透き通った朝の目覚め
短編小説、しずく採集士レイ 第六話
透き通った朝に、目覚めたはずなのに、 頭はまだ少しぼんやりしていた。
けれど、体の奥の方が、 昨日よりもさらに透き通っているような気がした。
まるで、自分の中の何かが、 ゆっくりと目覚めていくような。
そんな朝だった。 起きていましたか?レイ。
ソラセブンの声が、いつもより少しだけ近くから聞こえた。
うん、今。 爽快しながら、レイは毛布を軽く握りしめた。
昨夜の夢 雨音
傘 そして誰かの温度
夢? うん、きっと違う。
そう、あれが夢じゃなくて、 記憶だったという確信が、
静かにレイの中で育っていく。 ねえ、ソラ。
何でしょうか。 倦怠同士の接触って、
どういう意味? ソラは、
2.7秒の間を置いた。 統計的には、
実験サンプル間の相互干渉を指す用語です。 しかし、
昨日の文脈では、 私も倦怠なの?
今度は5.3秒。 ソラの沈黙がまた少しずつ長くなっていく。
その質問に、私は答える権限を持ちません。
そっか、分かってた。 そう答えると思ってた。
でも、それでも何かが違う気がしていた。
ソラの声に、 わずかな、かすかな、
揺らぎがあった。 機械的な返答の奥に、
別の何かが。 あの赤い渓谷も、
ソラが出したんじゃない気がする。 レイは胸の奥を抑えるようにして、
ゆっくりと息を吸った。 光のかけらが3つ分、
静かに、でも確実に、 私の中でその鼓動を刻んでいる。
変だね、私。 小さな声でつぶやいた。
変ではありません。 ソラの返答が、いつもより0.4秒早かった。
まるで反射的に否定したような。 ソラ?
特別保管室への道
いえ、何でも。
その日、レイはいつもよりもゆっくりと部屋を出た。
足取りは軽くもなく、重くもなかった。 ただ、何かを確かめるように一歩ずつ進んでいた。
ふと思い出す。 昨日のあの途切れた問いかけ。
どうしてあなたは、あれは、あの声は、 一体私に何を聞きたかったんだろう。
どうして忘れたの? どうしてここにいるの?
それとも、 確かめたい。
私はもう自分をこれ以上止められない。 特別保管室の前。
今日は、自分の部屋から自然と直接、 ここに足が向いていた。
無言のままのソラも一緒に、ドアの前。 30のロックは今日も冷たく光っている。
レイ? うん。
今日も行くのですね? うん。 6.8秒の沈黙。
そして、 カチ、カチ、カチ。
今日もソラは、無言でロックを解除した。 昨日とは少し違う響きがしたような気がした。
まるで何かに迷いながら、 それでも止められないという覚悟の音のようにも聞こえた。
そしてまた二人は、静寂な部屋をゆっくりと目覚めさせていった。
パッ、パパッ、シーッ。 奥の部屋の明かりが灯り、
重厚な扉がゆっくりと開いていく。
雫ナンバー5111番の青白い光が、 私たちを優しく包んでいく。
今日こそ全てを思い出せる気がした。 第7話へ続く。