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ある男と一軸 小川未明
ある男が縁日に行って 植木を冷やかしているうちに
とうとう何か買わなければならなくなりました。 そして
一軸の鉢植えを買いました。 いつになったら実が成るだろう。
来年は成ります。 と植木屋は答えました。しかしその木は小さくありました。
男はそれを持って帰る途中 夕立ちに会いました。
もうその時はそんな木どころではありません。 木などはどうでもよかったのです。
友達の家に頼って 雨の止むまで待って
帰りにはその一軸の鉢を預けて行きました。 いく月も
いく年も経ちましたけれど 男は忘れたものか
友達の家へ預けた木を取りに行きませんでした。 しかし
この男はなかなか欲不可でありました。 5、6年も経ってふと
いつか自分は一軸の木を友達のもとに預けておいたことを思い出しました。
早速取りに行きました。 あなたがきっと取りにおいでなさると思って
大事に育てておきました。 とその家の人は言って
裏庭に案内しました。 大きな一軸の木に
実がいっぱいなっていたのです。 男は驚きました。
かつ、問惑しました。 仕方がなく掘って
車に乗せて帰りました。 しかしそれは
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木を移す時期でなかったので 身もしなびてしまえば
木も枯れてしまいました。 結局男は骨折り損に終わったわけです。