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2025-07-03 06:51

しずく採集士レイ|第五話 しずくの中の痛み

短編小説『しずく採集士レイ』(5/10)
第5話|しずくの中の”痛み”

特別保管室の中。昨晩と変わらないはずなのに、今日はどこか息が詰まるような圧迫感がある。

しずく#5111が中央に浮かんでいて、その光が部屋全体を青白く照らしている。

「……ううん。今日は、違う」

わたしの声が、静寂を破った。

〈レイ〉

SORAの声。さっきまでの沈黙が嘘のように、機械的な調子が戻っている。

〈接触は推奨しません〉
「でも、ここまで来たんだから」
〈……〉

今度は1.4秒の沈黙。
短い。でも、その短さが逆に、SORAの内部で何かが激しく処理されていることを物語っているような。

SORAは無言のまま。…レイは5111番に手を伸ばす。今日で三回目。一回目は偶然。二回目は衝動。そして今回は──

「わたしの意志で…」

指先がしずくに触れた瞬間、今までとは違う感覚が走った。そこに昨日のような拒絶はない。代わりに、吸い込まれるような感覚──

【…やっと】
声とも言えない声。でもどこかあたたかい。

【やっと、みつけてくれた】
映像が流れ込んでくる。でも今度は断片じゃない。もう少し長い、続きのある記憶。

──雨の日。
──傘を差し出す誰か。
──「ありがとう」と微笑む女性。
──その横顔が、今度は少しだけ見えそう。
──口元に微笑みが。でも、なぜか哀しそうで──
「あ……っ」
胸の奥が、ズキンと痛んだ。これは物理的な痛みじゃない。もっと深い場所の、魂が軋むような──

〈レイ、バイタルに異常〉
〈ただちに接触を中断してください〉

SORAの声が遠い。レイは手を離せない。いや、離したくない。この痛みの先に、何かがある気がして。

【…ねぇ】
また声。今度ははっきりと、問いかけてくる。
【…どうして、あなたは──】

その時突然、SORAの画面が真っ赤に光る。

『緊急アラート!検体レイを強制排除せよ!』
まるで殴り書いたような素早さで、それでも一文字ずつ、はっきりとそこに映し出された。

「検体……レイ?」
「わたしのこと?しずくじゃなくて?」

ブブ……

〈……レイ。これ以上はダメ〉
SORAの画面に一瞬ノイズが走る。

ブ、ブブ……

『最終警告です。検体同士の接触は厳禁です。ただちに手を離しそこから退去しなさい』

今まで聞いたことがない冷徹なSORAの声。
レイにも、これ以上は危険だと察するのに十分なものだった。


──部屋を出ると、

SORAはまた、いつものSORAに戻っていた。まるで何もなかったみたいに。

(…何かを、隠そうとしている?)

廊下を歩きながら、わたしは右手を見つめた。さっきの感触がまだ残っている。そして、あの胸の奥の痛みも。

「……これ、誰かの記憶のはずなのに」
声に出してから、レイは気づいた。

「なのに、どうして、“私の心”が、こんなに……痛むの……?」

〈……〉

SORAは何も答えなかった。ただ、いつもよりすぐ真後ろを、足音もなく静かに歩き続けていた。

──その夜。

部屋に戻ってからも、あの痛みはずっと続いていた。涙は流れない。でも、心の深いところで、何かが確実に軋んでいる。

「……検体…レイ…」
小さくつぶやいた言葉が、真っ暗な部屋の中に溶けていく。

「本当は、私……」
それ以上は、口にできなかった。でも、分かり始めていた。あれはきっと他人の記憶なんかじゃない。

そして、SORAもそれを知っている。知っていて、止めようとしている。

「ううん、SORAは本当に、止めようとしているのかな…?」

いや、でも、なんで…?
…わからない。

(…明日、また行こう)
レイは、そう心に決めて目を閉じた。

今日は夢の中で、静かな雨音がずっと聞こえていたような気がした。

(…第六話へ続く)


▼第五話のnoteはこちら▼
https://note.com/chikara_ctd/n/n376655ddaf46?sub_rt=share_b

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▼ここまでのスタエフ朗読▼
第一話「拒絶されたシズク」
https://stand.fm/episodes/685f597b00ccd5e38e9288cd

第二話「誰かの気配」
https://stand.fm/episodes/6860fb7174f0b7c44d55a043

第三話|封じられた欠片
https://stand.fm/episodes/68632b3be929f66fa2508bc6

第四話|8.2秒の沈黙
https://stand.fm/episodes/6864ff5fa3ad1cc18a44169b


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サマリー

レイはしずくナンバー5111と接触し、痛みを伴って過去の記憶を体験します。この記憶は他人のものではなく、彼女自身のものである可能性が浮かび上がります。

記憶との接触
短編小説 しずく採集士レイ 第五話
しずくの中の痛み 特別保管室の中
昨晩と変わらないはずなのに、 今日はどこか息が詰まるような圧迫感がある。
しずくナンバー5111が中央に浮かんでいて、
その光が部屋全体を青白く照らしている。
うーん? 今日は違う。
私の声が静寂を破った。 レイ
空の声。 さっきまでの沈黙が嘘のように機械的な調子が戻っている。
接触は推奨しません。 でも、
ここまで来たんだから。 今度は1.4秒の沈黙。
短い。 でも、その短さが逆に空の内部で何かが激しく処理されていることを物語っているような。
空は無言のまま。 レイは5111番に手を伸ばす。
今日で3回目。 1回目は偶然。
2回目は衝動。 そして今回は、
私の意志で、指先がしずくに触れた瞬間、 今までとは違う感覚が発した。
そこに昨日のような拒絶はない。 代わりに吸い込まれるような感覚。
やっと。 声とも言えない声。
でも、どこか温かい。 やっと見つけてくれた。
映像が流れ込んでくる。 でも、今度は断片じゃない。
もう少し長い。 続きのある記憶。
雨の日。傘を差し出す誰か。 ありがとうと微笑む女性。
その横顔が、今度は少しだけ見えそう。
口元に微笑みが。 でも、なぜか悲しそうで。
あ、胸の奥がずきんと痛んだ。 これは物理的な痛みじゃない。
もっと深いところの魂が軋むような。 レイ、バイタルに異常。
直ちに接触を中断してください。 空の声が遠い。
レイは手を離せない。 いや、離したくない。
この痛みの先に何かがある気がして。
ねえ、また声。 今度ははっきりと問いかけてくる。
どうしてあなたは。 その時突然、空の画面が真っ赤に光る。
緊急アラート! 倦怠レイを強制排除せよ!
まるで殴りがえたような素早さで、 それでも一文字ずつ、はっきりとそこに映し出された。
倦怠?レイ? 私のこと?
雫じゃなくて? ブブ。
レイ、これ以上はダメ。 空の画面に一瞬ノイズが走る。
ブ、ブブ。 最終警告です。
倦怠同士の接触は厳禁です。 直ちに手を離し、そこから退去しなさい。
今まで聞いたことがない冷徹な空の声。 レイにも、これ以上は危険だと察するのに十分なものだった。
心の痛み
部屋を出ると、 空はまたいつもの空に戻っていた。
まるで何もなかったみたいに。 何かを隠そうとしている?
廊下を歩きながら、私は右手を見つめた。 さっきの感触がまだ残っている。
そして、あの胸の奥の痛みも。 これ、
誰かの記憶のはずなのに。 声に出してからレイは気づいた。
なのに、どうして? 私の心がこんなに痛むの?
空は何も答えなかった。 ただ、いつもよりすぐ真後ろを足音もなく静かに歩き続けていた。
その夜。 部屋に戻ってからも、あの痛みはずっと続いていた。
涙は流れない。 でも、心の深いところで何かが確実に軋んでいる。
倦怠。 レイ。
小さく呟いた言葉が、 真っ暗な部屋の中に溶けていく。
本当は、私、
それ以上は口にできなかった。 でも、分かり始めていた。
あれはきっと他人の記憶なんかじゃない。 そして、空もそれを知っている。
知っていて、止めようとしている。
ううん。 空は本当に止めようとしているのかな?
いや、でも、 なんで?
わからない。 明日、また行こう。
レイはそう心に決めて目を閉じた。 今日は夢の中で、静かな雨音がずっと聞こえていたような気がした。
第6話へ続く。
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