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2025-11-22 12:18

蓄電池は誰のために動く?:オーストラリアVPPのソーシャルライセンス

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今回のエピソードでは、オーストラリアのバーチャルパワープラント(VPP)を手がかりに「蓄電池は誰のために動くのか」を考えます。

南オーストラリア州ではじまった SA VPP はテスラが着手し、現在はAGLが運営。公営住宅に初期費用なしで太陽光とPowerwallを設置し、電気料金を市場より約25%低く提供するモデルが注目されています。発電所停止や山火事による送電障害時にも系統安定化に寄与してきました。

一方でVPPの普及は必ずしも思ったように進んでいない部分もあります。そのカギとなるのが「ソーシャルライセンス」。ニューサウスウェールズ大学などの研究チームによる調査では、すでに太陽光・蓄電池を導入している世帯は主に「エネルギー自立(停電時の安心や電力会社からの独立)」を重視する一方、未導入世帯は「経済的メリット」による参加動機が相対的に強い傾向が示されました。

外部による蓄電池の制御を受け入れる条件として、コントロール感(必要時に離脱できる権利)、運用の透明性と公平性、そして信頼できる運営主体であることが重要です。

日本での展開に向け、技術・経済の設計だけでなく、こうした動機と条件の差異を踏まえた社会的対話を組み込むことが求められます。


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—Production: Shota FURUYA

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サマリー

このエピソードでは、オーストラリアのバーチャルパワープラント(VPP)とそのソーシャルライセンスについて考察され、特に南オーストラリア州の成功事例が紹介されています。参加者の意識調査を通じて、家庭が蓄電池をどのように利用するか、信頼とコントロール感の重要性が論じられています。

バーチャルパワープラントの基本概念
こんにちは、FURUYA Shotaです。Energy Intelligence and Foresightへようこそ。今回は、蓄電池は誰のために動く? オーストラリアVPPのソーシャルライセンスをテーマにお話しします。
今回参照するのは、南オーストラリア州政府、テスラ及びAGLが公式に発表しているVPP関連資料と、
2023年に Energy Research & Social Science に掲載された、マイク・B・ロバーツ、ソフィー・M・アダムス、デクラン・クッチの3人による論文、
Social license to automate batteries? Australian householder conditions for participation in virtual power plant、です。
はじめに、今回のテーマであるバーチャルパワープラント、略してVPPについて基本的な考え方を確認しておきましょう。
VPPはテクノロジー規格やビジネスモデル、また政策など様々な文脈にまたがって言及されることがあるため、
一つの定義に統一することはできないのですが、RMIによる説明が比較的わかりやすいので、翻訳して引用しておきます。
バーチャルパワープラント、VPPとは、小規模なエネルギー資源を集合させ、系統運用と連携させることで、
従来の発電所と同様の信頼性と経済的価値を電力系統に提供するものです。
VPPの中核は、電力系統を支援するために家庭や企業に存在するサーモスタット、EV、家電製品、蓄電池、太陽光発電設備などが持つ潜在的な能力を活用することです。
これらの機器は電力系統のニーズに応じて柔軟に充電・放電、または管理することができます。
これらの機器を集約し連携させることで、従来の発電所と同様のエネルギーサービスを提供できます。
ここまでが引用です。
南オーストラリアの成功事例
これをもとにもう一段階具体的にすると、例えば、住宅の屋根にある太陽光パネルや家庭の蓄電池といった地域に散らばる小さなエネルギー資源をインターネットを使って束ね、
あたかも一つの大きな発電所のように機能させる仕組みがVPPであると見ることができます。
VPPではソフトウェアが各家庭の蓄電池の充電や放電を遠隔でコントロールし、電力需要が高いときには一斉に放電して電力網を助け、逆に電気が余っているときには充電に回します。
これにより、天候に左右されやすい再生可能エネルギーの変動を補い、電力システム全体の信頼性向上に貢献します。
VPPは2010年代中盤に登場し、実証段階を経て、主に先進国で既に商用化されています。
そして、この分野で最も注目されているのが南オーストラリア州のVPPプロジェクト、South Australia VPP、略して SA VPP です。
2018年にテスラ主導で始まったこのプロジェクトは今やオーストラリア最大のVPPへと成長しました。
2025年現在はエネルギー大手のAGL社が所有して運営を引き継ぎ、最終的には最大5万世帯の住宅をつなぐことを目指しています。
特に SA VPP では、公営住宅の居住世帯を対象に初期費用なしで太陽光パネルとテスラの家庭用蓄電池 Powerwall を設置し、
電気料金を市場価格よりも25%も安く提供するという画期的なモデルを構築した点は注目すべきポイントです。
また SA VPP はすでに何度も電力需給の危機的事態で力を発揮しています。
例えばクイーンズランド州の発電所が停電した際や大規模な山火事で送電網がダメージを受けた際にも、
このVPPが電力供給を支え、系統の安定化に貢献したことが報告されています。
まさにVPPの登場以来、期待されてきた役割を実現した成功事例ということができます。
VPPのソーシャルライセンスの重要性
しかしこれほどの技術的成功と参加者への明確なメリットがありながら、
VPPの普及は思うように進んでいない部分があると言われています。
これに関して冒頭でも触れたニューサースウェールズ大学などの研究チームが発表した
Social license to automate batteries? という論文が非常に興味深い知見を提供しています。
論文のタイトルを翻訳すると、「蓄電池の自動化にソーシャルライセンスは下りるのか?」となりますが、
ここではソーシャルライセンス論文と呼ぶことにします。
ちなみにソーシャルライセンスという用語はオーストラリア特有の言い方で、
日本語では社会的許諾や社会からの信任と翻訳されます。
もともとは鉱山業や資源開発の分野で使われてきた概念で、
法律上の許可とは別に地域社会や人々から「この事業を進めても良い」という信頼と承認を得ることを意味します。
ソーシャルライセンス論文ではVPPが技術的に可能であり経済的にも合理的であっても、
オーストラリアの一般家庭が外部からの蓄電池の制御に信頼と許諾を与えるのかということを問い、
調査と分析を通じて深く掘り下げています。
具体的にはオーストラリア全土の一般家庭47世帯を対象にインタビューとフォーカスグループ形式の定性調査が行われました。
対象者には既に太陽光発電や蓄電池を導入している世帯とまだ導入していない世帯の両方が含まれ、
VPPへの参加意欲に影響を与える要因、つまり参加したいと思う理由や逆に懸念となる事項、
そしてどのようなVPP設計であれば参加したいと思えるのか、といった点が詳しく調査されました。
この調査から明らかになった最も重要な点は、人々が蓄電池を購入する動機とVPPに求めるものが必ずしも一致しないという事実でした。
多くの家庭が太陽光発電や蓄電池を導入する最大の動機は Energy Independence = エネルギー自立でした。
つまり、電力会社への依存から脱却し、停電時にも安心な生活を送りたいという願いです。
しかしVPPに参加するという事は、自宅の蓄電池のコントロール権を外部の事業者やアルゴリズムに一部委ねる事を意味します。
ここには自立を目指す人々の価値観とは相入れないところがあります。
ある参加者は、「停電が起きたらどうするんだ?VPPが私の蓄電池を使ってしまって、自分の家が停電したら意味がない。」と語っていました。
この言葉は多くの家庭が抱く根本的な不安を象徴しています。
また、既に太陽光発電や蓄電池を導入している人たちは、特にエネルギー自立に価値を置いて取り組んできたこともあり、VPPへの参加に関してはアーリーアダプターになる可能性が低いとみられます。
一方で、まだ太陽光と蓄電池を導入していない家庭については、純粋に経済的なメリットに魅力を感じてVPPに参加する可能性があり、むしろアーリーアダプターになりそうです。
さらに調査では、VPPが電力の需給に貢献することで、電力ユーザー全体が停電を回避できる可能性があるという潜在的なメリットや、VPPを通じてより多くの再エネを導入することが可能になるという環境・気候変動対策としてのメリットなど、幅広く様々なメリットをもたらす可能性があることを知ると、調査回答者はより積極的にVPPへの参加を検討することも分かりました。
さらに、電力へのアクセスに課題がある先住民のコミュニティにもそういったメリットがもたらされるのかを気にする回答者もおり、エネルギーの公平性もVPPの検討要素となることが分かりました。
次に、この調査から人々がVPPへの参加を検討する条件として、単なる経済的利益以上のものがあることが分かりました。
その中心にある要素はコントロール感と信頼です。
VPPに参加すると、参加者は蓄電池の運用を部分的にVPP事業者に委ねることになります。
これに対して自分の蓄電池が何に使われているのか、透明性をもって知りたい。
さらに必要であれば、いつでもVPPの制御から離脱できるオプションがあることを重視する回答が明確な傾向として確認されています。
また、信頼という面では誰がVPPを運営するのかという点が大きな要因となっていました。
オーストラリアでは電力小売事業者への全般的な信頼が低く、インタビューではVPPの運営はコミュニティ団体や非営利団体、もしくは公的な団体が担うことが望ましいという意見が多く見られました。
こうした調査の結果を踏まえ、論文ではVPPがソーシャルライセンスを得るには、信頼できる主体による運営の下、コスト及び利益の分配における透明性と公平性が保障される必要があると述べています。
また、VPPへの参加の動機は、エネルギー自立を重視する人や、純粋に経済的メリットを求める人など多様であり、彼らの蓄電池のコントロール感に対応する柔軟なモデルが不可欠であるとも述べられています。
加えて、VPPには個人や家庭の利益追求を超えて、電力システムや地域コミュニティという幅広い他社とのリスク及び便益の共有という側面があり、これは公平性の問題にも繋がるため、VPPの普及は社会的対話の促進も併せて実施される必要があると述べられています。
この論文は、先行して普及が始まったオーストラリアのVPPに関する人々の認識や行動の条件を明らかにしているという点で、非常に意義深いと僕は感じました。
特に本文の中でも触れられているのですが、「エアコンをガンガンかけて無責任に電気を使っている人たちの分まで自分は代償を払うつもりはない。だから自分の蓄電池をグリッドのために使うつもりはない。」といった発言もあり、VPPの社会的次元の深さを知ることができました。
日本で今後VPPが広がっていく可能性は今のところ未知数ですが、太陽光と蓄電池の価格低下はますます進んでいくという見通しを踏まえれば、どこかのタイミングで普及する可能性があります。
その時により良い形で導入が進められるよう、今回のような海外の知見を今後もモニタリングしていきたいと思います。
今回は蓄電池は誰のために動く?オーストラリアVPPのソーシャルライセンスをテーマに、VPPの基本的な仕組み、南オーストラリアでのVPPの成功、VPPのソーシャルライセンスについてお話ししました。
レポートの詳細や参考資料のリンクは概要欄からご覧ください。
それではまた次回お会いしましょう。
12:18

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