1. Energy Intelligence and Foresight
  2. 変動は課題ではなく前提:太陽..
2025-11-02 12:36

変動は課題ではなく前提:太陽光・風力の導入拡大と柔軟性による再エネ統合

spotify apple_podcasts youtube

今回のエピソードでは、太陽光・風力の導入拡大に不可欠な柔軟性の考え方を、IEA Integrating Solar and Wind(2024)をもとに解説します。柔軟性とは、あらゆる時間スケールで需給の変動と不確実性を信頼性・費用対効果の両面で管理する「電力システムの対応力」。ダックカーブへの対処、需要側の調整、蓄電池・系統運用・セクターカップリングなど具体策を、導入度合いに応じた6つのフェーズで整理します。

先端事例として、再エネ比率88%のデンマークと74%の南オーストラリアを紹介。地域間連系・熱供給連携・ガス火力の機動運用・系統蓄電池・家庭用蓄電池の拡大など、現場で機能する柔軟性設計を参照します。日本では柔軟性の議論が遅れがちで、IEA試算では統合の遅れが2030年の太陽光・風力導入を最大30%抑制、電力部門のCO2削減幅を最大20%縮小し得る点にも触れます。

エビデンスに基づき、「変動は克服すべき課題」ではなく「前提」として設計する視点を提示し、再エネ統合の新しい常識を短時間で把握できる回です。


▼ レポート原文

IEA (2024) Integrating Solar and Wind: Global experience and emerging challenges.

https://www.iea.org/reports/integrating-solar-and-wind


▼ ポッドキャストの書き起こしサービス「LISTEN」はこちら

https://listen.style/p/energyinfo


▼ 寄付での応援はこちら

https://square.link/u/8FQ47ugs


—Production: Shota FURUYA

Intro: I've Forgotten the Words (Remastered) https://suno.com/song/506b5209-d829-4fc3-a98e-5ee2f605565b

Outro: Bringing the game back (Remastered) https://suno.com/s/loHdOfoQ8KwbxxhM


▼ キーワード

エネルギー転換, 再生可能エネルギー, 太陽光発電, 風力発電, 柔軟性, 電力システム, 需給バランス, ダックカーブ, デマンドレスポンス, 蓄電池, 系統運用, セクターカップリング, グリッドフォーミング, 長時間貯蔵, 地域間連系線, ヒートポンプ, 地域熱供給, グリーン水素, 南オーストラリア, デンマーク, IEA, RISEユニット, 変動対応, 統合フェーズ, 需要側調整, 発電出力制御, 気象予測, コスト効率, 電力市場設計, 再エネ統合

サマリー

このエピソードでは、太陽光と風力の導入拡大を促進するための柔軟性について議論し、国際エネルギー機関のレポートを参照して、変動可能な再生可能エネルギーの統合の重要性を強調しています。また、デンマークや南オーストラリア州の先端事例から柔軟性の具現化について学んでいます。

再生可能エネルギーの重要性
こんにちは、Shota FURUYAです。Energy Intelligence and Foresightへようこそ。
今回は、変動は課題ではなく前提:太陽光・風力の導入拡大と柔軟性による再エネ統合、
をテーマに、太陽光と風力の導入拡大においてカギとなる柔軟性についてお話しします。
今回参照するのは、国際エネルギー機関が2024年9月に発表した
Integrating Solar and Wind: Global Experience and Emerging Challenges というレポートです。
このレポートは、国際エネルギー機関IEAの Renewable Integration and Secure Electricity Unit、略してRISEユニットが中心となって作成されました。
メインオーサーは、クワハタ・レナ、ハビエル・ホルケラ・コピエ、パブロ・エビア=コッホの3人が務めています。
これまでこのポッドキャストでは、現在の世界のエネルギー転換の進展と今後の見通しについてお話ししてきました。
代表的な機関や団体の統計では、すでに2024年の時点で世界の1年間の電力需要の30%が再生可能エネルギーで賄われていることが報告されています。
かつてはほんの数%だったことを振り返ると、30%というのは大きな進展です。
そしてこれまで参照してきたような先端的な研究の知見を踏まえれば、中長期的には100%に達することも視野に入ってきています。
一方で、太陽光発電や風力発電は気象条件に応じて出力が変動するため、再エネに大きく頼ることはできないという固定観念が一般の人たちの頭の中には根強くあります。
しかし、この十数年の再エネと電力システムの研究は、現実の変化と相互にフィードバックしながら、太陽光・風力の変動をいかにして電力システムに統合していくかという課題に対する解決策を生み出してきました。
IEA の Integrating Solar and Wind というレポートは、そのような世界中の再エネ統合に関する経験を集約して整理したものであり、
この分野での研究と実務に関わる人には、必読と言ってもいいぐらいの位置づけにあるものです。
99ページもあるレポートなので、すべてをここで解説することはできませんが、このレポートの核心でもある Flexibility = 柔軟性について見ていきましょう。
電力システムにおける柔軟性とは何でしょう。
ここは非常に重要なポイントなので、念のためレポートの原文を参照しておきましょう。
変動性と電力システムの調整
原文では、Flexibility can be defined as the ability of a power system to reliably and cost-effectively manage the variability and uncertainty of supply and demand across all relevant timescales.
Maintaining the supply-demand balance is achieved by adjusting electricity generation and demand. とあります。
翻訳すると、柔軟性とは電力システムが関連するあらゆる時間スケールにわたる、
需給の変動性と不確実性を信頼性高くかつ費用対効果的に管理する能力と定義できる。
需給バランスの位置は発電と需要の調整によって達成されるとなります。
ただ、これではわかりにくいので、ここでは、電力の需要と供給のズレを無理なく埋める力としておきましょう。
これをもう一段階具体的に見ていきましょう。
例えば、夕方になると太陽が沈み、電力システム全体で太陽光発電の供給が減ると同時に、人々が帰宅し活動することで電力需要は増えます。
この時、電力システムは急峻な需給のズレが生じますが、素早く他の電源や蓄電池が供給を増やしたり、
需要側で需要を減らすような調整をすることでズレを埋めることができます。
こうした調整を発動することができる能力が柔軟性であり、柔軟性は供給側だけでなく需要側も含めて、
様々な調整方法を組み合わせることで変動への対応力を高めることができます。
具体的には、火力発電の出力を抑えたり、太陽光・風力の出力を抑えたりといった供給側で実践する方法や、
工場や商業施設で需給の逼迫を避けるように稼働時間を調整するといった需要側で実施する方法、
さらに送電線の増強や運用の改善といった系統側で実施する方法、
そして、需要を超えて太陽光・風力が発電する際に蓄電池や熱供給システム、水素生産などで吸収するといった方法もあります。
また、気象予測システムと連携することで太陽光風力の発電電力量をあらかじめ予測しておいて、
1日の中でどの時間帯にどれだけの柔軟性が必要なのか計画を立てることで電力システム全体の対応力が高まります。
柔軟性の方法は非常に多岐にわたるので、詳細はレポートを参照してもらいたいのですが、
定義でも触れたように、信頼性高くかつ費用対効果的なものから取り入れていくことが重要となります。
そのため、柔軟性のいくつかは電力の需給状況に応じて市場で取引され、量と価格が刻一刻と変化するといったものもあります。
柔軟性を充実させていくことで、変動する太陽光・風力を電力システムに統合していくことが可能であるということが分かりました。
これを踏まえた上で、レポートでは、変動性再エネ、英語ではVariable Renewable Energy、略してVREと言いますが、
その導入割合に応じて統合の段階を6つのフェーズで整理しています。
初期段階のフェーズ1および2では、太陽光や風力の発電電力量がまだ少なく、需給バランスへの影響は小さいままです。
ただし、天候に応じてVRE、つまり太陽光と風力の出力が上下するため、
従来の発電所はこまめに出力を上げ下げするなど、系統運用を柔軟にすることで対応することになります。
次に中盤となるフェーズ3および4では、昼間の太陽光が増え、日中に電力が余りがちになる一方で、
夕方に太陽光が急速に抜けていく状況が年間を通じて頻発するようになります。
この時の需要曲線はアヒルのように見えるため、専門用語でDuck Curveと言いますが、
まさにアヒルの喉元の形状として現れる急変動に対応するため、柔軟性の発動が求められます。
ここでは火力発電をより速いスピードで調節したり、需要化がピーク時に合わせて省エネするデマンドレスポンスを提供したり、
蓄電池を導入したりすることで変動に対応することになります。
また、この段階以降は戦略的に柔軟性を確保する必要があり、電力システムの運用の考え方そのものをアップデートしなければなりません。
そしてこの段階になると、時間帯によってはVREだけでほぼ需要を満たせるようになります。
最後にフェーズ5及び6では年間を通じてVREが需要を上回る時間が増え、
余剰分を蓄電したり連携する地域へ送ったり、熱や水素に変えて利用するような工夫が必要になります。
この段階ではVREが長期にわたって主力供給となるため、セクターカップリングや長時間貯蔵なども有効になってきます。
VRE統合の段階は国や地域の再エネ導入割合によって異なります。
では先駆的にVREの導入と統合を進めている国や地域はどこなのでしょうか。
レポートでも先端事例として特筆して取り上げられているのがデンマークと南オーストラリア州です。
デンマークは世界で初めてフェーズ5に入った国の一つです。
2024年1年間の電力供給に占める再エネの割合は88%に達しています。
その内訳は風力57.9%、太陽光11.3%、バイオエネルギー18.8%で圧倒的に風力発電が供給の中心になっています。
もちろん風力の供給は時々刻々と変動しますが、デンマークでは地域間連携線の活用、ヒートポンプや地域熱供給システムとの連携など、
技術的な方法はもちろんのこと、電力システムの運用や市場設計も含めた包括的な柔軟性の取り組みが行われてきました。
今後はEVも含めた蓄電池やグリーン水素、グリッドフォーミングインバーターなど、新たなテクノロジーの活用もコスト効率性を前提として検討されています。
ちなみにデンマークのエネルギー政策の検討は、私が所属していたオールボー大学の Sustainable Energy Planning Research Group の研究が大きく貢献してきた歴史があり、
これについてはこのポッドキャストでも取り上げてみたいと考えています。
もう一つの先端事例が南オーストラリア州です。
2024年、1年間の電力供給に占める再エネの割合は74%に達しています。
その内訳は風力45%、太陽光29%で、特に家庭の屋根上での太陽光発電が多く、州内の3世帯に1件が太陽光を導入しています。
そのため、まさにダックカーブへの対処が中心的な課題ですが、
南オーストラリア州では他の地域との連系線が乏しく、また水力発電もない中で、ガス火力の調整と系統蓄電池の組み合わせによって柔軟性を確保してきました。
そして現在、蓄電池の価格低下が急速に進行している中で、家庭用蓄電池の普及も急加速しており、分散型で柔軟性が発揮されていく見通しがあります。
日本における課題と未来
このように2つの先端事例を見ると、それぞれの国や地域の再エネ普及のあり方に即して柔軟性がかたちづくられてきたことがわかります。
そしてなにより、太陽光や風力のような変動する再エネに大きく頼ることはできないという考え方は正しくないということがわかります。
再エネの統合と柔軟性は今や世界の再エネの新しい常識となっており、複雑かつ急速に進化している分野です。
しかし、日本では国の政策検討プロセスでもほとんど触れられることがなく、柔軟性が議論されないことが日本の再エネ普及の一つの障壁となっている部分があります。
実際にレポートでは、再エネ統合の取り組みが遅れることで、2030年までに太陽光と風力の導入が最大30%妨げられる可能性があり、
電力部門におけるCO2排出量の削減幅が最大20%を縮小する見込みがあると述べられています。
今後もこのボットキャストではこのテーマを取り上げていきたいと考えています。
今回は、変動は課題ではなく前提
太陽光風力の導入拡大と柔軟性による再エネ統合をテーマに、電力システムの柔軟性、再エネ統合の6段階、
先端事例としてのデンマークと南オーストラリア、再エネ統合の遅れによるリスクなどについてお話ししました。
レポートの詳細や参考資料のリンクは概要欄からご覧ください。
それではまた次回。お会いしましょう。
12:36

コメント

スクロール