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2024-09-16 09:38

#160【青空文庫】泣きんぼうの話

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小川未明「泣きんぼうの話」

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Ogawa Mimei title:A story about a crying baby

サマリー

泣きんぼうの子供の泣き声に困っているおばあさんが、子供を野原に連れて行くことになりますが、誰もその泣き声を聞き取ることができません。最終的に、子供とおばあさんは村からいなくなり、野原には一本のひまわりとひなげしが咲いています。

泣きんぼうの困難
泣きんぼうの話
小川美名、あるところに、毎日よく泣く子がありました。
その泣きよと言ったら、ひいひいと言って、耳がつんぼになりそうなばかりでなく、今にも火があたりにつきそうにさえ思われるほどです。
その近所の人々は、この子が泣くと、
また泣きんぼうが泣き出したぞ。
ああ、たまらない。
と言って、眉をひそめました。
泣きんぼうといえば、だれひとり知らぬものがなかったほどでありました。
こんな泣きんぼうでも、おばあさんだけは目にいるほどかわいいとみえて、泣きんぼうのあとからどこへでもついて歩きました。
いい子だから泣くでない。
そんなに泣くと、血がみんな頭にのぼってしまって大毒だ。
みなさんがあれあんなに見て笑っていなさる。
さあ、もういい子だから泣かんでおくれ。
と、おばあさんだけは言いました。
そんなやさしいことを言ったくらいで、きく子ではありませんでした。
ある日のこと。
往来の上で何か気にいらないことがあったとみえて、泣きんぼうは泣き出しました。
おばあさんはまた、大きな声を出しては困ると思ったから。
何がそんなに気にいらなかったのだ、言っておくれ。
なんでもおまえの気にいるようにしてやるから。
いい子だから、もうそんなに大きな声を出して泣かないでおくれ。
と、あとから子どもについて歩いて、おばあさんは頼みました。
泣きんぼうはやさしく言われると、ますますからだをゆすぶって、
そらを向いて、両手をだらりとたれて、
顔いっぱいに大きな口をあけて泣き出しました。
いがぐり頭を火にさらしながら、
涙はひかって、たまとなって火にやけた顔の上を走りました。
しらがのおばあさんはさしているひがさをじべたにおいて、
子どもをすかしたりなだめたりしました。
二人のたっている往来の空には、とんぼが羽をかがやかしながら飛んでいます。
「やだやだい、ひぃーっ!」と子どもは言って泣きました。
日ざかりのころであたりはしんとして、
つよい夏の日光が木の葉や草の葉の上にきらきらときらめいているばかりでした。
人々はうちの中でひるねでもしようと思っているやさきなものですから、
ものですから 頭を枕から上げてくどきました
また泣きん坊が泣き出した あんな嫌な子はこの世界中探したってない
不思議な結末
と罵ったものもあります 坊やいい子だ
おばあさんが悪かったのだからもう泣かんでおくれ 俺俺みんな出て坊やを見てたまげていなさる
あっちをごらん とおばあさんは
子供の気を紛らわせようと苦心しました けれど
子供は泣き止みませんでした この時あちらの家から誰か頭を出しました
やかましくてしょうがありませんね泣かないようにしてください と言いました
ほらごらんやかましいとおっしゃる いい子だから泣くでない
とおばあさんはシワのよった額際に汗を結んで子供に頼むように言いました すると子供は帰ってあちらの方を向いて今よりももっと大きな声を出して泣きました
どうしてこんなに大きな声がこんな子供の体から出るのだろうかと 誰しも思わないものがなかったほどであります
おばあさんは孫の泣くのを見て 今にみんな血が頭に昇ってしまってガンと言って頭が割れてしまうよ
と心配しました 昼寝をしようと思って家の中でできなくて眉を潜めているものは今にもあの声から
日が出てあたりの家や草や木に燃えついて空が真っ赤になりはしないかと思っていたの です
おばあさんは本当に困ってしまいました ちょうどその時誰も通らない往来を
あちらから男が自転車に乗ってやってきました おばあさんは子供をすかすために
もしもし この泣く子を連れて行ってください
とおばあさんは言いました よしきた
さんざあっちの野原へ行って泣くだ
と男はひょいと泣く子を抱き上げるとおばあさんの止める間もなく さっさとあちらの野原の方へ走って行きました
男は自転車に泣きん棒を乗せて広い野原の真ん中へ連れて行って下しました さあここでうんと泣くんだ
そしたら黙るだろう と男はたった一人子供を野原の真ん中に残して自分は自転車に乗ってまたどこへとなく走って
行ってしまいました 子供は野原の真ん中で
大きな声を出して泣きました けれど誰もその泣き声を聞きつけるものはなかったのです
太陽とくもとがこの声を聞きつけてびっくりしました そして
じっと舌を見つめていました ああかわいそうに
あの子を花にしてやれ と太陽は
一人で言いました この時おばあさんがとぼとぼ小道を探しながら野原へ歩いてきました
あんなにおばあさんが子供を探しています 子供が見つからなかったらどんなに嘆くでしょう
と雲は太陽に向かって言いました あの老婆も花にしてやれ
と太陽は言いました 子供と老婆が
二人とも村からいなくなったので 人々は驚いて方々を探し回りました
けれどついに見当たらずにしまったのです そして
広い広い野原の中に 明くる日
一本の背の高いひまわりの花と 一本の可愛らしいひなげしが
咲いていました
09:38

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