土地利用効率は最大で1.6倍、場合によっては1.8倍にまで向上すると述べられています。
エネルギー収量の観点から見ると、営農型太陽光発電はバイオマス発電用のエネルギー作物栽培よりもはるかに効率的です。
営農型太陽光発電では、1ヘクタールあたりでトウモロコシのようなエネルギー作物の32倍の電力を生成します。
こうした高い土地利用効率を生かして、ドイツ全体の農地のわずか4%に営農型太陽光発電を導入するだけで、
現在の国内電力需要をほぼ全て賄えるポテンシャルがあるとされています。
農作物と水資源への影響も重要なポイントです。
営農型太陽光発電では、パネル同士に隙間を空けて設置します。
遮光率という用語で示されますが、農地の面積に対して標準的には30%程度の隙間を空けて太陽光が農作物に届くようにします。
一般的には農作物にはとにかくたくさんの日射が必要だと思われていますが、
実際には先に触れたように光飽和点という閾値があり、一定以上の日射は農作物も必要としないというのが実態です。
むしろ気候変動の影響もあって、近年では太陽光パネルが作物に適度な日陰を提供することで、
強い日射や高温によるストレスを軽減し、乾燥や熱波の時期でも収量が安定しやすくなるというポジティブな効果も取り上げられ始めています。
さらに、パネルの設計次第では、雨の一部を集めて灌漑用水として利用できるほか、土壌の水分保持にもつながります。
研究によれば、灌漑用水の需要を最大20%削減できた事例も報告されています。
特にケーススタディとして取り上げられているヘッゲルバッハ農場の実証研究では、
乾燥した年でも作物収量が安定し、発電電力量も高水準を維持できたということが報告されています。
具体的には、猛暑・乾燥が続いた2018年は日陰効果がプラスに働いて、
ジャガイモの収量はプラス11%、コムギはプラス3%、セロリはプラス12%と、参照区域を上回る結果となっていました。
この結果は、営農型太陽光発電が気候変動による異常気象、特に干ばつに対して農業のレジリエンスを高める可能性を示唆しています。
次に、農作物の種類によって営農型太陽光発電の向き不向きはあるのか見ていきましょう。
営農型太陽光発電に適合する作物は、葉物野菜や牧草、果樹、ベリー類など、日陰や部分的な遮光に強い品種が特に有望です。
例えば、レタスやセロリ、ジャガイモ、リンゴ、ブドウなどは、パネルによる遮光がむしろ成長や品質の向上につながる場合もあります。
一方、トウモロコシなど強い光を必要とする作物では、パネル配置や遮光率、透過率の工夫が必要になります。
経済性とコストについても見ておきましょう。
営農型太陽光発電は、従来の地上設置型太陽光よりも初期投資が高くなる傾向があります。
この主な要因は、パネルを高所に設置するための構造物や農業機械の通行に配慮した設計のためです。
しかし、発電による新たな収入源が得られるだけでなく、農作物の収量安定や灌漑コストの削減、既存の農業用設備との統合によるコストダウンも期待できます。
ドイツでは、農家が自家消費することで電気代を削減したり、余剰電力を売電することで収益を上げるモデルが広がりつつあります。
営農型太陽光発電のビジネスモデルの多様性も進んでいます。
農家自身が土地と発電設備の両方を所有・運営する「単独モデル」から、土地所有者と発電事業者が分かれる「分業モデル」、
複数の農家や地域住民が共同で運営する「協同組合モデル」など、地域の実情や規模に応じて様々な形態が成立しています。
これにより、農業とエネルギーの両面で地域経済への貢献度が高まります。
営農型太陽光発電の普及には、技術面だけでなく、制度や社会的受容性の向上も不可欠です。
農業補助金や土地利用規制、再生可能エネルギー法による優遇措置など、
ドイツでは法的・政策的な枠組みが整備されつつあり、今後の市場拡大に向けて追い風となっていることがレポートでは述べられています。
特に2023年の再エネ法では、100kW以下の営農型太陽光発電が固定価格買取制度の対象となり、新たな取り組みを後押ししています。
さらに、地上からの高さが2.1m以上ある支柱式の営農型太陽光発電に対しては、テクノロジーボーナスが固定価格の参照価格に上乗せされます。
このボーナスは、2023年の入札ではkWhあたり1.2セントで、その後段階的に引き下げられる計画となっています。
これは、建設コストが高くなる支柱式システムの導入を後押しするための非常に重要なインセンティブです。
もう一つのインセンティブとして、営農型太陽光発電を蓄電池や他の再エネシステムと組み合わせたシステムコンビネーションとしてイノベーション入札に参加することも可能となっていて、落札者は市場プレミアムを受け取ることができます。
このような営農型太陽光発電に対するドイツの政策的支援は、今後の普及を加速させるとともに、新たな営農型太陽光発電のテクノロジーイノベーションを導く可能性があります。
最後に、日本の営農型太陽光発電への示唆についても触れておきたいと思います。
日本では2013年から本格的に営農型太陽光発電の取り組みが始まり、これは国際的に見てもかなり先駆的な動きでした。
前例のない中で、許認可などに多大な苦労をしながらも、2022年末時点で累計5351件、導入面積1209ヘクタールの導入実績となっています。
すでに優良事例も多くあり、導入が進む一方で、全体としては必ずしも農業者が主体で進められているわけではなく、発電事業者が主導して開発される事例や、それ故に農業がおろそかになってしまう事例も散見される状況にあります。
そのため、今回見てきたような多様なメリットを生む可能性のある営農型太陽光発電を本来はより推進すべきであるところですが、日本ではむしろ規制を強化する動きが強まれつつあります。
もちろん、粗悪な事例は規制することで未然に発生を防ぐべきですが、それによって優良事例となる可能性のある新たな取り組みにまで過剰な対応を求めることは、全体としてエネルギー転換をスローダウンさせることになるだけでなく、本来営農型太陽光発電がもたらすであろう多様なメリットまで逃すことになってしまいかねません。
今回参照したドイツの営農型太陽光発電のレポートでは、具体的な事例からどのような影響や効果があったのかが定量的に数字で示されているため、非常に説得力を持っていました。
日本でも今後営農型太陽光発電をより進めていく上では、こうした具体的で定量的な分析に基づいて政策支援を検討していくことが必要なのではないかと思います。
今回は、農地とエネルギーの両立の可能性、ドイツの最新レポートから読み解く営農型太陽光発電をテーマに、営農型太陽光発電の土地利用効率、農作物・水資源への影響、適合する農作物の種類、経済性とビジネスモデル、そして政策的支援についてお話ししました。
レポートの詳細や参考資料のリンクは概要欄からご覧ください。
それではまた次回お会いしましょう。