夢と記憶の断片
短編小説 しずく採集士レイ
第3話 封じられた欠片
夜の深さが あらゆる音を吸い込んでいた
レイの部屋は 記憶貯蔵区のすぐ裏
人工照明を落とせば 星の見えない空がただ広がる
けれど 今夜はそのそらそら
どこか遠くに感じられた 5111番のことが頭から離れない
あの鏡面音 そして画面に浮かんだ文字
見つけてって 一体どういうこと?
その日、浅い眠りの中で レイは夢を見た
いや、夢というより どこかというと記憶の断片のような映像
かすかな海鳴りのような音 誰かの笑い声
そして背を向けたまま 遠くからレイを呼ぶ
名前のない誰かの姿 誰?
レイの目が覚めた時 胸はまだひどくざわついていた
夢の名残は 霧のように指の間からこぼれ落ちていく
けれど残っていた
忘れたくない というはっきりした気持ちだけが
特別保管室の探索
レイはふらりと立ち上がった 施設は深夜の静寂に包まれている
監視システムは作動しているはずだが なぜか警報はならなかった
まるでこの侵入がすでに誰かに予測されていたかのように 保管庫へ向かう
昼間見つけたあの扉へ 特別保管室
30のセキュリティーパネルが 夜の闇の中でも冷たく光っている
なのに レイが近づくとパネルが一つ
また一つと音もなく解除されていく なんで?
最後のロックが外れ 重い扉がゆっくりと開いた
部屋の中央に 5111番の雫が浮かんでいた
透明な保護フィールドの中で 微かに脈動するように光っている
レイが一歩近づくと
あの共鳴音が今度ははっきりと響いた
私を知っているの? レイは保護フィールドに手を伸ばした
触れた瞬間 バリッ
激しい拒絶反応 レイは弾かれるように後ずさった
でもその一瞬の接触で何かが伝わった
海 風
笑い声 涙
そして約束 瞼の裏に鮮明な映像が焼き付いた
誰かの手を握り微笑む女性
でもその横顔は光ではっきりと見えない
その瞬間 部屋中にアラームが鳴り響いた
不正アクセス検出 直ちに退出してください
空の声? でも振り返っても空はいない
ただ なぜかいつもみたいな緊急性が感じられない声
まるで形式的な警告のような レイは最後にもう一度振り返り
5111番を見つめた 雫は相変わらず拒絶の光を放っていたけど
今はその光の奥に確かに誰かが待っている そんな暖かさを感じ取れた
欠片の再生
翌朝 レイが目覚めると
右手の手のひらに小さな光の欠片が残っていた 昨日の朝と同じ光の欠片はレイの目覚めに向こうするように
ゆっくりと胸の方へ浮かび上がると そのままスーッと胸の奥に吸い込まれるように消えた
とくん その瞬間
私の中で何かが静かに灯ったのを感じた それはまだ小さく
でもそこに確かにある存在として 第4話へ続く