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2021-08-25 12:03

コロナ禍の停滞や遅れは取り戻せる?焦りともどかしさの中で【第72夜】

「これといってやりたいことも、専門知識もなく、学生時代、頑張ったことは? と聞かれても、ほとんど家にいたため、これといったものがありません。そんな悶々としている大学生に、何か自分を見つめ直せる本はありますか」という大学生の方からのリクエストにお答えします。今夜の勝手に貸出カードは、島本理生さんの最新刊『星のように離れて雨のように散った』です。

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みもれ 真夜中の読書会 おしゃべりな図書室へようこそ
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる
をテーマに皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第72夜を迎えました今夜のお便りをご紹介します。
今日もインスタグラムバタ読むの方にいただいたメッセージからご紹介します。
ペンネーム books before you 第3からいただきました。大学生の図ですね。
就職活動中でしたが、ワクチン接種で留学に行けることになり、就活は1年遅らせることになりました。
しかし、これといってやりたいことも専門知識もなく、学生時代頑張ったことはと聞かれても、大学生活の3分の2は家にいたため、これといったものがありません。
そんな悶々としている大学生に、何か自分を見つめ直せる本はありますか?といただきました。
そうですよね。このコロナ禍と大学生活、あるいは高校生活が重なってしまった人たちの焦る気持ちだったり、もどかしさはどれぐらいかと、胸が痛みますね。
頑張ったことはなんて、面接官に聞かれたって、じゃあお前は何を頑張ってきたんだって聞き返したくなりますよね。
部活とかサークル活動を頑張ろうと思っていても、オリンピックは開催されましたけど、そういう引退試合だったりコンクールが開催されなかったケースもあるでしょうし、
思い出に残るイベントとか披露するチャンスがなかった人も多かったのかなと思いますね。
社会人だって頑張ろうと思ってきたことだったり、プロジェクトが中止や中断あるいは延期を余儀なくされて、大きな目標に向かって何かを頑張るっていうのが難しかったこの1年半、2年弱な気がしています。
そんなモヤモヤとする、拷問とするとおっしゃっている大学生のBooks Before You 第3にぜひ読んでいただきたいなと思った本をご紹介します。
本屋の勝手に貸し出しカードは島本梨央さんの最新刊、星のように離れて雨のように散ったにしました。どんな小説かお話ししていきますね。
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主人公の原春さんはまさにコロナ禍の大学院生なんですね。日本文学科の修士論文の準備をしているところで、文学論なんかを交わす同じ学科の男友達がいたり、
3つ年上の彼氏もいて、理想のキャンパスライフって感じなんですよ。その彼から一緒に住まないか、結婚を前提にということを言われるんですが、
幸せ絶頂っていう感じでもなくて、春は少しモヤモヤしています。プロポーズされたわーいって感じじゃないのは、
秋くんっていう彼はすごいいい人そうなんですけど、なぜ春は煮え切らないのか、モヤモヤするのか、春自身も言語化できないまま日々が過ぎていきます。
それで友達を家に呼んだりとか、同じ学科の男友達とご飯を食べに行ったりして、何してるんだろうって感じなんですよ。もうおばさんもモヤモヤしちゃうわっていう感じなんですけど、
春は失踪してしまったお父さんというのがいて、その真相が春は、底抜けに明るいリア充女子大生って感じじゃない理由の一つというか、暗い影を落としているわけなんですね。
島本リオさんって、ハーストラブとかレッドとか壮絶なタイプの女性だったり、あとは波打ち際の蛍とか、夏の祭壇とかかな、
過去にトラウマを抱えている女性がよく出てきますね。そっちが黒島本さんとすると、すごくピュアな純愛、青春の一コマみたいなタイプの小説もあったりして、
そっちが白島本さんとしますと、この星のように離れて雨のように散ったはどちらかというと白の方ですけれども、ちょこちょこ壮絶そうな過去の告白がさらっと折り込まれています。
春以外の登場人物にも爽やかそうに見えて、いろんな過去や事実があるっていうのがちょこちょこと明らかになっていったりします。
なんでこの本を、現役大学生のブックビフォーアユー大さんにお勧めしたい、この本を読んでみてもらいたいと思ったかっていう話をしたいと思います。
星のように離れて雨のように散ったには跡掛けがあって、島本梨央さんご自身が書かれているんですが、10代の頃に書いた生まれる森という小説のことを思い出したと書いてらしたんですよ。
それでハッとして生まれる森を引っ張り出してきて、読み返してみたんです。
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生まれる森はですね、2003年の夏に島本さんが大学在学中に書いた小説で、私は大学を卒業したばっかり、高段車に入ったばっかりの頃に読んだ記憶があって、すごい鮮烈だったんですよね。
なぜかというと、島本さんと私は実は同じ大学で、年は3、4つ違うので、同じ空間にいたかもしれないし、いなかったかもしれない、ギリギリ。
面識はもちろんないんですけれども、同じ頃に同じ大学の空気感を共有していたっていう、リアルタイムの共感性みたいなのを、この小説にはすごい感じたんだと思うんですよね。
今読み返したら、どのシーン、どんな描写にすごいって思ったのか、分かんなくなっちゃった自分にショックを受けましたが、
星のように離れて雨のように散った、またもっと客観的に読んでしまったというか、今の大学生はこういう感じなのかなとか、コロナ禍だとこういうこともあるのかっていうんだったり、
会話も、えー、みたいにしか思えなくて、私が初めて生まれる森を読んだ時の、すごいこの描写もこの描写も、この空気感も分かる、みたいな感じにはならないんですよね。
皆さんにもそういう本があるでしょうか。恋愛してるとかしてないとかね、そういうのもあるかな。
生まれる森では、MDウォークマン、MDディスクが出てくるの懐かしいなぁと思ったんですけど、
星のように離れてでは、サブスクの音楽、スポティファイみたいなものですよね、で、えっと、
Bluetoothで飛ばしてステレオで聞くみたいなシーンが出てきて、こういうのも何年か経ったら懐かしいなぁって思うようになるのかなぁと思ったりしました。
そのリアルタイム性とか、コロナ禍に大学生活を過ごすっていうのがどういう感じだったかっていうことだったり、将来のことや自分のアイデンティティ、自分らしさとか、今この彼と結婚するのかなぁみたいな嬉しいような、この先を決めてしまうのが怖いような、
そんな感覚をね、ぜひ同世代の方にこそ読んでみて、感想を伺いたいなぁと思いました。
この本のネットレビューをいくつか読んだんですけど、春が何を考えているのか分からなくて、共感できなくてイライラした星一つみたいなのが何個かあって、
いやいや、その春ちゃんが何に悩んでいるのかさえ分からない、このもどかしさ、悶々としたイライラを堪能するのがこの小説の醍醐味でしょうよって思いましたけどね。
今日はこの星のように離れて、雨のように散ったから紙フレーズをご紹介したいと思います。
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原さんは原さんに冷たい。時々びっくりするほど冷淡。 室内の暗さとは対照的に、白いカーテン越しの夜景はどんどん鮮明になっていく。
冷淡という口語らしからぬ表現に本好きの子らしさが滲んでいて、不意にまた親しみが濃くなっていくというシーンなんですけど、いいですね、こんなことを言ってくれる本好きの友達がいて。
これはね、初人公の原春が、原春って言いにくいですね。彼氏だけが春って呼んでて、他の人は原さんって呼ぶんですけど、
その原さんが女友達の売り野さんっていう人にグダグダと相談しているシーンなんですよ。
売り野さんは原さんが就活だって勉強だって頑張ってるし十分じゃないのって言うんだけど、
春さん自身は自分なんか何も頑張ってない生きて普通にバイトして生活して勉強してるだけだからって言うんですね。
その自己評価の低さに対して売り野さんが言うのがさっきの、原さんは原さんにびっくりするほど冷淡だっていう指摘なんですよ。
そういうところってみんなあるかもしれないなと思ったりして、よっぽど自信満々な人でないと若い時ってみんな自信ないし、決めたくないし、先のことを先送りにしてモヤモヤするのが特権という気もしました。
本からこうやってつい共感めいたことを引き出そう読み取ろうとして、最もらしい結論めいたことを導き出してしまうこと自体、すごく自分が年を取ったなぁと思ってしまいましたけれども、
ブックスビフォーアユー第3話一度、多分諦めかけたであろう留学も何とか実現させて十分頑張っていますよ。
自分はこれ高校がすごいみたいな結論めいたことは少し先送りにしていいんじゃないでしょうか。
今は今の感覚でしかすごいって思えないことがたくさんあると思うので、ぜひ味わってもらえたらと思いました。
お便りありがとうございます。みなさんも最後までお付き合いいただきありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は皆様からのお便りをもとに、いろいろなテーマでお話したり本を紹介したりしております。
みもれのサイトからお便り募集していますので、ぜひご投稿ください。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
12:03

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