数詞の発音の謎
英語に関する素朴な疑問です。 なぜ数詞 one はワンと発音するのですか、という素朴な疑問です。
英語の発音と綴り字のギャップというのは、よく知られている問題ですが、one どこにも w の文字がないにもかかわらず、これをワンと発音するわけですね。
同音異義語で win かつの過去形、過去分詞形 win one one あれ全く同じ発音なんですが、こちらは w-o-n と書くので、非常に分かりやすい。
w っていうこの w 音が出るということですね。 ところがこの数詞、非常によく使うこの数詞の one に関しては o-n-e ですから、w は全く出てこない。
それにもかかわらず発音としては w が出る。これはどういうわけかということなんですね。
ある意味これどうひっくり返っても絶対に読めないはずの綴り字と発音の関係になっているわけです。非常に不思議です。
やってみましょう。 古英語ではこの一つのという一つ数詞を表すこの単語の古英語での形は
アーンという形だったんですね。これは a n と綴って、そのままアーンと発音されました。
当時は不定関詞という概念がなくて、数詞と不定関詞というのは同じ、一つのって意味ですから同じだったわけですが、
後に意味が弱まって一つのと強く主張するよりはとある、あるという意味での不定関詞ができてきます。
これは意味が弱くなるので発音も弱くなって、結局古英語のアーンが発音が弱くなって、ただアンとなったのが不定関詞の始まりです。
さらに詩音の前では n も落ちてしまってアッとなったのが不定関詞アなわけですよね。
一方強い一つのという積極的な意味を、数詞としては強い形で残りまして発音としてもアーンとこれが続いたわけです。
それがまあ後にですね、これから説明する経緯をたどって、ワンになっていくわけです。
従って現代英語の数詞としてのワンと詩音の前で使うア、それから母音の前で使うアンというのは、これ実は全く同じ古英語の一つの単語に由来する3つの異なる形ということになります。
方言の影響
数詞を強形、強い形ですね。それに対して不定関詞の方は弱形というふうに呼びますが、
大元をたどればですね、一つのアーンにたどり着くということなんです。この強形、数詞としての積極的な意味、一つのという意味のある数詞としての働きに関してはアーンという強い形が残り、それが音変化を経て終わったという経緯なんですね。
さあ、ではこの強形であるアーンからワンへの経路を見ていきましょう。
古英語ではアーンという音だったんですが、中英語になりますと様々なイングランドの方言でいろんな異なる発音が出てきます。
アーンとして残ったものもあれば、多くの方言で実はこれがオーンという形になります。
ONとかONのような図で現れることが多かったんですね。
オーンです。
ところがさらに変な方言がありまして、特にイングランドの西部、南西部なんですが、ここでただのオーンではなくてですね、ここにオーというこの音自体が唇の丸めを伴いますので、それと相性がいいハンボインあるいはハンシーンであるこのWが挿入されるんですね。
これでオーンがウォーンという形になります。
これは西部、南西部のある意味、片田舎の方言です。
ウォーンという形ですね。
ここからワンです。
どういうわけか、この片田舎の方言がですね、ロンドンの後の標準語に採用されてしまったということなんです。
どの方言の形が採用されるかというのは、実は単語によってまちまちで、このメカニズムはよくは分かっていません。
あるものは北部方言から取られたり、標準形になったり、あるものは南部から、あるものは西部からというものだったんですが、たまたまこの数字に関しては、西部方言のウォーンという形に由来する、後にワンという形になったわけですが、
この発音が標準に採用されることになったんですね。
一方、スペリングはまた別問題です。
スペリングとしては、どちらかというとオーンという発音を反映した、ONEという形が標準として採用されました。
このあたり、発音とスペリングが揃ってセットでの形が標準化されるなら分かりいいんですが、必ずしもそうではない。
発音はこっちの方言から。
つづりは別の方言からというふうに合わさって標準形になったという単語も少なくないんですね。
ワンというのが非常に頻度の高い単語ですが、残念なことにつづりと発音がうまくペアリングしていない状態で標準化されてしまった結果ということになります。
中英語では、したがって非常にいろんな発音、非常にいろんなつづりが方言ごとに行われていたということですね。
つづりだけで見ましても、ONもあればWONというのがありました。
さらにはENみたいなNのような発音、つづりというのもあって、実に様々だったわけですが、最終的に標準化したものは何かと蓋を開けてみたら、
ONで発音の方は西部かられたWANとなったということです。
非常にこれは稀なと言いますか、西部の妙な方言形が発音として標準に残ったという例なんですが、
もっと広く使われていた発音がもし反映していたら、これはOWNだったと思うんですね、現代では。
この可能性が本当は一番高かっただけれども、WANになってしまったということです。
その証拠にOWNという発音は実はWANの関連語にいくつか残っています。
例えば、ONLYですね。これはある意味WANにREという副詞語尾を付けただけなので、
これWANLYと思われそうなところなんですが、これはむしろONLYという発音で、一番期待される音になっているんですね。
それからALONEというのもそうです。
これはALL ONEということです。まったくの一人という意味で、ALLは強め、WANは数字ですね。
ALONEとかALL ONEではなく、ALONEということで、期待される、最も確率の高かった発音が選ばれている。
これがONLYでありALONEという語なんですね。
一方、基本の形であるWANというのは西部から取られましたし、同じようにそこから発生したWANTH。
という単語もWANという西部由来の発音を保っているということになります。
他にもですね、あまり気づかないと思うんですが、ANYってありますよね。
ANYなんていう当たり前の単語なんですが、これもWANにYを付けて形容詞化しただけという単語です。
さらにですね、OWNという期待される発音を持っているもう一つ単語を挙げますと、ATOWNという、あまり聞き慣れないかもしれませんが、AT-O-N-Eですね。
ATOWNという動詞があります。償いをする、和解することなんですが、これ実は語源的にはATONEにすぎないんです。
一つのものにするということで、償いをする、和解する、懲罰の発想ですかね、という単語もあります。
本来であればOWNとなっている可能性が高かったんですが、この奇数詞WANに関してはどういうわけか西部発音が取られて、今この綴りでWANと読むということになっています。
この問題、その周辺につきましては、ヘログ86そして89の記事をご覧ください。