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2025-09-30 08:18

高度急性期医療の転換点:特定集中治療室の医師配置要件緩和と新たな支援体制

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令和6年度診療報酬改定により、特定集中治療室の医師配置要件に大きな変更が加えられました。この改定は、医師不足と働き方改革という二つの課題に直面する高度急性期医療の転換点となっています。入院・外来医療等の調査・評価分科会の分析結果から、集中治療室運営の現状と今後の方向性が明らかになりました。

本稿では、特定集中治療室等を有する病院の実態調査結果を踏まえ、医師配置要件の緩和による影響を分析します。年間救急搬送件数と医療資源投入量の相関関係から、集中治療室の適正配置基準を検討します。さらに、新設された遠隔支援加算の活用状況と、特定機能病院における重症患者対応体制強化加算の課題について考察します。これらの分析を通じて、高度急性期医療の質を維持しながら、持続可能な運営体制を構築するための政策的示唆を提示します。

特定集中治療室の運営実態と患者受入状況の詳細分析

特定集中治療室管理料等の届出医療機関数は長期的に増加傾向にあり、高度急性期医療への需要の高まりを反映しています。調査結果によると、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料を算定する病院の多くは二次・三次救急医療施設であり、約6割が年間救急搬送件数4,000件以上の高度な救急医療を提供していました。しかし、一部には年間救急搬送件数が1,000件未満の病院や、救急部門を有していない病院も存在することが明らかになりました。

実際の患者受入状況を見ると、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料を算定した患者のうち、救急搬送され入院した患者は約38%、全身麻酔を受けた患者は約58%でした。注目すべきは、いずれも受けていない患者が約14%存在したことです。この結果は、集中治療室が必ずしも救急や術後管理だけでなく、院内急変患者への対応も担っていることを示しています。

入室経路の分析では、救命救急入院料と脳卒中ケアユニット入院医療管理料では救急外来からの入室が多い一方、特定集中治療室管理料とハイケアユニット入院医療管理料では救急外来に加えて手術室からの入室が多いという特徴が確認されました。いずれの区分においても、急変による入室が一定割合存在しており、院内の重症患者管理における集中治療室の重要性が明らかになりました。

医療資源投入量の分析では、年間救急搬送件数が多い病院ほど入室患者の1日当たり医療資源投入量が高い傾向が確認されました。特に、年間救急搬送件数が1,000件以上2,000件未満の病院では、年間全身麻酔件数が多いほど医療資源投入量の高い患者数が多い傾向があった一方で、年間救急搬送件数が1,000件未満の病院では逆の傾向が見られました。この結果は、病院の規模と機能により、集中治療室の役割が異なることを示唆しています。

脳卒中ケアユニットの運営実態と専門治療への対応状況

脳卒中ケアユニット入院医療管理料を算定する病院の調査では、重要な課題が浮き彫りになりました。多くの病院が超急性期脳卒中加算または経皮的脳血栓回収術を一定回数実施していた一方で、これらの治療を全く実施していない病院も存在していました。分科会では、rt-PAの投与や血栓回収術の実績が一定程度ある病院が脳卒中ケアユニットを設置すべきという意見が出されました。

脳卒中ケアユニットの受入体制を詳細に見ると、「頭蓋内圧持続測定を必要とする患者」を原則受け入れ可能な治療室は約5割にとどまりました。一方、「脳梗塞に対するrt-PA療法・血栓回収療法を受けた患者」を原則受け入れ可能な治療室は約8割となっており、施設間で対応能力に差があることが明らかになりました。この状況は、脳卒中ケアユニットの質の標準化と、適切な患者配分の必要性を示しています。

医師配置要件の緩和がもたらした構造的変化

令和6年度診療報酬改定において、専任医師の常時配置要件を緩和した「特定集中治療室管理料5、6」が新設されました。この新区分では、専任医師に宿日直を行う医師を含めることが可能となり、医師の働き方改革に対応した柔軟な運営が可能となりました。改定後の届出状況を見ると、特定集中治療室管理料5、6の届出医療機関・病床数が大幅に増加し、その多くが従来の特定集中治療室管理料1~4から変更したものでした。

変更理由として最も多かったのは「専任医師が当該治療室において宿日直勤務を行っており、交代勤務体制が組めないため」であり、医師確保の困難さが浮き彫りとなりました。この変更により、近年増加傾向にあったハイケアユニット入院医療管理料の病床数は減少に転じており、診療報酬体系の変更が医療提供体制に直接的な影響を与えたことが確認されました。

注目すべき点は、特定集中治療室管理料5、6とそれ以外の区分において、処置・モニタリングや患者状態に関する受入方針に大きな差が認められなかったことです。集中治療の経験を5年以上有する医師は、当該医師の配置が要件とされていない区分においても一定の配置が行われており、医療の質の維持に向けた各施設の努力が見られました。ただし、特定集中治療室管理料5、6では、夜間・休日に「その他の診療科の医師」を配置している割合が多く、専門性の観点からは課題が残ることも明らかになりました。

分科会では、「治療室内に常時勤務」との要件の厳格性について議論がありました。治療室外に医師がいる場合でも適切な対応が可能な体制があれば、必ずしも室内常駐にこだわる必要はないのではないかとの意見も出されました。一方で、医師の働き方改革の趣旨を踏まえると、宿日直ではない交代勤務体制の維持は重要であり、バランスの取れた制度設計が求められています。

遠隔支援加算の導入と地域医療支援の実態

特定集中治療室遠隔支援加算は、医師少数区域や医療資源の少ない地域への支援を促進する目的で新設されました。この加算により、特定集中治療室管理料1、2を算定する施設から、遠隔モニタリングによる支援を受けることが評価されるようになりました。被支援側への支援を行う医療機関については、医師少数区域又は医療資源の少ない地域に所在する医療機関が含まれていることが要件となっています。

しかし、現状では加算を算定している医療機関は全国で5施設にとどまっています。医師少数区域または医療資源の少ない地域に所在する特定集中治療室管理料5、6算定医療機関は全国に25箇所存在するにもかかわらず、実際に遠隔支援を受けている施設は医師少数区域等の1施設とそれ以外の4施設のみという状況です。この低い活用率は、技術的な課題や運用面での困難さが存在する可能性を示唆しています。

分科会では、地域において必要な役割を果たしている集中治療室であることを前提として、集中治療を専門とする医師等の不足が見込まれる地域に対しては、遠隔支援を活用することが有効であるとの意見が出されました。また、医師少数区域以外にも専門医が不足している地域が存在することが指摘され、今後の要件緩和や支援体制の充実により、より広範な地域での活用が期待されます。

重症患者対応体制強化加算における特定機能病院の制度的課題

重症患者対応体制強化加算は、重症患者に対する24時間体制の医療提供や、専門性の高い看護師・臨床工学技士の手厚い配置、重症患者への対応力向上を目的とした院内・院外研修等を評価する制度です。しかし、特定機能病院は急性期充実体制加算を届け出ることができないため、結果として重症患者対応体制強化加算も算定できない状況にあります。

調査によると、特定機能病院が重症患者対応体制強化加算を届け出できない理由の82.9%が「急性期充実体制加算を届け出ていない」ことでした。その他の理由はいずれも20%未満であり、制度設計上の問題が主要な障壁となっていることが明確になりました。特定機能病院は、その性質上、高度な医療を提供し重症患者への対応能力が高いにもかかわらず、制度的な制約により適切な評価を受けられない矛盾が生じています。

分科会では、この問題について強い見直しの必要性が指摘されました。特定機能病院が算定対象外となる理由や意義について再検討すべきとの意見が出され、特定機能病院の役割と機能を考慮した独立した評価体系の構築が求められています。今後の診療報酬改定において、特定機能病院の実態に即した評価方法の検討が急務となっています。

まとめ:持続可能な高度急性期医療体制の構築に向けて

高度急性期入院医療は、医師不足と働き方改革という二つの課題への対応を迫られています。令和6年度診療報酬改定による医師配置要件の緩和は、これらの課題に対する現実的な対応策として機能し始めています。年間救急搬送件数と医療資源投入量の相関関係、脳卒中ケアユニットにおける専門治療実績の重要性、そして患者の入室経路の多様性から、集中治療室の適正配置基準を設定することが可能であることが示されました。遠隔支援加算の活用促進と特定機能病院における評価体系の見直しが、今後の重要な政策課題として浮上しています。これらの取り組みを通じて、医療の質を維持しながら持続可能な高度急性期医療体制を構築することが求められています。



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サマリー

特定集中治療室に関する医師配置要件の緩和が医療現場に与える影響について考察されています。新しい支援体制や病院の役割の変化に対して、患者の受け入れ方針や専門性の維持が重要視されており、持続可能な体制を模索する様子が浮き彫りになっています。

特定集中治療室の現状と課題
さて今回はですね、ご提供いただいた資料を基に、日本の特定集中治療室、ICUですね、ここで最近起きている変化について深く見ていきたいと思います。
特に、医師不足とか働き方改革に対応するために、医師の配置ルールの緩和、これがポイントです。
もしもの時、あなた自身が受けるかもしれない高度医療に、これがどう影響するのか、一緒に考えていきましょう。
はい、よろしくお願いします。令和6年度の診療報酬改定、これはICU運営にとってはかなり大きな転換点と言えるかもしれませんね。
資料を拝見しますと、日々のICUの実態ですとか、その配置要件の緩和がどう影響しているか。
それから遠隔支援という新しい試み、あとは特定機能病院が抱える制度上の課題、みたいなところが見えてきますね。
まずそのICUとかHCU、ハイケアユニット、これ数自体は増えてるんですね。
ええ、そうなんです。
でもその多くが救急搬送の多い病院っていうのは、まあそうかなと思うんですけど、救急部門がない病院にもあるっていうのは、ちょっと面白いですよね。
そうですね。それと入室される患者さん、これもですね、約14%の方が救急搬送でも手術後でもなく、院内で状態が急変した方々、これも見逃せない点です。
ああ、なるほど。院内急変への対応っていう側面もあるわけですね。ICUの役割も一つじゃないと。
まさに。データを見ると、年間の救急搬送件数が多い病院ほど、一人当たりの患者さんにより多くの医療資源、人手とか設備とかですね、そういったものが投入されている傾向があります。
つまり病院の規模とか機能によってICUに求められる役割も違ってくるんだろうなというのが伺えますね。
そして今回の大きな変更点。医師の配置基準が緩和された特定集中治療室管理料5、6ですか。
はい。
これまでは基本的に専門のお医者さんが常にいるっていうのがルールだったのが、夜間とか休日は宿の区とか日の区の先生、つまり必ずしも集中治療が専門じゃない先生でもOKになったということですよね。
その通りです。実際に多くの病院が従来の区分からこの新しい5、6に移行した背景には、やはり専門医だけでの24時間体制、この交代勤務を組むのが難しいという現実があるようです。
うーん、やっぱり人手不足の問題が大きいんですね。
そう考えられますね。その影響なんですが、これまで増えていたHCUの別途数がなんと減少に転じたんです。
へー、HCUが減ったんですか。それはどうして。
一部のHCUがこの新しい基準のICUに移行したという見方もできますね。注目したいのが、患者さんの受け入れ方針自体には実は大きな差は見られないものの、新しい区分5、6だと夜間や休日にその集中治療以外の診療科の先生が対応する割合がちょっと増えているんです。
ああ、なるほど。もちろん緊急対応はするんでしょうけど、専門性の維持という点では少し気になるところではありますね。
そこは今後の注視すべき点でしょうね。
次に、脳卒中ケアユニット、HCUの話も出てましたね。
はい、HCUですね。
こちらも何か課題があるみたいで、例えば長久性期の治療、RTPAとか血栓回収療法、これを全くやってないHCUがあったり、あとは頭蓋内圧を持続的に測る、みたいな重症管理ができる施設が半分くらいしかないとか、施設によってかなり差はあるんですね。
うーん、そうなんですよ。ですから専門家の間では、こういった重要な治療の実績を、もうHCUとして認められるための前提条件にすべきじゃないかとか、あるいはユニット全体の質をもっと標準化していく必要があるよね、という声が結構強く上がっていますね。
新たな医師配置基準の意義
まあ、患者さんからすれば、どこに行ってもある程度、かんとした治療を受けたいですもんね。
まさにそこが重要だと思います。
それから遠隔支援、これも新しい加算ですけど、医師が少ない地域を助ける、みたいな。
ええ。
これが驚いたんですけど、実際に使っているのが全国でたった5施設。
そうなんです。その数字だけ見ると、ちょっとえ?と思いますよね。
対象になりそうな施設はもっとあるはずなのに、これはなんかハードルがあるんですかね。
データを見ると、特に医師少数区域等っていう、本当に支援が必要そうな地域の対象施設が25カ所ある中で、実際に支援を受けているのはたった1施設のみという状況でして。
1施設。
ええ。技術的な設定の難しさとか、あるいは運用面での連携が思ったより大変とか、そういうことがあるのかもしれません。
ポテンサルは大きいと思うんですけどね。どうすればもっと活用されるか、今後の課題ですね。
そして最後に、特定機能病院、大学病院の本院みたいな、高度医療を提供する病院の話。
はい。
ここが、重症患者対応体制強化加算っていう、手厚い体制を評価する加算を取れていないケースが多いという。
ええ。これもちょっと制度上のねじれみたいな話でして。
ねじれですか。
はい。その加算を取るための前提となる、別の旧正規充実体制加算というのを届け出ていないというのが理由の8割以上だそうです。
なんで届けてないんですかね。特定機能病院ならもともと体制はありそうなのに。
まさにそこが問題で、特定機能病院はそもそも重症患者を見る体制を持っているはずなのに、現行の評価の仕組みだとそれがうまく加算に結びつかないという。
医療システムの持続可能性
これは中京、診療報酬を決める会議ですね。そこでも問題視されていて、見直しが必要だという意見が出ています。
やはり特定機能病院の役割に見合った独立した評価の仕組みが必要なんじゃないかということですね。
なるほど。こうして全体を見てくると、今回の資料が示しているのは、やっぱり医療現場が人手不足という厳しい現実の中で、なんとか質を保ちつつ持続可能な体制を作ろうともがいている姿と言えるんでしょうかね。
そうですね。
配置基準の緩和があって、でも専門性は維持したい。遠隔技術に期待はするけど、なかなか活用されない。
トップクラスの病院でさえ精度の壁にぶつかっている。これって結局何を物語っているんでしょうか。
根底にあるのは、やはり限られた資源、人、物、金の中でどうやって質の高い重症者医療を未来に渡って維持していくのかという非常に大きな問いに対する模索のプロセスなんだと思います。
データが示唆しているのはもう学位的な基準じゃなくて、病院の機能に応じたもっと柔軟なICUの在り方であったり、あるいは遠隔支援みたいなサポート技術をもっと活用していくこと、そして特定機能病院のような施設の特性をきちんと評価する精度設計、こういったものが今後の影になってくるということでしょうね。
深いですね。ありがとうございます。
そして、この複雑な医療システムについて、今画面の向こうで考えているあなたへ、最後に一つ思考の種を投げかけさせてください。今回の資料は、精度とかスタッフの配置とか、どちらかというとシステム側の話が中心でしたよね。
では、こういう変化が最終的にICUの中にいる患者さんの経験そのもの、例えば感じる不安の大きさとか、安心感、あるいはスタッフとのコミュニケーションの質、みたいなものにどう影響していく可能性があるんでしょうか。資料には直接書かれていませんでしたが、これもまた私たちがこれから考えていくべき、とても大切な問いなのかもしれません。今回も深く掘り下げていただきありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
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