00:00
商売の繁昌する家 田中幸太郎
芝公園大門脇に若本の本舗がある。 その若本の事務所は寺院の一部であった。
乾草家の松井圭吟君があるとき、その若本の坊君を訪問したとき、「あなたのところはどうしてこんなところに事務所を置くのですか?」
と言って聞いてみると、「これには面白い話があるよ。」 と冒頭して話した。
若本の主人、長尾錦薬がそこへ入って製薬に着手したときには、貧乏のどん底であったが、
たちまちメキメキと発展を遂げたので、狭くはあるし、寺の中にいるのも嫌だから他へ移転しようと思ってそれを住職に話したところで、住職が因縁話をしてそれを止めた。
それはここへ入ってきたもので失敗したものがない。 伊藤子町園もここへ入って金を作った。
その次に入ったのが不動銀行の牧野本次郎君であった。 だから引っ越さない方がいいだろうというので、何千万という大資産を作り、店はますます繁盛して、狭い寺の中では不自由であるが、それで出ないとのことであった。