こんにちは、Shota FURUYAです。 Energy Intelligence and Foresightへようこそ。
今回は、再生可能エネルギー100%の先にある、未来の豊かなエネルギー社会像についてお話しします。
今回参照するのは、再生可能エネルギーのコスト低下と指数関数的な普及拡大を世界でいち早く予測した、
トニー・セバ氏が率いる独立非営利研究機関、RthinkX が2025年5月に発表した
Understanding Stellar Energy: How SWB Superpower Will Create Clean Energy Superabundance というレポートです。
このレポートは、アダム・ドーア、ジェイムス・アーヴィブ、トニー・セバの3人が共同で出筆しています。
これまでのエピソードでお話ししてきたように、今、世界のエネルギーシステムでかつてない変化が生じています。
この変化を読み解く鍵となるのが、SWB、つまり太陽光 Solar の S、風力 Wind の W、蓄電池 Battery の B、という3つの組み合わせです。
このSWBというキーワードを提唱しているのが、この分野で世界的に注目されている人物のトニー・セバ氏です。
トニー・セバ氏は、スタンフォード大学で教鞭をとっていた企業家、未来予測家で、テクノロジーによる社会変革の研究で知られています。
彼が共同創設したシンクタンク RethinkX は、セバ・テクノロジー・ディスラプション・フレームワークのもと、2010年代後半から Rethink Energy、Rethink Transportation、Rethink Food & Agriculture、Rethink Climate Change、Rethink Humanity といった複数の重要なレポートを発表してきました。
これらは今回紹介するレポートの前提となる考え方やキーワードについて詳細に述べているので、ぜひ併せて読んでおくことをお勧めします。
そして、今回紹介するレポートは、その RethinkX の最新レポートで、これまでの先駆的な研究の成果をまとめつつ、再生可能エネルギー100%の先にある超豊富なエネルギーを活用した未来のエネルギー社会像が構想されています。
その中心にあるのがSWBです。
これまでのエピソードでお話ししてきたように、太陽光発電及び風力発電のコスト低下と指数関数的な普及の拡大は、もはや疑いようのない現実であり、蓄電池も同様のパターンでコストの低下と普及の拡大、さらに性能の向上が進みます。
その先には、圧倒的に安くクリーンでどこでも導入可能なSWBが支配的となるエネルギー社会が訪れます。
視聴者たちは、SWBによって運営される未来をステラーエネルギーシステムと名付け、次のように定義しています。
引用します。
ステラーエネルギーシステムとは、太陽光・風力・蓄電池の3つがある臨界点に達したとき、社会全体がクリーンエネルギーだけで自立できるようになる新しいエネルギーシステムである。
このシステムが完成すれば、石油や石炭などの化石燃料、大量の資源採掘、それを支える巨大なインフラやグローバルな物流網も、そうしたものはもう必要なくなる。
太陽はそうであるように、一度このシステムがイグニッションポイント、点火点を超えるとラディアンス、安定した輝きの状態に入り、クリーンな電力があふれるほどに供給され続ける。
それは、ただ私たちのエネルギー需要を満たすだけではない。これまでのエネルギーシステムが引き起こしてきた人と地球へのダメージを癒やし、回復する力すらあるのだ。
ここまでが本文からの引用ですが、著者たちは、SWBが単なるエネルギー資源の置き換えではなく、社会全体の自立という、質的変容を伴う新しいシステムへのフェーズシフトであると提唱していることがわかります。
次に、SWBの超大量導入によって生まれるスーパーパワー、ここでは超過供給というふうに翻訳しておきますが、これについて見ていきます。
レポートでは、SWBスーパーパワーは、限界費用がゼロに近いステラーエネルギーシステムによって生産される超豊富なクリーン電力であると述べています。
限界費用とは、生産を増加させるときにかかる単位あたりのコストです。化石燃料から電力を生産するときは、もちろん燃料が必要になるので、燃料価格とほぼイコールで限界費用がかかります。
しかし、SWBは燃料を必要としないため、限界費用はほぼゼロです。そのため、SWBが支配的となるシステムでは、ユーザーはきわめて安価に電力を使い続けることができます。
一方で、SWBが支配的となるシステムをデザインする際には、どのような規模を目指すべきかという点に焦点が当たります。
これについて、レポートでは、SWBで構成されるエネルギーシステムは、最も困難な季節、つまり、通常、冬の最も曇りがちな数週間になるのですが、この季節を想定したサイズにする必要があると述べています。
冬の供給が厳しくなる期間でも、対応できる規模でSWBを導入した場合、必然的に1年間の冬以外の季節は、限界費用ほぼゼロの電力が超大量に生まれることになります。
著者たちは、この豊富な超過供給をスーパーパワーと呼び、これを活用することで人類は、前例のない形で社会的、経済的、環境的な豊かさを享受することができると述べています。
スーパーパワーをどのように活用するかについて、EVなど電動輸送の電源として活用する方法や、海水の脱塩による淡水生産とそのポンプ輸送、また重工業プロセスの電化といった形で、個別に様々な用途を考えることができるのですが、
テクノロジーの発展には未知の部分があるため、重要なポイントとしては一面的に考えるのではなく、相互に補完し合うペア、トリオまたはクワッドのユースケースを特定することに可能性を見出すべきと述べています。
具体的な例として、AIのトレーニングと水論に使用する巨大な計算クラスターの電源としての活用と、精密発酵と細胞農業による食品生産施設の組み合わせが挙げられています。
AIのコンピューティングは、そのプロセスで大量の排熱を発生させる一方で、精密発酵・細胞農業による食品生産は、そのインプットとして熱供給を必要とするため、相互に補完し合うペアとしてメリットを享受する可能性があります。
次に、ステラーエネルギーシステムをデザインする際の核心となるクリーンエネルギーU字カーブについて見ていきましょう。
RethikX は、豊富なスーパーパワーを生み出す最適な太陽光・風力・蓄電池の組み合わせを探求した結果、発電設備及び蓄電設備の容量と投資コストの関係はU字型のカーブで構成されることを発見しました。
レポートで示されている象徴的なグラフでは、横軸にSWB設備の規模を現状の2から6、もしくは7倍という単位で設定し、縦軸にその投資コストを設定し、SW設備の規模を数倍にしていくと、投資コストがどのように変化するかを導き出しています。
このグラフで描かれるU字型カーブが意味するところは、現状の3から4倍の太陽光・風力・蓄電池を導入することで、最も少ないコストで最大のスーパーパワーを生み出すことができるということです。
もう一段踏み込んで、このクリーンエネルギーU字カーブが示唆する重要なポイントを読み取ると、太陽光と風力の発電設備の容量を控えめにして、蓄電設備の容量を多く取る場合、投資コストは相対的に大きくなり、SWBスーパーパワーの量もそれほど多くならないということがわかります。
一方、発電および蓄電設備容量を現状の3から4倍よりも多くすると、今度は全体の投資コストが少しずつ増えていってしまいます。これは、太陽光・風力の容量と蓄電池のバランスが直感とは異なり、非線形で単純ではないということです。