太陽光と蓄電池の進化
こんにちは、FURUYA Shotaです。Energy Intelligence and Foresight へようこそ。
今回は、太陽光発電と蓄電池の組み合わせが解き放つ可能性についてお話しします。
今回参照するのは、イギリスを拠点としてグローバルに活躍する、
非営利独立シンクタンクのEMBERが、2025年6月21日に発表した
「ソーラー・エレクトリシティ エブリ・アワー・オブ・エブリ・デイ・イズ・ヒア・アンド・イット・チェンジツ・エブリシン」というレポートです。
このレポートは、コンスタンツ・アランゲロアさんがリードオーサーを務め、
デイブ・ジョーンズさんほか、12人が共同で出筆しています。
このレポートでは、太陽光発電と蓄電池の進化によって、
24時間365日、安定した電力供給が現実になりつつあることが示されています。
まず、なぜこのテーマが重要なのかという点について、
これまで太陽光発電は日中しか電力を供給できないという課題がありました。
しかし、蓄電池のコストが急速に下がり、性能も向上したことで、
昼間に発電した電力を夜間に使えるようになり、太陽光発電の可能性が大きく広がっています。
レポートによれば、1年間で見たときに日照時間の長い地域、
例えば、ラスベガスのような都市では、
5kWのソーラーパネルと17kWhの蓄電池を組み合わせることで、
1kWの安定した電力を24時間供給できるとされています。
これは、英語では24H Solar Generation、日本語だと24時間ソーラー、
もしくはRound the Clock、RTCとも呼ばれているのですが、
太陽光と蓄電池を組み合わせることで、
1年間8760時間のうち97%の時間で安定供給が可能で、
そのコストは1MWhあたり104ドル、日本円に直すと約1万6000円で実現することができる、
とレポートには書かれています。
このコスト水準は石炭や原子力よりも安くなっていると報告されています。
この変化の背景には蓄電池価格の大幅な下落があります。
2024年には蓄電池の価格が前年比で40%下がり、1kWhあたり165ドル、
日本円に直すと約2万6000円になりました。
2025年にはさらに安くなった事例も出てきています。
こうしたコスト低下とテクノロジーの進化により、
世界中で太陽光プラス蓄電池の導入が加速しています。
また、24時間ソーラーは工場やデータセンターなど、
常に電力が必要な産業にとっても大きなメリットがあります。
特に新興国では既存の送電網が十分に整備されていなくても、
独立型の太陽光プラス蓄電池による電力供給が可能になるため、
産業拠点を開発することも可能になり、経済発展の新しい道を開けつつあります。
一方で全ての地域で100%の安定供給が可能なのかというと、
もう一段組み込んでみておく必要があります。
雲が多い日や季節によってはどうしても供給が途切れることがあります。
しかし、97%程度の安定供給でも産業や家庭のニーズの多くを満たすことができますし、
残りの数パーセントは他の電源や需要を調節することでカバーすることができます。
地域別のカバー率分析
コストの面でもここ1年で大きな変化がありました。
ラスベガスの事例では24時間ソーラーのLCOE、英語ではLevelized Cost of Electricityと言いますが、
日本語だと均等化発電コストというのですが、これが1メガワットアワーあたり104ドル、
日本円に直すと約1万6000円となっていて、
石炭の118ドル、約1万8000円、原子力の182ドル、約2万8000円よりも安くなっています。
このことからも明らかに太陽光と蓄電池の組み合わせが従来のベースロード電源にとって変わる時代が近づいています。
特に太陽光と蓄電池が独立型、もしくは分散型で普及が進むことで、総電網の拡張コストを抑えられる点は今後の重要なポイントです。
また現在、世界で約3000GWの再エネプロジェクトが系統接続の問題で止まっていることを踏まえれば、
極めて短期間で投入が可能な太陽光と蓄電池には、コスト節約だけでなくスピードの面でも優位性があります。
年間を通しての日射量は場所によって異なります。
また太陽光発電は曇りの多い気候条件でも影響を受けます。
レポートでは世界各地の複数の都市で日射量や気候・季節の違いが、太陽光発電で年間の電力需要をカバーできる時間の割合にどのような影響を与えるのかを検証しています。
具体的に例を見ていくと、最もカバー率が高かったのはオマーンのマスカットで1年間の99%の時間を太陽光発電でカバーできるとの分析結果でした。
次がアメリカのラスベガスで97%
メキシコのメキシコシティが96%
南アフリカのヨハネスブルーが95%
フィリピンのマニアが92%
ナイジェリアのアブジャも92%という結果となっていて、全体で12都市を分析しているのですが、そのうち6都市が90%以上という結果となりました。
それに続いてインドのハイデラバードで89%
スペインのマドリードが88%
アルゼンチンのブエノスアイレスが81%
アメリカのワシントンDCも81%となり、これらの4都市は大体80から90%のカバー率でした。
残りの2都市は中国のウーハンが74%
イギリスのバーミンガムが62%でした。
ウーハンについては、濃い雲が持続的に発生する気候条件が影響しています。
バーミンガムについては、日照時間が短く、暗い冬が影響しています。
この分析結果から、都市によって太陽光発電によるカバー率には大きな差があることがわかります。
日本の都市は分析に入っていませんが、直感的には70から80%ぐらいではないかと思われます。
1点気をつけたいのは、こうした数字を見るときに
100%ではないから現実的ではないと解釈する人もいるし、半分以上もカバーできるんだと解釈する人もいますが
レポートでも100%に近づけられるのはあくまでも日射量の多い地域であって
日射量が限られた地域では風力など他の再エネや既存の系統からの電力で補完することになると述べられています。
政策と未来の展望
僕はたとえ10%でも20%でも自給できるレベルを高めるのであれば
それは積極的に評価していくことではないかなと
そういった考え方の方が建設的なのではないかなというふうに考えています。
最後にまとめると、このレポートから1kWの電力を24時間365日絶えず供給しようとする場合
太陽光パネルは5倍の5kW、それに対応する蓄電池は17kWhが適切なサイズとなることが分かりました。
太陽光発電と蓄電池の進化によって24時間安定した電力の時代が現実になりつつあります。
テクノロジーと経済性はすでに整っていて、今後は政策や投資がこの新しい可能性をどれだけ早く実現できるかが鍵となります。
政策面ではインドで入札の際に再エネと蓄電池を組み込む動きが進みつつあり
国や地域の電力インフラの設計にも変化が求められています。
今回は太陽光発電と蓄電池の組み合わせが解き放つ可能性についてエンバーのレポートの知見を基にお話ししました。
レポートの詳細や参考資料のリンクは概要欄からご覧ください。
それではまた次回お会いしましょう。