こんにちは、FURUYA Shotaです。Energy Intelligence and Foresightへようこそ。今回は、電気自動車の普及に関する見通しと、その原動力となる要因についてお話しします。
今回参照するのは、アメリカを拠点にグローバルに活躍する独立非営利団体のRMIが、2023年9月に発表した X-change: Cards - The End of the ICE Ageというレポートです。
このレポートは、キング・スミルボンド、サム・バトラー・スロース、アリー・ベンハム、EJ・クロック・マコク、デイブ・マラニー、ユキ・ヌマタ、ウォーレンス・スピルマン、プレイ・ストレンジャー、ナイジェル・トッピングの9人が共同で出筆しています。
また、X-changeレポートシリーズは、RMIがベゾス地球基金とのパートナーシップの下で制作し、システム・チェンジ・ラブに寄稿しています。
なお、輸送分野のエネルギー転換を考える上で、このレポートは筆読だと感じたので、著者の許可を得て全文を翻訳して、ISEP海外レポート翻訳というウェブサイトに掲載しています。
まず、EVを構成する最も中心的な要素である蓄電池の普及拡大とコスト低下について見ていきましょう。
レポートでは、ブルーバーグ・ニューエナジーファイナンスのデータを参照していますが、世界の輸送部門で導入された蓄電池の容量は、2010年の0.5GWhから、2022年には1500GWhへと拡大しました。
これは、年平均成長率97%という急拡大です。こうした急拡大と並行して、蓄電池のコストも急速に、そして大幅に低下しています。
リチウムイオン電池パック価格は、2010年以降に88%低下し、導入量が2倍になるごとに、約17%の学習率で低下しています。
2022年の世界の平均価格は、1kWhあたり151ドルで、中国では131ドルでした。さらに、蓄電池のエネルギー密度は年率約6%で向上しました。
エレクトロテックの指数関数的な成長とコスト低下のサイクルについては、このポッドキャストの第4回 X-Change電力でも紹介しましたが、
太陽光発電、風力発電で起きたS字カーブ現象が、自動車の世界ですでに始まっていることが明確にデータで確認することができます。
EVの普及スピードは国や地域によって異なります。しかし、レポートでは先行する北欧など、いくつかの国の新車販売に占めるEVの割合について、
10%に達するまでにかかる時間を基準として並べてみると、いずれの国も同じS字カーブを描いて成長することがわかると指摘しています。
大まかに言えば、市場シェア1%未満から10%になるまでには約6年かかり、
先進国で80%になるまでには、さらに約6年かかるというパターンが述べられています。
この知見を基盤としつつ、S字カーブを加速させるフィードバックループの要因を整理した上で、
成長の継続によって今後どのような普及の道筋が描かれるのかをレポートでは議論しています。
結論から言えば、2030年には世界の新車販売の62〜86%がEVになると予測されていて、
中国は少なくとも90%に達し、EUは80%に近づき、アメリカは50%を少し下回るという見通しです。
こうした変化の中心にあるのが中国のリーダーシップです。
レポートによれば、中国はEVとその主要部品の生産をほぼ独占しており、
蓄電池から車両製造、リチウム精製、充電インフラまで、バリューチェーン全体を自国内で構築しています。
世界で最も低コストのEVが普及し、ガソリン車と同等の価格帯のモデルも登場してきています。
そして、中国政府は都市部の大気汚染対策やエネルギー安全保障を重視して、
積極的に送電網や充電インフラの整備を進めています。
また、EV輸出でも圧倒的なシェアを持ち、ドイツや日本に挑戦する形でグローバル市場での存在感を強めています。
この中国の成功は、世界のEV市場に大きな波及効果をもたらしています。
レポートでは、こうした中国のリーダーシップのもと、EV普及の中心が
中国、ヨーロッパ、アメリカといった主要市場からグローバルサウスへと波及し、
世界全体でS字カーブ的な成長が続く可能性が高いと指摘しています。
技術革新とコスト低下によって、今後はより多くの国と地域でEVの導入が進み、
輸送部門でも世界的なエネルギー転換が加速すると考えられます。
一方、ガソリン車の時代は終焉を迎えつつあります。
レポートによれば、ガソリン車の新車需要は2017年にすでにピークを迎え、
それ以降は年率5%のペースで減少しています。
これは単なる新車販売の減少だけでなく、廃車台数の増加とも重なって、
ガソリン車の総保有台数自体が今後急速に減少していくことを意味します。
2030年にはガソリン車の新車販売シェアは14〜38%まで低下し、
EVが新車販売の大半を占める構造に大きく転換します。
この動きは自動車産業だけでなく、石油需要にも直接影響を与えています。
レポートによれば、自動車による世界の石油需要は2019年にピークを迎え、
現在は効率向上とEVの成長の狭間で横ばい状態ですが、
2030年までに毎年1日当たり100万バレル以上の石油需要が減少すると見込まれています。
これは世界の石油需要全体の4分の1が終焉を迎えるという規模であって、
2040年代には自動車部門からの石油需要がゼロになると予測されています。
また、ガソリン車の中古市場にも大きな変化が起きつつあります。
EVのランニングコストがガソリン車よりも安くなり、
購入コストも今後10年以内に逆転すると見込まれているため、
ガソリン車の中古車価値が急落する可能性が指摘されています。
結果として、消費者や自動車メーカー、石油業界の資本や人材は
衰退するガソリン車から成長分野であるEVに再配置されていく構造転換が進みます。
このようなフィードバックループによって、
ガソリン車時代の終焉は不可逆的な流れとなりつつあり、
今後10年で自動車産業とエネルギー需要の姿が大きく変わることが予想されています。
こうした将来像を描く上で、予測モデルの選択とバイアスにも注意が必要です。
この点についてもレポートではいくつかの重要な論点が指摘されています。
まず、EV普及やガソリン車の衰退を予測する際には、
どのモデルを使うかによって大きく見通しが異なります。
例えば、石油業界や一部の既存組織が出す予測は、変化を過小評価する傾向があります。
これは既存のビジネスモデルや既得権益を守りたいという意識が働くため、
楽観的なシナリオを避けがちだからです。
一方で、テクノロジー主導のアナリストや新興企業は、逆に変化を過大評価する場合もあります。
レポートによれば、EV普及の将来を予測する代表的な方法として、
専門家予測、単純な指数関数的成長、先行市場の経験則、そしてS字カーブモデル、
具体的にはロジスティック曲線やゴンペルツ曲線などが挙げられています。
専門家予測は短期的には有用ですが、長期的には現実とのズレが大きくなりやすい傾向があります。
実際、IEAやブルームバーグなどの主要機関は、
ここ数年、2030年のEV販売シェア予測を毎年上方修正しています。
これは現実の変化のスピードが従来の予測を上回っていることを意味しています。
一方、S字カーブモデルは多くの新技術の普及パターンと同様に、
EVの普及にもよく当たるとレポートは指摘しています。
ノルウェーや中国などの先行市場の経験を基にしたリーダーズカーブやS字カーブを使ったシナリオは、
2030年にEVが新車販売の62〜86%を占めるという現実的なレンジを示しています。
ただし、どのモデルにもバイアスや限界があります。
例えば現状の課題、具体的には鉱物供給やインフラ整備、消費者意識などですが、
これらの課題が将来もそのまま続くと仮定してしまうと、変化を過小評価することになります。
逆に技術革新や政策対応、消費者態度の変化といった「変わる要素」を過小評価すると、
現実よりも遅いシナリオになってしまいます。
レポートは、こうしたバイアスを意識しながら複数のモデルやシナリオを比較し、