今日も皆様一日お疲れ。お酒じゃなくてミルクワインかが。
こちらは、島根県出雲市にある小さな牧場から配信しています。
スーパーやコンビニ、皆さんがいつでもどこでも買うことができる牛乳。
普段飲んでいる牛乳の魅力や、酪農の魅力を、酪農家がお話しする放送となっております。
お手元に牛乳、ホットミルクを準備して聞いていただくと、より美味しい牛乳を味わうことができると思います。
牛乳飲む?牧場配信始まりです。
皆さんこんにちは。川上牧場の川上哲也です。
牛乳を絞るだけでなく、どうすればもっと経営が面白くなるか、日々試行錯誤している牧場主です。
こんにちは。研修生です。哲也さん、よろしくお願いします。
そういえば、哲也さん、この牧場には白黒模様のホルスタイン種の牛さんだけじゃなくて、時々茶色い和牛の顔しがいますよね。
あれってどうしてなんですか?
お、いいところに目をつけたね。実はあれ、うちの牧場の収入をもう少しアップさせるための僕なりのチャレンジなんだ。
今日はその、酪農家が和牛の子牛を育てるという、ちょっとマニアックが話をしてみようか。
わー、聞きたいです。牛乳を絞るだけが酪農じゃないんですね。
そうなんだ。具体的には、受精卵移植、僕たちはETって呼んでるんだけど、その技術を使っているんだ。
簡単に言うと、優秀な和牛の受精卵を、うちのホルスタインのお母さんのお腹を借りて産んでもらう。
いわゆる代理出産みたいなものだね。
へー、そんなことができるんですか。それで、哲也さんのノートの記事を読んだんですけど、そのチャレンジでものすごく高級な受精卵を使ったって本当ですか?
はは、よく読んでるね。そうなんだよ。僕も最初は夢を見てね。よし、どうせやるなら最高級の和牛を産ませてガンガン儲けてやるぜって決まってたんだ。かっこわらい。
それで、鳥取の受精卵バンクで、当時一番高かった受精卵を買ってみたんだよ。
一番高い受精卵。ちなみに、おいくらだったんですか?
一個、八万八千円。
八万八千円、卵一個が?車のエントリーモデルのナビと同じくらいの値段じゃないですか。それでどうなったんですか?ドキドキします。
それを三つ買って、二頭が無事に生まれてくれた。一頭はすくすく元気に育って、市場で約62万円で売れたんだ。
でももう一頭は、生まれつき少し巨弱で、頑張って育てたんだけど、約24万円だった。
62万円、すごい。でも受精卵代やミルク代、いろいろ経費がかかりますよね。結局利益は出たんですか?
うまくいった方だけで計算すると、受精卵代や約10万円かかったミルク代、その他の経費を全部差し引いて、手元に残った利益は約21万円だった。
21万円の利益、やっぱりすごいじゃないですか。あれ、でも徹也さん、あんまり嬉しそうな顔じゃないですね。
そうなんだよね。記事にも書いたけど、これが僕の正直な感想。思ったほど儲からない。むしろ、この利益の裏には、楽能家にとって見過ごせないたくさんのリスクが隠れていることに気づいたんだ。
リスクですか?
うん。例えば、高い受精卵を無駄にしないために、妊娠の可能性が高い、健康で状態の良い母牛を選ぶ必要があるんだ。でも、そうやって選んでいると、その母牛が牛乳を絞るサイクルに戻るのが遅れて、本業である牛乳の生産量が落ちてしまう可能性があるんだ。
あー、なるほど。和牛で利益を狙うあまり、本業がおろそかになってしまう可能性があるんですね。
その通り。それに、もし生まれた孔子が病気になったり、今回みたいに虚弱だったりすると、高い受精卵代やミルク代を考えると一気に大高地になるリスクもあるんだ。まさにハイリスクハイリターンなんだ。
うわー、シビアな世界ですね。一見すごく儲かりそうな話に見えても、そんなにたくさんの難しい問題があるなんて。
そうなんだよ。だから、いろいろやってみた僕の今の結論としては、落農家が副業でやるなら、F1っていう和牛とホルスタインのハーフの孔子よりちょっと高く売れればラッキーぐらいの感覚で、知り合いから安く譲ってもらったそこそこの血統の受精卵を使ってコストをかけないでやるのが一番バランスがいいのかなって。
狙うよりも現実的にコツコツとなんですね。落農って本当に奥が深い。
もちろん本気で和牛との複合経営を目指すなら、どんどん高級な受精卵に挑戦するべきだと思う。でもそのためには相応の覚悟と設備投資が必要になる。僕が伝えたいのは、やる前にそういうリスクや自分の牧場の状況をしっかり見極めることが大事だよってことなんだ。
なるほど。すごく正直なお話ありがとうございます。
でも僕はこれからも和牛ETは続けていくし、挑戦はしたいと思っている。それは落農家さんも和牛農家さんも、そして最終的に美味しい和牛を食べる好評者の皆さんも、みんながハッピーになれる仕組みがきっとどこかにあると信じているからなんだ。その探求はこれからも続けていきたいね。