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2025-10-19 07:10

国民医療費は増加するのに病院の7割が赤字―医療経営の構造的課題を解説

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全日本病院協会の神野正博会長が「医療のトリセツ」シリーズ第2回で、国民医療費の増加と病院経営の深刻な課題について解説しています。近年、病院の倒産や廃業、小規模病院のクリニック化が相次いでいますが、その背景には医療経済特有の構造的問題があります。本記事では、神野会長の解説をもとに、なぜ医療費が毎年1兆円ずつ増加しているにもかかわらず、多くの病院が赤字経営に陥っているのか、その理由を明らかにします。

国民医療費は高齢化と医療技術の進歩により毎年1兆円ずつ増加しています。医療をたくさん使う高齢者が増加し、お金のかかる先端医療も増えているためです。しかし、診療報酬という公定価格は上げることができない一方で、人件費や材料費などの経費は増加し続けています。この価格と経費の板挟み構造により、診療量が多くても赤字になる病院が増加しており、神野会長は全国の病院の約7割が赤字であると指摘しています。この状況は、医療提供体制の持続可能性を脅かす危機的状況です。

国民医療費の増加要因と日本経済の停滞

国民医療費は毎年1兆円ずつ増加しており、この増加ペースは他の業界には見られない特徴的な現象です。神野会長は、日本のGDPがほぼ横ばいで推移する中、国民医療費だけが右肩上がりで増加している現状を指摘しています。

この増加の主な要因は2つあります。第1に高齢化の進行です。高齢者は若年層と比較して医療サービスを多く利用するため、高齢者人口の増加に伴い医療費全体が膨らんでいます。第2に医学・医療技術の進歩です。先端医療技術の導入により、これまで治療が困難だった疾患への対応が可能になりましたが、高度な医療機器や新薬の使用には多額の費用がかかります。

この状況を見ると、「毎年1兆円も増えているのだから、病院は儲かっているのではないか」という疑問が生まれます。しかし実態は正反対です。多くの病院が赤字経営に陥っており、神野会長は全国の病院の約7割が赤字であると指摘しています。

市場経済と医療経済の決定的な違い

病院経営の困難を理解するには、一般的な市場経済と医療経済の違いを知る必要があります。神野会長は、この違いを利益の計算式を用いて明快に説明しています。

一般的な市場経済では、総売上は価格と量で決まり、利益は価格から経費を引いたものに量を掛けて算出されます。市場経済では、経費が増加して利益が減少した場合、企業は価格を引き上げることで対応できます。最近の物価高騰も、多くの企業がこの方法で経営を維持しようとしている結果です。

しかし医療の場合は状況が全く異なります。医療における価格とは診療報酬であり、これは国が定める公定価格です。病院は独自の判断で診療報酬を引き上げることができません。一方で、人件費、医療材料費、設備関係費などの経費は年々増加しています。価格を上げられない状況で経費だけが増加すれば、診療量をいくら増やしても赤字が拡大します。

この価格統制と経費増加の板挟み構造こそが、国民医療費が増加しているにもかかわらず病院経営が悪化する根本的な理由です。診療報酬改定は2年に1度実施されますが、物価上昇や人件費上昇を十分に反映した改定率となっていないため、病院の経営環境は年々厳しさを増しています。

病院経営の現状と持続可能性への警鐘

多くの病院が赤字経営に陥っている現状は、医療提供体制の持続可能性を脅かす重大な問題です。神野会長は全国の病院の約7割が赤字であると指摘し、この状況を将来の医療提供体制を考えたときに大きな問題であると警鐘を鳴らしています。

赤字経営が続けば、病院は経営を維持できなくなり、倒産や廃業、規模縮小を余儀なくされます。実際に、小規模病院がクリニックに転換するケースや、地域医療を支えてきた病院が閉院するケースが全国各地で報告されています。医療機関が減少すれば、地域住民が必要な医療を受けられなくなる医療過疎が深刻化します。

特に救急医療を担う病院では、救急搬送受入件数が多いほど医業費用が増加し、医業利益率が低下する傾向が明らかになっています。地域医療に不可欠な機能を担う病院ほど経営が厳しくなるという矛盾した構造が、医療提供体制全体の弱体化を招いています。

診療報酬という公定価格制度のもとでは、病院が経営努力だけで赤字を解消することには限界があります。持続可能な医療提供体制を確保するには、診療報酬制度の抜本的な見直しや、医療機関の経営を支える新たな財政措置が必要です。

まとめ

国民医療費は高齢化と医療技術の進歩により毎年1兆円ずつ増加していますが、診療報酬という公定価格を引き上げられない一方で経費が増加し続けるため、多くの病院が赤字経営に陥っています。神野会長は全国の病院の約7割が赤字であると指摘し、医療提供体制の持続可能性への危機感を表明しています。市場経済とは異なり、医療経済では価格を自由に設定できないという構造的問題が、病院経営を圧迫しています。この状況は医療提供体制の持続可能性を脅かす重大な課題であり、診療報酬制度の見直しを含めた対策が急務です。神野会長の解説は、私たちが普段意識することの少ない医療経済の特殊性と、病院経営が直面する深刻な現実を明らかにしています。



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サマリー

日本の国民医療費が毎年増加している一方で、全国の病院の約7割が赤字経営であるという矛盾した状況が浮き彫りになっています。この問題の背景には、高齢化や医療技術の進歩が存在しつつも、診療報酬の固定価格制が経営を圧迫しており、特に救急医療や地域に不可欠な機能を持つ病院に深刻な影響を及ぼしています。

医療費の増加と病院の赤字
今日のテーマ、これはちょっと考えさせられるかもしれません。 日本の国民医療費って、毎年1兆円も増えてるっていう話があるじゃないですか。
よく聞きますね、その話は。でもその一方でですね、実は全国の病院のおよそ7割が赤字経営だっていう、そういうデータがあるんです。
7割ですか。それはかなり多いですね。
ですよね。この一見矛盾しているような状況について、今回は全日本病院協会の菅野会長の解説記事があるんですが、これを元にちょっと深く見ていきたいなと。
はい、お願いします。
なんでこんなことが起きるのか、その仕組みをあなたと一緒に解き明かしていけたらなと思っています。
まず、基本的な事実として、国民医療費が毎年毎年1兆円規模で増えている。これはまあ確かなんですよね。
ええ、そうです。普通に考えたら、これだけお金が動いているんだから、医療業界は潤ってて、病院も儲かっているんじゃないかなって思っちゃいますよね。
まあ普通はそう考えますよね。実際に医療費が増えている背景には、大きく2つ理由があると言われています。
はい。
一つは、やっぱりこれはもう高齢化ですね。ご高齢の方はどうしても医療サービスを利用する頻度が高くなりますから。
まあそれはそうですよね。
で、もう一つが、医療技術の目覚ましい進歩です。
ああ、技術の進歩。
ええ。昔は難しかった治療ができたり、より高度な検査や手術が可能になったり、ただその分最新の医療機器とかお薬とかには当然あの高額なコストがかかってくるわけです。
なるほど。高齢化とその技術が進んだことで、医療にかかるお金そのものは増えていると。
そういうことです。
でもそれなのに多くの病院が赤字っていうのは、やっぱりこうストーンと布に落ちないというか、そのギャップは一体どこから生まれてるんでしょうか。資料の方ではどう説明されてますか。
そこがですね、まさにこの問題の確信部分なんです。
確信部分。
ええ。あの一般的な、例えば普通の会社の市場経済とこの医療の経済って決定的に違う点があるんですよ。
ほう、違う点。
それは価格設定なんです。
価格。
はい。病院が提供する医療サービス、お医者さんの診察とか検査とか手術とか、その価格ですね、いわゆる診療報酬と呼ばれるものですが、これは国が一律に決めている肯定価格なんですね。
ああ、国が決めてるんですか。病院が自分で決められない。
そうなんです。だから例えば材料費が上がったからとか、人手が足りなくて人件費が上がったからといって、病院の判断でじゃあ明日から診察料を上げますということは基本的にはできないんです。
うーん。
その一方でですよ、お医者さんや看護師さんのお給料、つまり人件費ですね、あとお薬とかいろいろな医療材料の仕入れ値、それから高価な医療機器の購入費や維持費、こういった病院を運営するための経費、コストはやっぱり年々上がっていくわけです。
なるほど。収入の単価は国が決めててほぼ固定なのに、出ていくお金、コストだけはどんどん上がっていくと。
まさにその通りです。この価格と経費の板挟み行動、これが多くの病院経営を根本から圧迫している大きな原因なんですね。
はー、板挟み構造ですか。
だから、例えば一生懸命たくさんの患者さんを診察して診療の量を増やしても、一つ一つの単価が低いままだとなかなか利益が出にくい。場合によっては、やればやるほど赤字が膨らんでしまうなんていう状況さえ起こり得るんです。
うわー、それは厳しいですね。まるで仕入れ値はどんどん上がっているのに、お店での販売価格はずっと同じ値なんで売らなきゃいけないみたいな。
まあ、それに近い感覚かもしれませんね。
それは経営的に相当しんどいですよね。この状況って、私たち、つまりこれを聞いているあなたの医療アクセス、受診のしやすさとかにはどういう影響が出てくるんでしょうか。
そうですね。資料で指摘されているのは、やはり経営が厳しくなって病院が倒産したり、あるいは廃業したり、あるいはそこまで行かなくても一部の診療科を閉鎖するとか、規模を縮小するとか、そういった可能性が出てきます。
診療報酬制度の課題
なるほど。
そうなると、地域によっては、必要な時に必要な医療を受けられる場所自体が減ってしまう。いわゆる医療過疎ですよね。地域で十分な医療が受けられなくなるという状態ですね。
これが進んでしまうんじゃないかという懸念が示されています。
特に、記事を読んでて気になったのが、救急医療とか小児科とか産科とか、そういう地域にとって絶対必要な、でもなかなか採算が取りにくいと言われるような機能になっている病院ほど、経営がより厳しくなる傾向があるという点なんです。これはかなり深刻じゃないですか。
まさにそうなんです。個々の病院が、いくら経営努力をしても、もう限界がある。そういう、なんというか、構造的な課題と言えると思います。
構造的な問題?
ええ。診療報酬というのは、2年に1度見直し改定はされるんですけど、近年のその、物価とか人件費の急激な上昇に、その改定率が十分には追いついていないというのが、どうも実情のようです。
なるほど。いやあ、厳しいですね。では、今回の話をちょっと整理してみましょうか。
はい。
まず、日本全体の医療費が増えている。これは主に、高齢化と医療技術が進歩したことが理由だと。
ええ。
でも、病院の収入のベースになる診療報酬、これは国が決めた固定価格みたいなもので、なかなか上がらない。
そうですね。
一方で、人件費とか薬や材料の費用、そういうコストは上がり続けている。このギャップのせいで、多くの病院、特に救急とか地域に不可欠な機能を担う病院ほど、赤字に苦しんでいる。
はい、そういう構図ですね。
これって、単に病院の経営が大変だねっていう話じゃなくて、あなた自身が、いざという時に必要な医療をちゃんと受けられるかどうか、そのアクセスそのものに関わる非常に重要な問題だということですね。
そうですね。もっと大きな視点で見ると、この日本の医療提供体制そのものが、このままずっと続けていけるんだろうか、持続可能なんだろうかという、そういう問いにも繋がってくるわけです。
うん。
資料が示唆しているように、やはりこの診療報酬制度の在り方自体を含めて、何か根本的な仕組みの見直しというのが、もしかしたら必要な段階に来ているのかもしれません。
なるほど。最後に、これを聞いているあなたにも、ぜひちょっと考えてみてほしい問いがあります。
救急医療みたいに、地域にとって絶対必要、でも採算を取るのは難しい。そういうサービスをどう経営が厳しくなるというこの構造がある中で、私たち社会全体として、こういったなくてはならない医療サービスの価値を、これからどう評価して、そしてどう支えていくべきなんでしょうか。
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