1. 真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室〜
  2. 「あ、こういうことか」と、ど..
2023-08-23 16:10

「あ、こういうことか」と、どんどん自分の輪郭を書き替えていこう

今夜の勝手に貸出カードは、伊藤亜紗さんの『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』です。

「できなかった」ことが「できるようになる」ってどういうことなんだろう? 体のメカニズム的にどういう仕組みなんだろうっていうのを、5人の研究者/エンジニアへのインタビューをもとに掘り下げた本です。

本の中で紹介されているプロのピアニストの手の動きを再現するエクソスケルトンを紹介した動画はコチラ→https://youtu.be/l2jkkkVXjo0

コチラもおすすめ→伊藤亜紗さん『記憶する体

番組へのご感想、メッセージ、リクエストはInstagram の@batayomu からお寄せください。一つ一つ大切に読ませていただいております!

インスタグラム:⁠@batayomu⁠⁠⁠

ツイッター:⁠@batayan_mi⁠

00:03
真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室〜へようこそ。
こんばんは、KODANSHAのバタやんこと川端です。
真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室では、
水曜日の夜にホッとできて、明日が楽しみになる、をテーマに、
おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
第145夜を迎えました、今夜のお便りをご紹介します。
ペンネームゆっけさんからいただきました。
バタやんさん、はじめまして。
はじめまして。
11歳になる長女が、習い事が続かず、自分でやりたいと言って始めたのに、
この夏休みも全然通わないまま、また辞めたいと言い出して、
先日も喧嘩になってしまいました。
コロナもあって、休会したものも含めると、4つほど辞めています。
お月謝やウェア代もバカにならないし、
何よりそんな娘に毎週イライラしてしまう自分が嫌です。
もやもやに押しつぶされそうな私に、ゆったりした気持ちになれる本があれば教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
そうなんですね。
私もあんまり運動神経がいい方じゃないんですけど、
あれもやってみたい、これもやれたらかっこいいなって、
大人になってからですけどね、
習い始めたりすると、
想像してたのと違って、自分の体が全然思うように動かなくって、
だんだん足が遠のいて、何かと理由をつけて通わなくなるっていうことがちょいちょいあるので、
お嬢さんの気持ちがよくわかるっていうか、
下手って恥ずかしいですからね、
周りの子と比べたりもしちゃうでしょうし、
何を習っていらっしゃったのか、やめたい理由も、
本当の理由はわからないですけれども、
行くの行かないのって、毎週イライラするゆうけさんの気持ちもすごくよくわかります。
さて、今夜の勝手に貸し出しカードは、
伊藤阿佐さんの、
体はゆく、できるを科学する。
テクノロジー×身体。
という本にしました。
この本はですね、
どうして出会ったかっていうと、
木更津にある地中図書館っていう、
地中に埋まったような設計の図書館があるんですけど、
クルクフィールズっていう施設の中にある予約制の図書館なんですけどね、
そこでたまたま手に取って読み始めて、
そしたらすごく面白くって、
その場に座り込んで、
一気に読んでしまったっていう本なんです。
どういう本か解説していきたいと思います。
伊藤阿佐さんの体はゆくという本はですね、
03:09
できなかったことができるようになるってどういうことなんだろう?
体のメカニズム的にどういう仕組みなんだろう?
っていうのを掘り下げた本なんですね。
伊藤阿佐さんという著書は、
東京工業大学の教授で、
マサチューセッツ工科大学の客員研究員なんですね。
記憶する体という別の本で、
サントリー学芸賞を受賞されてまして、
こちらは体に障害を持つ11人の方のエピソードをもとに、
体と記憶っていうのを深掘りした本なんです。
こっちを私先に読んでいて、
伊藤さんが気になっていて、
図書館でも手に取った次第なんですけど、
その記憶する体をちょっと紹介すると、
障害を持つ方って、
もともと生まれながらにというケースと、
途中で事故にあったり病気になったりして、
何か身体的な機能を失うケースと2つあって、
後者は中等障害者と呼ぶそうなんですが、
サイレントっていうドラマで、
もともと耳が聞こえない人と、
途中から聞こえなくなった人は、
ちょっと区別があるというか、
お互いにちょっと違う人だというふうに認識しているような、
くだりがありましたけど、
そんなふうにこう、
あった時代がある人と、
そもそもなかった人の違いとかを、
インタビューを通して分析したりとか、
している本なんですね。
中等障害の方の場合は、
今生きているのは障害のある体だったとしても、
記憶としては健常者、健常者という言い方もあれですが、
健常者だった時の経験と蓄積があるわけで、
それを多重身体、
2つの体を使いこなしているんじゃないか、
みたいなことが書いてあって、
非常に興味深いお話なんですよ。
この伊藤さんの文章というのがですね、
読んでてすごく気持ちがいいんですよね。
文章が上手いというとざっくりした言い方ですけど、
読みながら頭の中で、
それって何でって思ったごとに、
次の行でスパッと答えてくれるみたいな感じがあって、
気持ちがいいんですよ。
ちょっとどっか一箇所読んでみたいと思いますね。
記憶する体という本の中で、
盲目の目の見えない女性に伊藤さんがあって、
話を聞くというくだりが出てきます。
インタビューの最初は、
大抵こんな風にインタビューのバックグラウンドを
共有するところから始まります。
06:00
聞き手である私は、
どの点についてさらに突っ込んで聞こうか、
頭の中で質問を考えています。
ところがこの時、
私は彼女の話をほとんど聞けていませんでした。
全く別のところに気を取られていたのです。
それはずっと働き続けている彼女の手、
滑らかに動くその手でした。
19歳で質問へ。
病気の発症が15歳。
確定診断が10歳。
…。
彼女は話しながら、
ずっと手元の紙にメモを取っていたのです。
もちろん視界を使わずにとあります。
リズムがいいというのもあるんですけど、
頭の中で質問を考えているインタビューをする人がいて、
そのインタビューをする自分が、
彼女の話をほとんど聞けていませんでしたというのは、
結構びっくりするくだりですよね。
なんでと思うと、
全く別のところに気を取られていたのです。
どこに?
それはずっと働き続けている彼女の手。
手を見ていたのか。
滑らかに動くその手。
なるほどと言って、
彼女は話しながら、
ずっと手元の紙にメモを取っていたのです。
もちろん視界を使わずにと、
なんでだろうとか、
どこ?とか、
頭の中で思ったことに、
ポンポンポンと答えてくれる、
という文章の畳を書けるような構成になっているので、
ふんふん、なるほどと言って、
今日ご紹介する印刷とも、
科学的な話も出てきて、
決して優しい話ではないんですけど、
どんどん読めてしまうというのは、
伊藤さんの言葉運びというか、
文章運びが気持ちがいいんですよね。
それで町中図書館で、
体はゆくという本を見つけて、
手に取って読んだわけなんです。
この本は著者の伊藤さんが、
5人のエンジニア、
研究者に話を聞きに行く、
という形で構成されています。
テクノロジー×身体とあるように、
テクノロジーの力でできるようになる、
というのはどういうことなのかは、
シミュレーションしたり、分析したりとかですね。
あとリファビリのような、
体ができない部分を、
テクノロジーがサポートして、
できるように持っていく技術なんかも、
取材をしているわけなんです。
私がすごく興味深く読んだのは、
最初に出てくるソニーコンピューターサイエンスの、
古谷さんという方への取材なんですけど、
彼はソニーの研究者であるとともに、
ピアニストなんですね。
エクソスケルトンという、
指にはめる補助器具のようなものですかね、
を開発するんですよ。
ガンダムのモビルスーツみたいな、
09:01
グローブ型の器具で、
何ができるかっていうと、
プロのピアニストの指の動かし方を、
読み込ませて、学習させて、
それをはめると、
そのプロの指の動きが再現できるっていうね、
すごいでしょう。
つけてみたいですよね。
例えば中指と薬指を交互に使うトリールとか、
アマチュア、ピアノをやったことない人には、
難しいような動きも、
先生のプロの指の動きが読み込まれた、
ガンダムのグローブをつければ、
動きだけじゃなくて、
速さ、リズム、鍵盤を触れる強さ、
タッチとかも体験できちゃうっていう、
夢のような器具なんですよ。
その古屋さんのお子さんが、
実際にそれをつけてピアノを弾いてみたら、
速い動きで、
できなかった指の動きができたっていう話が、
出てきまして、
今日はそのお子さんがピアノのエクソスケルトンを、
体験したっていう様子を描いた箇所を、
紙フレーズとしてご紹介したいと思います。
その時お子さんが体験したのは、
人差し指と薬指で同時に打鍵と、
中指と小指で同時に打鍵を、
交互に行うという動きでした。
ゆっくりなら何とかできても、
スピードを上げると指がつられて、
なかなか難しい。
でもエクソスケルトンなら、
自分でやろうとしなくても、
手が勝手に動いてくれます。
体験したお子さんは何と言ったか。
感想は一言。
ああ、こういうことか、だったそうです。
わあ、手が勝手に動いてるの興奮でも、
やった、できたの感動でもなく、
どこか拍子抜けする、
ああ、こういうことか、だった。
体に先起こされた意識のありようを、
これ以上的確に表す言葉があるでしょうか。
体にまずできてしまうという出来事が起こる。
意識ができてしまった体に追いつくようにして、
それを確認する。
それが、ああ、こういうことか、だったと考えられます。
とあります。
この本によると、
ある動作が無駄なくできるためには、
自分が行おうとしている動作のイメージが、
明確になっている必要があると。
なので、一度も成功したことない動作は、
成功したことない以上、
動作のイメージがないので、
できるためにはイメージが必要だけど、
できないからイメージがない。
できないから、できるのジャンプを追い越す。
飛ぶためには、このパラドクスを超えて、
イメージがなかったけど、できたっていう偶然が成立する必要があり、
このジャンプを可能にするのは、
エクソスケルトンだというわけなんです。
12:02
古屋さんの仮説によると、
成功までの道筋の検討がつかないところに、
エクソスケルトンがゴールを設定してくれるので、
エクソスケルトンは意識と関係なく指を動かすことによって、
意識できない動作、つまりできたイメージができていない領域へと、
私たちの体を連れ出してくれるっていう話なんですよ。
すごいですよね、エクソスケルトン。
何でもそういうのを作ったら、
飛び箱とか、わからないですけど、
鋼鉄棒とか、縄跳び、二重跳びとか、
何でもできるようになっちゃうかもですね。
でもそういう、自分ではイメージできてなかったけど、
一回体験すると、それが偶然であっても、
体験すると、こういうことかってなって、
再現できるようになることって結構ありますよね。
ピアノとか、音楽だけじゃなくて、運動ももちろんだし、
仕事とか、人間関係とかもそうかもしれないですね。
こういうことかって思う瞬間があれば、
新しい領域へ、意識を超えてジャンプできることがあるっていうか。
この本には、他には、元プロ野球選手の
桑田増美さんの投球フォームが毎回違うということを分析するくだりとか、
報酬を与えるのと罰を与えるのと、
どっちができるようになって、どっちのほうが体に定着するのか、
みたいなことだったり、いろんな話が出てくるんですよ。
私がこの本を読んで分かったのは、
できないからできるへのジャンプには、
いろんな飛び方があるんだなっていうことなんですよね。
イメージしてなかったけど、できたっていうこともあるし、
筋トレみたいに積み重ねてできるっていうこともありますし、
補助輪のような補助をつけながらできるを、
擬似体験した結果、できるようになるっていうこともあって、
それってよく考えると不思議なことですよね。
同じことができるようになるのに、
いろんなアプローチ、いろんなできるゾーンへのジャンプの仕方があるって、
興味深いなぁと思いまして、
今日はもう一箇所、紙フレーズを読んで終わりたいと思います。
できるようになる過程は、人を小さな科学者にします。
そして同時に文学者にします。
本文でも触れたように、できるようになるとは、
自分の輪郭を書き換えることです。
それは本人にとって大きな冒険です。
と伊藤さんの後書きに出てくる箇所なんですけど、
できるようになるとは、自分の輪郭を書き換えることっていい言葉ですよね。
大きな冒険、確かにいいと思いまして、
ゆっけさんのお嬢さんは、これからまだまだどんどん自分の輪郭を書き換えていって、
15:02
たくさんの冒険を経験できるの、いいなぁ、羨ましいなぁって思いました。
興味を持っていただけたら、ぜひ読んでみてください。
体はゆく、できるを科学する、テクノロジー×身体と、
もう一つご紹介した方の、
記憶する体も、よかったら手に取ってみていただければと思います。
リクエストありがとうございました。
さて、今夜もお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、
リスナーの方からのお便りをもとに、
おすすめの本や漫画をご紹介しています。
インスタグラムバタヨムからメッセージをお寄せください。
それではまた来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
16:10

コメント

スクロール