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            山椒魚 前編
2022-11-12 16:39

山椒魚 前編

007 221112  岡本綺堂  山椒魚 前編 朗読 坂田周大

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おしゃべり本棚。この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。 岡本輝道作
山椒魚 前編
K君は語る。早いものであの時からもう20年になる。 僕がまだ学生時代で、夏休みの時に木曽の方へ旅行したことがある。
八月の始めで第一日は諏訪に泊まって、 翌る日は塩尻から歩き出した。
爪襟の夏服に、キャハン、ゾウリ、唾の広い麦わら帽をかぶって、 肩に雑納をかけて、昔の木曽街道をぶらぶらとたどって行くと、
暑さにあたったのか、どうも気分がよくない。
なんだか頭がふらふらして、めまいがするように思われるので、 まだ日が高いのに、途中の小さい宿に泊まることにして、
駅の入口の古い旗小屋に転げ込んで、 ここで造理を縫いでしまった。すると、ここに妙な事件が起こったのである。
汽車がまだ開通していない時代で、往来の旅人はあまり多くないと見えて、 ここらの駅はずいぶんさびれていた。
僕の泊った旗小屋は、かなりに大きい家づくりではあったが、 いかにもすすぼけた薄暗い家で、木曽の気分を味わうには最も適当な宿だと思われた。
それが僕にはかえってうれしかったので、 足を洗って奥へ通ると、十五六のひなびた少女が二階の六畳へ案内してくれた。
すぐに枕を借りて一時間ほど横になっていると、 いい塩梅に気分はすっかりよくなってしまった。
懐中時計を出してみると、まだ四時にならない。
明るいうちにそこらの様子を見てこようと思い立って、 宿の浴衣を着たままで表へぶらりと出て行った。
別に見るところというのもないので、 引きじものの店などを冷やかして駅の真ん中を一巡して帰ろうとすると、
女学生風の三人連れに出会った。
03:00
どの人も十九か二十くらいの若い女たちで、 修学旅行にでも来てどこかの旗小屋に泊まって、
僕と同じように見物ながら散歩に出てきたらしく見えた。
すれ違ったままで僕は自分の宿に帰ると、
入口に二人の学生風の若い男が立っていて、
土地の空きんどう相手に何か買い物でもしているらしいので、
僕は何心なく覗いてみると、
商人は何かバンダイのようなものを並べていた。
魚屋かしらと思ってよく見ると、
そのバンダイの底には少しばかり水を入れて、
薄黒いような不気味な動物が押し合ってうずくまっていた。
それは山椒の魚であった。
箱根ばかりでなく、ここらでも山椒の魚を産することは僕も知っていたので、
しばらく立ち止まって眺めていると、
学生の一人はさんざん冷やかした末に、とうとうその一匹を飼うことになったらしい。
彼らは生きた山椒の魚を飼ってどうするのかと思いながら、
僕はその落着を見届けずに家へ入ってしまったが、
学生たちは大きい声でげらげら笑っていた。
お風呂が沸きました。
蚊の少女が知らせに来たので、
手ぬぐいをぶら下げて下の風呂場へ降りて行くと、廊下で若い女に出会った。
それは駅の真ん中でさっき見かけた女学生の一人であるので、
蚊の一組もやはり同じ宿に泊まり合わせているのだということを僕は初めて知った。
木曽の水は清いところであるから、いい心持ちで湯風呂に浸って、
一日の汗を洗い流して上がってくると、
一間隔てた次の座敷で何かどっと笑う声がまた聞こえた。
よく聞きすますと、
それは宿の入り口で山椒の魚を飼っていた蚊の学生たちで、
飼ってきたその動物を何かの入れ物に買おうとして立ち騒いでいるらしかった。
僕は寝転びながらその笑い声を聞いていた。
そのうちに夕飯の膳を運んできたので、
僕は薄暗いランプの下で箸を取った。
飯を食ってしまって縁側へ出てみると、
黒い山の影が額を圧するようにそそり立って、
大きい星が空いっぱいに光っていた。
06:03
どこやらで水の音が響いて、
その間にはたおり虫の声もきれぎれに聞こえた。
山国の秋だ。
こう思いながら僕は蚊屋に入った。
昼の疲れでぐっすり寝入ったかと思うと、
騒がしい物音に驚かされて冷めた。
蚊の学生たちは何のために三種の羽を飼ったのかということが今わかった。
彼らは動物学研究のためでも何でもない。
下座敷に泊まっている三人の女学生を脅そうという目的で、
蚊の奇怪な動物を飼い込んだのであった。
若い女学生たちは下座敷の一つの蚊屋の中に寝床を並べている。
その枕もとへ三種の羽をそっと這い込ませて、
彼女らにキャッと言わそうという悪いたずらで、
学生の一人は夜の更けるのを待って、
新聞紙に包んだ三種の羽を持って下座敷へしのんで行って、
それが守備よく成功したらしく、
かの女学生たちは夜中にみんな飛び起きて悲鳴をあげるという大騒ぎを引き起こしたのであった。
どこの学生だか知らないが寄生の途中か秘書旅行か、
いずれにしても若い女に対してとんでもない悪いたずらをしたものだと、
僕はにがにがしく思いながら再び枕につくと、
さらに第二の騒動が起こった。
三種の羽に驚かされた女学生たちは、
その正体がわかってようよう安心して、
いずれも再び枕につくと、
そのうちの二人が急に苦しみだした。
宿でも驚いてすぐに近所の医師を呼んでくると、
何かの食い物の中毒であろうという診断であった。
しかしその一人は無事で、
そのいうところによると、
三人は昼間から買い食いなどをした覚えもない。
単に宿の食事をとっただけであるから、
もし中毒したとすれば、
宿の食い物のうちに何か悪いものが混じっていたに相違ないとのことであった。
医師はとりあえず下毒剤を与えたが、
二人はいよいよ苦しむばかりで、
夜の明けないうちに枕を並べて死んでしまった。
09:00
こうなると騒ぎはますます大きくなって、
駐在所の巡査もその取り調べに出張した。
女学生たちの夕飯の前に出たものは、
やまめの塩焼きと豆腐のつゆとひらとで、
ひらの碗には湯葉と油揚げときのこが持ってあった。
きのこは土地のものもなお知らないが、
近所の山に生えるもので、かつて中毒したものはないということであった。
ことに同じものを食った三人のうちで一人は無事である。
いたずら者の学生二人も僕もやはりそれを食わされたのであるが、
今までのところではいずれも別状がない。
そうしてみると、きっと食い物のせいだとは言われまいと、
旗小屋のほうで主張するのも無理はなかった。
しかし、なんといっても、
人間二人が一度に変死したのだから容易ならぬ事件である。
駐在所だけの手には追えないで、
近所の大きい町から警部や医師も出張して、
厳重にその取り調べを開始することになった。
夕べ悪いいたずらをした学生たちも、
この旗小屋を立ち去ることを許されなかった。
その中で僕だけは全然無関係であるから、
自由に出発することができたのであるが、
この事件の落着がなんとなく気にかかるので、
僕ももう一日ここに滞在することにして、
一種の興味を持ってその成り行きを伺っていると、
昼飯を食ってしまったころに、
近所の町から東京の某新聞社の通信員だという若い男が来た。
商売柄だけに抜け目なくそこらを駆け回って、
何かの材料を見つけ出そうとしているらしく、
僕の座敷へもなれなれしく入ってきて、
何か注意すべき材料はないかと聞いた。
聞かれても僕は何にも知らない。
かえって先方からこんな事実を教えられた。
あの女学生は東京の学校の寄宿舎にいる人たちで、
何か植物採集のためにこの地へ旅行してきたのだそうです。
死んだ二人は藤田美音子と亀井兼子。
無事な一人は服部千佳子。
三人とも普段から兄弟同様に仲良くしていたので、
今度の夏休みにも一緒に出てきたところが、
二人揃ってあんなことになってしまったものですから。
12:01
生き残った服部というのは、
まるで失神したようにただぼんやりしているばかりで、
何を聞いても容量を得ないには警察の方でも弱っているようです。
何しろ気の毒なことでしたね、と僕は顔をしかめて言った。
実際若い女学生が二人までも枕を並べて旅に死ぬというのは、
あまりに悲惨な出来事であると思った。
ところでその前に三小の魚の騒ぎがあったそうですね、
と通信員はささやいた。
それとこれと何か関係があるのでしょうか。
あなたのご鑑定はどうです。
それも僕には全く見当がつかなかった。
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