角太郎の行方を訪ねる友吉
おしゃべり本棚。この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。 山本周吾朗
3年目 第1回
どなたです そう言って覗いた顔を見て友吉はまごついた
家を間違えたのかと思って慌てて左右を見回したが 間違えるはずはなかった
ここに角太郎という職人がいたはずなんですが 引っ越しでもしたんでしょうか
さあ、角太郎さんね
死獣絡みの実定な男だった
聞いたことのない名だが、おたよ、おめえ、角太郎さんって人知ってるか そんな人は知らないね
障子の向こうでめんどくさそうな声がした 私どもはこの3月に移ってきたんだが
その前には吉兵衛という同業の担ぎ護婦がいましてね その男は1年ばかりここにいましたよ
そうですか それはどうもとんだお邪魔を致しました
友吉はとぼんとした気持ちで路地を出た 旅がっぱに憎りばきで番傘をさしている
そのちぐはぐな格好をそっくり映したような気持ちだった 箱根を越す時からぶっ続けの雨は江戸ではもう半月以上になるという
7月20日だというのに合わせを着てもいいほどの冷え方であった どうしたんだ、角のやつ
京橋八丁堀の裏町 暮れかかる道の上は足の甲をこすほど雨水が溜まっていた
いくら頼りをしねえ約束だって 引っ越し先くれ知らせてよこさねえ方があるか
どこへ越し上がったんだろう 友吉は下打ちをしながらつぶやいた
二太郎との再会と角太郎の情報
張り詰めてきた気持ちが一時に崩れて 毛締めのつかないがっかりした頭の芯に
ふと 大きくの美しい目が大きく描き出された
おー友さんじゃねえか やっぱりおめえかどうしたい
風呂帰りであろう浴衣に平受けで手ぬぐいを持った37八の男が傘を傾けながらやってくる
友吉にとっては親方筋にあたる大工の当僚の息子で 二太郎という堂楽者だった
ああこれは堀の若当僚でございましたか ずいぶん久しぶりの対面じゃねえか
なんだか髪型へ行っていたってが 今帰ってきたのかい
まだこんな格好なんでそうかい それがおめえこれから各のところへ行くつもりなんだろうが
かかいいねーぜ 若当僚はご存知ですか
かくはおめえ お菊さんと目おとになって2年前に元のところは引っ越してまった
なんでも今は深川あたりにいるってかったぜ かくが
お菊さんと 友吉は足が震えるのを感じた
二太郎はふと往来仲だということに気づいた様子で どうだ友さん久しぶりに会ったんだ
どっかで浴衣にでも着替えて一口つき合わねえか だっちにしてもその格好じゃしょうがあるめえ
いい家があるぜ ありがとうございますが
お菊と角太郎が目おとになったという 友吉にとっては信じられないことであったが
今げんに家を訪ねてスカをくらったばかりなので もしやという鋭い疑いが胸へ突き上げてきた
それで 彼は二太郎と付き合う気になった
詳しいことが聞けるだろう そう思ったのである
友吉の過去と広田屋の遺言
桜橋の貸付地に河羽というちょっと名の売れた小料理屋がある
二太郎は馴染みと見えていい顔だった そこで友吉は旅自宅を脱ぎざっと風呂を浴びて
さっぱりした体に浴衣をひっかけ 堀の見える2階の小座敷で二太郎と
杯を取り合った 全体友さん
おめえ どうして髪型屋なんぞ出かけてったんだね
調子を二本ほろっとき始めたところで 二太郎が話を誘い出した
日に四問目稼ぐ職人は百人に一人と言われてる おめえはその百人に一人の稼ぎ手だ
そいつが広田屋のなくなるのと一緒にふいっと髪型屋へ行ったのは
わけがあるだろう
ええ それにはちょいと身の恥を話さなくちゃならねんですが
おっと 杯は置かねことにしよう
実は こうなんです
二太郎の言う通り友吉はいい職人だった 五郎兵衛町の広田屋伊兵衛という大工のもとで
後悔からずば抜けた腕を発揮し 17歳の時にはすでに一人前の手間取りになっていた
広田屋は当時左前で友吉とその弟分の角太郎という二人しか職人を持っていなかったが
伊兵衛は友吉を一人娘の大きくの無故にして やがて広田屋を盛り返そうと考えていた
ところが 3年前の春
伊兵衛は不審場で大けがをしたのがもとで ついに儚いことになってしまった
そしてその隣中に お聞くと友吉と目音になってもう一度広田屋の名を盛り返してくれと
言い言したが さらにそれへ付け加えて
だが それには
友吉に頼みがある と
苦しい息の下から言った 友吉はいい職人だ
けれども たった一つの傷は
手なぐさみをする おめえは隠していたつもりだろうが
ほら知っていた 場合が場合だけに友吉は相口を胸へ突っ込まれたような気がした
事実 彼はその二三年来
ひそかに博打場へ出入りしていたのだ お願いだ友吉
叱るんじゃねえ 死んでいく異兵が心からのお願いだ
今日限り サイコロを捨ててくれ
足はその時 泣きました
友吉はぐっと酒を煽った そうです
泣いてお館に約束しました この場限り博打はやめます
二度とサイコロに手は触れませんと ヒーロー隊はそうぞ喜んだろう
喜んでくれました そして
その晩に亡くなったんです 足は
親方の喜んで死んだ顔を見て こいつは少年を入れ替える時だと思いました
それで 神が絶えたつ決心をしたんです
それまたどうしてだね
悪仲間のいる江戸から離れてさっぱりと サイコロの汚れを洗ってきたかったんです
3年も足を抜きゃ仲間とも縁が切れる それから新規巻き直しに始めるつもりでした
そうだ そんな入り組んだわけがあったのかい
お菊と角太郎の関係と友吉の決意
二太郎は友吉の杯に酒を注いだ とっぷり暮れた窓の外は依然として
めいるような雨の音だった それで何か
その時お菊さんのことはどうなってたんだね ヒロタヤがご存知のようなわけですから
一時店を畳んだ上八丁堀の角太郎の家へ 足の帰るまで預かってもらったんです
それと その留守の間に角とお菊さんができちまってたんだな
ひってぇ野郎があるもんだ おめえが髪型を立ってから半年もしねえうち残ったぜ
そいつは本当のことでしょうか お菊さんは評判の小町娘だったから噂も相当派手だった
恥をかくのが嫌でなかったら誰にでも聞いてみね 丸曲げに言ったお菊さんが買い物に出歩く姿
あだなもんだったぜ 友吉は二三杯煽りつけた
びしょびしょと小闇もなく降る雨の音が 笹くれだった神経にイライラと響く
二人はどこにいますって 友吉がつっかかるように聞いた
よか知らねえが深川の方で見かけたものがあるって話だ さすがに大川のこっちには住めなかったんだろう
自然うちの建場には角は来ねえから 若棟梁
よってもよう御座んすか よかったらどっかへくりこもう
いえそれには及びません 友吉の目は粘るような光を帯びていた
茅場町の山崎屋という宿の二階で友吉はその明る朝を迎えた 二太郎は自分の家へ造理を脱げと勧めた
そうすれば堀一家の兄分として今後の面倒を見ようという だが友吉は断って別れた
先のことなんかどうなろうと構わない気持ちだった 聞きたいラジオ番組何にもないそんな時間はポッドキャストで過ごしませんか
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