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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、フランス語かぶれしたアイス、かぶれすぎのライスという話題です。
これだけ聞いても、何のことやらと思う人が多いかと思うんですけれども、このスという音ですね。
主に語末に来る場合のスなんですけれども、アイスのようにICEあるいは米のライスですね。RICEのようにCEと書かれることが多いと思うんですね。
一方でそれだけでなくSEというものも決して少なくありません。
例えばハウスというのもそうですね。Houseということになっていますし、それからプリサイスというときのスというのもこれもSEですね。
このプリサイスなんかはですね、P-R-E-C-I-S-Eということなんですが、ス音が2回出るわけなんですが、どっちがCでどっちがSだったかななんてたまにわからなくなったりして辞書を引いたりする。
こんなこともあるぐらいでですね、主に語末なんですけれどもスという音をですね、CEで書いたりSEで書いたりするということがしばしばあるわけですね。
これ一つ一つ覚えなければいけないといえばそうなんですけれども、何でこんな複雑なことになっているんだろうかという問題意識があると思うんですね。
さらにこれがですね、両方あるという単語もあるんですね。例えばディフェンス、オフェンスというときですね。ディフェンスというとD-E-F-E-N-C-Eというふうに書く綴り字もあればですね、実はこれアメリカ英語のスペリングなんですが、そしてイギリス英語ではこれがCEに変わったりするんですね。
つまりこれはAベーサといえばそういうことなんですけれども、どっちもあるといえばある。つまりSEだろうがCEだろうが、やはりスというのを表せるんだと。
英語ではそういう綴り字2つあるんだということをですね、象徴するような、示すようなこのAベーサの綴り字の例だと思うんですね。
なぜこのように2つあり得るのかっていうことですね。同じ数であればですね、せめてどちらかに統一してほしいと思うわけなんですが、これ一つ一つ暗記しなきゃいけないわけなんで結構厄介ですよね。
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なぜこういう事情があるのかと言いますと、これは英語の歴史を紐解くことで明らかになります。
まずですね、1000年以上前の古英語の時代ではですね、このスの音を表すには基本的にはSしかありえなかったんですね。
CとかCEという現代的なスの音を表す綴り字っていうのは一切なかったんです。
というのはですね、古英語ではCと書いたら普通クの音か、あるいはですね、チュっていう音ですね。茶行の音になることが多かったんです。
イタリア語みたいな感じですが、このチュって読むことがCの場合、むしろ規則的でですね、ツと読むという発想はなかったんですね。
例えばチャイルドなんていうのは今でことですね、チュの音なんでCHと書きますが、これCILDというふうに書いて、これでチールドっていう発音でしたが、こう読ませたんですね。
つまりCというのは基本的にチュの音なんだという発想がありまして、スの音はあくまでSしかないっていうのが古英語の状態でした。
例えばですね、アイス、氷ですけれども、当時の発音はイースだったんですが、これは単にISと書いたんですね。
つまりB動詞のイズと同じ書き方したんですね。
当時B動詞のイズももちろんありましたが、これはですね、イスというふうに濁らない音で、母音は短かったんです、イス。
それに対して氷はイースというふうに長かった。
だけれども、この母音の長短というのを特につづり字を区別しない古英語ではですね、とにかくISと書いて、イスでもありイースでもあったと。
つまりイズでもありアイスでもあったっていうことなんですね。
このようにCは使わず、常にSで表していたんですね。
ところがですね、1066年のノルマン征服以降、フランス語の影響が非常に強くなります。
そして書き言葉、つづり字においてもフランス語のつづり字習慣というのがですね、かなり英語に持ち越されることになるんです。
そこでこのCとかCEというつづり字が大量にフランス語からもたらされました。
本来の英語、古英語ではCというのは先ほど述べましたようにチューの音だったんですね、基本的には。
ところがですね、フランス語ではこのCをスと読む習慣があったっていうことですね。
言語によってつづり字習慣も違いますから、フランス語でCとかCEと書くと、これスと読むんだっていうことです。
これがですね、英語に持ち越されたんですね。
同じように英語ではですね、チューの音をCで表していたんですが、このCEがフランス語の影響でスを表すようになると、
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じゃあチューはどう表すんだっていうことになって、これ自体もですね、フランス語のCHを持ってチューと表すという習慣が入ってきたので、
これが英語でも定着したっていうことですね。今ではCHILDと書くわけですけれども、
このようにフランス語のつづり字習慣がどどっとですね、いろんな形で入ってきたということなんですね。
結果としてスの音、主に語末が多いんですが、これ今までSだけで済ませていたものをですね、フランス語の習慣に従ってCEで表すというですね、こういう習慣が入ってきたと。
ただですね、これも実は非常にまだら模様で入ってきたっていうことなんですね。
従来通りのSとかSEも、残るには残ったんです。その証拠としてですね、ハウスなんかがそうですよね。
H-O-U-S-Eっていうことで、小英語でもHUSと書いたんで、つまりSだったんです、ずっと。現代でもSにしている。
一方ですね、例えばマウスで考えましょう。ハウスではなくマウス、Mですが、これ本来の英語で、もともとムースって言ったんでMUSと書いたんですね。
それが少し変わったんですが、結局Sに残ってますよね。英語本来のスの音であるS、SEっていうのがちゃんと残っているのがマウスです。
M-O-U-S-Eですね。ところがこの複数形のマイスになるとですね、急にM-I-C-Eというふうに、小英語ではありえなかったCEという綴り字がやってきます。
もともとのフランス語からの釈用語がたくさんあります。このフランス語にもともとCEという綴られているものがあったんであれば、それを英語に借りてきたということなんだということで、わからないくもないんですが、このCEはですね。
本来もともとあった小英語からの単語であるCEにもですね、フランス語っぽいCEを適用したっていう例がたくさんあるんですね。
例えば、once、twiceっていうときの一度目、二度目ですね。これも本来の、もともと小英語からある単語なので、Sで綴られていたんですね。
ところが、なんとなくフランス語っぽい綴り字で、今ではONCEとかTWICEのように綴られるようになりました。
そして、今回のタイトルにあるICEもですね、ISだったものがフランス語っぽい綴り字になってICEと中英語キー以降になったわけです。
いわばフランス語かぶれと言っていいと思うんですね。
さらにこのフランス語かぶれのひどいものになるとですね、本来のフランス語でCEだったものが英語にも借りられて、そのままCEっていうのならわかります。
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ところがフランス語側にもですね、実はSUの発音を表すのにSを使うってものも結構あるんです。
それがですね、つまりフランス語本家でSで綴られているのに、その単語が英語に入ってくるやですね、フランス語ってのはCEっていうのが基本なんだという発想に基づいて、英語側でCEに書き換えてしまったっていう例が実はたくさんあるんです。
例えばアドバイス、チョイス、ダイス、ジュース、プライス、ライス、これが表題のライスなんですけれども、サファイス、ヴァイス、ヴォイスとですね、
これらは元々のフランス語ですらSだったのに、フランス語っぽくするためにCEに書き換えてしまった英語側ですね、というまさにフランス語かぶれの激しい単語ということになります。