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2025-09-27 08:36

災害医療体制の現状と課題:能登半島地震・コロナ禍の教訓から見る今後の方向性

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令和7年9月18日に開催された中央社会保険医療協議会の入院・外来医療等の調査・評価分科会において、災害医療に関する包括的な調査結果が報告されました。日本の災害医療体制は783の災害拠点病院と1,840のDMATチームを中心に構築されていますが、能登半島地震での実際の派遣経験から、職員の配置基準維持や現地情報収集などの運用面での課題が浮き彫りになりました。

本報告では、災害拠点病院の整備状況とDMATの活動実態、能登半島地震における医療機関の対応状況、新型コロナウイルス感染症対応での施設基準の弾力的運用という3つの観点から、現在の災害医療体制の到達点と今後の改善方向を示します。特定機能病院の92.6%が能登半島地震への派遣を検討し、急性期一般入院料1算定病院の68.4%が検討したという結果は、高度急性期医療機関が災害医療の中核を担っている実態を明確に示しています。診療所における事業継続計画(BCP)策定率が約30%にとどまることや、派遣時の職員配置基準の課題など、医療提供体制全体として取り組むべき課題も明らかになりました。

災害拠点病院とDMAT体制の整備状況

日本の災害医療体制は、平成8年から整備が始まった災害拠点病院を中心に構築されています。災害拠点病院は、基幹災害拠点病院(都道府県に原則1箇所、全国63病院)と地域災害拠点病院(二次医療圏に原則1箇所、全国720病院)の2層構造で、令和7年4月1日までに計783病院が指定されています。

この災害拠点病院を支えるDMAT(災害派遣医療チーム)は、平成17年3月から養成が開始され、現在18,909名、1,840チームが研修を修了しています。DMATは医師1名、看護師2名、業務調整員1名の4名を基本として構成され、都道府県の派遣要請に基づいて活動します。令和4年2月には、新型コロナウイルス感染症対応の経験を踏まえ、新興感染症等のまん延時における対応も活動内容に追加されました。

各入院料区分別の災害派遣医療チーム設置状況を見ると、特定機能病院が90.7%と最も高く、次いで急性期一般入院料1算定病院が59.1%となっています。高度急性期医療を担う医療機関ほど災害医療体制への参画率が高い傾向が明確に表れています。DPC/PDPS対象病院では、災害拠点病院の指定、DMATの指定、EMISへの参加、BCPの策定が体制評価指数として診療報酬上も評価される仕組みとなっています。

能登半島地震における医療機関の派遣実態と課題

令和6年能登半島地震への対応では、医療機関の規模や機能による派遣検討・実施の差が顕著に現れました。派遣を検討した医療機関の割合は、特定機能病院92.6%、急性期一般入院料1算定病院68.4%、専門病院50.0%の順となり、実際に派遣した割合も同様の傾向を示しました。

派遣検討時の主な困難要因として、「現地の状況把握と情報収集」「派遣にあたっての交通手段の確保」「派遣中の労務管理」「派遣中に自施設のスタッフ配置基準が満たせなくなること」が挙げられました。これらの課題は、災害発生時の初動体制や情報共有システム、労務管理体制の整備が急務であることを示しています。特に、職員配置基準の問題は、平時の医療提供体制維持と災害支援のバランスという構造的な課題を浮き彫りにしています。

実際に派遣された職種は、看護師が最も多く(急性期一般1で94.4%、特定機能病院で100%)、次いで医師(急性期一般1で81.5%、特定機能病院で94.2%)、事務職員、薬剤師の順でした。災害医療においても、看護師と医師を中心とした多職種チームによる支援体制が機能していることが確認されました。

新型コロナウイルス感染症対応と施設基準の弾力的運用

新型コロナウイルス感染症への対応においても、医療機関間の支援体制が重要な役割を果たしました。他の医療機関や福祉施設への職員派遣を検討した医療機関は、特定機能病院46.3%、急性期一般入院料1算定病院43.2%と、能登半島地震への対応と比較すると低い割合でしたが、長期間にわたる支援が継続されました。

派遣検討時の困難要因は、「派遣中に自施設のスタッフ配置基準が満たせなくなること」が最も多く、次いで「現地の状況把握と情報収集」「派遣中の労務管理」が挙げられました。能登半島地震と異なり、交通手段の問題は少なかった一方で、長期派遣による自施設の人員不足がより深刻な課題となりました。

これらの課題に対応するため、厚生労働省は施設基準の弾力的運用を認める事務連絡を発出しています。新型コロナウイルス感染症患者の受け入れや職員派遣により、月平均夜勤時間数や看護要員数に1割以上の変動があった場合でも、最初の月から3か月以内に限り施設基準の届出区分変更を不要とする特例措置が設けられました。この措置は当初令和6年5月31日までとされていましたが、活用状況を踏まえて令和8年5月31日まで延長されています。

まとめ

日本の災害医療体制は、783の災害拠点病院と1,840のDMATチームを中心に着実に整備が進んでいます。能登半島地震と新型コロナウイルス感染症対応の経験から、高度急性期医療機関が災害医療の中核を担う体制が機能していることが確認されました。一方で、職員派遣時の配置基準維持、現地情報収集、労務管理などの運用面での課題や、診療所のBCP策定率が約30%にとどまるなど、医療提供体制全体としての備えには改善の余地があります。今後は、施設基準の弾力的運用の恒久化や、情報共有システムの強化、中小医療機関のBCP策定支援など、実践的な課題への対応が求められています。



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サマリー

能登半島地震とコロナ禍を通じて、日本の災害医療体制が直面するさまざまな課題が浮き彫りになります。特に、DMATや災害拠点病院の役割やその運営基準の維持に関するジレンマが問題となっています。

災害医療体制の現状
能登半島地震、そして長期化したコロナ禍、これらは日本の災害医療体制にとって、一種のストレステストみたいなものでしたよね。
本当にそうですね。今回はですね、これらの経験を経て、見えてきた課題と現状について、皆さんと一緒に少し深く見ていきたいと思います。
元になっているのは、政府の専門家会議、中央社会保険医療協議会の調査評価分科会がですね、令和7年9月18日にまとめた報告書です。
はい、この報告書は非常に資産に富んでるんですよね。 全国に整備されている災害拠点病院とか、あとDMAT、つまり災害派遣医療チームですね。
これらの実態、それから、のと半島地震とか、コロナ禍での具体的な活動と、そこで直面した困難がかなり詳しく分析されてるんです。
なるほど。我々の今回の目的としては、この報告書から重要なポイントを抜き出して、日本の災害医療の今を理解する、そしてこれからどうすべきか、その確信に迫ることですね。
では早速、その体制の基本から見ていきましょうか。日本の災害医療の柱、これは全国に783箇所ある災害拠点病院、それと約1840チームいるDMAT、これが中心ですね。
そうですね。DMATはお医者さん1名、看護師さん2名、それと業務調整員1名のチームで、都道府県からの要請で、迅速に現場へ向かうと。
最近だと、新興感染症への対応も任務に加わったんですよね。
その通りです。ここで特に興味深いのが、この体制の中心を担っているのが、普段からかなり高度な医療を提供している病院だっていう点なんです。
と言いますと?
特定機能病院、これは大学病院の本院とか、そういう高度な医療とか研究開発をやっている機関ですけど、ここの9割以上、
それと、急性期一般入院量1を算定している、つまり重症患者さんの急性期治療を担う地域の主要な病院ですね。
これらの約6割がDMATチームを持っているんです。
へー、なるほど。それはつまり、いざという時に本当に頼りになる体制が、普段の高度医療機関によって支えられていると、そういうことですか?
まさにそういうことです。背景には、病院の収入に直結する診療報酬制度、DPCDPSと言いますけど、ここでも災害拠点病院であることとか、DMATを設置している、あるいはBCP、つまり事業継続計画ですね。
病院自身の災害時の活動計画、これを作っていることが評価される、そういう仕組みになっている点も大きいと思いますね。
あー、なるほど。質と体制が、ちゃんと評価につながっているんですね。
では、その体制が実際に試された、のと半島地震ではどう機能したんでしょうか?ここ気になりますね。
そうですね。報告書によりますと、やはり特定機能業員の9割以上、それから旧世紀一般一病院の7割近くがDMATの派遣を検討したということなんです。
検討したですか?
いやー、それはすごいコミットメントですね。でも同時に、深刻な課題も見えてきたと。
ええ、そうなんです。現地の情報収集が難しいとか、交通手段の確保、あと派遣スタッフの労務管理、いろいろあるんですが、特に大きな壁になったのが、派遣によって自分たちの病院のスタッフ配置基準を満たせなくなるという問題だったんです。
あー、そのスタッフ配置基準の問題ですか。
まさにそこがこの問題の核心部分ですね。このスタッフ配置基準というのは、単なる努力目標とかじゃなくて、病院の認可とか、さっき触れた診療報酬に直接関わってくるかなり厳格な基準なんですよ。
なるほど。つまり、全員でスタッフを派遣した結果、自分とこの病院の運営基準を下回っちゃって、ペナルティーを受けるリスクが出てくると。
この何というか、構造的なジレンマが支援の大きな足枷になったというわけです。
それは厳しいですね。応援を出したい、でも自分たちの足元も守らなきゃいけない。非常に難しい判断を迫られたわけですね。
ええ。派遣された職種を見ると、看護師さんが一番多かったようですが、どの職種であっても、この根本的な問題は共通してあったようです。
このスタッフ配置の問題、コロナ禍でもやはり見られたんでしょうか。
ええ。コロナ禍でも同様の課題が浮き彫りになりましたね。病院間のスタッフ派遣、もちろん行われたんですが、特定機能病院で46.3%、救世機一般1で43.2%が検討。
今後の対応策
ノトの地震の時ほど割合は高くなかった。ただ、支援が長期間に及んだんですね。
ああ、なるほど。期間が。
はい。ここでも最大のネックは、やはり人員のスタッフ配置基準でした。
ノトみたいな物理的な移動の困難さというのは少なかった反面、長期戦による人手不足とその基準維持の痛さみ、これがより深刻だったと言えるかもしれません。
長引く危機に対して、何か対応策というのは取られたんですか。
はい。厚生労働省はですね、次元的な特例措置というのを設けました。コロナ患者さんの受け入れとかスタッフ派遣によって、一時的に例えば看護師さんの夜勤時間とか人数とか、そういう基準を満たせなくなっても、すぐには診療報酬上の区分変更は行わないと、そういうものです。
なるほど。柔軟な対応ですね。
はい。この措置は令和8年の5月末まで延長されています。これは現場の負担を上げる重要な対応だったとは思うんですが、ただあくまで一時しのぎであって、根本的な解決策ではないという点は、ちょっと注意が必要ですね。
なるほど。よくわかりました。一連の経験を踏まえて、日本の災害医療体制の現状、これはどう評価できるんでしょうか。
うーん、全体として見ればですね、災害拠点病院とDマットを中心とする体制、これは特に特定機能病院とか救世機一般一病院といった、いわゆる高度救世機を担う病院の奮闘によって一定の機能を果たしていると言えると思います。彼らの存在は大きいですね。
しかし同時に課題も山積みだと。
まさにその通りです。派遣時の情報収集とか労務管理、こういったオペレーション上の課題、そしてより根深いのが、先ほどから出ているスタッフ配置基準との兼ね合いの問題。
さらにちょっと見逃せないのが、地域の診療所とか比較的小小規模な医療機関におけるBCP、つまり事業継続計画ですね。
これの策定率がまだ約3割にとどまっているという点です。
3割ですか。それは低いですね。
これも病院自身の災害対応プランなんですが、地域全体の医療提供体制のレジリエンス、しなやかな回復力って言いますか、それを考えると大きな病院だけじゃなくて、地域全体の備えの底上げ、これが急務だと言えますね。
なるほど。今回は、ノト半島地震とコロナ禍という2つの大きな試練を経た日本の災害医療体制について、政府の報告書を基に見てきました。
DMATなどの仕組み自体は機能していると言えるんでしょうけど、特にスタッフ派遣に伴う、その人員の体制維持という構造的なジレンマとか、情報共有、
そして地域全体の備えの強化、こういった課題がはっきりと見えてきたと言えそうですね。
そうですね。最後に、これは聞いてくださっているあなた自身にも少し考えてみていただきたい問いなんですけれども、今回明らかになった迅速な災害支援と人員の通常医療の維持という、
まあ二律背反とも言えるようなこの難しい課題。将来また大きな災害に見舞われたときに、私たちどうすればこの2つを両立させることができるんでしょうか。
例えばテクノロジーの活用とか、あるいはこれまでにない連携の形とか、何か解決の板口はどこにあるのか、少しこう想像を巡らせてみるのも未来への備えになるのかもしれませんね。
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