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2023-12-18 05:41

#121【青空文庫】二人の兄弟・榎木の実

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島崎藤村「二人の兄弟・榎木の実」

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Shimazaki Toson title:two brothers/Chinese nettle tree

サマリー

二人の兄弟は、榎木の実が赤くなるのを待ちきれずに先に拾いました。また、遅くなってしまって実を拾えませんでした。しかし、最後にはちょうどいい時に二人が実を拾って楽しんでいます。

目次

00:00
二人の兄弟 島崎藤村
1. 榎木の実
早すぎた兄の子供
皆さんは、榎木の実を拾ったことがありますか?
あの実の落ちている木の下へ行ったことがありますか?
あの香ばしい木の実を集めたり、食べたりして遊んだことがありますか?
そろそろ、あの榎木の実が落ちる時分でした。
二人の兄弟はそれを拾うのを楽しみにして、まだあの実が青くて食べられない時分から、
早く赤くなれ、早く赤くなれと言って待っていました。
二人の兄弟の家には、奉公して働いている正直ないいおじいさんがありました。
このおじいさんは、山へも木を切りに行くし、
畑へも野菜を作りに行って、何でもよく知っていました。
このおじいさんが兄弟の子供に申しました。
まだ榎木の実は渋くて食べられません。もう少しお待ちなさい。
と、そう申しました。
弟は気の短い子供で、榎木の実の赤くなるのが待っていられませんでした。
おじいさんが止めるのも聞かずに、駆け出して行きました。
この子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上にいた一羽の樫鳥が大きな声を出しまして、
早すぎた、早すぎた、と泣きました。
木の短い弟は、枝になっているのを打ち落とすつもりで、石ころや棒を拾っては投げつけました。
そのたびに、榎木の実が早すぎた。
そのうちに、榎木の実が葉と一緒になって、ぱらぱらぱらぱら落ちて来ましたが、
どれもこれも、まだ青くて食べられないものばかりでした。
遅すぎた弟の子供
そのうちに、今度は兄の子供が出かけて行きました。
兄は弟と違って、気長な子供でしたから、
大丈夫、榎木の実はもう赤くなっている、
と安心してゆっくり構えて出かけて行きました。
兄の子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上にいた樫鳥がまた大きな声を出しまして、
遅すぎた、遅すぎた、と泣きました。
気長な兄はしきりと木の下を探し回りましたが、
赤い榎木の実は一つも見つかりませんでした。
この子供がゆっくり出かけて行くうちに、
木の下に落ちていたのを、みな他の子供に拾われてしまいました。
二人の兄弟がこの話をおじいさんにしましたら、
おじいさんがそう申しました。
一人はあんまり早すぎだし、一人はあんまり遅すぎました。
ちょうどいい時を知らなければ、
いい榎木の実は拾われません。
私がそのちょうどいい時を教えてあげます。
と申しました。
ちょうどいい時に実を拾う
ある朝、おじいさんが二人の子供に、
さあ、早く拾いにおいでなさい。
ちょうどいい時が来ました。
と教えました。
その朝は風が吹いて、榎木の枝が揺れるような日でした。
二人の兄弟が急いで木の下へ行きますと、
樫鳥が高い枝の上からそれを見ていまして、
ちょうどいい、ちょうどいい、
と泣きました。
榎木の木の下には、
赤い小さな玉のような実が、
そこにも、ここにも、
いっぱい落ちこぼれていました。
二人の兄弟は木のまわりをまわって、
拾っても拾っても拾いきれないほど、
それを集めて楽しみました。
樫鳥は首をかしげて、このありさまを見ていましたが、
なんと、この榎木の下にはいい実が落ちていましょう。
たくさんお拾いなさい。
ついでに、私も一つご褒美を出しますから、
それも拾っていきなさい。
と言いながら、
青い麩の入った小さな羽を、
高い枝の上から落としてよこしました。
二人の兄弟は、榎木の実ばかりでなく、
樫鳥の美しい羽を拾い、
おまけに、その大きな榎木の下で、
ちょうどいい時までも覚えて、
帰ってきました。
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