蟹の子供たちの遊び
二、十二月 蟹の子供らはもうよほど大きくなり、
そこの景色も夏から秋の間にすっかり変わりました。 白い柔らかな丸石も転がってき、
小さな霧の形の水晶の粒や金雲母のかけらも流れてきて止まりました。 その冷たい水の底までラムネの瓶の月光がいっぱいに透き通り、
天井では波が青白い火を燃やしたり消したりしているよう、 辺りは浸透して、
ただいかにも遠くからというようにその波の音が響いてくるだけです。 蟹の子供らはあんまり月が明るく水が綺麗なので、
眠らないで外に出て、 しばらく黙って泡を吐いて天井の方を見ていました。
やっぱり僕の泡は大きいね。 兄さん、わざと大きく吐いてるんだい。
僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。 吐いてごらん?
おや? たったそれきりだろう。
いいかい? 兄さんが吐くから見ておいで。
そら。 ね?大きいだろう?
大きかないや。同じだい。 近くだから自分のが大きく見えるんだよ。
そんなら一緒に吐いてみよう。いいかい? そーら。
やっぱり僕の方大きいよ。
本当かい? じゃあもう一つ吐くよ。
だめだい。そんなに伸び上がっては。 またお父さんのカニが出てきました。
もう寝ろ寝ろ。 遅いぞ。明日、居宿へ連れていかんぞ。
お父さん、僕たちの泡、どっち大きいの? それは兄さんの方だろう?
そうじゃないよ。僕の方大きいんだよ。 弟のカニは泣きそうになりました。
その時、とぶん、黒い丸い大きなものが天井から落ちてずーっと沈んで、
また上へ登っていきました。 キラキラっと金のブチが光りました。
カワセミだ。 子供らのカニは首をすくめて言いました。
お父さんのカニは遠眼鏡のような両方の目をあらん限り伸ばして、 よくよく見てから言いました。
そうじゃない。あれは山梨だ。 流れていくぞ。
ついて行ってみよう。 ああ、いい匂いだなあ。
なるほど、そこらの月明かりの水の中は山梨のいい匂いでいっぱいでした。
三匹はボカボカ流れていく山梨の跡を追いました。 その横歩きと、そこの黒い三つの影帽子が、
合わせて6つ踊るようにして山梨の丸い影を追いました。 まもなく水はサラサラなり、天井の波はいよいよ青い炎をあげ、
山梨は横になって木の枝に引っかかって止まり、 その上には月光の虹がモカモカ集まりました。
どうだ、やっぱり山梨だよ。 よく熟している。いい匂いだろう。
おいしそうだね、お父さん。 待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んでくる。
それから一人でにおいしいお酒ができるから。 さあ、もう帰って寝よう。おいで。
親子のカニは3匹、自分らの穴に帰っていきます。 波はいよいよ青白い炎をゆらゆらとあげました。
それはまた金剛石の粉を吐いているようでした。 私の幻灯はこれでおしまいであります。
