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ありときのこ 宮沢賢治
苔一面に 霧がぽしゃぽしゃ降って
ありの歩章は 鉄の帽子の日差しの下から
鋭い瞳であたりを睨み 青く大きな枝の森の前を
あちこち行ったり来たりしています 向こうから
ぷるぷるぷるぷる 一匹のアリの兵隊が走ってきます
止まれ 誰か
第128連隊の伝令
どこへ行くか 第50連隊連隊本部
歩章はスナイドル式の銃剣を 向こうの胸に斜めに突きつけたまま
その目の光ようや顎の形 それから上着の袖の模様や靴の具合
いちいち詳しく調べます よし、通れ
伝令は忙しく 滋田の森の中へ入っていきました
霧の粒はだんだん小さく小さくなって 今はもう
薄い乳色の煙に変わり 草や木の水を吸い上げる音は
あっちにもこっちにも忙しく聞こえ出しました さすがの歩章も
とうとう眠さにフラッとします 2匹のアリの子供らが
手を引いて 何かひどく笑いながらやってきました
そしてにわかに 向こうの奈良の木の下を見て
びっくりして立ち止まります あ、あれなんだろう
あんなところに真っ白な家ができた
家じゃない、山だ 昨日はなかったぞ
03:01
兵隊さんに聞いてみよう よし
2匹のアリは走ります 兵隊さん
あそこにあるの何?
なんだうるさい 帰れ
兵隊さん居眠りしてんだい あそこにあるの何?
うるさいなぁ どれだい
おや 昨日はあんなものなかったよ
おい 大変だ
おい お前たちは子供だけれども
こういう時には立派にみんなのお役に立つだろうなぁ
いいか お前はね
この森を入っていって 歩きる駐車殿にお目にかかる
それからお前はうんと走って 陸地測量部まで行くんだ
そして二人ともこう言うんだ
北緯25度 東経6林のところに
目的のわからない大きな工事ができました とな
二人とも言ってごらん
北緯25度 東経6林のところに
目的のわからない大きな工事ができました
そうだ では早く
そのうち私は決してここを離れないから
アリの子供らは一目散にかけていきます
保生は剣を構えて じっとその真っ白な太い柱の
大きな屋根のある工事を睨みつけています
それはだんだん大きくなるようです
第一 輪郭のぼんやり白く光って
ブルブルブルブル震えていることでもわかります
にわかにぱっと暗くなり そこらの苔はぐらぐら揺れ
アリの保生は夢中で頭を抱えました
目を開いてまた見ますと あの真っ白な建物は
06:05
柱が折れて すっかりひっくり返っています
アリの子供らが両方から帰ってきました
兵隊さん かまわないそうだよ
あれはキノコというものだって
なんでもないって 歩きる駐車はうんと笑ったよ
それから僕を褒めたよ あのねすぐなくなるって
地図に入れなくてもいいって あんなものを地図に入れたり消したりしていたら
陸地測量部など100あっても足りないって
おや? ひっくり返ってら
たった今倒れたんだ
保生は少し決まり悪そうに言いました
なーんだ あ、あんなやつも出てきたぞ
向こうに魚の骨の形をした灰色のおかしなキノコが
とぼけたように光りながら 枝がついたり手が出たり
だんだん地面から伸び上がってきます
2匹のアリの子供らは それを指さして
笑って笑って笑います
その時霧の向こうから 大きな赤い日が昇り
シダもスギゴケも にわかにぱっと青くなり
アリの保生はまたいかめしく スナイドル式銃剣を
南の方へ構えました
