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2025-07-27 11:03

S字カーブで読み解く電力の未来:X-Changeレポートから考える再生可能エネルギーの急成長と転換点

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このエピソードでは、RMIが2023年7月に発表した「X-Change: Electricity: On track for net zero」レポートをもとに、再生可能エネルギーの急成長と電力システムの転換点について解説します。

キーワードとなる「S字カーブ」の考え方を中心に、太陽光や風力発電がどのように普及し、どんなメカニズムでコストが下がり、成長が加速していくのかを紹介しています。また、従来の直線的な予測がなぜ現実と乖離したのかや、再生可能エネルギー拡大を阻むとされる課題がどのように乗り越えられてきたのかにも触れます。

2030年に向けた電力システムの未来像や、今後の成長シナリオについてもわかりやすく解説します。


▼ レポート原文

Kingsmill Bond, Sam Butler-Sloss, Amory Lovins, Laurens Speelman, Nigel Topping (2023), X-Change: Electricity,  RMI.


▼ レポート翻訳

キングスミル・ボンド、サム・バトラー・スロース、エイモリー・ロビンス、ローレンス・スピールマン、ナイジェル・トッピング(2024)「X-Change 電力:ネットゼロへの道筋」RMI.(翻訳:古屋将太)


▼ ポッドキャストの書き起こしサービス「LISTEN」はこちらhttps://listen.style/p/energyinfo


Production: Shota FURUYA

Intro: I've Forgotten the Words (Remastered)

Outro: Bringing the game back (Remastered)

サマリー

エネルギー転換におけるS字カーブの重要性と、RMIのレポート「Exchange Electricity Contract for Net Zero」を通じて再生可能エネルギーの急成長を探求しています。特に、太陽光発電と風力発電の普及がエネルギーシステムの転換点にどのように寄与するかを詳しく考察しています。

エネルギー転換のS字カーブ
こんにちは、FURUYA Shotaです。Energy Intelligence and Foresightへようこそ。今回は、現在のエネルギー転換を理解する上で、最も本質的な概念であるS字カーブについてお話しします。
今回参照するのは、アメリカを拠点にグローバルに活躍する独立非営利団体のRMIが、2023年7月に発表したX-Change Electricity on Track for Net Zeroというレポートです。
このレポートは、キングスミル・ボンド、サム・バトラー・スロス、エイモリー・ロビンス、ローレンス・シュピールマン、ナイジェル・トッピングの5人が共同で執筆しています。
また、X-Changeレポートシリーズは、RMIがベゾス地球基金とのパートナーシップの下で制作し、システムチェンジ・ラボに寄稿しています。
なお、僕はこれからのエネルギー転換を考える上で、このレポートは必読だと感じたので、著者の許可を得て全文を翻訳して、ISEP海外レポート翻訳というウェブサイトに掲載しています。
まず、世界の電力システムが今どんな変化を遂げているのかを簡単に整理します。
ここ10年ほど、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。
その背景には、テクノロジーの進歩によるコストの低下、政策による後押し、そして気候危機への対応などがあります。
これらが組み合わさり、再生可能エネルギーは今や最も安価な電源となりつつあります。
この変化の特徴を理解する上で重要なのが、S字カーブという考え方です。
S字カーブとは、新しいテクノロジーや製品が普及していく典型的なパターンで、最初はゆっくりと導入が進みますが、ある時点から急速に普及し、その後は成長が落ち着くという流れを辿ります。
このS字カーブの普及パターンは、いくつかの前提条件の下で、様々なテクノロジーに当てはまります。
歴史的に振り返れば、ラジオやテレビ、インターネットやデジタルカメラ、スマートフォンの普及が同様のパターンを辿りました。
新しいテクノロジーに対して、最初は懐疑的な声も多く、「課題が多すぎて普及しない」と言われますが、イノベーションとコスト低下が進むと、一気に状況が変わることが通常です。
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、まさにこのS字カーブに沿って成長しています。
そして、S字カーブを理解する上では、学習曲線と成長率を見出すことが重要になります。
学習曲線とは、テクノロジーの累積生産量が増えるごとにコストが下がる現象です。
例えば、太陽光発電の場合、累積生産量が2倍になるごとにコストが約20%下がるというデータを、オックスフォード大学Institute for New Economic Thinkingが分析しています。
実際にこの10年間で見ると、太陽光発電のコストは80%も下がりました。
コストが下がることで導入が加速し、導入が進むことでさらにコストが下がるという好循環が生まれます。
再生可能エネルギーの発展
これが継続的な高い成長率につながります。
こうした学習曲線と成長率の相乗効果で、S字カーブの急上昇部分が生まれ、そのテクノロジーの普及が短期間に一気に進みます。
実際に再生可能エネルギーはそのパターンを忠実にたどっています。
かつては再生可能エネルギーは2%しか入れられないと言われていた国でも、今では年間の電力需要の半分以上を再生可能エネルギーで供給しています。
例えば、ドイツでは2024年の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合が58%に達しています。
S字カーブによる指数関数的な成長をどのように捉えるべきかという点に関して、著者たちは非常に的確な議論を展開しています。
一つ目として、従来のエネルギーシステムをベースに考えてきた研究者や実務家のほとんどが、再生可能エネルギーの成長は直線的なものであると仮定したため、現実に起こった急激なコスト低下と成長を全く予測できなかったという点です。
レポートでも象徴的なグラフで指摘していますが、過去にIEA、国際エネルギー機関は、毎年の World Energy Outlook で、将来の太陽光発電の導入量をことごとく過小評価してきました。
これを踏まえれば、今後のエネルギーシステムの変化は、S字カーブによる再生可能エネルギーの指数関数的な成長を捉えることが核心であると考えることができます。
二つ目として、レポートシリーズのタイトルにもなっている X-Change という考え方です。
X-Change のモデルは、再生可能エネルギーのような新しいテクノロジーの指数関数的な成長を分離してモデル化し、他のシステムがそれに適応せざるを得なくなるという前提を置いています。
従来のモデルが課題や制約に注目しがちだったのに対して、X-Change は成長の力がシステム全体を動かす原動力になると考えています。
また、レポートでは再生可能エネルギーの普及を阻む課題に対する考え方も非常に説得的に述べられています。
エネルギー転換には様々な課題があるとよく言われますが、実際にはそれ以上に多くの解決策が存在しています。
課題は一見すると大きな問題に思えますが、多くは具体的かつ局所的なものであって、テクノロジーのイノベーションや制度設計、国際協力によって乗り越えられてきました。
例えば、過去には変動性やコスト、土地利用、鉱物資源などが大きな課題とされてきました。
しかし、テクノロジーの進歩や効率化、リサイクルの推進、政策の工夫によって、これらの課題は次々と解決されてきています。
世界的に見れば、再生可能エネルギーの導入に適した土地や資本も十分にあり、グローバルサウスの国々も新たなテクノロジーや投資の波に乗りつつあります。
課題が完全になくなるということはありませんが、変化の勢いが十分に強ければ、局所的な課題が全体の成長を止めるということにはなりません。
これは、S字カーブの急上昇局面で特に顕著です。
つまり、イノベーションや政策、国際的な連携による解決策が課題を乗り越え、再生可能エネルギーの拡大を後押ししています。
未来のエネルギーシステム
レポートの後半では、S字カーブおよび X-Change の考え方に基づく分析結果を太陽光発電と風力発電の成長シナリオとしてまとめています。
今後の成長を予測する方法として、過去10年のような指数関数的な成長が続くケースと、成長が徐々に緩やかになるS字カーブ型のケースの2つが示されています。
どちらのシナリオでも、2030年には太陽光と風力が世界の発電電力量の3分の1を占める見通しです。
より急速な成長が続けば、これらが化石燃料を上回る電力量を供給し、電力システムの大きな転換点となります。
また、これらの変化が電力システムに与える影響についても述べられています。
太陽光と風力のシェアが拡大することで、化石燃料の需要は減少し、2030年には最大で30%減る可能性があります。
どちらのシナリオでも、再生可能エネルギーが電力供給の中心となり、エネルギー転換が急速に進むことが予想されます。
最後に、このレポートを通じて、S字カーブや X-Change の考え方を学ぶことの重要性について触れておきたいと思います。
僕は20年以上、再生可能エネルギーの普及拡大に向けて研究・実践を進めてきましたが、
2014年あたりを境に再生可能エネルギー、特に太陽光発電の普及が急拡大したという実感がありました。
その当時は、一部の専門家や実務家の間で、ようやく再生可能エネルギー100%の実現可能性が議論され始めたタイミングで、
パリ協定もまだ結ばれてはいませんでした。
その後、再生可能エネルギー導入量の記録は毎年更新され、今もそれは続いています。
このレポートは、そのような再生可能エネルギー導入のスピードとスケールアップのメカニズムを明らかにしているという点で、
非常に重要かつ意義のある知見を提供していると言えます。
今回は、S字カーブで読み解く電力の未来、X-Changeレポートから考える再生可能エネルギーの急成長と転換点をテーマに、
現在進行中のエネルギー転換と本質を捉えるためのS字カーブや X-Change の考え方についてお話ししました。
レポートの詳細や参考資料のリンクは概要欄からご覧ください。
それではまた、次回お会いしましょう。
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