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油を搾る話 中谷浮一郎
いつか江戸前の天ぷら屋で、天ぷらを食った時に主人から聞いた話である。 油は茅野油とごま油と半々に割って使っています。
手搾りの油があれば、ごまばかりの方が良いのですが、 この頃じゃ機械搾りしかありませんから、ごまだけでは少ししつこくなりますので。
という話なのである。 しかし機械の方がうまく搾れそうなものだと聞いたら、
ダメですね。 とことんまで搾ってしまいますから。
という返事であった。これはなかなか面白い話のようである。 機械で手搾り程度に搾って、それを手搾りと機械搾りとの中間くらいの値段で売れば、
天ぷら屋も儲かるし油屋も儲かるはずであるが、なかなか実行はされないことらしい。 この話は大業に言えば現代の経済組織の一つの層であると見られないこともない。
もし以上のことをよく了解した製造家があったら、 その人は機械を使って手搾り程度に止めておくかというに、
たぶんそれはしまいと思われる。 理由は本当に了解するということが、このような簡単な場合にもほとんど不可能に近いくらい困難なことであるからであろう。