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こんばんは、ゆうこです。このチャンネルでは、私の読書論や日々の学びを音声配信しています。
今日は、原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』という本について話してみようと思います。
日本に本物の美術館を作りたい。その悪なき夢を実現するため、絵を一心に買い集めた男がいた。
だが、戦争が始まり、ナチスによる略奪が行われ、コレクションは数奇な運命をたどることに。
国立西洋美術館の礎であり、モネやゴホなどの名品を抱く、松方コレクション・ルテンの歴史を描いた長編、
傑作長編ということで、実在する松方光二郎さんという方が、
第一次世界大戦後に、なぜか当時50万ポンド、
今の日本円にすると40億近くの資材を投じて、
モネだとか、ゴホだとか、ルノワールだとか、ロダンだとか、
そういう絵画や彫刻、そして浮世絵を買いまくるという、いきなり実業家のおじさんが美術コレクターになるという、
そんな実在の人物がいたそうです。
そしてその松方光二郎さんがコレクションした、いわゆる松方コレクションというのは、
第二次世界大戦後で、一部はロンドンで消失してしまい、一部はフランス政府が、
日本に返還しない、これはフランスのものだということで、没収されたり、
そして一部は行方知れずになったりということで、まさに松方コレクション、
露天の歴史ということで、物語のあるコレクションとして有名なものになります。
この小説は、史実では明らかにされていない松方光二郎がなぜ絵画、タブローですね、
タブローをコレクションし始めたのか、彫刻や浮世絵をコレクションし始めたのか、
そしてそれを松方コレクションとして日本に持ち帰り、
自分のお気に入りのブランディンというデザイナーにデザインさせた美術館を建てるという夢を持って、
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松方光二郎はすごい勢いで活動し始めるんですけど、
なぜそういう美術館を日本に作りたいと思うに至ったのか、
そしてその夢はどういうふうに実現したのか、もしくはしなかったのかというところが、
史実では明らかにされていない部分は、マハさんらしいフィクションというかですね、
想像の部分で繋いで壮大な物語にしたのが、この美しき愚か者たちのタブローという小説になります。
当然松方光二郎という人が出てきて、それ以外にも実在する人物が出てきたりします。
繰り返しになりますけれども、史実では明らかにされていない松方光二郎が、
相当な槍手の実業家ではあったんですけれども、絵画に関しては都部のど素人のおじさんなわけです。
川崎造船という会社を経営されていて、その経営で海外を転々としていて、
国際間隔だったりネットワークというところは国内外、正解に相当幅広いネットワークを持っていたけれども、
どうやって絵画の進化を見抜いて、買っていくということができたのか、
どういう人がこの松方コレクションに関わったのかというところは、
マハさんの想像というかですね、こうだったら面白いんじゃないのという視点で実在する人物が本当にあったかどうかわかんないんですけど、
こういうふうに松方小次郎と関わって松方コレクションを作っていた。
もしくはフランス政府にもう返還しませんと言われてしまった松方コレクションを戦後、
吉田茂だとか、それ以外に関わる人たちが一生懸命フランス政府から日本に返還してくれという交渉に行くんですよね。
そこでフランス政府としては返還しません。ただ寄贈だったらいいですよと。
日本側としては寄贈というのは下に見られている、敗戦国だからって舐めんじゃねえよということになるので、
寄贈では困る。返還してくれと。フランスは寄贈だったらいいよ。
じゃあそこで寄贈返還という言葉で日本に持ち帰るのはどうかみたいな苦肉の策の交渉をやってですね、
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第2次世界大戦で敗戦国になった日本のメンツ、プライドを守り、そして美術館を作り、松方コレクションを展示する。
そのために一生懸けた男たちの物語っていうのをマハさんがフィクションで書いた、そんな小説になります。
美しき愚か者たちのタブロっていうのはですね、何を指しているのかっていうところなんですけれども、
この松方コレクションに一番大きく関わる人物として、タシロという人が出てきます。
このタシロさんは、この小説に出てくる中で数少ないフィクションの人物になります。
実在しない人物ですね。ただモデルとしては、ヤシロさんという方がこの松方コレクションの改修、
寄贈返還の交渉に関わった人物として実在する人がいるんですけれども、どうやらその人をモデルにして書いてるんじゃないかと思われます。
そのタシロさんはですね、タシロという人は、この小説の中では、西洋絵画を研究する人物として海外留学する途中で松方と出会う、
そんな流れになっているんですけれども、そのなぜ自分が絵画に魅了されて研究するに至ったのかというところを説明しているくだりのセリフ。
ここはね、すごくこの小説のタイトルを説明しているような気がして、すごくいいなと思いました。
僕は裕福でもなく、家族に恵まれているわけでもなく、ただひたむきにタブロが好きで関わりを持ちたい、少しでも近づきたいとその思い一つでここまでやってきました。
そしてロンドンで松方さんと出会い、こうしてパリでお供をして、優れたタブロの数々を目にすることができた。
言ってみれば僕はタブロのことばっかり考えて夢中になっている。どうしようもない愚か者です。
他には何にもない、それでもとても幸福な、幸福な愚か者なのだと思います。
これはですね、田代が身の上話をする時に松方に話したセリフになりますね。
そして松方は、だからだったんだなということで、田代と一緒にフロード・モネの家まで行って、スイレンの絵画を一緒に見る、それで買い付けるというような行動をしていきます。
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タイトルにもある、美しき愚か者たちのタブロですね。
愚か者というのは、田代が自分自身のことを言っている言葉でもあって、理由なんかない。
ただ美しいもの、絵画にどうしても引き寄せられる。好きで好きでしょうがなくて関わりを持ちたい。
そんな説明のつかない感情だったり、それに向き合う自分の人生を指して自分のことを愚か者だと言っているというところですね。
私はこういう何か説明のつかないようなことに一生を捧げてしまう人の話を読むのがすごい好きなんですよね。
100%クレイジーになるわけではなくて、90%、95%、99%くらいクレイジーなんだけど、数パーセント分の正常さを残していて、
そのギリギリのところで人生を推進していくみたいな、そういう人の話を読むのがすごい好きなんですよね。
だから松方香次郎もそういう人だと思うし、この田代さんもそういうふうに書かれている。
それ以外のこの小説に出てくる登場人物はみんな、特に松方香次郎が帰国して、自分の松方コレクションをフランスである人物に託すんですよね。
それを守りきった人物なんかは本当に特にそういう、なんていうか、自分の一生をあるものに捧げて、説明のつかない行動をとっている人ということで、
登場人物一人一人がですね、そういう魅力を持っていて、本当に引き込まれる面白い小説だったなと思います。
そしてその松方コレクションを、フランスもドイツ軍が駐在地を作ったりとかして、単に世界大戦の時は本当に、
もしゴッホの絵を持っているなんてことがドイツ軍にバレてしまった時には、日本人で有効国だとはいえ、
無事ではいられないような状況なんですよね。ただ、何百点もある絵画を持って、いろんなところを転々とするわけにもいかない、ただただひたすらじっと絵画と一緒に暮らして、ひっそりと耐えるという、
そうやって守りきった人物っていうのがこの後出てくるんですけれども、その奥さんになる人のセリフがとても美しくて、
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まさにこの小説のタイトルを説明しているようでもあります。その人物はですね、もともと松方小次郎の川崎造船の社員で、
その川崎造船が造船業だけではなく航空機も作っていくという戦略によって採用された人物なんですね。
それで勉強のためにフランスに飛んだんですけれども、選挙が変わり、そしてフランスで愛する人ができてしまったその人は、俺はもう飛行機を作るのはやめる。
その代わり、松方小次郎に託されたこのタブロを守るんだと、それを愛する人、妻になる人に告げる。
告げた時、その妻が言ったセリフですね。
なんて美しいの。目に涙をいっぱいに浮かべて、ジェルメンヌは声を震わせた。戦闘機じゃなくてタブロを、戦争じゃなくて平和を。
美しいわ、素晴らしいわ、そしてとうとうジェルメンヌは家を出たということで、この第二次世界大戦下にあって、飛行機を作って売りさばいた方がお金になるし儲かるわけですね。
そしてきっと日本の国益のためにもなるんですけれども、そういうことに意志を捧げるのではなくタブロを守る。
そう言った男に対して、戦闘機じゃなくてタブロを、戦争じゃなくて平和を、それを美しい、素晴らしいと言ったと。
それ、さっきのタシロのセリフ、このジェルメンヌのセリフが、美しき愚か者たちのタブロという小説の本質を説明しているような気がしていて、このセリフが出てきた時はこういうことだったのかとゾクゾクっとしましたね。
そんなことで、この松方小次郎の思いつきレベルで始まった、その華麗なる一族の金持ちおじさんの思いつきの絵画コレクションなんですけれども、そこに巻き込まれた人たちの人生を変え、
そして、フランスと日本の国交の一つの、なんというか、潮目にもなったようなこの松方コレクション、史実ではよくわかっていない部分が本当に多くて、この松方コレクションの目録もちゃんとしたものがないかもしれないと言われている謎技、お話を見事にフィクションという形で、
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小説にした原田真波さんの美しき愚か者たちのタブロ、これを読むとですね、上野の西洋美術館やっぱり行かないといけないなという気持ちになりますね。
そして、今国外では戦争が起こっていたり、少し前はコロナで不要不急は控えみたいな時に、不要不急の一つとして、やっぱりこのアートだったり音楽、芸術、演劇みたいなものは、そういうふうに整理されてしまったと思うんですよね。
それでもそれに関わっている人たちが声を上げて一生懸命守り抜いている、主張している、みたいな場面をよく目にしました。
その根底にあるのはどういうものなんだろうかというのが、少しね、この小説に触れたことで、少しだけでもなんか分かれたような気がして、
今、この小説を読むことができてすごく良かったなというふうに思います。
松方浩二郎、田次郎、そしてそれ以外の人たちが一生懸命、それぞれの立場、境地を持って守り抜いたタブローのお話。
柴梁太郎の歴史小説を読んでいるかのような原田マハさんの美術史の小説だったなと思います。
ちょっとでも、モネだとかね、コウホーだとか松方コレクション、興味がある方は読んでみてほしい本だなと思います。
ということで今日は、美しき愚か者たちのタブロー、原田マハさんの本について話してみました。
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今日も最後まで聞いていただいてありがとうございました。
ではでは。