物語の背景と設定
明かりが落ちた店内、いつもとは違うBGM。
一人また一人と、店員もキロにつくこの時間。
一人残った本日は、私なっしーが、気の向くままにおしゃべりしたいと思います。
今宵はそんな一人語りにお付き合いくださいませ。
お久しぶりです。
このひとりごと回はなんと1年ぶりくらいで、
そのことに一番驚いたのは、私なっしーです。
喫茶クロスロードのひとりごと回は、
普段の店員同士の会話形式ではなく、
店員一人がひたすら自分の推しを語る回。
題材も本以外でも何でもokということで、
今日はなっしーが、おすすめ漫画について一人語りをいたします。
今日紹介するのは、大奥。
私の大好きな吉永文先生の書いた、
男女逆転の大奥という漫画です。
男女逆転というマクロ言葉がつくのは、
この漫画の中では、とある事情で、
三大将軍家光以降、一部を除いて、将軍は女性だからです。
もし、あの徳川幕府の実家を握っていたのが女性だったら、
そんなもしもを考えさせてくれる、
SFかつヒューマンドラマの要素を持つ、
この漫画を今日は語らせていただきます。
ちなみに今日はネタバレを盛大にしていきますので、
もしこれから大奥を楽しみたいという方は、
楽しんでから聞いていただくことをおすすめします。
また途中、性的虐待の話にも触れるので、
こちらをご了承の上、お聞きくださればと思います。
まずあらすじを紹介していきましょう。
舞台は江戸時代初期、三大将軍家光の頃です。
ある伝染病が、突如として日本を襲います。
この伝染病の名は、赤面放送。
山深い農村から、突如として流行りだしたこの病は、
不思議なことに、若い男子のみがかかり、
かかったら5人に1人しか助からない、
恐怖の死亡率を叩き出す恐ろしい病です。
この病が全国に広まり、日本全体で男子の数は激減、
家を継ぐはずの男子がのきなみ死んでいくので、
女が主体となって、家業も生活も回していかなければならなくなります。
この時代に女に生まれてたら本当に大変ですね。
そんな時代、病の魔の手は、なんと将軍家まで及び、
三大将軍家光も、この病で命を落としてしまいます。
つまり徳川滅亡の危機、徳川の血が途絶えてしまう。
そんな時、家光の馬であった笠賀の壺根は、
この将軍の死により、再び戦国時代の混乱が訪れるのを防ぐべく、
徳川直系を絶やさないように、
その娘を囲む男性ばかりの王国を作った、
というのがこの物語の始まりになります。
つまり、男だらけの王国。
だから、男女逆転王国なのです。
女性の実権と男性の立場
それではここから、私の王国の推しポイントを3つ紹介したいと思います。
1つ目のポイントは、女が実権を握った社会で見えてくるものです。
この作品では随所に、男女の立ち位置が逆転していて、
それを読者に強く意識させる言葉が出てくるんですね。
男が非常に少なく、かつ種馬として重宝される10代将軍の頃までは、
庶民の間でも、男の子は女の子と違って、
自分一人で生きていこうっていう気がいがないって言われたりとか、
誰の稼ぎで食って生きてると思ってるんだっていうセリフを、
女性が言うセリフだったという描写があり、
まさに男性と女性の立ち位置が逆転していることがよくわかります。
でも、なんだかこのセリフに違和感があるなぁと思いませんか?
私は多くを読んでいて、この部分に違和感を感じて、
その感覚が大事だと思ったんですね。
漫画に出てくる登場人物の男性だって、
自分の力で生きていこうっていう気概を持っている人だっているし、
有能な男性だっています。
だからこのセリフってどうなのっていう感覚を持ったんですよね。
つまりこれは、このセリフそのものが性別だけで相手を決めつけているということ。
これを女性に置き換えても同じなんだろうなということに気づきました。
私が一番違和感を感じたシーンが、
11代将軍家成の母春貞のセリフです。
11代目の将軍は、この多くの物語の中で、
初めての男性将軍である家成です。
ですが実際の政治的実験は、母の春貞が握っていました。
つまりこの社会の大多数である女が、実験を担っていたということです。
家成は、若い男子だけがかかる恐ろしい病、
赤面放送の根絶に向けて頑張りたいっていう思いを、
母春貞に伝えたところ、こう一括されてしまいます。
男がそういう祭り事に関わることを、ちまちまこの母に意見せずともよい。
途中は省くんですけど、
そもそも男など女がいなければ、この世に生まれ入れることもできないではないか。
うんぬんかんぬん。どう思いますか?
このセリフ、男子が政治について考えられるわけがないという固定観念が、
この漫画の中にはあることが印象付けられますよね。
でもこれを実際の歴史になぞって考えてみると、
男が将軍になることが当たり前として受け入れられてきたからこそ、
女性も政治に口出すもんじゃないと言われてきたんじゃないだろうか。
そんな意味合いを持って、私たちに届くセリフなんですよ。
このシーン、春貞の男がっていうセリフが大語まで抜き取られていて、
そのセリフにビクッてなる感覚があって、読んだ時とっても怖かったんですよね。
うむを言わせない圧力とかそういうものを感じる場面でもあって、
きっとこんな風に言われたら言い返されないだろうなぁとも思うんですけど、
でも冷静に考えたら、まず男がってくるのは変なんじゃないかなとか、
本当にそれで納得できるのかなとか思ったりして、
怖いけれど私の記憶に残ったシーンなんです。
オークの役割と時代の変化
皆さんはどう感じましたか?
そんな感じで、この漫画は女が実権を握った社会ってどういうことなんだ?
ということを考えさせてくれるのですが、
この舞台となるオークがどんな役割を果たしているのかということも、
社会状況によって変わっていきます。
これが私の今日話したい2つ目のポイントです。
この漫画の流れの中で、オークは世の中の男女比率の影響を受けて立ち位置を変えていきます。
具体例として今回は2人の将軍の時代に絞って話します。
まずは5代目の将軍である徳川綱吉の世。
オークは女将軍の長愛を受けるべく、男が己の美しさや勇猛さを競い合う場所。
こう言ってしまうとあれですが、男の園です。
この5代将軍綱吉がちょっとタレ目の幼顔で愛らしく描かれていることもあり、
彼女の長愛を受けようと競う様が描かれています。
また世の中は女性ばかりで、オークに貴重な若い男子を集める力があるということが、
それだけ将軍の権威の象徴という捉え方もされています。
将軍でありながら、四次を生むことも求められるという女将軍としての辛さが垣間見えるのが、
この5代将軍綱吉とオークの関係でもあります。
まあでも例えると大黒柱をしながら、子供もたくさん産みなさいよって言われている感じですから、
その状態は結構辛いですよね。
一方、時代は飛びますが、13代将軍家定の頃、
男女逆転の世界の背景
この頃のオークはこじんまりと縮小傾向、5代目の頃の華やかさはありません。
理由として、この頃は日本は赤面放送を克服し、男女比率が半々に戻りつつあります。
その社会の流れを受けて、11代目から男子を将軍につけることができたというわけですが、
その際に四次が生まれまくってしまったんですね。
どういうことかというと、男性将軍は女性のたくさんの素質を持てるので、
将軍の着手、実の子供はたくさん生まれますよね。
そしてその子だくさんによって、幕府は財政難になってしまったんです。
さらに12代目の将軍も男子なんですけれど、
後に13代将軍になる家定は女性です。
そしてこの娘、家定に対して、父親である12代将軍が性的暴行を繰り返すという描写があります。
このため娘を手放したくない父の思惑により、将軍になったのが13代家定の世になります。
この頃の王国はだいぶ縮小していましたが、家定の部下、安倍の政宏という女性が、
12代目将軍の非道な行為に気づき、
信頼のおける男性を王国において、家定を守るための王国と位置づけます。
そして王国にいることで、家定は守られるようになる。
王国に苦しめられた綱吉と守られた家定。
この二人の対比は改めて比べてみると面白いですよね。
物語の結末と整合性
その社会や時代によって王国の立ち位置が変わるのは、
この作品ならではの王国の描かれ方だと思っています。
そして最後に3つ目のポイント。
男女逆転王国を締めくくった結末の見事さです。
この王国では主要カップルは見事に男女逆にされています。
13代将軍家定の性質として有名な厚姫は、
種厚という男性になっており、女将軍の家定と結ばれます。
ところが14代目、女将軍家持のもとに突入できたのは、
なんと弟と取り替え早をしてきた女性の和宮様でした。
女性二人、これではカップルにならない。
どうするんだ。
そんな声も聞こえてきそうですが、
ここがこの物語最後にして最大の伏線です。
和宮様が女性であったことで、
江戸幕府終焉から明治への転換がスムーズに行われるのです。
どういうことなのって思いませんか?
思いますよね。
この王国の物語の何がすごいって、
歴史上の登場人物の並びはもちろん、
その私立や小ネタなんかも含めて、
男女逆にしても整合性があるところです。
そしてそのパズルのピースがピタピタはまっていく感じが、
本当に読んでいて気持ちいいし、
うまくはめたなーって感動できるところなんですよね。
そしてこの和宮様のピースを女性にしたことで、
このパズルはうまく完成するんです。
散々ネタバレしてきましたが、
この最後の最後はぜひ読んでいただきたい。
ということで、どう締めくくられるのかはお伝えしませんが、
見事の二文字に尽きるということはお伝えしておきます。
読み終わった後、もしかしたら、
実は徳川の将軍はずっと女性だったのかもしれない、
そんな気持ちになると思います。
さあ3点に絞ってお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
今回は論点からずれるので省略しましたが、
あの赤面放送をどうやって克服したのか、
という物語もとても面白いですし、
各将軍の恋愛模様もとても楽しめる作品になっています。
私の推しカップルは、13代将軍家定と種厚カップルですが、
皆さんの好きな組み合わせもぜひ教えていただけたらと思います。
歴史が好きな方もそうでない方も、
ぜひこのオークで男女逆転の世界を楽しんでみてください。
そしてナッシーと語りましょう。
ここまででトークテーマは終了ですが、
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