゃんと謝らないと。
それを教えるために、
あの少年とおじさまは現れたんだ。
ただいま。
お帰りなさい。
私はソファに座り、
じっとミナトを見つめ、
ごめんなさい。
どうしたの?
私は今手にできている幸せを、
もっと大事にするべきだった。
ミナトがいてくれること。
黙っていても、
将来を夢見られる環境を作ってもらえていたこと。
もっとちゃんと言葉にして言わなきゃいけなかった。
大好きだってことも。
自分の気持ちは手に取るようにわかるから、
ミナトにも伝わってると思い込んでた。
そのくせ、
自分の言葉はミナトにどう伝わるかは考えてなくて、
たくさん傷つけて、
ごめんなさい。
ノート。
勝手に読んでごめんなさい。
私が手にしているノートを見て驚き、
そして何かを諦めたように。
ごめん。黙ってて。
謝るのは私の方。
全然気づいてあげられなくてごめんなさい。
ノートを見つけてくれてありがとう。
ミナトは一度も私の顔を見ることなく、
27:03
次の言葉を探している。
きっとこれが、
おじさまの言っていた瞬間。
マリと一緒にいることは本当に心地よくて、
このまま永遠に時間が過ぎてくれたら、
どんなに幸せだろうと思ってた。
でも、
今はお互いが違う方向を向いてる。
それは、
二人にとっていいことではないと思うんだ。
私は涙を隠すために、
ソファーの上で膝を抱えて顔を覆った。
二人の求めているものが違いすぎる。
今まで触れずに来てしまったけれど。
違うの。
私は二人で旅行も行きたいし、
子供も欲しいし、
ミナトと結婚したい。
ミナトがそばにいる日常を当たり前だって、
恋しすぎて私が悪いの。
私…
変わらなくていいんだよ。
マリが悪いとか、
僕が悪いとか、
そういうことじゃないんだ。
二人の幸せを感じる世界は、
いつからか永劫線で、
交わることがなくなってしまった。
それでいいんだよ。
こうなることが、
僕たちの必然なんだから。
だから、
終わりにしよう。
幸せとは、
そんなに大それたことじゃない。
日常の小さな出来事で、
心が揺さぶられる瞬間、
それを共有できるとしたら、
それがこの上ない幸せ。
私とミナトの間に、
確かにそれはあった。
ミナトはよく、
ベランダで空を眺めていることがある。
私に、
ごめんね、インドアで、
と謝るが、
私は、
その姿を見ているだけで、
心が柔らいだ。
逆に、
旅行の計画に舞い上がる私に、
ミナトは好きなようにしていいよと任せてくれ、
私が一人で盛り上がってごめんねと言うと、
マリが楽しそうな姿を見ているのが嬉しいと、
そう言ってくれていた。
とても小さなこと。
その小さなことの積み重ねで、
毎日の生活が幸せに包まれる。
二人が一緒にいるということを、
当たり前と思い始めた瞬間から、
30:03
その幸せはこぼれ落ちていくのだろう。
私は、
ミナトとの生活を当たり前と思ってしまった。
そして、
大好きな彼を失おうとしている。
私は、
ミナトのことが大好き。
ずっと一緒にいたい。
でも、
今の私にはそれを言う資格はない。
これ以上の言葉を紡ぐことはできなかった。
僕も、
マリが大好きだよ。
不器用でごめん。
本当に、
今までありがとう。
こちらこそ。
ありがとう。
私たちはそっと握手を交わした。
数日後、
ミナトは私の勤務中に荷物をまとめ、
一緒に暮らしたマンションを出て行った。
今日も夜勤明けの朝食。
喫茶店でモーニング。
トーストにサラダとスクランブルエッグ。
そして、
カフェオレ。
カウンターに座るのは、
私一人。
でも、
横の席には、
ノートがある。
あの少年が、
物語を綴っていたノートが。
私はミナトと別れる時に、
そのノートを譲って欲しいとお願いしたのだ。
なんでこんなもの欲しいのと、
ミナトは不思議がっていたが、
残して行ってくれた。
今更かもしれないが、
私はもっとミナトについて知りたい。
もしかしたらあるかもしれない。
おじさまの語っていた、
未来の出会いのために。
そして、
今度は私が、
このノートに物語を綴っていきたいと思っている。
ミナトが私にくれたチャンスとして、
これからの未来を書き留めていきたい。
悲しみを洗い流して、
幸せな虹がやってくることを信じて。
出演
33:01
古川しおり
石崎ひろき
椿ゆりか
拓磨直行
杉山さくら
脚本
ゆきえ
演出
内田たけし
編集
こうか
こんゆうた
スタジオ協力
専門学校東京アナウンス学院
プロデューサー
富山正明
制作
株式会社ピトパ
33:49

コメント

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